[日付不明 時刻不明 天候不明 魔王城ゲストルーム(貴賓室)内?]
稲生達は先に通された貴賓室に戻った。
貴賓室は高級ホテルのスイートルームみたいな部屋で、更にいくつかの部屋に分かれているくらいであった。
政府高官に日本人も多く含まれているからなのか、その部屋は西洋の城の造りである魔王城であるにも関わらず、和室まであった。
因みに……あの横田理事も、立場上は政府高官に値するわけである。
こういう政治の世界にも、三枚目的な役回りをする政治家は必要だということだろうか。
それはさておき、稲生は和室に布団を敷いてもらっていて、そこで寝泊まりさせてもらっていた。
イリーナが宮廷魔導師を務めるポーリンとの会談(マリア曰く、『婆さん同士のお茶会』)が終わるまで、そこで仮眠を取らせてもらうことにした。
照明を落として襖を閉めると、和室内は夜のように真っ暗になる。
スイートルームの他の部屋にはマリアがいるのだが、まるで誰もいない部屋に1人で寝ているかのような感覚になってしまう。
いつか稲生は眠りに落ちてしまっていた。
……ふと寝苦しくて、稲生は目が覚めた。
胸が重い。
何かに胸をグッと押されているような感じがする。
何か、いる。
この和室の中に、誰かがいる。
マリア?
いや、マリアとは感じが違う。
何だか怖い感じだ。
恐怖で目が開けられない。
そんな稲生の顔に、生暖かい息が吹きかかる。
誰だ?
誰かが稲生の胸の上に乗っている。
体が動かない。
……金縛りだ!
まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が稲生の顔に吹きかけられる。
その息は、稲生の耳元で動きが止まった。
何か、呟いている。
ぼそぼそとよく聞き取れない声が、稲生の耳に忍び込んでくる。
その声は、次第に大きくなっていった。
???:「フヒヒ……殺してやる……殺してやる……」
稲生:「うわあっ!」
ついに堪らなくなった稲生が、大声を上げて目を見開いた。
そこに、彼女はいた。
ナイフを持ったリリアンヌ、愛称リリィが稲生の胸の上に乗っていた。
その姿は魔女としての姿、つまりパンクロッカーのような姿をしている状態だ。
幼い頃、つまり人間だった頃は性的虐待を受けていたせいで、普段はコミュ障の内向的な魔法少女といった感じだったのだが、パンクロッカーというか、ヘヴィメタルのような姿になることで覚醒魔女となった彼女は何をしでかすか分からない状態だ。
稲生:「き、キミは……リリィ!?」
リリィ:「フヒヒ……!私にも“魔の者”が取り憑いたのだ。それで、たたかっ……必死に戦った。おかげでかい……私もか、解放された……!フヒヒヒヒ!お前のっ……次はお前の番だ!!」
見るとリリィの喉はパックリと割れ、そこからポタポタと赤い血が滴り、稲生の顔を濡らす。
稲生は逃げられなかった。
稲生よりも更に小柄で軽い、魔道師とか魔女というよりは根暗な魔法少女といった感じのリリィだが、何故か稲生の体は魔法が掛けられたかのように固定されて動けなかった。
リリィは不気味な笑みを浮かべて、ナイフを振り上げた。
リリィの顔は魔女そのものだった。
吹き上がる自分の血しぶきを浴びて、
「ヒィヤッハァーッ!ハハハハハハハハハーッ!!」
と、高らかに狂った笑いを浮かべる魔女の姿を見ながら、稲生の最後の意識が途絶えた。
[10月24日17:00.天候:晴 魔王城ゲストルーム(貴賓室)]
稲生:「わあーっ!!」
稲生はそこで目が覚めた。
稲生:「ゆ、夢……!?」
マリア:「どうした、勇太!?」
ガラッと襖を開けて、マリアが飛び込んできた。
稲生:「ま、マリアさん……!す、すいません……。変な夢見て……」
マリア:「変な夢?とにかく、起きた方がいい。夕方6時になったら、ルーシー女王が晩餐会を開いてくれるそうだ」
稲生:「そ、そうですか……。じゃあ、起きる準備をしますので……」
マリア:「ああ。汗びっしょりだからな、シャワーでも浴びた方がいい」
稲生:「は、はい」
マリアが出て行くと、稲生は布団から出て着替え始めた。
そして服を着て和室から出て、専用の浴室に向かう時、稲生はまた恐怖と驚愕で飛び上がった。
稲生:「わあーっ!?」
リリィ:「フヒッ?い、稲生さん……ひさし……お久しぶりです……」
稲生:「リリィ!“魔の者”とは僕も一緒に戦うから、命だけは助けて!」
リリィ:「な、何を言ってる……ですか?“魔の者”の出た……情報は、出たんですか……?」
マリア:「どうしたんだ?」
稲生:「マリアさん、どうしてリリィがここへ?」
マリア:「晩餐会にはポーリン先生も出られるそうだ。師匠の弟子の私達が出るのに、ポーリン先生も弟子を出席させたいということで、急きょ呼んだらしい」
稲生:「そ、そうなんですか……」
マリア:「こんな時に限って、エレーナはホテル勤務だからな」
稲生:「な、なるほど……」
リリィ:「よ、よろしく……です」
稲生:「よろしくねー……」
今のリリィは、魔女化したパンクルックの恰好はしていない。
魔女化していない時の彼女の私服は、地味な白いブラウスに黒い吊りスカートをはいているだけである。
実年齢では中学生くらいのはずなのだが、体型とそういった服装もあってか、小学生に見えてしまう。
稲生はさっきの恐怖体験が夢であったことに胸を撫で下ろし、浴室へと向かった。
マリア:「勇太があなたの姿を見てびっくりしていたけど、何かした?」
リリィ:「フヒッ……何もない……してないです」
マリア:「そうか……」
リリィ:「着替え……私も着替えます……」
マリア:「着替え?」
リリィ:「……フヒヒヒヒヒヒ」
マリア:「いや、魔女の姿になる必要は無い。ポーリン組の弟子の服だけ着ていればいいだろう」
リリィ:「フヒヒヒ……残念です……」
マリア:(変身すると魔力が上がるタイプか。それはいいとして、さすがにヘヴィメタロッカー風は……ミスリード狙い過ぎだろう……)
マリアはリリィの着替えを手伝った。
リリィの体にもまた虐待の数々の痕が見られることから、彼女もまた魔女としての素質を見出された1人であることは理解できた。
思わず、ハーフトップとショーツだけのリリィを抱きしめた。
リリィ:「フヒッ!?ま、マリアンナ……さん!?何をする……ですか!?」
マリア:「お互い、人間としては幸せになれなかったけど、魔道師としては幸せになろうな」
リリィ:「……はい」
人間としても幸せにやってきた稲生は、門内ではかなり異色な存在であるわけだが、そんな稲生が彼女らに対してできることがあるらしい。
しかしまだ稲生本人はもちろん、魔女達もそれは理解できていなかった。
稲生達は先に通された貴賓室に戻った。
貴賓室は高級ホテルのスイートルームみたいな部屋で、更にいくつかの部屋に分かれているくらいであった。
政府高官に日本人も多く含まれているからなのか、その部屋は西洋の城の造りである魔王城であるにも関わらず、和室まであった。
因みに……あの横田理事も、立場上は政府高官に値するわけである。
こういう政治の世界にも、三枚目的な役回りをする政治家は必要だということだろうか。
それはさておき、稲生は和室に布団を敷いてもらっていて、そこで寝泊まりさせてもらっていた。
イリーナが宮廷魔導師を務めるポーリンとの会談(マリア曰く、『婆さん同士のお茶会』)が終わるまで、そこで仮眠を取らせてもらうことにした。
照明を落として襖を閉めると、和室内は夜のように真っ暗になる。
スイートルームの他の部屋にはマリアがいるのだが、まるで誰もいない部屋に1人で寝ているかのような感覚になってしまう。
いつか稲生は眠りに落ちてしまっていた。
……ふと寝苦しくて、稲生は目が覚めた。
胸が重い。
何かに胸をグッと押されているような感じがする。
何か、いる。
この和室の中に、誰かがいる。
マリア?
いや、マリアとは感じが違う。
何だか怖い感じだ。
恐怖で目が開けられない。
そんな稲生の顔に、生暖かい息が吹きかかる。
誰だ?
誰かが稲生の胸の上に乗っている。
体が動かない。
……金縛りだ!
まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が稲生の顔に吹きかけられる。
その息は、稲生の耳元で動きが止まった。
何か、呟いている。
ぼそぼそとよく聞き取れない声が、稲生の耳に忍び込んでくる。
その声は、次第に大きくなっていった。
???:「フヒヒ……殺してやる……殺してやる……」
稲生:「うわあっ!」
ついに堪らなくなった稲生が、大声を上げて目を見開いた。
そこに、彼女はいた。
ナイフを持ったリリアンヌ、愛称リリィが稲生の胸の上に乗っていた。
その姿は魔女としての姿、つまりパンクロッカーのような姿をしている状態だ。
幼い頃、つまり人間だった頃は性的虐待を受けていたせいで、普段はコミュ障の内向的な魔法少女といった感じだったのだが、パンクロッカーというか、ヘヴィメタルのような姿になることで覚醒魔女となった彼女は何をしでかすか分からない状態だ。
稲生:「き、キミは……リリィ!?」
リリィ:「フヒヒ……!私にも“魔の者”が取り憑いたのだ。それで、たたかっ……必死に戦った。おかげでかい……私もか、解放された……!フヒヒヒヒ!お前のっ……次はお前の番だ!!」
見るとリリィの喉はパックリと割れ、そこからポタポタと赤い血が滴り、稲生の顔を濡らす。
稲生は逃げられなかった。
稲生よりも更に小柄で軽い、魔道師とか魔女というよりは根暗な魔法少女といった感じのリリィだが、何故か稲生の体は魔法が掛けられたかのように固定されて動けなかった。
リリィは不気味な笑みを浮かべて、ナイフを振り上げた。
リリィの顔は魔女そのものだった。
吹き上がる自分の血しぶきを浴びて、
「ヒィヤッハァーッ!ハハハハハハハハハーッ!!」
と、高らかに狂った笑いを浮かべる魔女の姿を見ながら、稲生の最後の意識が途絶えた。
[10月24日17:00.天候:晴 魔王城ゲストルーム(貴賓室)]
稲生:「わあーっ!!」
稲生はそこで目が覚めた。
稲生:「ゆ、夢……!?」
マリア:「どうした、勇太!?」
ガラッと襖を開けて、マリアが飛び込んできた。
稲生:「ま、マリアさん……!す、すいません……。変な夢見て……」
マリア:「変な夢?とにかく、起きた方がいい。夕方6時になったら、ルーシー女王が晩餐会を開いてくれるそうだ」
稲生:「そ、そうですか……。じゃあ、起きる準備をしますので……」
マリア:「ああ。汗びっしょりだからな、シャワーでも浴びた方がいい」
稲生:「は、はい」
マリアが出て行くと、稲生は布団から出て着替え始めた。
そして服を着て和室から出て、専用の浴室に向かう時、稲生はまた恐怖と驚愕で飛び上がった。
稲生:「わあーっ!?」
リリィ:「フヒッ?い、稲生さん……ひさし……お久しぶりです……」
稲生:「リリィ!“魔の者”とは僕も一緒に戦うから、命だけは助けて!」
リリィ:「な、何を言ってる……ですか?“魔の者”の出た……情報は、出たんですか……?」
マリア:「どうしたんだ?」
稲生:「マリアさん、どうしてリリィがここへ?」
マリア:「晩餐会にはポーリン先生も出られるそうだ。師匠の弟子の私達が出るのに、ポーリン先生も弟子を出席させたいということで、急きょ呼んだらしい」
稲生:「そ、そうなんですか……」
マリア:「こんな時に限って、エレーナはホテル勤務だからな」
稲生:「な、なるほど……」
リリィ:「よ、よろしく……です」
稲生:「よろしくねー……」
今のリリィは、魔女化したパンクルックの恰好はしていない。
魔女化していない時の彼女の私服は、地味な白いブラウスに黒い吊りスカートをはいているだけである。
実年齢では中学生くらいのはずなのだが、体型とそういった服装もあってか、小学生に見えてしまう。
稲生はさっきの恐怖体験が夢であったことに胸を撫で下ろし、浴室へと向かった。
マリア:「勇太があなたの姿を見てびっくりしていたけど、何かした?」
リリィ:「フヒッ……何もない……してないです」
マリア:「そうか……」
リリィ:「着替え……私も着替えます……」
マリア:「着替え?」
リリィ:「……フヒヒヒヒヒヒ」
マリア:「いや、魔女の姿になる必要は無い。ポーリン組の弟子の服だけ着ていればいいだろう」
リリィ:「フヒヒヒ……残念です……」
マリア:(変身すると魔力が上がるタイプか。それはいいとして、さすがにヘヴィメタロッカー風は……ミスリード狙い過ぎだろう……)
マリアはリリィの着替えを手伝った。
リリィの体にもまた虐待の数々の痕が見られることから、彼女もまた魔女としての素質を見出された1人であることは理解できた。
思わず、ハーフトップとショーツだけのリリィを抱きしめた。
リリィ:「フヒッ!?ま、マリアンナ……さん!?何をする……ですか!?」
マリア:「お互い、人間としては幸せになれなかったけど、魔道師としては幸せになろうな」
リリィ:「……はい」
人間としても幸せにやってきた稲生は、門内ではかなり異色な存在であるわけだが、そんな稲生が彼女らに対してできることがあるらしい。
しかしまだ稲生本人はもちろん、魔女達もそれは理解できていなかった。