報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「雪中行軍……というには大げさか」

2016-11-30 19:22:44 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日23:45.天候:雪 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ただいまァ!どうだ、アリス?ちゃんと約束通り、今日中に帰ってきたぞ。俺は約束を守る男だ」
 アリス:「シーッ!トニーが寝てるんだから、もっと静かにしてっ!」
 敷島:「うぉっと!いっけね!」

 敷島はコートを脱ぐと、シンディに渡した。

 敷島:「外は結構、大雪だぞ?こりゃ間違い無く積もるなぁ……」
 アリス:「本当?明日の出勤、大丈夫かしら……」
 敷島:「お前は車だろ?まだ冬タイヤに換えてないんだから、明日はバスにしとけよ」
 アリス:「バスが走ってたら、苦労はしないわよ」
 敷島:「科学館送迎バスがあるじゃないか?」
 アリス:「あれは開館時間中だけの運行だよ」
 敷島:「そうだっけ?」
 アリス:「どうしましょ?」
 シンディ:「マスター。それなら、川越線の指扇駅からバスに乗るのはいかがでしょう?科学館の近くまでのバスなら、朝から運行されています」
 アリス:「川越線?動いてる?」
 敷島:「少しは動いているだろう。いざとなったら、ゴリ押しでタクシー代請求しろよ」
 アリス:「簡単に言うけどさぁ……」
 敷島:「俺も明日は、始発の新幹線で行くから早く寝かせてもらうよ」
 アリス:「新幹線?どこまで行くの?」
 敷島:「東京。東北新幹線なら雪に強いからな」
 シンディ:「天気予報ですと、東京や埼玉で3センチの積雪が見込まれています」
 敷島:「1番嫌な積もり方だな。まあいい。とにかく寝よう。シンディ、明日は5時に起こしてくれ」
 シンディ:「かしこまりました」
 アリス:「アタシも一緒に駅まで行くわ」
 敷島:「そうしてくれ。何なら、シンディも一緒でいいぞ」
 アリス:「そうはいかないよ。シンディにはバッチリ監視してもらうから」
 シンディ:「お任せください。マスター」
 敷島:「くそ……!」

[11月24日05:00.天候:雪 敷島家]

 シンディ:「マスター、社長。おはようございます」

 起動したシンディは、すぐに自らのオーナーとユーザーの寝室に起こしに行った。

 敷島:「……もう朝か。まだ暗いな……って、そろそろ起きろ!」

 敷島は斜め45度の角度で寝ているアリスを起こした。
 敷島の胸の上に片方乗っけている巨乳をペチーン!と叩く。

 アリス:「Ouch!」
 シンディ:「二海が朝食の御用意をしておりますので……」
 敷島:「ああ。今、起きる。二度寝するなよ。ほらっ!」

 敷島はアリスの上半身を起こした。
 ウェーブの掛かった金髪がだらりと垂れる。

 敷島:「シンディ、アリスをよろしく」
 シンディ:「はい」
 敷島:「マジで寒いな……」

 敷島は起き上がると、窓のカーテンを開けた。
 外に広がる光景は……。

 敷島:「う……マジで積もってやがる」

 とはいうものの、3センチというほどではない。
 今のところ、1センチくらいか。
 ただ、外は寒いとはいえ、マイナスまでは下がっていないのだろう。
 そんな状態で積もっているもんだから、シャーベットに近い雪質だ。

 敷島:「このくらいなら、辛うじて電車は走ってるっぽいなー」

 敷島はそう呟いて、洗面台に向かった。

[同日06:20.天候:雪 JR大宮駅]

 敷島:「うーむ……在来線は軒並み遅延か。でも、せいぜい5分から15分くらいじゃないか。早目に来て良かったな」
 アリス:「そうなの?」

 アリスは大きな欠伸をしていた。

 敷島:「ああ。これが本格的な朝ラッシュの時間になったら、遅延が拡大して30分以上ってなるのがオチだな」

 敷島はそう分析した。

 シンディ:「社長、新幹線のキップです」
 敷島:「ありがとう。とにかく、行こう。お前は在来線だからSuicaで行けるだろう?」
 アリス:「そうね」

 敷島達が西口南改札からコンコースに入ると、先にアリスを川越線まで送って行った。
 埼京・川越線では『遅れ5分』という表示が出ていたが……。

[同日06:38.天候:雪 JR大宮駅・新幹線ホーム→東北新幹線“なすの”252号1号車内]

 その後で敷島とシンディは、改めて新幹線ホームに向かった。
 埼京線と東北新幹線の大宮から南はセットで開通したので、実は乗り換えは意外と楽である。
 さすがに近距離利用ではグリーン車ではなく、自由席である。

 シンディ:「社長、このままだと社員の皆さんも遅れてくるかもしれないわね」
 敷島:「そうだな。無理しないで、安全優先に出勤するようにメールしておこう。ただ、遅延証明書はゲットしてもらって……」
 シンディ:「私が一斉メール送っておくわ」
 敷島:「頼む。どうせ、ボカロは自分で行動できるしな」

〔14番線に、“なすの”252号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から8号車と10号車です。まもなく14番線に、“なすの”252号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 朝の東北新幹線上り初電は、唯一の小山駅始発の列車である。

 シンディ:「私は立ってる?」
 敷島:「そんなに混んでないだろうから大丈夫だろ」

 昨日乗ったのと同じE2系が入線してくる。
 雪は被っておらず、ずぶ濡れの状態でワイパーを動かしていた。

〔「おはようございます。大宮、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。“なすの”252号、東京行きです。9号車のグリーン車以外、全ての車両が自由席です」〕

 敷島達は先頭車に乗り込んだ。
 確かに、車内は空いていた。
 今度のはコンセントが付いていない前期型である。

 シンディ:「社長、全社員に一斉メールを送っておきました」
 敷島:「ありがとう」

 大宮駅の新幹線ホームは無機質な発車ベルが流れる。

〔14番線から、“なすの”252号、東京行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 在来線には微妙な遅延が発生している中、新幹線は定刻通りに発車した。
 駅構内を出ると、どんよりとした曇り空に舞う大粒の雪が窓に当たる。
 これは更に積もるフラグである。
 現在は1センチほどであるが、確かにこのままだと3センチは行くのではないかと思うほどだ。

 敷島:「東京駅からの移動が大変だな。都営バスが上手いこと走っててくれるといいが……」
 シンディ:「既に東京都交通局からは、バスに大幅な遅延が発生する恐れがあるとのお知らせが出ています」
 敷島:「……だろうな。まあ、会社は一海が7時には起動するから、それで電話対応くらいは何とかなるが……」

 朝イチの上り新幹線は、雪の舞う中を東京へ向かう。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「“やまびこ”60号」

2016-11-30 10:28:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日21:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区国分町→JR仙台駅]

 フロント係:「ありがとうございましたー」
 敷島:「どうも」

 会計を済ませてサウナ店の外に出る。

 敷島:「それにしても、サウナだけでなく、人工とはいえ温泉まであるのにはびっくりました」
 平賀:「そうでしょう?男性専用なので、自分らからしてみれば、ナツやアリスがいない時にしか来れないわけです」
 敷島:「確かにw」
 平賀:「元々はうちの学生が見つけたものなんですよ。いい穴場だって言うんで今回、せっかくだから来てみました」
 敷島:「なるほど。俺の場合は、どうしてもアリスが単独行動させてくれないからなぁ……」
 平賀:「シンディの監視付き」
 敷島:「そうなんです。……お?シンディいないなー。ここは国分町です。せっかくですから、一緒に別のお風呂にでも……」
 平賀:「後で絶対バレる上、自分にもとばっちりが来るので御遠慮します」
 敷島:「エミリーに守ってもらえばいいじゃないですか」
 平賀:「エミリーはそういう為にあるんじゃありません。記念館に飾ってあるのも、戦闘利用という用途を終えたという意味合いも込められているわけですし……」

 平賀はそう言いながらタクシーを拾う。

 平賀:「駅までお送りしましょう」
 敷島:「一緒に、キャバクラ行きません?知り合いの社長から聞いた店があるんですが……」
 平賀:「自分の顔が立たなくなるので、どうかお願いします」
 敷島:「了解。さすがに平賀先生の顔を潰すわけにはいきませんな」

 敷島は肩を竦めてタクシーの運転席の後ろに乗り込んだ。
 その隣に平賀も乗る。

 平賀:「仙台駅まで」
 運転手:「西口でいいですか?」
 平賀:「はい」
 運転手:「分かりました」

 タクシーが夜の繁華街を走る。

 敷島:「それにしても、マルチタイプの新造依頼が個人から来るとは思いもしませんでした」
 平賀:「ホントにねぇ……」
 敷島:「しかもアルエットの設計データではなく、エミリーやシンディの方だ。まあ、あの大叔父さんなら考えかねない所ですがね」
 平賀:「メイドロイドではダメなんでしょうか?」
 敷島:「いっそのこと、宥めすかしてそっちに話を持って行くという手もあります。ま、明日ファックスを見てから決めますよ」
 平賀:「お願いします。マルチタイプは本来、個人で扱うには難しい代物です。それができるのは敷島さん、あなただけだ」
 敷島:「平賀先生だって、できるじゃないですか」
 平賀:「自分は南里先生から直接色々教わったし、だいいち、今のエミリーのボディを造ったのは自分ですからね。自分で造ったものを制御できないようでは、それは製作者失格ですから」
 敷島:「千兵衛博士がア◯レちゃんを制御できていないのも失格ですか?」
 平賀:「いや、あれはきっと……そういう仕様なのでしょう」

[同日21:20.天候:曇 JR仙台駅西口]

 タクシーが西口のタクシー降車場に止まる。

 平賀:「ここは自分が……」
 敷島:「いや、私が……」
 平賀:「いやいや、自分が……」
 敷島:「いやいやいや、私が……」

 嗚呼、日本人模様。
 結局、先に来ていたシンディが敷島のクレジットカードで払いましたとさ。

 敷島:「エミリーも来ていたのか」
 エミリー:「はい」
 敷島:「喜べ。もしかしたら、お前の新しい妹が造られることになるかもだぞ」
 エミリー:「新しい妹……?」

[同日21:45.天候:曇→雪 JR仙台駅・東北新幹線ホーム→“やまびこ”60号9号車]

〔13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。……〕

 シンディ:「最高顧問から新しいマルチタイプの新造依頼があったの!?」
 敷島:「そうなんだ。どうせ年寄りの気紛れだと思うが、会社にファックスしたって言うから、明日確認しないとダメだな。ファックスが来ていなかったら、所詮は年寄りの独り言として無かったことにできるし、仮に来ていたとしても、内容がシッチャカメッチャカだったらやっぱり無かったことにできる」
 シンディ:「やっぱりアルエットみたいなタイプ?新型だもんね」
 敷島:「いや、どうもあの電話の話しぶりからして、お前みたいなタイプがお望みらしい」

〔「13番線、ご注意ください。本日の東京行き最終、“やまびこ”60号が参ります。宇都宮、大宮、上野、東京方面ご利用のお客様、本日の最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 E2系と呼ばれる、東北新幹線では最古参の車両が入線してきた。
 ヘッドライトが旧式の黄色掛かったタイプである。
 それを光らせてホームに滑り込んできた。
 尚、仙台駅にはまだホームドアが無い。
 仕様の違う様々な車両が混在しているようでは、ホームドアが作れないのか。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。13番線は21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きです。本日の東京行き、最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 盛岡始発の列車なので、既に乗客は乗っている。
 が、グリーン車はガラガラだった。
 そこに乗り込む。
 幸いにして、コンセントが付いている後期タイプである。

 敷島:「今のうちだ。シンディ、少し充電しておけ」
 シンディ:「分かりました」

 シンディは自分の荷物の中から充電用コードを取り出すと、それを肘掛け下のコンセントに繋いだ。

 ホームから聞こえてくる発車メロディ。
 “青葉場恋唄”をアレンジしたものである。

〔「13番線、発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ドアチャイムの代わりに自動音声が流れる。
 それでドアが閉まると、VVVFインバータの音を響かせて最終列車が走り出した。
 実際はこの後に、郡山止まりの本当の最終列車がある。
 因みに仙台駅在来線の方は、“すずめ踊り”の御囃子にメロディが変更になったそうだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「仙台からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は“やまびこ”60号、東京行きでございます。次の福島には22時8分、郡山には22時23分、宇都宮には22時52分、大宮には23時18分、上野には23時38分、終点東京には23時44分の到着です。……」〕

 敷島:「あ、そうだ。アリスにはこの電車で帰るって伝えておいてくれたか?」
 シンディ:「はい。日付が変わるギリギリ前には戻れると伝えておきました」
 敷島:「で、アリスは何て?」
 シンディ:「『あ、そう。くれぐれも、タカオの護衛よろしく』と」
 敷島:「うーむ……何か、すっかり信用されとらんなぁ……」

 敷島は頭をかいた。
 ふと窓の外を見ると、水滴が付いていた。

 敷島:「ん?雨か?」

 列車は少しの間、在来線の横を走る。
 在来線の長町駅の横を通過すると、駅の明かりでその正体が分かった。

 敷島:「うわ、雪だよ。天気予報当たったな」
 シンディ:「そうですね」
 敷島:「まあ、首都圏は大したことは無いだろう」

 敷島はグリーン車の大きな座席をリクライニングした。

 敷島:「シンディ。大宮に着く5分前には起こしてくれ」
 シンディ:「かしこまりました」

 最終列車は小雪の舞う中、一路南へと進む。
コメント (3)
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