[10月25日02:00.天候不明 冥界鉄道公社線内]
真っ暗な亜空間トンネルを突き進んだと思ったら、薄暗い景色の中を走る冥鉄電車。
幽霊電車の割には同形車種は未だに運転されている新型であることから、何だか違和感を禁じ得ない状態である。
いつ頃到着するのか不安な中、電車は切り立った岩山の中を走っている。
まるで、緑の無いJR飯田線の沿線のようだ。
そんな中、電車は徐々に速度を落とし、ついに停車した。
〔「……臨時乗降場に到着です。お降りください」〕
稲生:「は?」
マリア:「もう着いたのか」
1面1線だけの無人駅。
稲生とマリアが向かい合って座っている側の方に、待合室も何も無いホームがあった。
よく見ると、ホーム先端付近に魔法陣が浮かび上がっている。
マリア:「師匠、師匠!着いたみたいですよ!」
イリーナ:「うーん……あと5分……」
マリア:「ダメですよ!電車が出発しちゃう!」
稲生はドア横のボタンを押して、ドアを開けた。
閉扉時は2打点チャイムが2回鳴るが、開扉の時は1回だけである。
何故か最新型の発車メロディ(“Water Crown”)が流れて来た。
E721系は乗降促進用として、車外スピーカーから発車メロディを流すことができるのだ。
稲生:「ヤバい!発車ですよ!」
マリア:「師匠、急いで!」
イリーナ:「んー……」
3人は急いで電車を降りた。
直後に1番後ろの乗務員室から笛の音が聞こえて、2打点チャイムの音と共に電車のドアが閉まる。
幽霊電車には似つかわしくないVVVFインバータの音を響かせて、4両編成の電車は発車していった。
イリーナ:「こんな無人駅で降ろされるなんてねぇ……」
マリア:「それよりこんな亜空間に取り残されるのもアレですから、急いで魔法陣へ行きましょう」
稲生:「あれですね」
稲生達はホーム先端付近にある魔法陣へ移動した。
イリーナがローブの中から聖水の入った魔法瓶(水筒としての魔法瓶ではなく、本当に魔法使いが持つ瓶)を出して、それを魔法陣へ振り掛ける。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
魔法陣が紫色に光り出し、稲生達はその光に包まれた。
[11月4日11:00.天候:晴 東京都江東区森下・ワンスターホテル]
稲生達はホテルの地下階にある魔法陣へ無事に移動することができた。
但し、魔界と人間界とでは流れる時間が違う為に、イリーナのように熟練した魔道師であっても、1週間ほどのブランクができてしまう。
稲生:「あれ?もしかしてこの時間、エレーナは寝てるのかな?」
地下室にはエレーナが寝泊まりしている部屋がある。
元々は従業員用の控室があったのだが、今はエレーナ専用に改築されている。
代わりにエレーナ以外の通いの従業員達は、1階のオーナーの部屋に隣接した部屋で休むことになっている。
稲生:「何だか、寝息のような物が聞こえるし、夜勤明けかな?静かにして行きましょう」
マリア:「フッ……」
稲生とイリーナがエレベーターの方に歩いて行くのとは反対側に、エレーナの部屋に向かうマリア。
稲生:「マリアさん?」
イリーナ:「また何か悪巧みでもする気かねぇ……?」
その通りだった。
マリアはエレーナの部屋に忍び込むと……。
マリア:「こちょこちょこちょこちょ……」
エレーナ:「きゃははははははははは!……って、マリアンナっ!てめっ、このっ!!」
エレーナにくすぐり攻撃。
マリア:「はははははははははははっ!!」
マリアは大笑いしながらちょうど開いたエレベーターの中に飛び込んだ。
すぐにドアが閉まる。
エレーナ:「こ、このやろー!!」
怒ったエレーナがドアの向こうからドンドンと叩く音がしたが、エレベーターは上昇を開始した。
稲生:「ま、マリアさん?」
マリア:「あー、久しぶりに大笑いしたぁ」
イリーナ:「全く、このコときたら……」
イリーナは呆れてモノが言えないと思いきや、マリアの肩に手を置く。
イリーナ:「いつの間にか、笑えるようになったんだねぇ……」
マリア:「師匠、私は最初から笑えますよ?」
イリーナ:「そうじゃないって。ね?勇太君?」
稲生:「え、ええ……」
それまでは魔女としての冷たい笑みしかできなかったマリア。
それが今では自然に笑えるようになっていた。
イリーナ:「勇太君の功労は大きいね」
稲生:「僕ですか?僕は何も……」
イリーナ:「自覚は無いかもだけど、ちゃんとしているよ」
稲生:「はあ……」
エレベーターが1階に到着する。
オーナー:「おお、これはこれは……。魔界からの御帰還ですね。お帰りなさいませ」
イリーナ:「ごめんなさいね。こんな中途半端な時間に……」
オーナー:「とんでもないことです。お荷物の方はお預かりしておきましたので、こちらです」
イリーナ:「ありがとう。……ところで、今日は部屋は開いておりませんこと?」
オーナー:「あいにくですが、本日は満室でして……」
イリーナ:「あらまぁ、残念ねぇ……」
オーナー:「申し訳ありません」
稲生:「先生、よろしかったら、僕の実家に泊まりに来ませんか?今から連絡しますよ」
イリーナ:「何だか申し訳無いわ。他にホテルを探しましょう」
稲生:「いえ、大丈夫ですよ。僕に任せてください」
稲生は自分のスマホを取り出した。
稲生:「あー、もしもし。母さん?僕だけど……」
エレーナ:「マリアンナ!今日という今日は許さないんだからねっ!!」
エレーナがロビーまで追い掛けて来た。
オーナー:「エレーナ、元気そうだから、15時からフロント業務の手伝い、よろしくな」
エレーナ:「ええっ!?」
イリーナ:「んもう、働き者さん♪」
エレーナ:「ちょっ……!宅急便の仕事やろうと思ってたのにぃ……!」
マリア:「結局働く気満々じゃないか」
エレーナ:「うっさい!ニートのオマエとは違うんだよ!」
一応、マリアが手作りしたフランス人形を稲生がネットで売るくらいはしているのだが……。
稲生:「お待たせしました。今からでも大丈夫だそうなんで、良かったらどうぞ」
イリーナ:「おー、さすがは稲生君だねぃ……。こりゃ手土産無しでは行けないね」
魔道師へ便宜を図る者に対しては、何らかの恩恵に預かることができる。
尚、その中でも定期的に図っている者を『協力者』と呼ぶ。
真っ暗な亜空間トンネルを突き進んだと思ったら、薄暗い景色の中を走る冥鉄電車。
幽霊電車の割には同形車種は未だに運転されている新型であることから、何だか違和感を禁じ得ない状態である。
いつ頃到着するのか不安な中、電車は切り立った岩山の中を走っている。
まるで、緑の無いJR飯田線の沿線のようだ。
そんな中、電車は徐々に速度を落とし、ついに停車した。
〔「……臨時乗降場に到着です。お降りください」〕
稲生:「は?」
マリア:「もう着いたのか」
1面1線だけの無人駅。
稲生とマリアが向かい合って座っている側の方に、待合室も何も無いホームがあった。
よく見ると、ホーム先端付近に魔法陣が浮かび上がっている。
マリア:「師匠、師匠!着いたみたいですよ!」
イリーナ:「うーん……あと5分……」
マリア:「ダメですよ!電車が出発しちゃう!」
稲生はドア横のボタンを押して、ドアを開けた。
閉扉時は2打点チャイムが2回鳴るが、開扉の時は1回だけである。
何故か最新型の発車メロディ(“Water Crown”)が流れて来た。
E721系は乗降促進用として、車外スピーカーから発車メロディを流すことができるのだ。
稲生:「ヤバい!発車ですよ!」
マリア:「師匠、急いで!」
イリーナ:「んー……」
3人は急いで電車を降りた。
直後に1番後ろの乗務員室から笛の音が聞こえて、2打点チャイムの音と共に電車のドアが閉まる。
幽霊電車には似つかわしくないVVVFインバータの音を響かせて、4両編成の電車は発車していった。
イリーナ:「こんな無人駅で降ろされるなんてねぇ……」
マリア:「それよりこんな亜空間に取り残されるのもアレですから、急いで魔法陣へ行きましょう」
稲生:「あれですね」
稲生達はホーム先端付近にある魔法陣へ移動した。
イリーナがローブの中から聖水の入った魔法瓶(水筒としての魔法瓶ではなく、本当に魔法使いが持つ瓶)を出して、それを魔法陣へ振り掛ける。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
魔法陣が紫色に光り出し、稲生達はその光に包まれた。
[11月4日11:00.天候:晴 東京都江東区森下・ワンスターホテル]
稲生達はホテルの地下階にある魔法陣へ無事に移動することができた。
但し、魔界と人間界とでは流れる時間が違う為に、イリーナのように熟練した魔道師であっても、1週間ほどのブランクができてしまう。
稲生:「あれ?もしかしてこの時間、エレーナは寝てるのかな?」
地下室にはエレーナが寝泊まりしている部屋がある。
元々は従業員用の控室があったのだが、今はエレーナ専用に改築されている。
代わりにエレーナ以外の通いの従業員達は、1階のオーナーの部屋に隣接した部屋で休むことになっている。
稲生:「何だか、寝息のような物が聞こえるし、夜勤明けかな?静かにして行きましょう」
マリア:「フッ……」
稲生とイリーナがエレベーターの方に歩いて行くのとは反対側に、エレーナの部屋に向かうマリア。
稲生:「マリアさん?」
イリーナ:「また何か悪巧みでもする気かねぇ……?」
その通りだった。
マリアはエレーナの部屋に忍び込むと……。
マリア:「こちょこちょこちょこちょ……」
エレーナ:「きゃははははははははは!……って、マリアンナっ!てめっ、このっ!!」
エレーナにくすぐり攻撃。
マリア:「はははははははははははっ!!」
マリアは大笑いしながらちょうど開いたエレベーターの中に飛び込んだ。
すぐにドアが閉まる。
エレーナ:「こ、このやろー!!」
怒ったエレーナがドアの向こうからドンドンと叩く音がしたが、エレベーターは上昇を開始した。
稲生:「ま、マリアさん?」
マリア:「あー、久しぶりに大笑いしたぁ」
イリーナ:「全く、このコときたら……」
イリーナは呆れてモノが言えないと思いきや、マリアの肩に手を置く。
イリーナ:「いつの間にか、笑えるようになったんだねぇ……」
マリア:「師匠、私は最初から笑えますよ?」
イリーナ:「そうじゃないって。ね?勇太君?」
稲生:「え、ええ……」
それまでは魔女としての冷たい笑みしかできなかったマリア。
それが今では自然に笑えるようになっていた。
イリーナ:「勇太君の功労は大きいね」
稲生:「僕ですか?僕は何も……」
イリーナ:「自覚は無いかもだけど、ちゃんとしているよ」
稲生:「はあ……」
エレベーターが1階に到着する。
オーナー:「おお、これはこれは……。魔界からの御帰還ですね。お帰りなさいませ」
イリーナ:「ごめんなさいね。こんな中途半端な時間に……」
オーナー:「とんでもないことです。お荷物の方はお預かりしておきましたので、こちらです」
イリーナ:「ありがとう。……ところで、今日は部屋は開いておりませんこと?」
オーナー:「あいにくですが、本日は満室でして……」
イリーナ:「あらまぁ、残念ねぇ……」
オーナー:「申し訳ありません」
稲生:「先生、よろしかったら、僕の実家に泊まりに来ませんか?今から連絡しますよ」
イリーナ:「何だか申し訳無いわ。他にホテルを探しましょう」
稲生:「いえ、大丈夫ですよ。僕に任せてください」
稲生は自分のスマホを取り出した。
稲生:「あー、もしもし。母さん?僕だけど……」
エレーナ:「マリアンナ!今日という今日は許さないんだからねっ!!」
エレーナがロビーまで追い掛けて来た。
オーナー:「エレーナ、元気そうだから、15時からフロント業務の手伝い、よろしくな」
エレーナ:「ええっ!?」
イリーナ:「んもう、働き者さん♪」
エレーナ:「ちょっ……!宅急便の仕事やろうと思ってたのにぃ……!」
マリア:「結局働く気満々じゃないか」
エレーナ:「うっさい!ニートのオマエとは違うんだよ!」
一応、マリアが手作りしたフランス人形を稲生がネットで売るくらいはしているのだが……。
稲生:「お待たせしました。今からでも大丈夫だそうなんで、良かったらどうぞ」
イリーナ:「おー、さすがは稲生君だねぃ……。こりゃ手土産無しでは行けないね」
魔道師へ便宜を図る者に対しては、何らかの恩恵に預かることができる。
尚、その中でも定期的に図っている者を『協力者』と呼ぶ。