[11月22日20:05.天候:曇 東北新幹線“はやぶさ”105号9号車内]
かつて“はやぶさ”にはグリーン車にもドリンクサービスがあったのだが、今は廃止されているようである。
つまり、今はグランクラスだけということだ。
列車は夜景がきれいだが、しかし徐行区間である大宮までの道のりを進んだ。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。大宮の次は、仙台に止まります〕
自動放送がかなり簡素となっているが、これは全車指定席の速達列車では、大宮駅での下車客などいないだろうという想定だからだ。
列車は大宮駅新幹線ホーム下り本線である17番線に滑り込んだ。
在来線では東北本線(宇都宮線)は副線扱いだが、新幹線では本線扱いとなる。
〔「大宮です。大宮の次は、仙台に止まります。仙台から各駅に止まります」〕
シンディ:「ん?」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「降りてる……!」
敷島:「誰が?」
シンディ:「11号車に乗ってるメイドロイドが降りてるのよ」
敷島:「ふーん……?間違えて乗ったのかな?まあ、大宮なら挽回できるしな」
シンディ:「ちょっと社長、ゴミ捨ててくるね!」
敷島:「あ、ああ……」
シンディは敷島の食べ終わった駅弁の入った袋を手に取ると、デッキに向かった。
1分しか停車しない為、既にホームには発車ベルが鳴り響いている。
〔17番線から、“はやぶさ”105号、盛岡行きが発車致します。次は、仙台に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
シンディはバッとホームを覗き込んだ。
驚いた顔をするメイドロイドと、その両脇には黒いスーツの男が2人。
シンディがスキャンすると男2人は人間であったが、メイドロイドの方は……明らかに違うコードが出て来た。
シンディ:「お前!メイドロイドじゃないな!!」
ピー!(客終合図の音)
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
プシューという大きなエアの音がして、列車のドアが閉まる。
大きなVVVFインバータの音を響かせて、スルスルと加速していくE5系とE6系の併結編成。
〔「大宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。“はやぶさ”105号、盛岡行きでございます。次の停車駅は仙台です。仙台から先は新幹線各駅に止まります。……」〕
シンディは悔しがった顔で座席に戻って来た。
敷島:「シンディ?」
シンディ:「クソッ!どうして気がつかなかったんだ、私はァ!?」
[同日同時刻 天候:曇 JR大宮駅新幹線ホーム]
“はやぶさ”105号の11号車から飛び降りたメイドロイド。
しかし、その周りには仕えているはずの人間の主人などはいなかった。
その代わり、ホームに立っていた黒スーツの男が2人。
そのうち1人は黒光りする大きなキャリーケースを持っている。
男A:「なにぃっ!?あの『不死身の敷島』が乗ってただぁ!?」
男B:「さっき俺達に何か言って来た女は、そのマルチタイプのシンディだって言うぞ?」
男A:「それじゃ確かに、この作戦をこのまま続けるわけにはいかねぇよなぁ……」
男B:「どうする?」
男A:「取りあえず一旦、事務所まで戻ろう」
男B:「親分に怒られちまうよ?」
男A:「仕方ねぇよ!」
だが、ズラかろうとする男達を後ろから蹴飛ばす者がいた。
男A:「痛っ!」
男B:「な、何するんでい!?」
メイドロイド:「フン……。役立たずが」
何と、メイドロイドであった。
声色が変わり、喉と腹の間から出ているような声から、少し低い声に変わる。
黒い長髪のウィッグを取ると、その下にはストレートのショートの金髪が現れる。
男A:「な、な……!?」
男B:「め、メイドロイドの分際で、何しやがるんでい!?」
メイドロイド:「言葉に気をつけな。私はメイドロイドじゃない。いつでもこの場で、その爆弾を爆発させることができるんだからな?」
男A:「そ、そんなことしたら、どうなるか分かってるんだろうな!?」
男B:「そ、そうだそうだ!ロボットだから、そこまで考え付かないんだろう?ああ!?」
メイドロイド?:「お前達も含めて、この駅が丸ごと吹っ飛ぶ。本当はあの列車に使うつもりだったのに、敷島社長とシンディに邪魔されてしまった。おかげで作戦は失敗だ。とにかく、帰って博士に報告だ。ほら、帰るぞ。人間の役立たずども」
かなり人間に対して不遜な態度を取るロイドのようだ。
しかし、一体、どこの出所なのだろう?
このスーツの男達の正体も気になるところだ。
[同日20:10.天候:曇 東北新幹線“はやぶさ”105号9号車内]
敷島:「なに?メイドロイド以外の反応が出ただぁ!?」
シンディ:「そう。かといって、正体は分からない。私のデータにはさっぱり入ってなかったの。種類は私のような、マルチタイプに近いヤツだった……」
敷島:「マルチタイプクラスを新しく造ろうとするなら、国家公安委員会だとか、そっちを通さないと造れない決まりになっちゃったからなぁ……」
9号機以降のマルチタイプがなかなか製造されない理由はそれ。
製造費用が高い上、維持費も高い。
それにプラス、お役所関係への手続きもメイドロイドと比べて簡素化できないことから、マルチタイプの量産化計画は半ば頓挫してしまっている。
メイドロイドやセキュリティロボットを統括する上位機種としての役割もあるマルチタイプ、もう少し機数が欲しいところではあるが……。
シンディ:「ということは、無断製造?」
敷島:「どこにマルチタイプを無断製造できるヤツがいるんだよ?」
シンディ:「KR団の……残党?」
敷島:「……ってことになるのか、チクショー!シンディが正体に気づいたもんだから、慌てて逃げ出したんだな」
シンディ:「余計なことしちゃったかしら?」
敷島:「いや、もし良からぬことを企んでこの新幹線に乗っていたんだとしたら、降ろしてやったことで1つの勝利かもしれないな。よくやったと思うぞ、シンディ」
シンディ:「お褒めに預かりまして、何よりです」
敷島:「一応、鷲田警視達に伝えておこう」
敷島は手持ちのスマホを手に、デッキに向かった。
徐行区間を出た列車は、今や最高速度の時速320キロで北へと進んでいた。
かつて“はやぶさ”にはグリーン車にもドリンクサービスがあったのだが、今は廃止されているようである。
つまり、今はグランクラスだけということだ。
列車は夜景がきれいだが、しかし徐行区間である大宮までの道のりを進んだ。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。大宮の次は、仙台に止まります〕
自動放送がかなり簡素となっているが、これは全車指定席の速達列車では、大宮駅での下車客などいないだろうという想定だからだ。
列車は大宮駅新幹線ホーム下り本線である17番線に滑り込んだ。
在来線では東北本線(宇都宮線)は副線扱いだが、新幹線では本線扱いとなる。
〔「大宮です。大宮の次は、仙台に止まります。仙台から各駅に止まります」〕
シンディ:「ん?」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「降りてる……!」
敷島:「誰が?」
シンディ:「11号車に乗ってるメイドロイドが降りてるのよ」
敷島:「ふーん……?間違えて乗ったのかな?まあ、大宮なら挽回できるしな」
シンディ:「ちょっと社長、ゴミ捨ててくるね!」
敷島:「あ、ああ……」
シンディは敷島の食べ終わった駅弁の入った袋を手に取ると、デッキに向かった。
1分しか停車しない為、既にホームには発車ベルが鳴り響いている。
〔17番線から、“はやぶさ”105号、盛岡行きが発車致します。次は、仙台に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
シンディはバッとホームを覗き込んだ。
驚いた顔をするメイドロイドと、その両脇には黒いスーツの男が2人。
シンディがスキャンすると男2人は人間であったが、メイドロイドの方は……明らかに違うコードが出て来た。
シンディ:「お前!メイドロイドじゃないな!!」
ピー!(客終合図の音)
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
プシューという大きなエアの音がして、列車のドアが閉まる。
大きなVVVFインバータの音を響かせて、スルスルと加速していくE5系とE6系の併結編成。
〔「大宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。“はやぶさ”105号、盛岡行きでございます。次の停車駅は仙台です。仙台から先は新幹線各駅に止まります。……」〕
シンディは悔しがった顔で座席に戻って来た。
敷島:「シンディ?」
シンディ:「クソッ!どうして気がつかなかったんだ、私はァ!?」
[同日同時刻 天候:曇 JR大宮駅新幹線ホーム]
“はやぶさ”105号の11号車から飛び降りたメイドロイド。
しかし、その周りには仕えているはずの人間の主人などはいなかった。
その代わり、ホームに立っていた黒スーツの男が2人。
そのうち1人は黒光りする大きなキャリーケースを持っている。
男A:「なにぃっ!?あの『不死身の敷島』が乗ってただぁ!?」
男B:「さっき俺達に何か言って来た女は、そのマルチタイプのシンディだって言うぞ?」
男A:「それじゃ確かに、この作戦をこのまま続けるわけにはいかねぇよなぁ……」
男B:「どうする?」
男A:「取りあえず一旦、事務所まで戻ろう」
男B:「親分に怒られちまうよ?」
男A:「仕方ねぇよ!」
だが、ズラかろうとする男達を後ろから蹴飛ばす者がいた。
男A:「痛っ!」
男B:「な、何するんでい!?」
メイドロイド:「フン……。役立たずが」
何と、メイドロイドであった。
声色が変わり、喉と腹の間から出ているような声から、少し低い声に変わる。
黒い長髪のウィッグを取ると、その下にはストレートのショートの金髪が現れる。
男A:「な、な……!?」
男B:「め、メイドロイドの分際で、何しやがるんでい!?」
メイドロイド:「言葉に気をつけな。私はメイドロイドじゃない。いつでもこの場で、その爆弾を爆発させることができるんだからな?」
男A:「そ、そんなことしたら、どうなるか分かってるんだろうな!?」
男B:「そ、そうだそうだ!ロボットだから、そこまで考え付かないんだろう?ああ!?」
メイドロイド?:「お前達も含めて、この駅が丸ごと吹っ飛ぶ。本当はあの列車に使うつもりだったのに、敷島社長とシンディに邪魔されてしまった。おかげで作戦は失敗だ。とにかく、帰って博士に報告だ。ほら、帰るぞ。人間の役立たずども」
かなり人間に対して不遜な態度を取るロイドのようだ。
しかし、一体、どこの出所なのだろう?
このスーツの男達の正体も気になるところだ。
[同日20:10.天候:曇 東北新幹線“はやぶさ”105号9号車内]
敷島:「なに?メイドロイド以外の反応が出ただぁ!?」
シンディ:「そう。かといって、正体は分からない。私のデータにはさっぱり入ってなかったの。種類は私のような、マルチタイプに近いヤツだった……」
敷島:「マルチタイプクラスを新しく造ろうとするなら、国家公安委員会だとか、そっちを通さないと造れない決まりになっちゃったからなぁ……」
9号機以降のマルチタイプがなかなか製造されない理由はそれ。
製造費用が高い上、維持費も高い。
それにプラス、お役所関係への手続きもメイドロイドと比べて簡素化できないことから、マルチタイプの量産化計画は半ば頓挫してしまっている。
メイドロイドやセキュリティロボットを統括する上位機種としての役割もあるマルチタイプ、もう少し機数が欲しいところではあるが……。
シンディ:「ということは、無断製造?」
敷島:「どこにマルチタイプを無断製造できるヤツがいるんだよ?」
シンディ:「KR団の……残党?」
敷島:「……ってことになるのか、チクショー!シンディが正体に気づいたもんだから、慌てて逃げ出したんだな」
シンディ:「余計なことしちゃったかしら?」
敷島:「いや、もし良からぬことを企んでこの新幹線に乗っていたんだとしたら、降ろしてやったことで1つの勝利かもしれないな。よくやったと思うぞ、シンディ」
シンディ:「お褒めに預かりまして、何よりです」
敷島:「一応、鷲田警視達に伝えておこう」
敷島は手持ちのスマホを手に、デッキに向かった。
徐行区間を出た列車は、今や最高速度の時速320キロで北へと進んでいた。