[11月5日09:14.天候:曇 JR埼京線814K電車・10号車内]
〔まもなく終点、新宿、新宿。お出口は、左側です。山手線、中央線、湘南新宿ライン、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、副都心線、都営地下鉄新宿線と大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
マリア:「師匠、もうすぐですよ」
イリーナ:「あー、そうかい。ちょうど寝覚めの周期の時で良かったねぃ……」
稲生:「そんなのあるんですか」
マリア:(私も魔道師だが、師匠の言ってることがまだ分からない……)
電車は速度を落とし、ポイントをいくつも渡りながらホームに入った。
マリアは赤い縁の眼鏡を外し、ローブではなくブレザーのポケットに入れる。
目が悪いのではなく、ラテン語で書かれた大師匠の文字を英語に訳す為である。
〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ドアが開いて乗客達がぞろぞろ降りて行く。
稲生:「こっちです」
稲生はバッグを転がしながら電車を降りた。
そして、すぐ近くにある階段を登る。
稲生:「よいしょっと……!」
イリーナ:「がんばれ、がんばれ〜」
大きなバッグを持ち上げて登る稲生の後ろから、イリーナが目を細めて手を叩く。
魔法で荷物を軽くすることもできるだろうに、あえてしない師匠。
イリーナ:「やっぱりダンテ先生の仰る通り、男手も必要だね。そうでしょ、マリア?」
マリア:「そうですね。……勇太以外は認めません」
イリーナ:「そこまで立場を気にする?」
マリア:「いつどこで、気難しい魔女達が見聞きしてるか分かりませんから」
もっとも、マリアもかつてはその『気難しい魔女』の仲間であった。
マリア:「師匠はもう少し気にした方がいいですよ」
イリーナ:「あらあら。厳しいコねぇ……」
階段を登ってコンコースに出る。
稲生:「まだ時間があるので、トイレ休憩を取ります」
新南改札口の前にトイレがある。
この改札口を出るとバスタ新宿があるのだが、増設工事をしているとはいえ、まだトイレが少ない。
バスタ新宿を利用する者は、ここでトイレを済ませた方が良い。
もっとも、今回は鉄道利用だが。
イリーナ:「じゃあ先生、行ってこようかねぇ……」
マリア:「じゃあ、私も」
稲生:「どうぞ行ってきてください。荷物は僕が見てますから」
稲生だけがトイレの前で1人待つ。
ここぞとばかりに、スマホでネットサーフィン。
稲生:「え……?」
実はアプリでアルカディア・タイムスもインストールしているのだが、そこでのニュース。
『東アジア魔道団所属の魔道師、韓国大統領に報復か?』
『パク大統領よりチェ・スンシル師に対する報奨金が支払われず。契約不履行に対する報復手段として、韓国検察庁を動かしたもよう』
稲生:(韓国人同士でこれだもんなぁ……。円借款も踏み倒されそうだ)
因みに東アジア魔道団とは名前の通り、東アジアを拠点とする魔道師の一グループである。
ヨーロッパ人で多く構成されているダンテ一門とは違い、中国人が圧倒的に多い。
中国人なだけに、仙術を主に駆使するという。
ややもすれば、稲生もこちら側に引き込まれる可能性があったが、どういうわけだか、それまでの接点は全く無い。
また、ダンテ門流においても、大魔道師クラスでしか接触が無い。
尚、この魔道団においても、あまり朝鮮系は【お察しください】。
ダンテ一門における日本人は稲生だけであるが、魔道団においては日本人の構成員もいるという。
しかし、全く稲生に接触してくる者はいなかった。
しばらくしてイリーナ達が戻って来たので、稲生もトイレを済ませることにした。
[同日10:00.天候:晴 JR新宿駅・特急“あずさ”55号・8号車]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、10時4分発、特別急行“あずさ”55号、白馬行きです。……〕
9番線と10番線は中央本線特急専用ホームである。
9番線には定期列車の“スーパーあずさ”が止まっていたが、10時ちょうどに発車していった。
イリーナ:「じゃあ、また寝るね」
マリア:「はいはい」
稲生達のすぐ前に座っているイリーナ、縦引きカーテンを閉めて座席を倒し、フードを被ってしまった。
マリア:「師匠はどこでも寝れる人だから、こんなビジネスクラスでなくてもいいくらいだよ」
マリアは呆れて言った。
もっとも、イリーナの場合、実は夢占いと予知夢を見る為にあえて寝れる所では寝ているというのが本音らしい。
但し、実際寝れるわけだから、やはり肉体の使用期限が迫っているのもまた理由として成り立っているのも事実である。
稲生:「まあ、先生は世界の政財界人と繋がっている人ですから……。プラチナカードを超えるブラックカード持ちでもありますし……」
〔「お待たせを致しております。この電車は10時4分発の特急“あずさ”55号、中央本線、大糸線直通の白馬行きです。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の前半分です。本日は1号車と2号車の連結はございませんので、欠番となります。……」〕
マリアはまた赤い縁の眼鏡を掛けて、ダンテの魔道書に目を通した。
魔道書とは教本みたいなものなので、読んだだけでその魔法が使えるわけではない。
しかし、魔法の何たるかは書かれている為、予め読んでおく必要はある。
JR時刻表やJTB時刻表並みの厚さがある本、恐らく着くまでには熟読は難しいだろう。
そうしている間に、電車が動き出した。
時計を見ると10時4分だから定刻の発車だ。
定期の“スーパーあずさ”の後ろを走って行く形になるわけだが、停車駅の少ないそれとは違い、比較的停車駅の多い臨時の“あずさ”は上手く追い付けないようになっている。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は中央本線、大糸線直通、特急“あずさ”55号、白馬行きです。これから先、立川、八王子、大月、石和温泉、甲府、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、終点白馬の順に停車致します。……〕
ふと稲生が網棚を見ると、マリアの鞄の中から、ミク人形とハク人形がゴソゴソと出て来た。
そして、車内販売が来るのをジッと待っている。
ジーッと稲生を見る。
稲生:「分かったよ。ちゃんとアイス買うからっ」
ミク人形:「♪」
ハク人形:「♪」
人形達を怒らせると怖い。
だがそれにしても、今回は出番の無かった人形達であった。
〔まもなく終点、新宿、新宿。お出口は、左側です。山手線、中央線、湘南新宿ライン、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、副都心線、都営地下鉄新宿線と大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
マリア:「師匠、もうすぐですよ」
イリーナ:「あー、そうかい。ちょうど寝覚めの周期の時で良かったねぃ……」
稲生:「そんなのあるんですか」
マリア:(私も魔道師だが、師匠の言ってることがまだ分からない……)
電車は速度を落とし、ポイントをいくつも渡りながらホームに入った。
マリアは赤い縁の眼鏡を外し、ローブではなくブレザーのポケットに入れる。
目が悪いのではなく、ラテン語で書かれた大師匠の文字を英語に訳す為である。
〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ドアが開いて乗客達がぞろぞろ降りて行く。
稲生:「こっちです」
稲生はバッグを転がしながら電車を降りた。
そして、すぐ近くにある階段を登る。
稲生:「よいしょっと……!」
イリーナ:「がんばれ、がんばれ〜」
大きなバッグを持ち上げて登る稲生の後ろから、イリーナが目を細めて手を叩く。
魔法で荷物を軽くすることもできるだろうに、あえてしない師匠。
イリーナ:「やっぱりダンテ先生の仰る通り、男手も必要だね。そうでしょ、マリア?」
マリア:「そうですね。……勇太以外は認めません」
イリーナ:「そこまで立場を気にする?」
マリア:「いつどこで、気難しい魔女達が見聞きしてるか分かりませんから」
もっとも、マリアもかつてはその『気難しい魔女』の仲間であった。
マリア:「師匠はもう少し気にした方がいいですよ」
イリーナ:「あらあら。厳しいコねぇ……」
階段を登ってコンコースに出る。
稲生:「まだ時間があるので、トイレ休憩を取ります」
新南改札口の前にトイレがある。
この改札口を出るとバスタ新宿があるのだが、増設工事をしているとはいえ、まだトイレが少ない。
バスタ新宿を利用する者は、ここでトイレを済ませた方が良い。
もっとも、今回は鉄道利用だが。
イリーナ:「じゃあ先生、行ってこようかねぇ……」
マリア:「じゃあ、私も」
稲生:「どうぞ行ってきてください。荷物は僕が見てますから」
稲生だけがトイレの前で1人待つ。
ここぞとばかりに、スマホでネットサーフィン。
稲生:「え……?」
実はアプリでアルカディア・タイムスもインストールしているのだが、そこでのニュース。
『東アジア魔道団所属の魔道師、韓国大統領に報復か?』
『パク大統領よりチェ・スンシル師に対する報奨金が支払われず。契約不履行に対する報復手段として、韓国検察庁を動かしたもよう』
稲生:(韓国人同士でこれだもんなぁ……。円借款も踏み倒されそうだ)
因みに東アジア魔道団とは名前の通り、東アジアを拠点とする魔道師の一グループである。
ヨーロッパ人で多く構成されているダンテ一門とは違い、中国人が圧倒的に多い。
中国人なだけに、仙術を主に駆使するという。
ややもすれば、稲生もこちら側に引き込まれる可能性があったが、どういうわけだか、それまでの接点は全く無い。
また、ダンテ門流においても、大魔道師クラスでしか接触が無い。
尚、この魔道団においても、あまり朝鮮系は【お察しください】。
ダンテ一門における日本人は稲生だけであるが、魔道団においては日本人の構成員もいるという。
しかし、全く稲生に接触してくる者はいなかった。
しばらくしてイリーナ達が戻って来たので、稲生もトイレを済ませることにした。
[同日10:00.天候:晴 JR新宿駅・特急“あずさ”55号・8号車]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。10番線に停車中の列車は、10時4分発、特別急行“あずさ”55号、白馬行きです。……〕
9番線と10番線は中央本線特急専用ホームである。
9番線には定期列車の“スーパーあずさ”が止まっていたが、10時ちょうどに発車していった。
イリーナ:「じゃあ、また寝るね」
マリア:「はいはい」
稲生達のすぐ前に座っているイリーナ、縦引きカーテンを閉めて座席を倒し、フードを被ってしまった。
マリア:「師匠はどこでも寝れる人だから、こんなビジネスクラスでなくてもいいくらいだよ」
マリアは呆れて言った。
もっとも、イリーナの場合、実は夢占いと予知夢を見る為にあえて寝れる所では寝ているというのが本音らしい。
但し、実際寝れるわけだから、やはり肉体の使用期限が迫っているのもまた理由として成り立っているのも事実である。
稲生:「まあ、先生は世界の政財界人と繋がっている人ですから……。プラチナカードを超えるブラックカード持ちでもありますし……」
〔「お待たせを致しております。この電車は10時4分発の特急“あずさ”55号、中央本線、大糸線直通の白馬行きです。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の前半分です。本日は1号車と2号車の連結はございませんので、欠番となります。……」〕
マリアはまた赤い縁の眼鏡を掛けて、ダンテの魔道書に目を通した。
魔道書とは教本みたいなものなので、読んだだけでその魔法が使えるわけではない。
しかし、魔法の何たるかは書かれている為、予め読んでおく必要はある。
JR時刻表やJTB時刻表並みの厚さがある本、恐らく着くまでには熟読は難しいだろう。
そうしている間に、電車が動き出した。
時計を見ると10時4分だから定刻の発車だ。
定期の“スーパーあずさ”の後ろを走って行く形になるわけだが、停車駅の少ないそれとは違い、比較的停車駅の多い臨時の“あずさ”は上手く追い付けないようになっている。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は中央本線、大糸線直通、特急“あずさ”55号、白馬行きです。これから先、立川、八王子、大月、石和温泉、甲府、小淵沢、富士見、茅野、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、終点白馬の順に停車致します。……〕
ふと稲生が網棚を見ると、マリアの鞄の中から、ミク人形とハク人形がゴソゴソと出て来た。
そして、車内販売が来るのをジッと待っている。
ジーッと稲生を見る。
稲生:「分かったよ。ちゃんとアイス買うからっ」
ミク人形:「♪」
ハク人形:「♪」
人形達を怒らせると怖い。
だがそれにしても、今回は出番の無かった人形達であった。