[11月22日19:35.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線乗り場]
〔20番線に停車中の列車は、19時40分発、“はやぶさ”105号、盛岡行きです。この電車は、全ての車両が指定席です。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車です。……〕
敷島:「やっぱり“こまち”も連結されていたか。あっちが良かったかな……」
シンディ:「変更してもらいますか?」
敷島:「いや、いいよ」
敷島達は9号車のドアの前に並んでいた。
〔「お待たせ致しました。20番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、20番、4105B、準備ができましたらドア操作願います」〕
グリーン車の大きなドアが開く。
敷島達はすぐに乗り込んだ。
敷島:「ふ〜、中は暖かい……」
シンディ:「そうですね」
敷島:「7Cと7Dか」
指定された席に行くと、シンディは荷物をヒョイと荷棚に上げた。
〔「ご案内致します。この電車は19時40分発、東北新幹線“はやぶさ”105号、盛岡行きです。停車駅は上野、大宮、仙台、古川、くりこま高原、一ノ関、水沢江刺、北上、新花巻、終点盛岡の順に止まります。全車両指定席で、自由席はございません。自由席特急券ではご利用になれませんので、ご注意ください。……」〕
敷島はテーブルを出すと、その上に弁当とお茶を置いた。
敷島:「シンディ、充電コンセントがあるから、今のうちに充電してていいぞ」
シンディ:「ありがとうございます」
普通車には基本的に窓側にしかコンセントが無いが、グリーン車とグランクラスでは通路側席にもコンセントがある。
DC変換アダプタを備えたコンセントを繋いで、シンディは脇腹にコードを刺した。
ロイドは電気使用量が多い為に、なるべく合法的に無料で充電できたり、料金が安い方法で充電する。
前者は新幹線のコンセントやホテルの客室で、後者は深夜電力で充電している。
敷島は弁当の蓋を開け、箸を付けた。
その時、ふと通路側に座っているシンディが何かを見つけたようだ。
シンディ:「すいません、ちょっとよろしいですか?」
敷島:「どうした?」
シンディがホームの方を指さす。
敷島:「何か見つけたのか?いいけど、乗り遅れるなよ?」
シンディ:「分かってます」
シンディは1度接続したコードを抜くと、脇腹の蓋を閉めた。
閉めると、繋ぎ目すら見えなくなるのだから不思議な構造だ。
ホームに降りて、向かった先は赤いE6系“こまち”車両。
“こまち”車両が連結されていても、盛岡止まりなら“はやぶさ”である。
11号車のグリーン車の方に行くと、デッキに別のメイドロイドが立っていた。
シンディ:「こんばんは。任務中?」
メイドロイド:「はい。御主人様方の護衛で、盛岡に向かっている最中です」
シンディ:「そう。メイドも随分数が増えたものね。さっきもコンコースに、あんたの仲間がいたよ」
メイドロイド:「そうですか」
使い勝手が良いのかどうか分からないが、執事よりもメイドの方が個体数が多いという。
メイドロイド:「シンディ様の御活躍、伺っております」
そうしているうちに、ホームから発車ベルの音が響いて来た。
シンディ:「そんなことはいいや。それより、アタシのユーザーは後ろの車両だから戻るね」
メイドロイド:「はい。シンディ様と御一緒の列車で、大変光栄です」
シンディは急いでE5系車両の方に戻った。
貫通扉が無いので、E5系とE6系の相互往来はできない。
敷島:「おっ、戻って来たな。発車ベルが鳴っても戻って来なかったから心配したぞ」
シンディ:「すいません。11号車にメイドロイドがいたもので」
敷島:「さっきの駅弁売り場にもいたって話じゃないか。それと同じか?」
シンディ:「機種は同じですが、個体は別ですね」
敷島:「へえ……。随分と頭数が増えたもんだ。平賀先生もウハウハだろうな」
今のところ、メイドロイドの製作ライセンスはDCJでしか受けていない。
平賀自身がDCJの外部役員であり、自身が研究開発したメイドロイドがDCJにてやっと量産が開始されたということだ。
尚、七海など、名前に海と付いている個体は基本的に試作機または量産先行機である為、こちらは非売品である。
敷島:「でもお前やエミリーは『メイド長』として、伏せ拝される立場か?」
シンディ:「どうでしょうねぇ……」
シンディはお茶を濁した答え方をした。
確かにメイドロイドの全機がマルチタイプに対して、人間以上に腰が低い。
これは平賀がエミリーを怒らせないようにする為の注意として入力したものだが(エミリーの方が上下関係に厳しい為。七海がまだ実験段階でメイドとしてヘマを繰り返していた時、エミリーはよく七海を叱り飛ばしていた)、結果的に同型機であるシンディに対しても上位機種として畏敬するようになっている。
シンディ:(バージョン連中と同じで、束で掛かってきたら面倒な相手にはなりそうだけどねぇ……)
列車は東京駅を発車し、ビルの夜景の中を進んでいる。
盛岡止まりの“はやぶさ”は仙台までは速達タイプであるが、仙台からは各駅停車となる、区間急行とか区間快速のような列車である。
敷島は弁当の鰻を頬張っていた。
シンディ:(ま、束になることは無いか……)
敷島:「あ、そうだ。シンディ」
シンディ:「何でしょう?」
敷島:「今日、エミリーがピアノは何を演奏したか分かるか?」
シンディ:「ちょっとお待ちください」
シンディはエミリーと交信したようだった。
シンディ:「今日は3曲で“他愛も無い二人の博物誌”と“故郷の星が映る海”と“永遠の三日天下”だそうです」
敷島:「新曲か!まあ、明日は鎮魂歌的な曲になりそうだな」
シンディ:「そうですね。でも、私はどちらかというと、あえて明るい曲を弾きそうな気がします」
敷島:「そうなのか?」
シンディ:「プロフェッサー南里は、ジャズヒアノがお好きだったようですね。姉さんにピアノを弾かせていたのも、それが理由でしょう?」
敷島:「そう言えばそうだな」
シンディ:「もし姉さんがプロフェッサー南里のことを思うのであれば、そうするような気がするんです」
敷島:「なるほどなぁ……。じゃあ、うちのボカロも連れてきた方が良かったか?あいにくと全員仕事だったし、法事や御焼香は俺達だけでやればいいと思ってたからなぁ……」
シンディ:「それでいいと思いますよ。前期型の私が非礼を働いたあの時も、ボカロ達はいなかったんでしょう?」
敷島:「まあ、それはそうだが……」
その時、何故だか敷島は違和感を覚えた。
それが何なのかは分からない。
どうして違和感が発生したのかも分からない。
だが何故だか南里の法事にボーカロイドがいないことに対して、何らかの違和感があったのだ。
しかし結局分からないまま、“はやぶさ”105号は北へと進んで行った。
〔20番線に停車中の列車は、19時40分発、“はやぶさ”105号、盛岡行きです。この電車は、全ての車両が指定席です。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車です。……〕
敷島:「やっぱり“こまち”も連結されていたか。あっちが良かったかな……」
シンディ:「変更してもらいますか?」
敷島:「いや、いいよ」
敷島達は9号車のドアの前に並んでいた。
〔「お待たせ致しました。20番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、20番、4105B、準備ができましたらドア操作願います」〕
グリーン車の大きなドアが開く。
敷島達はすぐに乗り込んだ。
敷島:「ふ〜、中は暖かい……」
シンディ:「そうですね」
敷島:「7Cと7Dか」
指定された席に行くと、シンディは荷物をヒョイと荷棚に上げた。
〔「ご案内致します。この電車は19時40分発、東北新幹線“はやぶさ”105号、盛岡行きです。停車駅は上野、大宮、仙台、古川、くりこま高原、一ノ関、水沢江刺、北上、新花巻、終点盛岡の順に止まります。全車両指定席で、自由席はございません。自由席特急券ではご利用になれませんので、ご注意ください。……」〕
敷島はテーブルを出すと、その上に弁当とお茶を置いた。
敷島:「シンディ、充電コンセントがあるから、今のうちに充電してていいぞ」
シンディ:「ありがとうございます」
普通車には基本的に窓側にしかコンセントが無いが、グリーン車とグランクラスでは通路側席にもコンセントがある。
DC変換アダプタを備えたコンセントを繋いで、シンディは脇腹にコードを刺した。
ロイドは電気使用量が多い為に、なるべく合法的に無料で充電できたり、料金が安い方法で充電する。
前者は新幹線のコンセントやホテルの客室で、後者は深夜電力で充電している。
敷島は弁当の蓋を開け、箸を付けた。
その時、ふと通路側に座っているシンディが何かを見つけたようだ。
シンディ:「すいません、ちょっとよろしいですか?」
敷島:「どうした?」
シンディがホームの方を指さす。
敷島:「何か見つけたのか?いいけど、乗り遅れるなよ?」
シンディ:「分かってます」
シンディは1度接続したコードを抜くと、脇腹の蓋を閉めた。
閉めると、繋ぎ目すら見えなくなるのだから不思議な構造だ。
ホームに降りて、向かった先は赤いE6系“こまち”車両。
“こまち”車両が連結されていても、盛岡止まりなら“はやぶさ”である。
11号車のグリーン車の方に行くと、デッキに別のメイドロイドが立っていた。
シンディ:「こんばんは。任務中?」
メイドロイド:「はい。御主人様方の護衛で、盛岡に向かっている最中です」
シンディ:「そう。メイドも随分数が増えたものね。さっきもコンコースに、あんたの仲間がいたよ」
メイドロイド:「そうですか」
使い勝手が良いのかどうか分からないが、執事よりもメイドの方が個体数が多いという。
メイドロイド:「シンディ様の御活躍、伺っております」
そうしているうちに、ホームから発車ベルの音が響いて来た。
シンディ:「そんなことはいいや。それより、アタシのユーザーは後ろの車両だから戻るね」
メイドロイド:「はい。シンディ様と御一緒の列車で、大変光栄です」
シンディは急いでE5系車両の方に戻った。
貫通扉が無いので、E5系とE6系の相互往来はできない。
敷島:「おっ、戻って来たな。発車ベルが鳴っても戻って来なかったから心配したぞ」
シンディ:「すいません。11号車にメイドロイドがいたもので」
敷島:「さっきの駅弁売り場にもいたって話じゃないか。それと同じか?」
シンディ:「機種は同じですが、個体は別ですね」
敷島:「へえ……。随分と頭数が増えたもんだ。平賀先生もウハウハだろうな」
今のところ、メイドロイドの製作ライセンスはDCJでしか受けていない。
平賀自身がDCJの外部役員であり、自身が研究開発したメイドロイドがDCJにてやっと量産が開始されたということだ。
尚、七海など、名前に海と付いている個体は基本的に試作機または量産先行機である為、こちらは非売品である。
敷島:「でもお前やエミリーは『メイド長』として、伏せ拝される立場か?」
シンディ:「どうでしょうねぇ……」
シンディはお茶を濁した答え方をした。
確かにメイドロイドの全機がマルチタイプに対して、人間以上に腰が低い。
これは平賀がエミリーを怒らせないようにする為の注意として入力したものだが(エミリーの方が上下関係に厳しい為。七海がまだ実験段階でメイドとしてヘマを繰り返していた時、エミリーはよく七海を叱り飛ばしていた)、結果的に同型機であるシンディに対しても上位機種として畏敬するようになっている。
シンディ:(バージョン連中と同じで、束で掛かってきたら面倒な相手にはなりそうだけどねぇ……)
列車は東京駅を発車し、ビルの夜景の中を進んでいる。
盛岡止まりの“はやぶさ”は仙台までは速達タイプであるが、仙台からは各駅停車となる、区間急行とか区間快速のような列車である。
敷島は弁当の鰻を頬張っていた。
シンディ:(ま、束になることは無いか……)
敷島:「あ、そうだ。シンディ」
シンディ:「何でしょう?」
敷島:「今日、エミリーがピアノは何を演奏したか分かるか?」
シンディ:「ちょっとお待ちください」
シンディはエミリーと交信したようだった。
シンディ:「今日は3曲で“他愛も無い二人の博物誌”と“故郷の星が映る海”と“永遠の三日天下”だそうです」
敷島:「新曲か!まあ、明日は鎮魂歌的な曲になりそうだな」
シンディ:「そうですね。でも、私はどちらかというと、あえて明るい曲を弾きそうな気がします」
敷島:「そうなのか?」
シンディ:「プロフェッサー南里は、ジャズヒアノがお好きだったようですね。姉さんにピアノを弾かせていたのも、それが理由でしょう?」
敷島:「そう言えばそうだな」
シンディ:「もし姉さんがプロフェッサー南里のことを思うのであれば、そうするような気がするんです」
敷島:「なるほどなぁ……。じゃあ、うちのボカロも連れてきた方が良かったか?あいにくと全員仕事だったし、法事や御焼香は俺達だけでやればいいと思ってたからなぁ……」
シンディ:「それでいいと思いますよ。前期型の私が非礼を働いたあの時も、ボカロ達はいなかったんでしょう?」
敷島:「まあ、それはそうだが……」
その時、何故だか敷島は違和感を覚えた。
それが何なのかは分からない。
どうして違和感が発生したのかも分からない。
だが何故だか南里の法事にボーカロイドがいないことに対して、何らかの違和感があったのだ。
しかし結局分からないまま、“はやぶさ”105号は北へと進んで行った。