報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「“はやぶさ”105号」

2016-11-24 22:02:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月22日19:35.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線乗り場]

〔20番線に停車中の列車は、19時40分発、“はやぶさ”105号、盛岡行きです。この電車は、全ての車両が指定席です。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車です。……〕

 敷島:「やっぱり“こまち”も連結されていたか。あっちが良かったかな……」
 シンディ:「変更してもらいますか?」
 敷島:「いや、いいよ」

 敷島達は9号車のドアの前に並んでいた。

〔「お待たせ致しました。20番線、まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、20番、4105B、準備ができましたらドア操作願います」〕

 グリーン車の大きなドアが開く。
 敷島達はすぐに乗り込んだ。

 敷島:「ふ〜、中は暖かい……」
 シンディ:「そうですね」
 敷島:「7Cと7Dか」

 指定された席に行くと、シンディは荷物をヒョイと荷棚に上げた。

〔「ご案内致します。この電車は19時40分発、東北新幹線“はやぶさ”105号、盛岡行きです。停車駅は上野、大宮、仙台、古川、くりこま高原、一ノ関、水沢江刺、北上、新花巻、終点盛岡の順に止まります。全車両指定席で、自由席はございません。自由席特急券ではご利用になれませんので、ご注意ください。……」〕

 敷島はテーブルを出すと、その上に弁当とお茶を置いた。

 敷島:「シンディ、充電コンセントがあるから、今のうちに充電してていいぞ」
 シンディ:「ありがとうございます」

 普通車には基本的に窓側にしかコンセントが無いが、グリーン車とグランクラスでは通路側席にもコンセントがある。
 DC変換アダプタを備えたコンセントを繋いで、シンディは脇腹にコードを刺した。
 ロイドは電気使用量が多い為に、なるべく合法的に無料で充電できたり、料金が安い方法で充電する。
 前者は新幹線のコンセントやホテルの客室で、後者は深夜電力で充電している。
 敷島は弁当の蓋を開け、箸を付けた。
 その時、ふと通路側に座っているシンディが何かを見つけたようだ。

 シンディ:「すいません、ちょっとよろしいですか?」
 敷島:「どうした?」

 シンディがホームの方を指さす。

 敷島:「何か見つけたのか?いいけど、乗り遅れるなよ?」
 シンディ:「分かってます」

 シンディは1度接続したコードを抜くと、脇腹の蓋を閉めた。
 閉めると、繋ぎ目すら見えなくなるのだから不思議な構造だ。
 ホームに降りて、向かった先は赤いE6系“こまち”車両。
 “こまち”車両が連結されていても、盛岡止まりなら“はやぶさ”である。
 11号車のグリーン車の方に行くと、デッキに別のメイドロイドが立っていた。

 シンディ:「こんばんは。任務中?」
 メイドロイド:「はい。御主人様方の護衛で、盛岡に向かっている最中です」
 シンディ:「そう。メイドも随分数が増えたものね。さっきもコンコースに、あんたの仲間がいたよ」
 メイドロイド:「そうですか」

 使い勝手が良いのかどうか分からないが、執事よりもメイドの方が個体数が多いという。

 メイドロイド:「シンディ様の御活躍、伺っております」

 そうしているうちに、ホームから発車ベルの音が響いて来た。

 シンディ:「そんなことはいいや。それより、アタシのユーザーは後ろの車両だから戻るね」
 メイドロイド:「はい。シンディ様と御一緒の列車で、大変光栄です」

 シンディは急いでE5系車両の方に戻った。
 貫通扉が無いので、E5系とE6系の相互往来はできない。

 敷島:「おっ、戻って来たな。発車ベルが鳴っても戻って来なかったから心配したぞ」
 シンディ:「すいません。11号車にメイドロイドがいたもので」
 敷島:「さっきの駅弁売り場にもいたって話じゃないか。それと同じか?」
 シンディ:「機種は同じですが、個体は別ですね」
 敷島:「へえ……。随分と頭数が増えたもんだ。平賀先生もウハウハだろうな」

 今のところ、メイドロイドの製作ライセンスはDCJでしか受けていない。
 平賀自身がDCJの外部役員であり、自身が研究開発したメイドロイドがDCJにてやっと量産が開始されたということだ。
 尚、七海など、名前に海と付いている個体は基本的に試作機または量産先行機である為、こちらは非売品である。

 敷島:「でもお前やエミリーは『メイド長』として、伏せ拝される立場か?」
 シンディ:「どうでしょうねぇ……」

 シンディはお茶を濁した答え方をした。
 確かにメイドロイドの全機がマルチタイプに対して、人間以上に腰が低い。
 これは平賀がエミリーを怒らせないようにする為の注意として入力したものだが(エミリーの方が上下関係に厳しい為。七海がまだ実験段階でメイドとしてヘマを繰り返していた時、エミリーはよく七海を叱り飛ばしていた)、結果的に同型機であるシンディに対しても上位機種として畏敬するようになっている。

 シンディ:(バージョン連中と同じで、束で掛かってきたら面倒な相手にはなりそうだけどねぇ……)

 列車は東京駅を発車し、ビルの夜景の中を進んでいる。
 盛岡止まりの“はやぶさ”は仙台までは速達タイプであるが、仙台からは各駅停車となる、区間急行とか区間快速のような列車である。
 敷島は弁当の鰻を頬張っていた。

 シンディ:(ま、束になることは無いか……)
 敷島:「あ、そうだ。シンディ」
 シンディ:「何でしょう?」
 敷島:「今日、エミリーがピアノは何を演奏したか分かるか?」
 シンディ:「ちょっとお待ちください」

 シンディはエミリーと交信したようだった。

 シンディ:「今日は3曲で“他愛も無い二人の博物誌”と“故郷の星が映る海”と“永遠の三日天下”だそうです」
 敷島:「新曲か!まあ、明日は鎮魂歌的な曲になりそうだな」
 シンディ:「そうですね。でも、私はどちらかというと、あえて明るい曲を弾きそうな気がします」
 敷島:「そうなのか?」
 シンディ:「プロフェッサー南里は、ジャズヒアノがお好きだったようですね。姉さんにピアノを弾かせていたのも、それが理由でしょう?」
 敷島:「そう言えばそうだな」
 シンディ:「もし姉さんがプロフェッサー南里のことを思うのであれば、そうするような気がするんです」
 敷島:「なるほどなぁ……。じゃあ、うちのボカロも連れてきた方が良かったか?あいにくと全員仕事だったし、法事や御焼香は俺達だけでやればいいと思ってたからなぁ……」
 シンディ:「それでいいと思いますよ。前期型の私が非礼を働いたあの時も、ボカロ達はいなかったんでしょう?」
 敷島:「まあ、それはそうだが……」

 その時、何故だか敷島は違和感を覚えた。
 それが何なのかは分からない。
 どうして違和感が発生したのかも分からない。
 だが何故だか南里の法事にボーカロイドがいないことに対して、何らかの違和感があったのだ。
 しかし結局分からないまま、“はやぶさ”105号は北へと進んで行った。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「夜の出発」

2016-11-24 15:55:39 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月22日18:43.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲駅前バスターミナル]

 退社してそのまま出発する敷島とシンディ。
 あえてタクシーではなく、都営バスの乗り場へ向かう。
 あくまでもこれからは会社の業務として行くのではなく、プライベートとして行くという形だからだ。
 東京決戦の際、バージョン3.0の包囲網に突撃する為に使用した都営バスだが、当時はまだツーステップバスが残っていた時代だった。
 今となっては、都営バスは全てノンステップバスになっている。
 まさか敷島がバスで特攻してくるとは思わなかった上、ボーロカイド達の放つ電気信号の歌で大混乱に陥ったバージョン軍団は右往左往した。

 敷島:「何だか急に冷えて来たなぁ……」
 シンディ:「23日の夜から雪になるそうです」
 敷島:「マジか。まあ、東北新幹線なら止まることは無いだろうが……」

〔「18時48分発、月島駅前回りの東京駅八重洲口行きです」〕

 プシューとエアの音がして、前扉のグライドスライドドアが開く。
 豊洲駅前始発のバスということもあって、既に乗車している客はいない。
 乗り込むと、中間の1人席に敷島が座る。
 その脇に旅行カバンが置けるし、シンディがそこに立った。
 都営バスではWi-Fiが使えるので、敷島は手持ちのタブレットをそれに接続してネットを使用する。
 平日の夕方ということもあり、乗車してくるのは通勤客が多かった。

 発車の1分前くらいになると、バスにエンジンが掛かり、ようやく車内に暖房が入るようになる。

〔「月島駅前、リバーシティ21、住友ツインビル前経由、東京駅八重洲口行き、発車します」〕
〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは時間通りに豊洲駅前のバスターミナルを発車した。

〔毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは月島駅前、リバーシティ21経由、東京駅八重洲口行きです。次は豊洲二丁目、豊洲二丁目。ららぽーと豊洲へおいでの方は、こちらでお降りください。……〕

 尚、東京決戦の際にオシャカにしたバスは、後になってから1台新車で弁償している。
 それが今、どこの営業所で運転されているかは不明だ。
 少なくとも、この三菱ふそうのエアロスターでは無いようだが……。
 都営バスではオートマ車であり、本来シフトレバーがある位置にはボタン式のシフトスイッチがある。

 敷島:(なに?お正月特番の撮影、明日やる?さすがだ、井辺君)

 敷島はLINEで井辺とやり取りをしている。
 因みにテレビ局では、既に来年放送の番組を制作中である。
 売れっ子の初音ミクやMEIKOも、既に番組出演が決まっていた。
 あいにくと、今年もNHKからは紅白歌合戦に呼ばれなかったが。

 敷島:「シンディ、うちの事務所、ちゃんと受信料払ってるよな?」
 シンディ:「そのはずですけど?」
 敷島:「何でうちのボカロは紅白呼ばれないかなぁ……」
 シンディ:「何ででしょうねぇ……」
 敷島:「何年か前、ミクはNHK特番に出たことはあるのになぁ……」

 敷島は首を傾げた。
 未だに芸能界には、人間のアイドルに代わってボーカロイドが活躍することに否定的な風潮は強い。
 もし敷島エージェンシーが大手プロダクションたる四季エンタープライズの傘下でなければ、他の大手プロダクションからの圧力で潰されていた恐れがある。

 敷島:「その代わり、民放の年末年始特番には出てるからいいけどさ」

[同日19:08.天候:曇 JR東京駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、東京駅八重洲口です。お忘れ物、落し物にご注意ください」〕

 バスは東京駅八重洲南口のバスターミナルに入る。
 JRバスなどが発着しているターミナルの南寄りである。
 降りると目の前には、JRバスの案内所や待合室がある。

 敷島:「何か、さっきより寒くなってるなぁ……」
 シンディ:「天気予報は当たるかもしれませんね」
 敷島:「所長の葬式の時は……雪降ってなかったもんな」
 シンディ:「ええ」

 敷島達は足早に東京駅構内へと入る。
 既に新幹線のキップは用意してあるので、そのまま改札口に入れば良い。
 南里の葬式であるが、ボーカロイド達は参列しなかった。
 仕事が忙しかったからではなく、まだボカロの存在が今ほど世間一般に受け入れられている状態ではなかったからである。
 また、ボカロ自身が人間の死について理解を深めていなかったというのもある。
 ミクは少なくとも悲しいことが起きたという認識と理解はしていたが、研究所近くの公園で歌っていたほどである。
 そこへ前期型シンディがやってきたが、まだミクはシンディと会ったことが無かったし、シンディもまたボカロの破壊命令を受けていたわけではなかったので、普通に告別式の会場をミクに聞いて、ミクが素直にそれに答えるというやり取りで済んでいる。

〔JR東京駅をご利用くださいまして、ありがとうございます。19時30分発、特急“さざなみ”5号、君津行きをご利用のお客様は、京葉線地下ホーム1番線へお越しください〕

 改札口からコンコースに入る。

 シンディ:「社長、お弁当は何にしますか?」
 敷島:「夕食が駅弁か。まあ、いいか。温かいお茶も併せて2000円以内の予算で買ってきてくれ」
 シンディ:「了解しました」

 シンディが駅弁売り場に向かっている間、敷島は新幹線のキップを確認した。
 一応グリーン車にはなっている。

 敷島:(“こまち”も連結されているような列車だったら、そっちが良かったかなぁ……)

 シンディが駅弁売り場で予算ギリギリの弁当を選んでいる。

 シンディ:(“宮川 うなぎ弁当”か。1800円で、お茶のペットボトルを入れれば予算ギリギリになるね)

 シンディが弁当を手に取ると、隣の弁当を取る者がいた。

 ???:「失礼します」
 シンディ:「! ああ」

 シンディはそれがメイドロイドであることが分かった。

 シンディ:「任務中?」
 メイドロイド:「はい」
 シンディ:「ご苦労さん」
 メイドロイド:「ありがとうございます」

 それだけを交わして、シンディは弁当とペットボトルを購入した。

 シンディ:(あいつら自動スキャンに掛からないから、突然現れるとびっくりするわー)

 メイドロイド達は武力を持たないからである。

 シンディ:「社長、予算以内です」
 敷島:「ああ、ありがとう。本当に予算ギリだなー。よし、あとはホームへ向かうか」
 シンディ:「はい」

 シンディは新幹線改札口に向かう敷島の後ろをついて行きながら、あのメイドロイドの向かった先を見た。
 京葉線ホームの方に向かう年配の夫婦がおり、そちらに仕えているようだ。
 構内自動放送で案内されている特急にでも乗るのだろう。
 そう言えば、弁当を2つ買っていたような気がする。
 復元されて再び破壊されたマルチタイプ7号機のレイチェルも、テロ活動に従事させられるよりも、介助ロボットでいいからそちらの用途で稼働させてくれることを望んでいた。
 それは叶わず、DCJ旧・さいたま研究所(現・ロボット未来科学館)を半壊させた上、8号機のアルエットにとどめを刺されている。

 ホームへのエスカレーターを上ると、寒風が敷島達を襲って来た。
 もっともそれは、発着する新幹線が巻き起こしたものかもしれない。
コメント (3)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「国家公安委員会」

2016-11-24 12:33:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月22日11:00.天候:曇 東京都千代田区・警視庁内国家公安委員会]

 委員:「……すると敷島さんとしては、委員会の通告に従うということでよろしいですね?」
 敷島:「はい。シンディについては現在、銃火器を装備しない新しい腕を製作し、それを取り付けることにしました」

 頭の固そうな国家公安委員が、敷島の提出した書類に目を通している。

 委員:「腕は新しく一から作ることとなるので、それまでは時間を頂きたいということですが、具体的にはどれほどの時間をご希望で?」
 敷島:「腕が完成しても、その後の実験データの積み重ねが必要とのことで、年内一杯は頂きたいです」
 委員:「その間、現在使用中の腕については、銃弾は全て抜き取った上で、銃使用を封印する処置をしたということですか」
 敷島:「はい。新しい腕が本格的に使えるようになるまでは、暫定的にそれでお願いしたいのです」
 委員:「本来はそうなるまで、件のロボットは停止状態にするのが無難という意見も委員会内には出ています。それについてはどう思いますか?」
 敷島:「シンディは銃を撃つ能力は持っていますが、それだけの用途で稼働しているわけではありません。今となってはその装備は付帯的なものに成り下がっておりまして、今現在の用途として稼働している間はそれを必要としているわけではありません」
 委員:「つまり、稼働は必要ということですか」
 敷島:「そうです。今は私の秘書という用途で動いていますから」

[同日11:30.天候:曇 東京メトロ有楽町線・桜田門駅]

 敷島:「本来、一般人が国家公安委員会と直接やり取りすることは無いんですがね……。普通は警察機関を通して、下部組織の都道府県公安委員会と接触するくらいですよ。免許の更新なんかいい例でしょう?」

 敷島は電車を待っている間、自分のケータイで平賀と連絡を取っていた。

 平賀:「それだけ敷島さんは、一般人扱いではないということですよ。自分はまだ宮城県公安委員会とのやり取りで済んでいます」
 敷島:「いいですねぇ、先生は楽で。俺だったら仙台在住であったとしても、やっぱり直接警視庁まで来いってことになりそうだ」
 平賀:「敷島さんはもう、そういう人だってことですよ。ただ、自分なんかも、所轄の警察署で済むレベルではなかったんですよ」
 敷島:「と、言いますと?」
 平賀:「自分は宮城県公安委員会との直接やり取りです。ですから、宮城県警本部の建物まで行きましたよ。エミリーを連れてね」
 敷島:「そ、それは大変でしたねぇ……。(でも俺の場合、やっぱり東京都公安委員会も飛び越えて国家公安委員会だもんなぁ……)」

 前期型の時はエミリーよりもシンディの方が目立っていたというのもある。
 東京決戦を引き起こした張本人のドクター・ウィリーに対し、シンディはその側近として立ち回った役として認識されているからである。
 いくら、後期型は安全ですよと言ったところで、なかなか信用してもらえなかったというのが実情だ。

〔まもなく1番線に、新木場行きが10両編成で到着します。乗車位置でお待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかったりするのは危険ですから、おやめください〕

 敷島:「あっ、すいません。そろそろ電車が来るんで、これで失礼します。……はい。今日の夜には、仙台入りする予定です。……はい、それじゃ」

 敷島は電話を切った。
 直後に強風の轟音を引き連れてホームに滑り込んでくる、有楽町線の最新鋭10000系。

〔桜田門、桜田門。1番線は、新木場行きです〕

 平日昼間の官庁街に位置する駅ということもあって、スーツ姿の乗客達が多く降りて来た。
 敷島達が乗り込むと、すぐに短い発車メロディが流れる。

〔ドアが閉まります。手荷物をお引きください〕

 ドアチャイムが3回鳴るが、これはJRのものと同じ。
 ドアが閉まって、少しブランクがあってから走り出した。

〔次は有楽町、有楽町。乗り換えのご案内です。日比谷線、千代田線、都営三田線、JR線はお乗り換えください〕

 シンディ:「社長、ミクがテレビの撮影終わったってよ」
 敷島:「そうか。それじゃ、昼には事務所で落ち合うことになるな。ミクは売れっ子だから、すぐに仕事が入ってきて、メンテの暇も無いなー」

[同日15:00.天候:曇 敷島エージェンシー・社長室]

 鷲田:「全面的に公安委員会の通告を受け入れたそうじゃないか。『不死身の敷島』『テロリストを泣かせる男』、敷島孝夫にも苦手なものはあったか?ん?」
 敷島:「お上とケンカするつもりは毛頭ありませんよ。今や、ヤクザ屋さんだって、そういう所に気を使う時代ですからね。ましてや、真っ当な商売をしているこちらが、ヤクザ屋でもできることをできないなんて言えませんから」
 鷲田:「そうかね。でも、相当の猶予を請求したそうじゃないか。向こうさんも、相当汗かいただろうな」
 敷島:「本当のことを言ったまでですがね。でも、そこはさすがだと思いますよ。正論を言ったら逆ギレする輩が多い昨今、向こうさんは汗をかくだけで済ませてくれたんですから」
 鷲田:「ということは、そちら側もそれなりの男気を見せないとイカンということだぞ?」
 敷島:「分かってますよ。だからこそ、向こうさんの通告を呑んだわけです。シンディの腕は銃火器を装備していないものと完全に交換するって、ちゃんと吞みましたよ。ただ、新しく造らなきゃいけないんで、完成して完全に使えるようになるまで待ってねって話です。その間は銃を撃たせてくれよとは言ってません。シンディの右腕は銃に変形できないよう、既に封印してあります」
 村中:「それは素晴らしい。ただ、実際またテロリストと対峙した時は大変そうだね?」
 敷島:「新しい腕は、銃に代わるものを用意するつもりですが、今は攻撃力が落ちている段階ですね。仕方が無いので、シンディには別の能力を高めてもらいました」
 鷲田:「何かね、それは?銃に代わるものとは、まず何かね?」
 敷島:「銃刀剣類がまずダメなわけですから、それ以外のものですよ。まだ開発中なので、何とも言えません」
 村中:「まあ、しょうがないね。ここで具体的なこと言ってもらっても、後で変わられたら意味が無いしね。で、彼女の何の能力を高めたのかな?」
 敷島:「近接戦の能力ですね。エミリーは元々高かったですが、シンディ得意の狙撃が使えなくなった以上、エミリーと同じ能力を持ってもらうことにしてもらいました」
 村中:「なるほど。ま、飛び道具を使うわけではないから、公安委さんもそれ以上は言えないってわけか」
 敷島:「そういうことです」
 鷲田:「ま、公安委が良いというのなら良い。明日は南里志郎博士の命日だったか」
 敷島:「はい。私もお世話になった1人なので、法事には行ってきます」
 鷲田:「そうか」

 2人の警視庁幹部が退出する。
 エレベーターホールにて……。

 鷲田:「いいか?ロボットが人間に取って変われると思ったら大間違いだぞ?くれぐれも調子に乗り過ぎるな」
 シンディ:「そんなこと、思ってません」
 村中:「まあまあ。色々とあるけど、頑張って」

 村中は対照的に反対のことを言った。

 敷島:「やれやれ……。やっと帰ったか。ま、銃火器取り外しについても、政治絡みだろう。とにかく、お前は何も気にすることは無いから」
 シンディ:「はい」
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