[12月1日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階 敷島エージェンシー]
勝又:「『M3号機シンディ・サード。左記の機体において、国家公安委員会における規定を満たしたことを確認し、稼働継続の承認を行うこととします』……良かったじゃないか」
敷島:「マルチタイプの個性の1つが潰されたんだ。手放しでは喜べないよ」
勝又:「何で?ビームライフルの方がカッコいいじゃん」
敷島:「鉄腕アトムのパクりみたいで、何か嫌なんだよ」
勝又:「鉄腕アトムの時代に追いつけている。いいことだと思うよ?」
敷島:「その前に早いとこ、自動運転カーを実用化させてもらいたいもんだね」
勝又:「もうすぐそこまで来てるよ。恐らく、10年後にはもうとっくに当たり前になってるさ」
敷島:「10年後か。で、父親とケンカした息子が1人でその車に乗って、大型トラックと出合い頭に衝突して事故死するんだろうね」
勝又:「……天馬飛雄の話をしているのかい?仮にアトムが本当にできたとしても、キミなら御茶ノ水博士になれるさ」
敷島:「いや、俺は科学技術の知識は持ち合わせていない。あくまで俺は、営業担当さ」
勝又:「アトムと言えば、序盤辺りにロボットサーカスの話があるだろう?」
敷島:「それがどうした?」
勝又:「本当に東京に来るってよ。うちの議会でも、話題になった」
敷島:「何か、都知事が1人で騒いでたそうじゃない。『クール・ジャパンは、まずクール・トウキョウからだ!』って」
勝又:「まあね」
敷島:「いっそのこと、キミが都知事になっちゃったら?」
勝又:「そう簡単になれるもんじゃないって」
敷島:「じゃあ、埼玉県知事になってくれよ。投票してやるぞ。埼玉県民として」
勝又:「あのねぇ……。俺が埼玉県知事になったら、潰瘍性大腸炎を含む特定疾患の半分くらいの医療給付を廃止にするぞ」
それは困る!
敷島:「ん?」
勝又:「ん?今、何か聞こえた?」
敷島:「天の声かな?」
シンディ:「失礼致します。お茶の替えでございます」
敷島:「シンディ、さっき何か言ったか?」
シンディ:「? いいえ。何かあったんですか?」
敷島:「いや、何でもない。えー……何の話だったっけ?」
勝又:「えーと……あ、ロボットサーカスの話。都知事が歓迎の意向を表明したもんだから、都内で大々的にやるよ。何しろ、珍しいからな」
敷島:「本当に団員の殆どがロボットやロイドか。凄いサーカス団だな」
勝又:「そういうこと。サーカス団としては日本全国を回りたいそうで、東京では明後日からの公演になる」
敷島:「俺も視察に行って来るか。初日と千秋楽はメチャ混みだろうから、平日にちょこっとな」
勝又:「ボーカロイドとは興行的にライバルになるかね?」
敷島:「どうだろう。分野が違うからな。そんなに利害の対立は無いかもしれないね」
[同日同時刻 東京都・臨海副都心(お台場) ロボット大サーカス会場予定地]
着々と会場の設営が行われている現場。
その中で既に出来上がっているハウス(関係者専用の小屋)に、団長などのサーカス関係者がいた。
彼らが一斉に目にしているのは、あのルディである。
但し、フィリピンで拾った時とはだいぶ様子が変わっている。
団長が船で日本に来る最中、ルディを修理した際にだいぶ装いを変えたらしい。
金髪だった髪は黒髪に、顔立ちも白人からアジア系に近いものに変わっていた。
団長:「フィリピンでブッ壊れたせいで、その時までのメモリーは全部消し飛んじまったが、逆に好都合ってもんだ。おい、さっさと起きろ」
ルディ:「う……」
団長:「どうだ、気分は?」
ルディ:「ここは……?」
女性団員:「団長、起動値が上がってるわ。順調よ」
団長:「よっしゃ。今日からお前の名前はアレックスだ。早速、今日から働いてもらうぞ。マーガレット、お前がこいつの教育係をやれ」
女性団員改めマーガレット:「私が?」
団長:「そうだ。お前、アレックスの教育係をやっていただろ?その経験を生かしてだ」
男性団員:「団長、前のアレックスは曲がりになりにも頭が良かったけど、こいつはどうだか分かりませんよ。だいたい、どこの馬の骨かも分からない少年ロイドですからね」
ルディ改めアレックス:「僕、ロイドだから馬の骨なんて無いよ。……うわっ!」
アレックス、団長から電気鞭で引っ叩かれる。
団長:「キサマ!こいつを誰だと思ってる!?我がサーカス団のトップスター、サンダーボルトだぞ!」
男性団員改めサンダーボルト:「まあまあ、団長。俺はサンダーボルトだ。ロイド同士、仲良くやろうぜ」
スタッフロボット:「サンダーさん、公開調整の時間です」
サンダーボルト:「おっ、今行く」
サンダーボルトはスタッフのロボットと一緒に小屋を出て行った。
アレックス:「あの人もロイドなんでしょ?ぶたれないんですか?」
団長:「アホか。サンダーボルトはな、アメリカのさる有名な科学者に造ってもらった優秀なロイドだぞ?出自不明のお前とは出来が違うんだ」
マーガレット:「おいで。見てみれば分かるわ」
団長:「おい、マスコミが来てんだ。見せるんなら、目立たない所で見せろよ」
マーガレット:「分かってます」
[同日18:00.天候:雨 敷島エージェンシー]
敷島:「マジかよ。雨降るなんて聞いてないぞ」
シンディ:「だから今日は暖かいんですね。誰か、傘持ってないか聞いてきますよ」
敷島:「いいよいいよ。今日だけはタクシーで帰ろう」
敷島とシンディは社長室を出た。
井辺:「あ、社長、お疲れさまでした」
敷島:「うん、お先に。……ん?その夕刊紙は?」
井辺:「ああ、読み終わったので、休憩室にでも置いてこようかと思いまして」
敷島:「お、何かロボットサーカスの記事が出てるみたいだな?」
井辺:「そうですね。あ、お持ちになりますか?」
敷島:「あー、じゃあ、今日だけもらおうかな。悪いね。もし他に読みたい人がいたら、領収証切ってもらって構わないから」
井辺:「まあ、今日はどのボーカロイドも夜までスケジュールが入ってますので、わざわざ休憩室で新聞を読むマネージャーはいないと思いますが……」
敷島とシンディは、ビルの前の通りでタクシーを拾った。
車内で夕刊紙を読む。
敷島:「へえ!結構スリリングな出し物をやってるんだなぁ……。お、何かロボット同士の対戦みたいなこともやってるみたいだぞ。シンディ、お前、飛び入りで参加してみるか?」
シンディ:「どうせ、こういうのは演出でしょう?私と戦ったら、本気で壊しますので、御遠慮します」
敷島:「はは(笑)、それもそうだな」
敷島は新聞のページを繰ろうとした。
シンディの目に、1枚の写真が飛び込んでくる。
シンディ:「社長!」
敷島:「な、何だ!?やっぱり飛び入り希望か?」
シンディ:「違います!」
シンディは写真の片隅に映る、団員と思しき少年ロイドに反応した。
シンディ:「……気のせいか」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「いえ、一瞬、ルディがいたような気がしたんです」
敷島:「ルディが?……え?この少年?全然似てないぞ。気のせいじゃないか?」
シンディ:「ええ、そうですね。すいません……」
敷島:「お前のオーバーホール、年明けにしようかと思っていたけど、もう少し早めの方がいいかな?」
シンディ:「お任せします」
タクシーは規則正しくワイパーを動かしながら、敷島の寝泊まりしているマンスリーマンションに向かった。
勝又:「『M3号機シンディ・サード。左記の機体において、国家公安委員会における規定を満たしたことを確認し、稼働継続の承認を行うこととします』……良かったじゃないか」
敷島:「マルチタイプの個性の1つが潰されたんだ。手放しでは喜べないよ」
勝又:「何で?ビームライフルの方がカッコいいじゃん」
敷島:「鉄腕アトムのパクりみたいで、何か嫌なんだよ」
勝又:「鉄腕アトムの時代に追いつけている。いいことだと思うよ?」
敷島:「その前に早いとこ、自動運転カーを実用化させてもらいたいもんだね」
勝又:「もうすぐそこまで来てるよ。恐らく、10年後にはもうとっくに当たり前になってるさ」
敷島:「10年後か。で、父親とケンカした息子が1人でその車に乗って、大型トラックと出合い頭に衝突して事故死するんだろうね」
勝又:「……天馬飛雄の話をしているのかい?仮にアトムが本当にできたとしても、キミなら御茶ノ水博士になれるさ」
敷島:「いや、俺は科学技術の知識は持ち合わせていない。あくまで俺は、営業担当さ」
勝又:「アトムと言えば、序盤辺りにロボットサーカスの話があるだろう?」
敷島:「それがどうした?」
勝又:「本当に東京に来るってよ。うちの議会でも、話題になった」
敷島:「何か、都知事が1人で騒いでたそうじゃない。『クール・ジャパンは、まずクール・トウキョウからだ!』って」
勝又:「まあね」
敷島:「いっそのこと、キミが都知事になっちゃったら?」
勝又:「そう簡単になれるもんじゃないって」
敷島:「じゃあ、埼玉県知事になってくれよ。投票してやるぞ。埼玉県民として」
勝又:「あのねぇ……。俺が埼玉県知事になったら、潰瘍性大腸炎を含む特定疾患の半分くらいの医療給付を廃止にするぞ」
それは困る!
敷島:「ん?」
勝又:「ん?今、何か聞こえた?」
敷島:「天の声かな?」
シンディ:「失礼致します。お茶の替えでございます」
敷島:「シンディ、さっき何か言ったか?」
シンディ:「? いいえ。何かあったんですか?」
敷島:「いや、何でもない。えー……何の話だったっけ?」
勝又:「えーと……あ、ロボットサーカスの話。都知事が歓迎の意向を表明したもんだから、都内で大々的にやるよ。何しろ、珍しいからな」
敷島:「本当に団員の殆どがロボットやロイドか。凄いサーカス団だな」
勝又:「そういうこと。サーカス団としては日本全国を回りたいそうで、東京では明後日からの公演になる」
敷島:「俺も視察に行って来るか。初日と千秋楽はメチャ混みだろうから、平日にちょこっとな」
勝又:「ボーカロイドとは興行的にライバルになるかね?」
敷島:「どうだろう。分野が違うからな。そんなに利害の対立は無いかもしれないね」
[同日同時刻 東京都・臨海副都心(お台場) ロボット大サーカス会場予定地]
着々と会場の設営が行われている現場。
その中で既に出来上がっているハウス(関係者専用の小屋)に、団長などのサーカス関係者がいた。
彼らが一斉に目にしているのは、あのルディである。
但し、フィリピンで拾った時とはだいぶ様子が変わっている。
団長が船で日本に来る最中、ルディを修理した際にだいぶ装いを変えたらしい。
金髪だった髪は黒髪に、顔立ちも白人からアジア系に近いものに変わっていた。
団長:「フィリピンでブッ壊れたせいで、その時までのメモリーは全部消し飛んじまったが、逆に好都合ってもんだ。おい、さっさと起きろ」
ルディ:「う……」
団長:「どうだ、気分は?」
ルディ:「ここは……?」
女性団員:「団長、起動値が上がってるわ。順調よ」
団長:「よっしゃ。今日からお前の名前はアレックスだ。早速、今日から働いてもらうぞ。マーガレット、お前がこいつの教育係をやれ」
女性団員改めマーガレット:「私が?」
団長:「そうだ。お前、アレックスの教育係をやっていただろ?その経験を生かしてだ」
男性団員:「団長、前のアレックスは曲がりになりにも頭が良かったけど、こいつはどうだか分かりませんよ。だいたい、どこの馬の骨かも分からない少年ロイドですからね」
ルディ改めアレックス:「僕、ロイドだから馬の骨なんて無いよ。……うわっ!」
アレックス、団長から電気鞭で引っ叩かれる。
団長:「キサマ!こいつを誰だと思ってる!?我がサーカス団のトップスター、サンダーボルトだぞ!」
男性団員改めサンダーボルト:「まあまあ、団長。俺はサンダーボルトだ。ロイド同士、仲良くやろうぜ」
スタッフロボット:「サンダーさん、公開調整の時間です」
サンダーボルト:「おっ、今行く」
サンダーボルトはスタッフのロボットと一緒に小屋を出て行った。
アレックス:「あの人もロイドなんでしょ?ぶたれないんですか?」
団長:「アホか。サンダーボルトはな、アメリカのさる有名な科学者に造ってもらった優秀なロイドだぞ?出自不明のお前とは出来が違うんだ」
マーガレット:「おいで。見てみれば分かるわ」
団長:「おい、マスコミが来てんだ。見せるんなら、目立たない所で見せろよ」
マーガレット:「分かってます」
[同日18:00.天候:雨 敷島エージェンシー]
敷島:「マジかよ。雨降るなんて聞いてないぞ」
シンディ:「だから今日は暖かいんですね。誰か、傘持ってないか聞いてきますよ」
敷島:「いいよいいよ。今日だけはタクシーで帰ろう」
敷島とシンディは社長室を出た。
井辺:「あ、社長、お疲れさまでした」
敷島:「うん、お先に。……ん?その夕刊紙は?」
井辺:「ああ、読み終わったので、休憩室にでも置いてこようかと思いまして」
敷島:「お、何かロボットサーカスの記事が出てるみたいだな?」
井辺:「そうですね。あ、お持ちになりますか?」
敷島:「あー、じゃあ、今日だけもらおうかな。悪いね。もし他に読みたい人がいたら、領収証切ってもらって構わないから」
井辺:「まあ、今日はどのボーカロイドも夜までスケジュールが入ってますので、わざわざ休憩室で新聞を読むマネージャーはいないと思いますが……」
敷島とシンディは、ビルの前の通りでタクシーを拾った。
車内で夕刊紙を読む。
敷島:「へえ!結構スリリングな出し物をやってるんだなぁ……。お、何かロボット同士の対戦みたいなこともやってるみたいだぞ。シンディ、お前、飛び入りで参加してみるか?」
シンディ:「どうせ、こういうのは演出でしょう?私と戦ったら、本気で壊しますので、御遠慮します」
敷島:「はは(笑)、それもそうだな」
敷島は新聞のページを繰ろうとした。
シンディの目に、1枚の写真が飛び込んでくる。
シンディ:「社長!」
敷島:「な、何だ!?やっぱり飛び入り希望か?」
シンディ:「違います!」
シンディは写真の片隅に映る、団員と思しき少年ロイドに反応した。
シンディ:「……気のせいか」
敷島:「どうした、シンディ?」
シンディ:「いえ、一瞬、ルディがいたような気がしたんです」
敷島:「ルディが?……え?この少年?全然似てないぞ。気のせいじゃないか?」
シンディ:「ええ、そうですね。すいません……」
敷島:「お前のオーバーホール、年明けにしようかと思っていたけど、もう少し早めの方がいいかな?」
シンディ:「お任せします」
タクシーは規則正しくワイパーを動かしながら、敷島の寝泊まりしているマンスリーマンションに向かった。