[12月11日17:00.天候:晴 東京・お台場 ロボット大サーカス会場]
敷島:「マジか!?」
アリス:「やはり、あいつは間違い無くマルチタイプ!」
シンディ:「……!!」
会場内に大喝采が響く。
ルディと思われる、今はアレックスを名乗るロイド団員が電磁輪潜りをやってのけたのだった。
シンディでさえ、タイミングを計るのに多少のブランクを必要とするくらいの緻密な動きを要求されるものだ。
アレックスは瞬時にその計算をやったのだから、明らかにシンディよりも新型であることが露呈された。
そしてその大喝采の中、1台の覆面パトカーがサーカスの前に着いた。
そこから降りて来たのは、鷲田警視と村中課長。
鷲田:「先日はどうも失礼!」
団長:「また、刑事さん達ですかい?今度は何の御用で?」
村中:「我々に、あのアレックスとやらを引き渡して頂きに参りましたよ」
団長:「ほお?ということは、令状はお持ちなんでありましょうなぁ?」
鷲田:「……これだ」
鷲田が出したのは捜査令状ではなく、捜査協力依頼書。
これは捜査官の所属する警察署の署長が発行する書類なのだが、タイトルを見て分かるように、あくまで対象者に依頼することを書いた内容である。
捜査に関わる全責任はその警察署長が負うから、どうか協力してもらいたいという旨のことが書いてある。
つまり、だ。
団長:「これは何の法的拘束力も無い依頼書ですな。ということは、ただの紙切れ同然。お帰り頂きやしょう」
鷲田:「どうしても協力してはもらえないのかね?」
団長:「こちとら全国公演が掛かってるんです。うちのアレックスが何をしたのかは知らないが、アレックスをしょっ引きたいのであれば、それなりの証拠をここへ持って来て御覧なさいと言ってるんです。何も変なことは言ってないと思いますがね?」
村中:「彼はアメリカで大規模テロを起こしたロボット姉弟の弟の方なんだ。それが日本でも悪さしたと来る。だがしかし、どういうわけだか姿形が変わってしまっている。彼が犯人なのかどうか、それを調べさせて頂きたいんですよ」
団長:「そんなことはこちらの知ったことじゃありませんな。今時、こんな紙切れでホイホイ物事が上手く進むと思ったら大間違いですぜ?だいいち、そんなことをいちいち気にしてたら、この21世紀の世の中に生きられるかってなもんです」
鷲田:「ヤツが突然暴れ出して、大勢の人が死ぬかもしれんのだぞ!?そんな時、あんたは責任を取れるのか!?」
団長:「だから刑事さん、ヤツがそうなる証拠を持って来てくださいって言ってるんですよ。見た目に爆弾でしたら、そりゃもう爆弾は爆発するのが商売ですから、とっとと持って行ってもらいたいものですがね、ヤツは人間型のロボットです。そいつが……」
鷲田:「ええーい、お前さんの商売根性に付き合うつもりはない!」
鷲田達と団長が押し問答をしている時だった。
裏手の会場からどよめきとブーイングが起きた。
団長:「あっ、何だ!?」
スタッフ:「団長、大変です!マーガレットさんがブランコから転落しました!」
団長:「はあ!?何やってんだ、あのバカ!!刑事さん、こっちは忙しいんでね、これで失礼しますよ!ヒマならあっちの道路でスピード違反の取り締まりでもしてくんな!」
鷲田:「あっ、待てっ!」
[同日18:00.天候:曇 東京・お台場]
敷島達はサーカスの後で、お台場のとある施設に寄り、そこで夕食を取っていた。
敷島:「最後の最後で、ベテラン団員の思わぬミスか。とんでもない話だ」
アリス:「私の見立てじゃ、整備不良だね。メンテする暇も無いほど忙しいのか、あるいは……」
敷島:「メンテ費用をケチったな、こりゃ。うちの事務所じゃ有り得ない」
アリス:「まあ、それまでにも色々と失敗してたからねぇ……」
敷島:「悪かったな。おかげで、今じゃDCJさんともメンテナンスの契約も結んで、うちのボカロ達も定期的にメンテを受けられるようになった。ところで、シンディのオーバーホールはどうする?そろそろだろう?」
アリス:「あれ?来年やるんじゃないの?」
敷島:「うーん……何か最近、シンディも調子が悪いような所があったような気がする。年内の方がいいかもしれないぞ」
アリス:「ふーん……?まあ、タカオがそうしたいって言うならそうするけど……」
敷島:「頼むよ」
[同日18:30.天候:雨 東京・お台場 ロボット大サーカス会場]
アレックスが大喝采を浴びた理由は他にもあって、超小型ジェットエンジンで空が飛べるという機能が分かったからだった。
一瞬だけだが、空を飛んだ。
アレックスが練習代わりにジェットエンジンで飛びながら、会場のバックヤードに着陸する。
この雨では撤収作業は明日になるだろう。
アレックス:「マーガレットさん?……マーガレットさん、どこだい?」
アレックスはマーガレットが控えているハウスに入ったが、そこはもぬけの殻だった。
アレックス:「マーガレットさん!?」
アレックスが探し回っていると、ライオンロボットが前足でチョイチョイとある場所を指さした。
アレックス:「んっ?」
そこは団長専用のハウス。
普段は立ち入り禁止とされているが……。
アレックスはそのドアをこじ開けた。
マルチタイプの力に、ドアが蝶番ごと外れる。
団長:「お前、いつ帰った!?」
アレックス:「!!!」
アレックスの目に飛び込んできた光景は、彼を愕然とさせた。
台の上に、バラバラに解体されたマーガレットの残骸があったのだ。
団長:「コラ!ここには入るなと言ったはずだ!」
しかしアレックスは団長の叱責など、耳に入らない。
マーガレットの右腕だった部分を手に取ると、ガクガクと震えた。
アレックス:「団長……これは一体、どういうこと……!」
団長:「得意のはずの空中ブランコに失敗しやがったんで、お前より先にオランウータンにでも改造してやろうと思ったんだ」
アレックス:「どうして……こんな……ひどい……!!」
団長:「ひどい?ロボットの分際で思い上がるな!せっかくお前が上手く行ったというのに、こいつのせいでショーはメチャクチャだ!ええ?どれだけ客からクレームが来たと思ってるんだ!?」
アレックス:「く……!うききき……!!」
アレックスは振り向いて団長を睨みつけた。
その両目は赤い光がギラッと光っていた。
『Alex(Rudy) is limit break.』
敷島:「マジか!?」
アリス:「やはり、あいつは間違い無くマルチタイプ!」
シンディ:「……!!」
会場内に大喝采が響く。
ルディと思われる、今はアレックスを名乗るロイド団員が電磁輪潜りをやってのけたのだった。
シンディでさえ、タイミングを計るのに多少のブランクを必要とするくらいの緻密な動きを要求されるものだ。
アレックスは瞬時にその計算をやったのだから、明らかにシンディよりも新型であることが露呈された。
そしてその大喝采の中、1台の覆面パトカーがサーカスの前に着いた。
そこから降りて来たのは、鷲田警視と村中課長。
鷲田:「先日はどうも失礼!」
団長:「また、刑事さん達ですかい?今度は何の御用で?」
村中:「我々に、あのアレックスとやらを引き渡して頂きに参りましたよ」
団長:「ほお?ということは、令状はお持ちなんでありましょうなぁ?」
鷲田:「……これだ」
鷲田が出したのは捜査令状ではなく、捜査協力依頼書。
これは捜査官の所属する警察署の署長が発行する書類なのだが、タイトルを見て分かるように、あくまで対象者に依頼することを書いた内容である。
捜査に関わる全責任はその警察署長が負うから、どうか協力してもらいたいという旨のことが書いてある。
つまり、だ。
団長:「これは何の法的拘束力も無い依頼書ですな。ということは、ただの紙切れ同然。お帰り頂きやしょう」
鷲田:「どうしても協力してはもらえないのかね?」
団長:「こちとら全国公演が掛かってるんです。うちのアレックスが何をしたのかは知らないが、アレックスをしょっ引きたいのであれば、それなりの証拠をここへ持って来て御覧なさいと言ってるんです。何も変なことは言ってないと思いますがね?」
村中:「彼はアメリカで大規模テロを起こしたロボット姉弟の弟の方なんだ。それが日本でも悪さしたと来る。だがしかし、どういうわけだか姿形が変わってしまっている。彼が犯人なのかどうか、それを調べさせて頂きたいんですよ」
団長:「そんなことはこちらの知ったことじゃありませんな。今時、こんな紙切れでホイホイ物事が上手く進むと思ったら大間違いですぜ?だいいち、そんなことをいちいち気にしてたら、この21世紀の世の中に生きられるかってなもんです」
鷲田:「ヤツが突然暴れ出して、大勢の人が死ぬかもしれんのだぞ!?そんな時、あんたは責任を取れるのか!?」
団長:「だから刑事さん、ヤツがそうなる証拠を持って来てくださいって言ってるんですよ。見た目に爆弾でしたら、そりゃもう爆弾は爆発するのが商売ですから、とっとと持って行ってもらいたいものですがね、ヤツは人間型のロボットです。そいつが……」
鷲田:「ええーい、お前さんの商売根性に付き合うつもりはない!」
鷲田達と団長が押し問答をしている時だった。
裏手の会場からどよめきとブーイングが起きた。
団長:「あっ、何だ!?」
スタッフ:「団長、大変です!マーガレットさんがブランコから転落しました!」
団長:「はあ!?何やってんだ、あのバカ!!刑事さん、こっちは忙しいんでね、これで失礼しますよ!ヒマならあっちの道路でスピード違反の取り締まりでもしてくんな!」
鷲田:「あっ、待てっ!」
[同日18:00.天候:曇 東京・お台場]
敷島達はサーカスの後で、お台場のとある施設に寄り、そこで夕食を取っていた。
敷島:「最後の最後で、ベテラン団員の思わぬミスか。とんでもない話だ」
アリス:「私の見立てじゃ、整備不良だね。メンテする暇も無いほど忙しいのか、あるいは……」
敷島:「メンテ費用をケチったな、こりゃ。うちの事務所じゃ有り得ない」
アリス:「まあ、それまでにも色々と失敗してたからねぇ……」
敷島:「悪かったな。おかげで、今じゃDCJさんともメンテナンスの契約も結んで、うちのボカロ達も定期的にメンテを受けられるようになった。ところで、シンディのオーバーホールはどうする?そろそろだろう?」
アリス:「あれ?来年やるんじゃないの?」
敷島:「うーん……何か最近、シンディも調子が悪いような所があったような気がする。年内の方がいいかもしれないぞ」
アリス:「ふーん……?まあ、タカオがそうしたいって言うならそうするけど……」
敷島:「頼むよ」
[同日18:30.天候:雨 東京・お台場 ロボット大サーカス会場]
アレックスが大喝采を浴びた理由は他にもあって、超小型ジェットエンジンで空が飛べるという機能が分かったからだった。
一瞬だけだが、空を飛んだ。
アレックスが練習代わりにジェットエンジンで飛びながら、会場のバックヤードに着陸する。
この雨では撤収作業は明日になるだろう。
アレックス:「マーガレットさん?……マーガレットさん、どこだい?」
アレックスはマーガレットが控えているハウスに入ったが、そこはもぬけの殻だった。
アレックス:「マーガレットさん!?」
アレックスが探し回っていると、ライオンロボットが前足でチョイチョイとある場所を指さした。
アレックス:「んっ?」
そこは団長専用のハウス。
普段は立ち入り禁止とされているが……。
アレックスはそのドアをこじ開けた。
マルチタイプの力に、ドアが蝶番ごと外れる。
団長:「お前、いつ帰った!?」
アレックス:「!!!」
アレックスの目に飛び込んできた光景は、彼を愕然とさせた。
台の上に、バラバラに解体されたマーガレットの残骸があったのだ。
団長:「コラ!ここには入るなと言ったはずだ!」
しかしアレックスは団長の叱責など、耳に入らない。
マーガレットの右腕だった部分を手に取ると、ガクガクと震えた。
アレックス:「団長……これは一体、どういうこと……!」
団長:「得意のはずの空中ブランコに失敗しやがったんで、お前より先にオランウータンにでも改造してやろうと思ったんだ」
アレックス:「どうして……こんな……ひどい……!!」
団長:「ひどい?ロボットの分際で思い上がるな!せっかくお前が上手く行ったというのに、こいつのせいでショーはメチャクチャだ!ええ?どれだけ客からクレームが来たと思ってるんだ!?」
アレックス:「く……!うききき……!!」
アレックスは振り向いて団長を睨みつけた。
その両目は赤い光がギラッと光っていた。
『Alex(Rudy) is limit break.』