[12月8日11:00.天候:晴 東京都内臨海副都心(お台場) ロボット大サーカス・バックヤード]
団長:「さっきも、うちのアレックスを見せてくれって来た人達がいたんです。ヤツぁ、そんなに魅力的なんですかい?まだ、ピエロと簡単な綱渡りくらいしかできない新米ですぜ?」
敷島:「やっぱりピエロの寸劇に惚れたファンの人達ですか?」
団長:「いや……そういうわけじゃねぇんですが……。ん?敷島社長は、ヤツのピエロを気に入ってくれたんですかい?」
敷島:「そりゃもう!うちのボカロのライブで、間奏の部分とかサーカスの技を披露したらウケるんじゃないかと思いましてね!」
団長:「そういうもんですかい?」
敷島:「ジャニーズ……それも関ジャニを見て御覧なさい。彼らは皆イケメン揃いなだけで、あんな人気があるわけじゃないんです。元が関西人なだけに、ギャグもできるからウケるんですよ。今のアイドルは、ただ単に歌って踊れればそれでいいっていう時代ではないんですね。特にボカロは人間じゃないから、逆に人間のアイドルにはできない何かをやってもらおうと思っていたところです」
団長:「それで、うちのロボットサーカスの出し物を参考にねぇ……。それはいいんですが、丸パクリは勘弁ですぜ?もしパクられるおつもりなら、ライセンス契約を結んで頂きやしょう」
敷島:「もちろんですよ。……で、当の本人は?さぞかし、性能の良いロイドなんでしょうなぁ?」
団長:「そうですか。社長さんから見て、性能が良いロボットに見えますか」
と、そこへドアがノックされた。
アレックス:「失礼します」
団長:「おう。またオメェにお客さんだぜ。ボーカロイド芸能事務所の社長さんだ」
敷島:「敷島孝夫です。よろしく」
アレックス:「アレックスと申します。何のご用ですか?」
敷島:「いやあ、キミのピエロの演技を見ていたんだけど、実に素晴らしい。実は今度うちのボカロのライブで、サーカスの演技をモチーフにしたものをやろうと思ってるんだけど……」
敷島はチラッとシンディに目配せした。
シンディは小さく頷いて、アレックスをスキャンする。
シンディ:(適合率……38.07%!……え?なに、この中途半端な数字……?)
[同日12:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]
鷲田:「適合率が4割にも満たないということは、どういうことだ!?」
シンディ:「私にも分かりません」
敷島:「恐らく、あのアレックスはルディで4割弱当たっているということですよ」
鷲田:「だから!残りの6割はどこに行ったんだ!?このままでは証拠不十分で確保できんぞ!?」
敷島:「ジャニスはフィリピンのマフィアに壊されました。当然、ルディも壊そうとするでしょう。逮捕されたマフィアの構成員は、ルディについて何と言ってました?」
村中:「あと一歩の所まで追い詰めたんだが、寸での所で見失ったそうだ」
敷島:「ということは、ルディもマフィアから振り切った時は半死半生状態だったというわけですね。恐らく原型が崩れるくらいにまで壊されていたんでしょう。ハード面はそれくらい、そしてソフト面はそれまでのデータやメモリーが全て消し飛ぶくらいの……」
鷲田:「その時、あの団長に拾われて修理されたってわけか!?」
村中:「原型が無くなっているくらいまで壊れていたのなら、確かに考えられますなぁ。何しろ、あの団長はルディの原型なんて知らないでしょうからなぁ……」
敷島:「どうします?たった適合率38%程度で、アレックスをルディ本人だと断定して確保しますか?」
鷲田:「そうだな、確保しよう」
村中:「しかし警視、あの団長のことですから、きっと出頭要請には応じませんよ。『アレックスが欲しかったら、令状を持ってきて御覧なさい』とか絶対言いそうです」
鷲田:「くっ……!」
敷島:「そのアレックスが、ルディだった頃のメモリーやデータが復元されて、また暴れ出したら一発でタイーホできるんですがね。今のところ、新入りサーカス団員として頑張っているみたいですから、いいんじゃないですか?」
村中:「敷島社長……!?」
敷島:「6割も壊れたんだから、今のアレックスはルディの残骸……部品を流用した別のロイドってことでしょう」
鷲田:「これだからロボットは面倒臭いんだ!人間だったら体の6割がブッ壊れても、生きてりゃ容疑者として逮捕できるというのに!」
敷島:「体の6割をケガしたら……まあ、意外と生きてるか。失礼」
鷲田:「まあ、しぶとい奴はしぶといからな。あなたみたいに」
敷島:「そりゃどうも」
[同日21:00.天候:晴 ロボット大サーカス・バックヤード]
アレックスはマーガレットとマンツーマンで、空中ブランコと電磁輪潜りの練習をしていた。
電磁輪潜りとは、火の輪潜りの火の輪を電磁気の輪にしたものである。
今は練習用に、ハムスターの回し車のようなものを使用している。
空中ブランコの位置も低い所にあり、そこから回し車の格子の間に飛び込んで中で一回転し、また回し車の外に出て、反対側のブランコに乗り移るというものであった。
本番はこの回し車の格子部分が、高圧電流となる。
アレックス:「わあっ!?止めて止めてーっ!」
アレックスは失敗し、格子の間に挟まってしまった。
マーガレットはすぐに回し車の回転を止める。
マーガレット:「もっとタイミングよく見て飛ばなきゃダメよ。それじゃ、もう一回」
アレックス:「はい!」
アレックスはもう1度スタート地点である空中ブランコに乗った。
アレックス:「っえーい!」
と、また引っ掛かってしまった。
しかもその弾みで回し車が支柱から外れ、ゴロゴロと転がってしまう。
団長:「おう、どうだ?ちゃんとやってる……かぁーっ!?」
回し車は団長の1歩手前で止まった。
びっくりして腰を抜かす団長。
マーガレット:「あら、団長?!」
団長:「キサマら、俺を殺す気か!」
アレックス:「団長、申し訳ありません!」
団長:「まだ上手くできてないのか!ええっ!?千秋楽までもう残り3日しか無いんだぞ!このザマでできるのか!?」
マーガレット:「あと3日でできるようにしますから!」
団長:「オマエらはブッ壊れりゃそれで済むけどな、俺はこの興行が失敗したら破産しちまうんだぞ!」
マーガレット:「大丈夫ですって!あとは任せてください!」
団長:「この野郎!また何かヘマしたら、今度こそオランウータンだっ!」
マーガレットは何とか団長を練習場から追い出した。
マーガレット:「ふう……」
アレックス:「マーガレットさん、迷惑掛けてすいません」
マーガレット:「いいのよ。今日の練習はこのくらいにしておきましょうか」
アレックス:「えっ、もう?まだ練習の時間ありますよ?」
マーガレット:「いいのよ。私も疲れたわ。早いとこ、充電しましょう。……って、あなたはバッテリー駆動じゃないのよね?」
アレックス:「はい。僕は燃料電池……水素電池です」
マーガレット:「型式はとても最新のものだわ」
アレックスは控室の台の上に横になった。
その横にマーガレットが座って、アレックスの瞼を閉じさせる。
その瞼の上から優しく撫でた。
アレックス:「いい気持ちだ。何かずっと前にも、誰かにこうやってもらったような気がする……」
マーガレット:「最新型の水素電池駆動といい、あなたは恐らく、つい最近造られたばかりのコだと思うわ。どうしてフィリピンで壊れてたの?」
アレックス:「分からない。何も思い出せないんだ。でも……ボクには、こうして優しいお姉さんがいたような気がするんだ……」
マーガレット:「それはあなたのマスター?それとも姉妹機?」
アレックス:「分からない。……ねぇ、どうしてマーガレットさんはこんなに優しくしてくれるの?」
マーガレット:「私にもさ、昔は弟がいたんだ。あなたとは顔は似てないけど、何だか他人とは思えなくてね」
アレックス:「弟さん、どうしたの?」
マーガレット:「壊れちゃったよ。壊れて、そのまま捨てられた。私は修理が効いたから、こうしてまだ動かしてもらってるけどね」
アレックス:「何だかヒドいや」
マーガレット:「しょうがないよ。それがロボットの宿命なの。だから、千秋楽は頑張りましょう。上手くできたら、もっと動かしてもらえる」
アレックス:「うん、ボク頑張るよ」
サーカスの夜は更ける。
団長:「さっきも、うちのアレックスを見せてくれって来た人達がいたんです。ヤツぁ、そんなに魅力的なんですかい?まだ、ピエロと簡単な綱渡りくらいしかできない新米ですぜ?」
敷島:「やっぱりピエロの寸劇に惚れたファンの人達ですか?」
団長:「いや……そういうわけじゃねぇんですが……。ん?敷島社長は、ヤツのピエロを気に入ってくれたんですかい?」
敷島:「そりゃもう!うちのボカロのライブで、間奏の部分とかサーカスの技を披露したらウケるんじゃないかと思いましてね!」
団長:「そういうもんですかい?」
敷島:「ジャニーズ……それも関ジャニを見て御覧なさい。彼らは皆イケメン揃いなだけで、あんな人気があるわけじゃないんです。元が関西人なだけに、ギャグもできるからウケるんですよ。今のアイドルは、ただ単に歌って踊れればそれでいいっていう時代ではないんですね。特にボカロは人間じゃないから、逆に人間のアイドルにはできない何かをやってもらおうと思っていたところです」
団長:「それで、うちのロボットサーカスの出し物を参考にねぇ……。それはいいんですが、丸パクリは勘弁ですぜ?もしパクられるおつもりなら、ライセンス契約を結んで頂きやしょう」
敷島:「もちろんですよ。……で、当の本人は?さぞかし、性能の良いロイドなんでしょうなぁ?」
団長:「そうですか。社長さんから見て、性能が良いロボットに見えますか」
と、そこへドアがノックされた。
アレックス:「失礼します」
団長:「おう。またオメェにお客さんだぜ。ボーカロイド芸能事務所の社長さんだ」
敷島:「敷島孝夫です。よろしく」
アレックス:「アレックスと申します。何のご用ですか?」
敷島:「いやあ、キミのピエロの演技を見ていたんだけど、実に素晴らしい。実は今度うちのボカロのライブで、サーカスの演技をモチーフにしたものをやろうと思ってるんだけど……」
敷島はチラッとシンディに目配せした。
シンディは小さく頷いて、アレックスをスキャンする。
シンディ:(適合率……38.07%!……え?なに、この中途半端な数字……?)
[同日12:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]
鷲田:「適合率が4割にも満たないということは、どういうことだ!?」
シンディ:「私にも分かりません」
敷島:「恐らく、あのアレックスはルディで4割弱当たっているということですよ」
鷲田:「だから!残りの6割はどこに行ったんだ!?このままでは証拠不十分で確保できんぞ!?」
敷島:「ジャニスはフィリピンのマフィアに壊されました。当然、ルディも壊そうとするでしょう。逮捕されたマフィアの構成員は、ルディについて何と言ってました?」
村中:「あと一歩の所まで追い詰めたんだが、寸での所で見失ったそうだ」
敷島:「ということは、ルディもマフィアから振り切った時は半死半生状態だったというわけですね。恐らく原型が崩れるくらいにまで壊されていたんでしょう。ハード面はそれくらい、そしてソフト面はそれまでのデータやメモリーが全て消し飛ぶくらいの……」
鷲田:「その時、あの団長に拾われて修理されたってわけか!?」
村中:「原型が無くなっているくらいまで壊れていたのなら、確かに考えられますなぁ。何しろ、あの団長はルディの原型なんて知らないでしょうからなぁ……」
敷島:「どうします?たった適合率38%程度で、アレックスをルディ本人だと断定して確保しますか?」
鷲田:「そうだな、確保しよう」
村中:「しかし警視、あの団長のことですから、きっと出頭要請には応じませんよ。『アレックスが欲しかったら、令状を持ってきて御覧なさい』とか絶対言いそうです」
鷲田:「くっ……!」
敷島:「そのアレックスが、ルディだった頃のメモリーやデータが復元されて、また暴れ出したら一発でタイーホできるんですがね。今のところ、新入りサーカス団員として頑張っているみたいですから、いいんじゃないですか?」
村中:「敷島社長……!?」
敷島:「6割も壊れたんだから、今のアレックスはルディの残骸……部品を流用した別のロイドってことでしょう」
鷲田:「これだからロボットは面倒臭いんだ!人間だったら体の6割がブッ壊れても、生きてりゃ容疑者として逮捕できるというのに!」
敷島:「体の6割をケガしたら……まあ、意外と生きてるか。失礼」
鷲田:「まあ、しぶとい奴はしぶといからな。あなたみたいに」
敷島:「そりゃどうも」
[同日21:00.天候:晴 ロボット大サーカス・バックヤード]
アレックスはマーガレットとマンツーマンで、空中ブランコと電磁輪潜りの練習をしていた。
電磁輪潜りとは、火の輪潜りの火の輪を電磁気の輪にしたものである。
今は練習用に、ハムスターの回し車のようなものを使用している。
空中ブランコの位置も低い所にあり、そこから回し車の格子の間に飛び込んで中で一回転し、また回し車の外に出て、反対側のブランコに乗り移るというものであった。
本番はこの回し車の格子部分が、高圧電流となる。
アレックス:「わあっ!?止めて止めてーっ!」
アレックスは失敗し、格子の間に挟まってしまった。
マーガレットはすぐに回し車の回転を止める。
マーガレット:「もっとタイミングよく見て飛ばなきゃダメよ。それじゃ、もう一回」
アレックス:「はい!」
アレックスはもう1度スタート地点である空中ブランコに乗った。
アレックス:「っえーい!」
と、また引っ掛かってしまった。
しかもその弾みで回し車が支柱から外れ、ゴロゴロと転がってしまう。
団長:「おう、どうだ?ちゃんとやってる……かぁーっ!?」
回し車は団長の1歩手前で止まった。
びっくりして腰を抜かす団長。
マーガレット:「あら、団長?!」
団長:「キサマら、俺を殺す気か!」
アレックス:「団長、申し訳ありません!」
団長:「まだ上手くできてないのか!ええっ!?千秋楽までもう残り3日しか無いんだぞ!このザマでできるのか!?」
マーガレット:「あと3日でできるようにしますから!」
団長:「オマエらはブッ壊れりゃそれで済むけどな、俺はこの興行が失敗したら破産しちまうんだぞ!」
マーガレット:「大丈夫ですって!あとは任せてください!」
団長:「この野郎!また何かヘマしたら、今度こそオランウータンだっ!」
マーガレットは何とか団長を練習場から追い出した。
マーガレット:「ふう……」
アレックス:「マーガレットさん、迷惑掛けてすいません」
マーガレット:「いいのよ。今日の練習はこのくらいにしておきましょうか」
アレックス:「えっ、もう?まだ練習の時間ありますよ?」
マーガレット:「いいのよ。私も疲れたわ。早いとこ、充電しましょう。……って、あなたはバッテリー駆動じゃないのよね?」
アレックス:「はい。僕は燃料電池……水素電池です」
マーガレット:「型式はとても最新のものだわ」
アレックスは控室の台の上に横になった。
その横にマーガレットが座って、アレックスの瞼を閉じさせる。
その瞼の上から優しく撫でた。
アレックス:「いい気持ちだ。何かずっと前にも、誰かにこうやってもらったような気がする……」
マーガレット:「最新型の水素電池駆動といい、あなたは恐らく、つい最近造られたばかりのコだと思うわ。どうしてフィリピンで壊れてたの?」
アレックス:「分からない。何も思い出せないんだ。でも……ボクには、こうして優しいお姉さんがいたような気がするんだ……」
マーガレット:「それはあなたのマスター?それとも姉妹機?」
アレックス:「分からない。……ねぇ、どうしてマーガレットさんはこんなに優しくしてくれるの?」
マーガレット:「私にもさ、昔は弟がいたんだ。あなたとは顔は似てないけど、何だか他人とは思えなくてね」
アレックス:「弟さん、どうしたの?」
マーガレット:「壊れちゃったよ。壊れて、そのまま捨てられた。私は修理が効いたから、こうしてまだ動かしてもらってるけどね」
アレックス:「何だかヒドいや」
マーガレット:「しょうがないよ。それがロボットの宿命なの。だから、千秋楽は頑張りましょう。上手くできたら、もっと動かしてもらえる」
アレックス:「うん、ボク頑張るよ」
サーカスの夜は更ける。