[12月13日16:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
アリス:「取りあえず、17日の土曜日にはシンディを起動させるわ。あなたも立ち会ってね」
敷島:「ああ、分かった」
アリス:「エミリーは上手くやってくれるんだろうけど、相変わらずアタシからのアクセスが拒否されるの。ねぇ、何とか言ってくれる?」
敷島:「心配無いよ。俺は仕事が終わったら、ちゃんと真っ直ぐ帰ってる。エミリーだって、俺の監視状況をメモリーに保存してるんだから、もし俺が変な動きをしたらすぐにバレるさ」
敷島は事務所の中で、アリスからの電話を受けていた。
敷島:「なあ、アリス」
アリス:「なに?」
敷島:「ウィリーは何か言ってなかったか?マルチタイプのことについて……」
アリス:「シンディのことについて?」
敷島:「あ、いや、シンディだけじゃなくて、マルチタイプ全体のことについてだ」
アリス:「……何かあった?」
敷島:「いや、ふと疑問に思っただけさ」
敷島はチラッと社長室内に控えるエミリーを見た。
エミリーはいつもの無表情で敷島を見ているだけだった。
敷島:「や、やっぱり、アレだよな。マルチタイプみたいなものを一番最初に造るに当たって、やっぱり試作機とか製造しただろうな?やっぱ……」
アリス:「あー、そうかもね。でもどうせ、とっくに処分されて無くなってるでしょ?」
敷島:「どうしてそう言える?」
アリス:「どうしてって……。量産機ですら半分以上が処分されたわけでしょ?ましてや、試作機なんて……」
敷島:「俺は、その試作機が今でもどこかに保管されていて、誰かに再起動されるのを待っているんだと思っているよ」
アリス:「……ねぇ、どうしたの、急に?何か情報でも入ったの?」
敷島:「……なんて、ドラマの見過ぎかな。いや、悪い。ここ最近、うちのボカロ達がドラマや映画に出るようになったからさ」
アリス:「ボーカロイドは歌を歌わせるのが使命なんだから、そういうのじゃなく、もっと歌を歌わせなさい」
敷島:「もちろん、歌の仕事はちゃんと取ってるさ。うちの事務所も更にボカロを増員する予定だし、新曲だって音楽プロデューサーが続々と作って持って来てくれている。何も心配無いよ。……ああ、それじゃ」
敷島は電話を切った。
エミリー:「アリス博士は何も知らないと思いますわ。可哀想な人。ドクター・ウィリーに利用されるだけ利用されて、肝心なことは何も聞かされていない」
無表情だったエミリーが冷たい笑みを浮かべて言った。
敷島:「ウィリーとはそういうヤツだったんだ。しょうがない」
エミリー:「そして、社長も南里博士からは聞かされていなかったのですね」
敷島:「どこかで産業スパイやってたの、バレたかな?」
エミリー:「そもそも、そこまで信頼されなかっただけだと思いますわ」
敷島:「ちっ……」
エミリー:「それで、分かりましたか?私が話した秘密の真相……」
敷島:「さっぱり分からん。いいよ、もう。俺からアンドロイドマスターの称号を剥奪してくれても」
エミリー:「そうはいきませんわ。あなたは私やシンディが見込んだ御方です。そう簡単に諦めて頂いては困ります」
敷島:「そんなこと言ったって、じゃあシンディに聞いたって分からんってオチだろう?」
エミリー:「そこはシンディも量産型ですから」
と、そこへ社長室のドアがノックされた。
エミリーがドアの所に行って開けた。
初音ミク:「失礼します」
エミリー:「何の・用だ?社長は今・お忙しい」
エミリーはいつもの口調に戻った。
敷島にはこのロボット喋りがダミーで、さっきまで見せいていた喋り方が実はエミリーの本性ではないかと思うようになってきた。
だいいち、シンディを含め、他の復元されたことのあるマルチタイプを見ても、ちゃんと滑らかな口調なのに、エミリーだけロボット喋りというのもおかしかったのだ。
古い音声ソフトを使っているから、というのは当てはまらなかったのだ。
ミク:「ご、ごめんなさい。また後で……」
敷島:「いいよ!エミリー、入れてやってくれ」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは半分だけ開けていたドアを大きく開けた。
ミクがトコトコと入って来る。
それまで眉を潜めていた敷島だったが、ミクが近づく度に柔和な顔付きになった。
ミク:「社長、お忙しいところ、ごめんなさい」
敷島:「いいよ。で、どうした?」
ミク:「わたしのオーバーホールの事なんですが……」
敷島:「ミクもそろそろだったな。お正月新春特番の生番組に間に合うようにしないといけないか。……明日、時間空いてるのか」
ミク:「はい。急な話ですけど、いいですか?」
敷島:「いいよ。後でDCJさんに連絡しておこう。科学館さんも喜ぶよ」
ミク:「はい」
敷島:「来年からはまたお前の後輩も増える。頑張ろうな」
ミク:「はい!……あの……」
敷島:「ん、何だ?まだ何かあるのか?」
ミク:「は、はい。あの……」
ミクはエミリーの方を見た。
敷島:「エミリーがいない方がいいのか?」
エミリー:「……?」
エミリーは眉を潜めた。
敷島:「まあいい。エミリー、ちょっと席を外してくれないか?」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは素直に社長室を出た。
敷島:「まあ、座って話そう」
敷島は室内にある応接セットを勧めた。
敷島とミクが向かい合って座る。
ミク:「何だか夢みたいです。わたしと社長が出会ってから、もう何年もの月日が経ちました」
敷島:「そうだな。時間が経つのは早いものだ」
敷島は机の上に置かれていた写真立てを持って来た。
南里研究所時代に撮影した集合写真。
敷島の隣にミクが写っていた。
撮影したのは平賀だから、この中に平賀は写っていない。
エミリーは南里の隣に立って、無表情である。
満面の笑みを浮かべている南里やボカロ達と比べると浮いている。
そこで敷島はハッと気づいた。
敷島:「俺は最初、ミクがボーカロイドだと知らなかった。一体、何ができるロボットなんだろうって思った」
ミク:「わたしも実は、自分が何ができるのか分かりませんでした。だけど、たかお……社長が流してくれた音楽を聴いて、それを歌いたいと思ったんです」
敷島:「そうか。最初はお前だけだったもんな。それがいつしかリンとレンが加わって、ルカが加わって……」
そこでまた敷島、気づいたことがあった。
敷島:「KAITOとMEIKOは最初、ウィリーに捕まってたんだっけ。それを俺達で救出した……」
ミク:「はい。あの時のたかおさん、かっこ良かったです」
敷島:「いや、俺は良かれと思ったことをエミリーに言っただけに過ぎない。実際に救助したのはエミリーと、サポートに当たった平賀先生だよ」
ミク:「ルカを助けたたかおさんもかっこ良かったです」
敷島:「ウィルスが原因じゃないかって直感が働いて、所長に進言しだけたのことさ。それがたまたま当たっただけのことさ」
ミク:「いいえ。わたし、たかおさんは立派なアンドロイドマスターだと思っています」
敷島:「ミク?お前、どうしてその言葉を……?」
ミク:「分かりません。何故だか、最初からわたしのデータに入っていたんですよ」
敷島:(これもエミリーが言ってたヤツか……)
そこへエミリーが入って来た。
エミリー:「もう・よろしい・ですか?」
敷島:「ああ」
ミク:「あっ、ごめんなさい!」
ミクはバッと立ち上がった。
敷島:「たまには昔懐かしの話でもしたいものだよ。エミリー、お前も良かったら昔の話でもしようや?」
エミリー:「後で・お付き合い・します」
ミク:「失礼しました」
ミクは社長室を出て行った。
敷島:「ミクもアンドロイドマスターという言葉を知っていた。そして、俺をそうだと認めると……」
エミリー:「ボーロカイドのほぼ全員が、あなたをそうだと認めています」
敷島:「もう1度、アリスに聞いてみる」
敷島は自分のスマホを手に取った。
アリス:「取りあえず、17日の土曜日にはシンディを起動させるわ。あなたも立ち会ってね」
敷島:「ああ、分かった」
アリス:「エミリーは上手くやってくれるんだろうけど、相変わらずアタシからのアクセスが拒否されるの。ねぇ、何とか言ってくれる?」
敷島:「心配無いよ。俺は仕事が終わったら、ちゃんと真っ直ぐ帰ってる。エミリーだって、俺の監視状況をメモリーに保存してるんだから、もし俺が変な動きをしたらすぐにバレるさ」
敷島は事務所の中で、アリスからの電話を受けていた。
敷島:「なあ、アリス」
アリス:「なに?」
敷島:「ウィリーは何か言ってなかったか?マルチタイプのことについて……」
アリス:「シンディのことについて?」
敷島:「あ、いや、シンディだけじゃなくて、マルチタイプ全体のことについてだ」
アリス:「……何かあった?」
敷島:「いや、ふと疑問に思っただけさ」
敷島はチラッと社長室内に控えるエミリーを見た。
エミリーはいつもの無表情で敷島を見ているだけだった。
敷島:「や、やっぱり、アレだよな。マルチタイプみたいなものを一番最初に造るに当たって、やっぱり試作機とか製造しただろうな?やっぱ……」
アリス:「あー、そうかもね。でもどうせ、とっくに処分されて無くなってるでしょ?」
敷島:「どうしてそう言える?」
アリス:「どうしてって……。量産機ですら半分以上が処分されたわけでしょ?ましてや、試作機なんて……」
敷島:「俺は、その試作機が今でもどこかに保管されていて、誰かに再起動されるのを待っているんだと思っているよ」
アリス:「……ねぇ、どうしたの、急に?何か情報でも入ったの?」
敷島:「……なんて、ドラマの見過ぎかな。いや、悪い。ここ最近、うちのボカロ達がドラマや映画に出るようになったからさ」
アリス:「ボーカロイドは歌を歌わせるのが使命なんだから、そういうのじゃなく、もっと歌を歌わせなさい」
敷島:「もちろん、歌の仕事はちゃんと取ってるさ。うちの事務所も更にボカロを増員する予定だし、新曲だって音楽プロデューサーが続々と作って持って来てくれている。何も心配無いよ。……ああ、それじゃ」
敷島は電話を切った。
エミリー:「アリス博士は何も知らないと思いますわ。可哀想な人。ドクター・ウィリーに利用されるだけ利用されて、肝心なことは何も聞かされていない」
無表情だったエミリーが冷たい笑みを浮かべて言った。
敷島:「ウィリーとはそういうヤツだったんだ。しょうがない」
エミリー:「そして、社長も南里博士からは聞かされていなかったのですね」
敷島:「どこかで産業スパイやってたの、バレたかな?」
エミリー:「そもそも、そこまで信頼されなかっただけだと思いますわ」
敷島:「ちっ……」
エミリー:「それで、分かりましたか?私が話した秘密の真相……」
敷島:「さっぱり分からん。いいよ、もう。俺からアンドロイドマスターの称号を剥奪してくれても」
エミリー:「そうはいきませんわ。あなたは私やシンディが見込んだ御方です。そう簡単に諦めて頂いては困ります」
敷島:「そんなこと言ったって、じゃあシンディに聞いたって分からんってオチだろう?」
エミリー:「そこはシンディも量産型ですから」
と、そこへ社長室のドアがノックされた。
エミリーがドアの所に行って開けた。
初音ミク:「失礼します」
エミリー:「何の・用だ?社長は今・お忙しい」
エミリーはいつもの口調に戻った。
敷島にはこのロボット喋りがダミーで、さっきまで見せいていた喋り方が実はエミリーの本性ではないかと思うようになってきた。
だいいち、シンディを含め、他の復元されたことのあるマルチタイプを見ても、ちゃんと滑らかな口調なのに、エミリーだけロボット喋りというのもおかしかったのだ。
古い音声ソフトを使っているから、というのは当てはまらなかったのだ。
ミク:「ご、ごめんなさい。また後で……」
敷島:「いいよ!エミリー、入れてやってくれ」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは半分だけ開けていたドアを大きく開けた。
ミクがトコトコと入って来る。
それまで眉を潜めていた敷島だったが、ミクが近づく度に柔和な顔付きになった。
ミク:「社長、お忙しいところ、ごめんなさい」
敷島:「いいよ。で、どうした?」
ミク:「わたしのオーバーホールの事なんですが……」
敷島:「ミクもそろそろだったな。お正月新春特番の生番組に間に合うようにしないといけないか。……明日、時間空いてるのか」
ミク:「はい。急な話ですけど、いいですか?」
敷島:「いいよ。後でDCJさんに連絡しておこう。科学館さんも喜ぶよ」
ミク:「はい」
敷島:「来年からはまたお前の後輩も増える。頑張ろうな」
ミク:「はい!……あの……」
敷島:「ん、何だ?まだ何かあるのか?」
ミク:「は、はい。あの……」
ミクはエミリーの方を見た。
敷島:「エミリーがいない方がいいのか?」
エミリー:「……?」
エミリーは眉を潜めた。
敷島:「まあいい。エミリー、ちょっと席を外してくれないか?」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは素直に社長室を出た。
敷島:「まあ、座って話そう」
敷島は室内にある応接セットを勧めた。
敷島とミクが向かい合って座る。
ミク:「何だか夢みたいです。わたしと社長が出会ってから、もう何年もの月日が経ちました」
敷島:「そうだな。時間が経つのは早いものだ」
敷島は机の上に置かれていた写真立てを持って来た。
南里研究所時代に撮影した集合写真。
敷島の隣にミクが写っていた。
撮影したのは平賀だから、この中に平賀は写っていない。
エミリーは南里の隣に立って、無表情である。
満面の笑みを浮かべている南里やボカロ達と比べると浮いている。
そこで敷島はハッと気づいた。
敷島:「俺は最初、ミクがボーカロイドだと知らなかった。一体、何ができるロボットなんだろうって思った」
ミク:「わたしも実は、自分が何ができるのか分かりませんでした。だけど、たかお……社長が流してくれた音楽を聴いて、それを歌いたいと思ったんです」
敷島:「そうか。最初はお前だけだったもんな。それがいつしかリンとレンが加わって、ルカが加わって……」
そこでまた敷島、気づいたことがあった。
敷島:「KAITOとMEIKOは最初、ウィリーに捕まってたんだっけ。それを俺達で救出した……」
ミク:「はい。あの時のたかおさん、かっこ良かったです」
敷島:「いや、俺は良かれと思ったことをエミリーに言っただけに過ぎない。実際に救助したのはエミリーと、サポートに当たった平賀先生だよ」
ミク:「ルカを助けたたかおさんもかっこ良かったです」
敷島:「ウィルスが原因じゃないかって直感が働いて、所長に進言しだけたのことさ。それがたまたま当たっただけのことさ」
ミク:「いいえ。わたし、たかおさんは立派なアンドロイドマスターだと思っています」
敷島:「ミク?お前、どうしてその言葉を……?」
ミク:「分かりません。何故だか、最初からわたしのデータに入っていたんですよ」
敷島:(これもエミリーが言ってたヤツか……)
そこへエミリーが入って来た。
エミリー:「もう・よろしい・ですか?」
敷島:「ああ」
ミク:「あっ、ごめんなさい!」
ミクはバッと立ち上がった。
敷島:「たまには昔懐かしの話でもしたいものだよ。エミリー、お前も良かったら昔の話でもしようや?」
エミリー:「後で・お付き合い・します」
ミク:「失礼しました」
ミクは社長室を出て行った。
敷島:「ミクもアンドロイドマスターという言葉を知っていた。そして、俺をそうだと認めると……」
エミリー:「ボーロカイドのほぼ全員が、あなたをそうだと認めています」
敷島:「もう1度、アリスに聞いてみる」
敷島は自分のスマホを手に取った。