[12月10日14:00.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷]
稲生は与えられた個室にこもり、見習魔道師らしからぬことをしていた。
即ち、ノートPCでエクセルを立ち上げ、何か書類を作成していたのである。
稲生:「……よし。こんなものだろう」
完成したらしい。
稲生がプリンターで印刷すると、印刷されて来たのは何かの案内状。
1枚だけ印刷すると、それを手に屋敷の西側へ向かった。
とても広い洋館であるが、常駐しているのはマリアと稲生だけという寂しいものだった。
それでもこの洋館が年に1度だけ、来客で賑わう日がある。
昼間はそれなりに窓から差し込む日の光が柔らかく感じるものだが、夜になれば、それはもうホラー映画に出てくる洋館そのものである。
その廊下の角を曲がると、待ち構えていたゾンビに組み付かれて……なんてことも有り得るかも。
もっとも、住めば都というもので、さすがの稲生も慣れてしまったが。
屋敷は左右対称になっていて、東側に稲生、西側にマリアが居住している。
その東西を行き来するには、エントランスホールに出なければならない。
2階まで吹き抜けのエントランスホールは、1階から行こうとするとダイニングルームがあり、そこも吹き抜けになっている。
2階から行こうとするならば、そのダイニングの上を通過することになる。
稲生:「マリアさん、ちょっといいですか?」
マリア:「ん、なに?」
1階西側のリビングルームに、マリアはよくいる。
そこで趣味の人形作りをしていたり、ソファでうたた寝をしたりしている。
今は魔道書を読んでいた。
稲生:「クリスマスパーティーのお知らせが出来上がりました。こんな感じで如何でしょう?」
稲生はマリアに案内状を見せた。
マリア:「さすがは勇太。パソコンができるだけあるな〜」
稲生:「ありがとうございます。英語版しかできていないんですけど……」
マリア:「いいよ。あとは送られた魔道師が自分で翻訳するから」
稲生:「そうですか?じゃあ、あとはこれを郵送するだけですね」
マリア:「ああ。急いで郵便局に行ってきて」
稲生:「はい。ちょっと行って来ます」
稲生は魔道師のローブを着込むと、既に名前と住所を印刷した封筒の束を持って外に出た。
宛先は基本的に、各組の組長である大魔道師宛て。
雪の降り積もっている屋敷の外に出ると、既に玄関前には車が停車していた。
クラウンセダンだから、タクシーでも使われているものだ。
稲生が開いている助手席後ろのドアから乗り込むと、その隣に稲生専属メイド人形と化したダニエラが護衛の為に乗り込む。
運転手が手でドアを閉めると、すぐに運転席に座った。
稲生:「郵便局までお願いします」
運転手:「かしこまりました。稲生さま」
車はすぐに出発した。
部屋の中からそれを見送るマリア。
マリア:(ダニエラのヤツ、すっかり勇太を気に入ったみたいだなぁ……。まあ、いいか。護衛にも監視にもなる)
と、今度は稲生と入れ替わるようにして来客があった。
ホウキに跨った魔女、エレーナ……ではなく、その妹弟子に当たるリリィであった。
リリィ:「フヒッ!お……お届け物……です」
マリア:「ご苦労様。あなたもホウキで飛べるようになったんだな」
リリィ:「フフ……!お、おかげ、おかげ様で……!」
普段はコミュ障と呼んでもおかしくないほど言葉が噛み噛みになるリリィ。
彼女もまた人間時代、性的虐待を受けていた精神的後遺症による。
リリィ:「サイン……ここにサインお願いします……」
マリア:「ああ、分かった。師匠宛の荷物だな。……ほいっと」
リリィ:「フフ……ありがとうございます」
リリィはエレーナの中折れ帽とは違い、魔女らしく、とんがり帽子を被っている。
マリア:「あなたの所にも行くよ。今年のクリスマスパーティの案内」
リリィ:「フヒッ!?そ、そうですか……。わ……私も参加……参加していいんですか?」
マリア:「基本的に全員参加だからな。多分、エレーナが連れて来てくれるよ」
リリィ:「そ、そうですか……。は、初めてのクリスマス……!レッツ・パーリィ!……フフ、フフフヒフフフ……」
不気味な笑いをしながらホウキで飛び去るリリィだったが、きっと楽しみにしていることは想像できた。
[同日16:00.天候:曇 マリアの屋敷]
ついでに買い物してきた稲生が車で戻って来た。
稲生:「ただいま帰りましたー」
マリア:「お帰り」
稲生:「いやぁ、ここは大宮より寒いですねー」
マリア:「そりゃそうだろう。で、手紙は全部送れた?」
稲生:「オッケーです。それにしても、国際郵便も含まれているのに、お知らせが2週間前ってのは少し余裕が無いような……?」
マリア:「いや、大丈夫さ。クリスマスなんて毎年同じ日だし、その年はどこでパーティをやるのかだけだから。で、大抵ここだから。どうせ受け取った師匠達も、想定内だと思うだけだろう」
稲生:「そうですか。それにしても、驚きますね。魔道師達もクリスマス・パーティをやるなんて……」
マリア:「本当にただのパーティだ。別に、イエス・キリストの生誕を祝うわけじゃない。日本風に言えば、忘年会みたいなものさ」
稲生:「なるほど……」
マリア:「その日はどこの宗派であれ、クリスチャン達はキリストの生誕を祝うことに忙しいだろうけど、その日だからこそ魔女狩りを一斉に行う教団も存在する。そいつらから避難する為でもあるんだ」
稲生:「藤谷さんにお願いして、日蓮正宗の人達に応戦してもらいましょうか?それ」
マリア:「……考えておこう。でもまあ、そこまでしてもらうほどのものじゃないと思うけど」
稲生:「そうですかね。因みにアナスタシア先生にも送りましたけど、大丈夫ですかね?」
マリア:「パーティには大師匠様も来られるから心配無い」
稲生:「それなら大丈夫ですね。僕は……大丈夫かな?」
マリア:「何が?」
稲生:「まだ他の魔女さん達からは警戒されてるみたいですし……」
マリア:「それも心配無い。勇太は既に、大師匠様から表彰を受けたことがあるから」
稲生:「なるほど、そうかぁ……」
稲生はベタなクリスマス・パーティを予想していた。
そして、ふと思った。
稲生:(マリアさんには前にカチューシャをプレゼントしたし、今度もそれにしようと思うけど、イリーナ先生にも何か差し上げようかなぁ……?)
稲生は与えられた個室にこもり、見習魔道師らしからぬことをしていた。
即ち、ノートPCでエクセルを立ち上げ、何か書類を作成していたのである。
稲生:「……よし。こんなものだろう」
完成したらしい。
稲生がプリンターで印刷すると、印刷されて来たのは何かの案内状。
1枚だけ印刷すると、それを手に屋敷の西側へ向かった。
とても広い洋館であるが、常駐しているのはマリアと稲生だけという寂しいものだった。
それでもこの洋館が年に1度だけ、来客で賑わう日がある。
昼間はそれなりに窓から差し込む日の光が柔らかく感じるものだが、夜になれば、それはもうホラー映画に出てくる洋館そのものである。
その廊下の角を曲がると、待ち構えていたゾンビに組み付かれて……なんてことも有り得るかも。
もっとも、住めば都というもので、さすがの稲生も慣れてしまったが。
屋敷は左右対称になっていて、東側に稲生、西側にマリアが居住している。
その東西を行き来するには、エントランスホールに出なければならない。
2階まで吹き抜けのエントランスホールは、1階から行こうとするとダイニングルームがあり、そこも吹き抜けになっている。
2階から行こうとするならば、そのダイニングの上を通過することになる。
稲生:「マリアさん、ちょっといいですか?」
マリア:「ん、なに?」
1階西側のリビングルームに、マリアはよくいる。
そこで趣味の人形作りをしていたり、ソファでうたた寝をしたりしている。
今は魔道書を読んでいた。
稲生:「クリスマスパーティーのお知らせが出来上がりました。こんな感じで如何でしょう?」
稲生はマリアに案内状を見せた。
マリア:「さすがは勇太。パソコンができるだけあるな〜」
稲生:「ありがとうございます。英語版しかできていないんですけど……」
マリア:「いいよ。あとは送られた魔道師が自分で翻訳するから」
稲生:「そうですか?じゃあ、あとはこれを郵送するだけですね」
マリア:「ああ。急いで郵便局に行ってきて」
稲生:「はい。ちょっと行って来ます」
稲生は魔道師のローブを着込むと、既に名前と住所を印刷した封筒の束を持って外に出た。
宛先は基本的に、各組の組長である大魔道師宛て。
雪の降り積もっている屋敷の外に出ると、既に玄関前には車が停車していた。
クラウンセダンだから、タクシーでも使われているものだ。
稲生が開いている助手席後ろのドアから乗り込むと、その隣に稲生専属メイド人形と化したダニエラが護衛の為に乗り込む。
運転手が手でドアを閉めると、すぐに運転席に座った。
稲生:「郵便局までお願いします」
運転手:「かしこまりました。稲生さま」
車はすぐに出発した。
部屋の中からそれを見送るマリア。
マリア:(ダニエラのヤツ、すっかり勇太を気に入ったみたいだなぁ……。まあ、いいか。護衛にも監視にもなる)
と、今度は稲生と入れ替わるようにして来客があった。
ホウキに跨った魔女、エレーナ……ではなく、その妹弟子に当たるリリィであった。
リリィ:「フヒッ!お……お届け物……です」
マリア:「ご苦労様。あなたもホウキで飛べるようになったんだな」
リリィ:「フフ……!お、おかげ、おかげ様で……!」
普段はコミュ障と呼んでもおかしくないほど言葉が噛み噛みになるリリィ。
彼女もまた人間時代、性的虐待を受けていた精神的後遺症による。
リリィ:「サイン……ここにサインお願いします……」
マリア:「ああ、分かった。師匠宛の荷物だな。……ほいっと」
リリィ:「フフ……ありがとうございます」
リリィはエレーナの中折れ帽とは違い、魔女らしく、とんがり帽子を被っている。
マリア:「あなたの所にも行くよ。今年のクリスマスパーティの案内」
リリィ:「フヒッ!?そ、そうですか……。わ……私も参加……参加していいんですか?」
マリア:「基本的に全員参加だからな。多分、エレーナが連れて来てくれるよ」
リリィ:「そ、そうですか……。は、初めてのクリスマス……!レッツ・パーリィ!……フフ、フフフヒフフフ……」
不気味な笑いをしながらホウキで飛び去るリリィだったが、きっと楽しみにしていることは想像できた。
[同日16:00.天候:曇 マリアの屋敷]
ついでに買い物してきた稲生が車で戻って来た。
稲生:「ただいま帰りましたー」
マリア:「お帰り」
稲生:「いやぁ、ここは大宮より寒いですねー」
マリア:「そりゃそうだろう。で、手紙は全部送れた?」
稲生:「オッケーです。それにしても、国際郵便も含まれているのに、お知らせが2週間前ってのは少し余裕が無いような……?」
マリア:「いや、大丈夫さ。クリスマスなんて毎年同じ日だし、その年はどこでパーティをやるのかだけだから。で、大抵ここだから。どうせ受け取った師匠達も、想定内だと思うだけだろう」
稲生:「そうですか。それにしても、驚きますね。魔道師達もクリスマス・パーティをやるなんて……」
マリア:「本当にただのパーティだ。別に、イエス・キリストの生誕を祝うわけじゃない。日本風に言えば、忘年会みたいなものさ」
稲生:「なるほど……」
マリア:「その日はどこの宗派であれ、クリスチャン達はキリストの生誕を祝うことに忙しいだろうけど、その日だからこそ魔女狩りを一斉に行う教団も存在する。そいつらから避難する為でもあるんだ」
稲生:「藤谷さんにお願いして、日蓮正宗の人達に応戦してもらいましょうか?それ」
マリア:「……考えておこう。でもまあ、そこまでしてもらうほどのものじゃないと思うけど」
稲生:「そうですかね。因みにアナスタシア先生にも送りましたけど、大丈夫ですかね?」
マリア:「パーティには大師匠様も来られるから心配無い」
稲生:「それなら大丈夫ですね。僕は……大丈夫かな?」
マリア:「何が?」
稲生:「まだ他の魔女さん達からは警戒されてるみたいですし……」
マリア:「それも心配無い。勇太は既に、大師匠様から表彰を受けたことがあるから」
稲生:「なるほど、そうかぁ……」
稲生はベタなクリスマス・パーティを予想していた。
そして、ふと思った。
稲生:(マリアさんには前にカチューシャをプレゼントしたし、今度もそれにしようと思うけど、イリーナ先生にも何か差し上げようかなぁ……?)