[12月12日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
敷島エージェンシーに突然、本社である四季ホールディングスの最高顧問、敷島孝之亟がやってきた。
敷島家が興行師としての船出を始め、大企業にまで発展させた当事者の1人である。
この最高顧問、敷島孝夫に少々厄介な注文をしていた。
それはR85世代になりながら、マルチタイプを抱えたいというのである。
敷島がシンディを使いこなしているのを見て、シンディを気に入ったようであり、新造して欲しいとのことだった。
資金から書類まで全て揃えてしまった為、製作を請け負うDCJとしてはOKせざるを得ない状態であった。
敷島孝之亟:「それで孝夫や、例の件はどうなっているのかね?え?進んでいるのかね?」
(以下、孝之亟)
敷島孝夫:「ええ、まあ。ただ、最高顧問もニュースでお知りになったと思いますが、少々規格変更をしなければならないもようです」
(以下、孝夫)
孝之亟:「規格変更とは?」
孝夫:「実はマルチタイプには自爆装置が標準装備されているのですが、それを取り外さないことには世間の不安を煽ることになりそうです」
孝之亟:「何だ、そんなことか。構わんよ。確かにそんなもの、ワシには何のメリットも無い。おおかた、軍事用として使用する際、敵の陣地に飛び込んで爆弾代わりにでもするつもりだったのじゃろうが、ワシは別に軍事用として使うつもりは毛頭無いのでな」
孝夫:「50億円の爆弾ですか。随分と高い爆弾ですな」
エミリーが静かに敷島と孝之亟にお茶を置いた。
孝之亟:「孝夫、お前は秘書を2人も抱えているのか?随分と忙しくなったもんじゃなぁ?」
孝夫:「エミリーは代理ですよ。先日のロイド自爆事件に巻き込まれて損傷したもんで、今、修理をしてるんです」
孝之亟:「そうか。顔が似ているもんで、イメチェンでもしたのかと思ったぞ」
エミリー:「シンディの・姉で・エミリーと・申します」
孝之亟:「ほお。その腕の番号からして、長女か。これはこれは……。して、ワシが手にできるそれは何番目になるのかね?」
孝夫:「順当に言って9番目になります」
孝之亟:「ほお。既にもう8機も稼働しているわけか」
孝夫:「あ、いえ。今でも元気に稼働しているのは、こちらにいる1号機のエミリーと修理中の3号機のシンディ、それと科学館詰めの8号機のアルエットだけです。他は既に破壊処分されたりして、欠番です」
孝之亟:「随分と欠番が多い機種じゃのう?」
孝夫:「最高顧問の仰る通り、元々は軍事用として開発されたマルチタイプです。軍事上、欠番にならざるを得ない状況に追い込まれたのですよ」
孝之亟:「なるほど……」
実際は旧ソ連崩壊の最中、旧政府が証拠隠滅の為に爆破解体したというのが真実。
しかし南里はエミリーを他国(どの国かは今でも不明だが、朝鮮では無さそう)経由で日本に持ち出し、ウィリーはアメリカでスパイ活動を行っていたシンディを旧ソ連に帰国させずに、そのままアメリカでのテロ活動に従事させた。
5号機のキールは脱出に失敗し、十条伝助博士にメモリーだけ渡して自爆したという。
残りのナンバーについては不明。
現在のロシア政府は、マルチタイプの存在自体を無かったことにしている。
孝之亟:「では、今は平和利用の為に動いているというわけじゃな?」
孝夫:「そういうことです」
孝之亟:「長女よ。安心せい。ワシが抱え込むからには、平和の為に使うからの」
エミリー:「よろしく・お願いします」
孝夫:(ほとんど爺さんの介助用だろうが。平和っちゃあ平和だけどさ……)
孝之亟:「それで、孝夫や」
孝夫:「何ですか?」
孝之亟:「ワシも老い先短い身。ワシが死んだら、ワシのロイドを自由にさせてくれ」
孝夫:「自由に……って、誰かに転売するんじゃないんですか?」
孝之亟:「自由になった方が良いのではないか?」
孝夫:「エミリー」
エミリー:「恐れ・ながら……。私と・しては・新しい・マスターを・紹介して・あげると・助かると・思います」
孝之亟:「そうなのか。ならば、欲しい者に譲渡するか。30億円で」
孝夫:「はあ……。(セコイぞ、爺さん!!)」
孝夫とエミリーは、孝之亟をビルの地下駐車場まで見送った。
そこには車寄せがあり、孝之亟が乗って来た役員車が横付けされていた。
孝之亟:「それでは年明けの完成を楽しみにしておるぞ」
孝夫:「名前、考えておいてくださいよ」
孝之亟:「任せておけい」
エミリーは丁寧に孝之亟を車に乗せる手助けをした。
マルチタイプは介助用・介護用としても、十分に活動できる。
こうしていると、敷島はエミリーがかつて南里に対しても、介助を行っていたことを思い出した。
車を見送ると、
(以下、敷島)敷島:「さあ!仕事に戻ろう!」
エミリー:「イエス。敷島・社長」
[同日18:00.天候:曇 敷島エージェンシー]
井辺:「社長、タクシーを呼んでおきましたので、それでどうぞ」
敷島:「えっ、呼んだの?帰りは別に都営バスでもいいのに……」
井辺:「まだルディの自爆事件で、マスコミがビルの前に張っています。シンディさんが復帰するまでの間は、タクシーの方がいいと思います」
エミリー:「本来ですと・敷島社長も・役員車通勤の・方が・よろしいのでは・ないですか?」
井辺:「もしくはハイヤーですね。でも、社長が嫌がるんですよ」
敷島:「そんな成り金みたいなことができるか。都営バスの方がWi-Fi使い放題だぞ」(※事実です)
エミリー:「取りあえず・落ち着くまで・車を・利用されるのが・良いと・思います」
敷島:「ちぇっ……。タクシーじゃWi-Fiがなぁ……」
井辺:(ハイヤーには、そういった設備のある車もあるのです……なんて言うと、何か怒られそうだから言わないでおこう)
敷島とエミリーは退社すると、地下駐車場まで下りるエレベーターに乗り込んだ。
車寄せに行くと、各テナントの会社役員を迎えに来たハイヤーなどに混じって、1台だけ東京無線のタクシーが止まっていた。
梨園は日本交通などの大手四社だが、芸能界は東京無線と決まっている……らしい。
エミリー:「東雲……まで・お願いします」
運転手:「はい」
タクシーが走り出してスロープを上がり、地上に出ると、確かにマスコミが敷島達を狙っていた。
タクシーにはスモークガラスが無いので、敷島達の顔が丸写りである。
どうやら、今度はエミリーに関心を持ったようだ。
エミリーの自爆装置取り外しは、シンディの後になるだろう。
タクシーが公道に出てから、敷島は気付いた。
敷島:「ってお前、俺のマンションまで付いてくる気か?」
エミリー:「イエス」
エミリーは首を傾げながら頷いた。
まるで、何か問題あるのかと言いたげな顔だ。
敷島:「お前はあくまでシンディの代わりに来てくれただけなんだから、そのまま会社にいててくれていいんだぞ?」
エミリー:「シンディの・代理全般を・行うことに・なって・おります」
敷島:「監視業務も?」
エミリーは微笑を浮かべて頷いた。
敷島:「逃走したら、どうする?」
エミリー:「南里研究所時代の・再来と・なるでしょう」
敷島:「お前もさらっと怖い事言えるようになったなぁ……」
タクシーは敷島の寝泊まりしているマンスリーマンションに向かう。
敷島エージェンシーに突然、本社である四季ホールディングスの最高顧問、敷島孝之亟がやってきた。
敷島家が興行師としての船出を始め、大企業にまで発展させた当事者の1人である。
この最高顧問、敷島孝夫に少々厄介な注文をしていた。
それはR85世代になりながら、マルチタイプを抱えたいというのである。
敷島がシンディを使いこなしているのを見て、シンディを気に入ったようであり、新造して欲しいとのことだった。
資金から書類まで全て揃えてしまった為、製作を請け負うDCJとしてはOKせざるを得ない状態であった。
敷島孝之亟:「それで孝夫や、例の件はどうなっているのかね?え?進んでいるのかね?」
(以下、孝之亟)
敷島孝夫:「ええ、まあ。ただ、最高顧問もニュースでお知りになったと思いますが、少々規格変更をしなければならないもようです」
(以下、孝夫)
孝之亟:「規格変更とは?」
孝夫:「実はマルチタイプには自爆装置が標準装備されているのですが、それを取り外さないことには世間の不安を煽ることになりそうです」
孝之亟:「何だ、そんなことか。構わんよ。確かにそんなもの、ワシには何のメリットも無い。おおかた、軍事用として使用する際、敵の陣地に飛び込んで爆弾代わりにでもするつもりだったのじゃろうが、ワシは別に軍事用として使うつもりは毛頭無いのでな」
孝夫:「50億円の爆弾ですか。随分と高い爆弾ですな」
エミリーが静かに敷島と孝之亟にお茶を置いた。
孝之亟:「孝夫、お前は秘書を2人も抱えているのか?随分と忙しくなったもんじゃなぁ?」
孝夫:「エミリーは代理ですよ。先日のロイド自爆事件に巻き込まれて損傷したもんで、今、修理をしてるんです」
孝之亟:「そうか。顔が似ているもんで、イメチェンでもしたのかと思ったぞ」
エミリー:「シンディの・姉で・エミリーと・申します」
孝之亟:「ほお。その腕の番号からして、長女か。これはこれは……。して、ワシが手にできるそれは何番目になるのかね?」
孝夫:「順当に言って9番目になります」
孝之亟:「ほお。既にもう8機も稼働しているわけか」
孝夫:「あ、いえ。今でも元気に稼働しているのは、こちらにいる1号機のエミリーと修理中の3号機のシンディ、それと科学館詰めの8号機のアルエットだけです。他は既に破壊処分されたりして、欠番です」
孝之亟:「随分と欠番が多い機種じゃのう?」
孝夫:「最高顧問の仰る通り、元々は軍事用として開発されたマルチタイプです。軍事上、欠番にならざるを得ない状況に追い込まれたのですよ」
孝之亟:「なるほど……」
実際は旧ソ連崩壊の最中、旧政府が証拠隠滅の為に爆破解体したというのが真実。
しかし南里はエミリーを他国(どの国かは今でも不明だが、朝鮮では無さそう)経由で日本に持ち出し、ウィリーはアメリカでスパイ活動を行っていたシンディを旧ソ連に帰国させずに、そのままアメリカでのテロ活動に従事させた。
5号機のキールは脱出に失敗し、十条伝助博士にメモリーだけ渡して自爆したという。
残りのナンバーについては不明。
現在のロシア政府は、マルチタイプの存在自体を無かったことにしている。
孝之亟:「では、今は平和利用の為に動いているというわけじゃな?」
孝夫:「そういうことです」
孝之亟:「長女よ。安心せい。ワシが抱え込むからには、平和の為に使うからの」
エミリー:「よろしく・お願いします」
孝夫:(ほとんど爺さんの介助用だろうが。平和っちゃあ平和だけどさ……)
孝之亟:「それで、孝夫や」
孝夫:「何ですか?」
孝之亟:「ワシも老い先短い身。ワシが死んだら、ワシのロイドを自由にさせてくれ」
孝夫:「自由に……って、誰かに転売するんじゃないんですか?」
孝之亟:「自由になった方が良いのではないか?」
孝夫:「エミリー」
エミリー:「恐れ・ながら……。私と・しては・新しい・マスターを・紹介して・あげると・助かると・思います」
孝之亟:「そうなのか。ならば、欲しい者に譲渡するか。30億円で」
孝夫:「はあ……。(セコイぞ、爺さん!!)」
孝夫とエミリーは、孝之亟をビルの地下駐車場まで見送った。
そこには車寄せがあり、孝之亟が乗って来た役員車が横付けされていた。
孝之亟:「それでは年明けの完成を楽しみにしておるぞ」
孝夫:「名前、考えておいてくださいよ」
孝之亟:「任せておけい」
エミリーは丁寧に孝之亟を車に乗せる手助けをした。
マルチタイプは介助用・介護用としても、十分に活動できる。
こうしていると、敷島はエミリーがかつて南里に対しても、介助を行っていたことを思い出した。
車を見送ると、
(以下、敷島)敷島:「さあ!仕事に戻ろう!」
エミリー:「イエス。敷島・社長」
[同日18:00.天候:曇 敷島エージェンシー]
井辺:「社長、タクシーを呼んでおきましたので、それでどうぞ」
敷島:「えっ、呼んだの?帰りは別に都営バスでもいいのに……」
井辺:「まだルディの自爆事件で、マスコミがビルの前に張っています。シンディさんが復帰するまでの間は、タクシーの方がいいと思います」
エミリー:「本来ですと・敷島社長も・役員車通勤の・方が・よろしいのでは・ないですか?」
井辺:「もしくはハイヤーですね。でも、社長が嫌がるんですよ」
敷島:「そんな成り金みたいなことができるか。都営バスの方がWi-Fi使い放題だぞ」(※事実です)
エミリー:「取りあえず・落ち着くまで・車を・利用されるのが・良いと・思います」
敷島:「ちぇっ……。タクシーじゃWi-Fiがなぁ……」
井辺:(ハイヤーには、そういった設備のある車もあるのです……なんて言うと、何か怒られそうだから言わないでおこう)
敷島とエミリーは退社すると、地下駐車場まで下りるエレベーターに乗り込んだ。
車寄せに行くと、各テナントの会社役員を迎えに来たハイヤーなどに混じって、1台だけ東京無線のタクシーが止まっていた。
梨園は日本交通などの大手四社だが、芸能界は東京無線と決まっている……らしい。
エミリー:「東雲……まで・お願いします」
運転手:「はい」
タクシーが走り出してスロープを上がり、地上に出ると、確かにマスコミが敷島達を狙っていた。
タクシーにはスモークガラスが無いので、敷島達の顔が丸写りである。
どうやら、今度はエミリーに関心を持ったようだ。
エミリーの自爆装置取り外しは、シンディの後になるだろう。
タクシーが公道に出てから、敷島は気付いた。
敷島:「ってお前、俺のマンションまで付いてくる気か?」
エミリー:「イエス」
エミリーは首を傾げながら頷いた。
まるで、何か問題あるのかと言いたげな顔だ。
敷島:「お前はあくまでシンディの代わりに来てくれただけなんだから、そのまま会社にいててくれていいんだぞ?」
エミリー:「シンディの・代理全般を・行うことに・なって・おります」
敷島:「監視業務も?」
エミリーは微笑を浮かべて頷いた。
敷島:「逃走したら、どうする?」
エミリー:「南里研究所時代の・再来と・なるでしょう」
敷島:「お前もさらっと怖い事言えるようになったなぁ……」
タクシーは敷島の寝泊まりしているマンスリーマンションに向かう。