[11月24日13:00.天候:霙 東京都千代田区丸の内 丸の内ホテル・エントランス]
孝之亟:「短い間じゃったが、楽しい昼食会じゃったぞ。ではあの現金は、デイライト・コーポレーションに渡してこよう」
峰雄:「孝夫、お前は最高顧問に付いて行って差し上げないのか?」
敷島:「……午後も私は予定が入っておりますので。DCJさんには、私から伝えておきます」
孝之亟:「うむ、楽しみじゃの」
孝之亟、シンディを見る。
敷島:「最高顧問。悪い事は言いません。せめて、メイドロイドにしませんか?メイドロイドは個人向けの設計並びに設定になっております。しかし、マルチタイプは本来、個人向けではありません」
孝之亟:「ワシを見くびる気かね?孝夫、お前だって個人でこのロボットを使いこなしているではないか」
敷島:「いや、私は色々とありましたので……」
孝之亟:「フン!ワシも90年近く生きていて、生死の境目を幾度と無く潜り抜けたわい!お前、剣林弾雨の中を潜り抜けことがあるか!?」
敷島:「はい。(暴走したエミリーに追い回されたり、前期型シンディのライフル狙撃から逃げ回ったり、バージョン連中の包囲網突破とか、色々……)」
孝之亟:「ワシはな、孝夫とは比べものにならん経験を積んでおるんじゃ。心配いらん」
峰雄:「頼もしいお言葉にございます。孝夫、仕事があるなら仕方が無い。だが、DCJにはよく言っておくんだぞ?カネならあるんだ」
孝夫:「はあ……」
孝之亟:「お前、ロボットアイドルの売り込みを更に進めるのじゃろ?隠居した今でも、ワシが一言言えば、すぐに予算など付けてやるでな。それが見返りじゃ」
孝夫:「嫌なプロジェクト推進法だ」
孝之亟:「何か言ったか?」
孝夫:「いえ、何でもないです。……あ、そうそう。これだけは申し上げておきます」
孝之亟:「何じゃ?」
孝夫:「国家公安委員会からの指導で、マルチタイプに銃火器を仕込むことは禁止されましたので、それだけは不可能となりました。もし不服でしたら、直接国家公安委員会にお願いします」
孝之亟:「ほお?銃火器の装備禁止とな?……まあ、ワシには要らん装備じゃ。それに、国家公安委員会が何を言ってこようと、こっちには与党国会議員の知り合いがわんさかおるでな。政治的な圧力で押さえ込んでやるわい。警察の捜査を中止させるくらいのなぁ……」
峰雄:「孝夫、これで分かったか?表向きはグループに対する権限の無い名誉職・最高顧問ということにはなっているが、実情はこの通りだ。もう2度と逆らうんじゃないぞ」
孝夫:「分かりました……」
峰雄:「最高顧問、これで1つ、収めては頂けませんでしょうか?」
孝之亟:「収めるも何も、何も出っ張ったことなど無いがな。とにかく、後のことは頼んだぞ?」
峰雄:「孝夫!返事!」
孝夫:「はい……」
孝之亟と峰雄は往路で敷島が乗ってきたハイグレードタクシーよりも、更に高級車である役員車に乗り込んだ。
そして、ホテルのポーチを後にしたのだった。
孝夫:「くっ、くくく……!あのクソジジィと太鼓持ち会長め……!!」
シンディ:「社長……」
孝夫:「東京決戦の再来でも起こす気か!」
シンディ:「そんなに危険なんでしょうか?」
孝夫:「シンディ。もしお前が今暴走したとして、俺を殺せる自信があるか?」
シンディ:「そんなこと急に言われましても……。ただ、私は社長を殺せる自信がありません」
孝夫:「そうか。では、今しがた出て行った最高顧問と会長を殺せる自信は?」
シンディ:「もしも暴走したら……恐らく、封印されたマシンガンを再使用すれば……簡単に屠ることはできるかと……」
孝夫:「その違いだよ!驕り高ぶった老害共め!!」
[同日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階・敷島エージェンシー]
※以下、登場人物をロイドとアリス以外は名字表記に戻します。
シンディ:「社長、お電話です。マスターから」
敷島:「アリスからか……」
敷島は電話を取った。
敷島:「もしもし。何の用だ?」
アリス:「シンディの新しい腕が、もう間もなく完成するよ。今週末には交換したいんだけど、土曜日とか空いてる?」
敷島:「ああ、大丈夫だ。ところでアリス、新しくマルチタイプ製造の注文が入ったって聞いてるか?」
アリス:「ええ。聞いてるわよ」
敷島:「そうか。やっぱり、DCJさんはその注文を受けるんだな?」
アリス:「ええ。既に契約書も交わしたし、頭金を受けている。断る理由は無いわね」
敷島:「アリス、研究者としてどう思う?俺はマルチタイプを個人で持つには危険だと思うんだ」
アリス:「ええ、危険だと思うわ」
敷島:「だったら、どうして断らなかったんだ!?」
アリス:「契約を交わしたのは営業部門で、私達、開発部門じゃないからね、知らないよ。それに、『マルチタイプを個人で所有するには危険』という主張はまだ学会で認められているわけじゃないし、だいいち、今のところそれは認められることは無いと思うね」
敷島:「どうしてだ?」
アリス:「あなたのせいよ」
敷島:「何でだ!?」
アリス:「あなたが個人所有で成功してるから、説得力が無いのよ」
敷島:「ちょっと待て!シンディの正式なオーナーはお前じゃないか!俺はただのユーザーだぞ!」
アリス:「私はまだDCJという後ろ盾があるからね。でもあなたは何の後ろ盾も無く、シンディを使いこなしている。……いいえ、シンディだけじゃないね。ユーザー登録から外れたはずのエミリーでさえ、あなたの命令を聞く。それも相俟ってるってわけ」
敷島:「最高顧問は確かに凡人ではないけれど、どうしても俺には使いこなせるような気がしないんだ。むしろ、暴走させてしまう恐れがある……」
アリス:「だったら……いい考えがあるよ」
敷島:「ん?」
アリス:「最高顧問さんは、シンディによく似たタイプのマルチタイプを造って欲しいわけでしょう?」
敷島:「そうだ」
アリス:「シンディによく似た見かけで、性能はメイドロイドに近いタイプで造ればいいのよ」
敷島:「あ!その手があったか!」
アリス:「ね?これなら心配無いでしょう?」
敷島:「さすがはアリスだ!」
アリス:「フフーン♪天才と呼びなさい」
敷島:「分かったよ、(自称)天才。とにかく、土曜日は空けておこう。……ああ、それじゃ」
敷島は電話を切った。
敷島:「まあ、シンディを1ヶ月くらい爺さんの所に居候させて、マルチタイプの恐ろしさを体験してもらうっていう手もあるんだがな……」
シンディ:「マスター的に、それは許されないことだと思います」
敷島:「くそ……!」
シンディ:「それに、仮にそれでやってみて、本当に最高顧問が私を使いこなしてしまったらどうするんですか?」
敷島:「それは無いと思うけど、まあ、それならそれでいいよ。俺が悪かったって、全力土下座でもするさ。とにかくシンディ、お前の新しい腕ができるそうだから、土曜日、科学館に行くぞ」
シンディ:「分かりました。……姉さんの方はどうなんでしょうか?」
敷島:「あ、そうだな。ちょっと、平賀先生に聞いてみよう」
敷島は机の上の電話機を取った。
孝之亟:「短い間じゃったが、楽しい昼食会じゃったぞ。ではあの現金は、デイライト・コーポレーションに渡してこよう」
峰雄:「孝夫、お前は最高顧問に付いて行って差し上げないのか?」
敷島:「……午後も私は予定が入っておりますので。DCJさんには、私から伝えておきます」
孝之亟:「うむ、楽しみじゃの」
孝之亟、シンディを見る。
敷島:「最高顧問。悪い事は言いません。せめて、メイドロイドにしませんか?メイドロイドは個人向けの設計並びに設定になっております。しかし、マルチタイプは本来、個人向けではありません」
孝之亟:「ワシを見くびる気かね?孝夫、お前だって個人でこのロボットを使いこなしているではないか」
敷島:「いや、私は色々とありましたので……」
孝之亟:「フン!ワシも90年近く生きていて、生死の境目を幾度と無く潜り抜けたわい!お前、剣林弾雨の中を潜り抜けことがあるか!?」
敷島:「はい。(暴走したエミリーに追い回されたり、前期型シンディのライフル狙撃から逃げ回ったり、バージョン連中の包囲網突破とか、色々……)」
孝之亟:「ワシはな、孝夫とは比べものにならん経験を積んでおるんじゃ。心配いらん」
峰雄:「頼もしいお言葉にございます。孝夫、仕事があるなら仕方が無い。だが、DCJにはよく言っておくんだぞ?カネならあるんだ」
孝夫:「はあ……」
孝之亟:「お前、ロボットアイドルの売り込みを更に進めるのじゃろ?隠居した今でも、ワシが一言言えば、すぐに予算など付けてやるでな。それが見返りじゃ」
孝夫:「嫌なプロジェクト推進法だ」
孝之亟:「何か言ったか?」
孝夫:「いえ、何でもないです。……あ、そうそう。これだけは申し上げておきます」
孝之亟:「何じゃ?」
孝夫:「国家公安委員会からの指導で、マルチタイプに銃火器を仕込むことは禁止されましたので、それだけは不可能となりました。もし不服でしたら、直接国家公安委員会にお願いします」
孝之亟:「ほお?銃火器の装備禁止とな?……まあ、ワシには要らん装備じゃ。それに、国家公安委員会が何を言ってこようと、こっちには与党国会議員の知り合いがわんさかおるでな。政治的な圧力で押さえ込んでやるわい。警察の捜査を中止させるくらいのなぁ……」
峰雄:「孝夫、これで分かったか?表向きはグループに対する権限の無い名誉職・最高顧問ということにはなっているが、実情はこの通りだ。もう2度と逆らうんじゃないぞ」
孝夫:「分かりました……」
峰雄:「最高顧問、これで1つ、収めては頂けませんでしょうか?」
孝之亟:「収めるも何も、何も出っ張ったことなど無いがな。とにかく、後のことは頼んだぞ?」
峰雄:「孝夫!返事!」
孝夫:「はい……」
孝之亟と峰雄は往路で敷島が乗ってきたハイグレードタクシーよりも、更に高級車である役員車に乗り込んだ。
そして、ホテルのポーチを後にしたのだった。
孝夫:「くっ、くくく……!あのクソジジィと太鼓持ち会長め……!!」
シンディ:「社長……」
孝夫:「東京決戦の再来でも起こす気か!」
シンディ:「そんなに危険なんでしょうか?」
孝夫:「シンディ。もしお前が今暴走したとして、俺を殺せる自信があるか?」
シンディ:「そんなこと急に言われましても……。ただ、私は社長を殺せる自信がありません」
孝夫:「そうか。では、今しがた出て行った最高顧問と会長を殺せる自信は?」
シンディ:「もしも暴走したら……恐らく、封印されたマシンガンを再使用すれば……簡単に屠ることはできるかと……」
孝夫:「その違いだよ!驕り高ぶった老害共め!!」
[同日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18階・敷島エージェンシー]
※以下、登場人物をロイドとアリス以外は名字表記に戻します。
シンディ:「社長、お電話です。マスターから」
敷島:「アリスからか……」
敷島は電話を取った。
敷島:「もしもし。何の用だ?」
アリス:「シンディの新しい腕が、もう間もなく完成するよ。今週末には交換したいんだけど、土曜日とか空いてる?」
敷島:「ああ、大丈夫だ。ところでアリス、新しくマルチタイプ製造の注文が入ったって聞いてるか?」
アリス:「ええ。聞いてるわよ」
敷島:「そうか。やっぱり、DCJさんはその注文を受けるんだな?」
アリス:「ええ。既に契約書も交わしたし、頭金を受けている。断る理由は無いわね」
敷島:「アリス、研究者としてどう思う?俺はマルチタイプを個人で持つには危険だと思うんだ」
アリス:「ええ、危険だと思うわ」
敷島:「だったら、どうして断らなかったんだ!?」
アリス:「契約を交わしたのは営業部門で、私達、開発部門じゃないからね、知らないよ。それに、『マルチタイプを個人で所有するには危険』という主張はまだ学会で認められているわけじゃないし、だいいち、今のところそれは認められることは無いと思うね」
敷島:「どうしてだ?」
アリス:「あなたのせいよ」
敷島:「何でだ!?」
アリス:「あなたが個人所有で成功してるから、説得力が無いのよ」
敷島:「ちょっと待て!シンディの正式なオーナーはお前じゃないか!俺はただのユーザーだぞ!」
アリス:「私はまだDCJという後ろ盾があるからね。でもあなたは何の後ろ盾も無く、シンディを使いこなしている。……いいえ、シンディだけじゃないね。ユーザー登録から外れたはずのエミリーでさえ、あなたの命令を聞く。それも相俟ってるってわけ」
敷島:「最高顧問は確かに凡人ではないけれど、どうしても俺には使いこなせるような気がしないんだ。むしろ、暴走させてしまう恐れがある……」
アリス:「だったら……いい考えがあるよ」
敷島:「ん?」
アリス:「最高顧問さんは、シンディによく似たタイプのマルチタイプを造って欲しいわけでしょう?」
敷島:「そうだ」
アリス:「シンディによく似た見かけで、性能はメイドロイドに近いタイプで造ればいいのよ」
敷島:「あ!その手があったか!」
アリス:「ね?これなら心配無いでしょう?」
敷島:「さすがはアリスだ!」
アリス:「フフーン♪天才と呼びなさい」
敷島:「分かったよ、(自称)天才。とにかく、土曜日は空けておこう。……ああ、それじゃ」
敷島は電話を切った。
敷島:「まあ、シンディを1ヶ月くらい爺さんの所に居候させて、マルチタイプの恐ろしさを体験してもらうっていう手もあるんだがな……」
シンディ:「マスター的に、それは許されないことだと思います」
敷島:「くそ……!」
シンディ:「それに、仮にそれでやってみて、本当に最高顧問が私を使いこなしてしまったらどうするんですか?」
敷島:「それは無いと思うけど、まあ、それならそれでいいよ。俺が悪かったって、全力土下座でもするさ。とにかくシンディ、お前の新しい腕ができるそうだから、土曜日、科学館に行くぞ」
シンディ:「分かりました。……姉さんの方はどうなんでしょうか?」
敷島:「あ、そうだな。ちょっと、平賀先生に聞いてみよう」
敷島は机の上の電話機を取った。