報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師の移動」 大糸線編

2016-12-28 19:43:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日10:00.天候:雪 JR白馬駅]

 小雪の舞う駅前に、1台の車が停車する。
 黒塗りの車だが、車種はロンドンタクシーのようだ。
 マリアが主導で魔法を使ったというのが分かる。
 降りた2人は荷物も降ろして、足元の悪い中を駅の中に入った。

 稲生:「寒いですねぇ……」
 マリア:「冬だから当たり前だよ」

 駅の中に入る。
 首都圏までの電車は直通ではなく、途中で乗り換えがある。
 乗車券は既に用意してるので、あとは改札口からホームに入れば良い。

 稲生:「何だか温かい飲み物でも欲しくなりましたよ。ちょっと買ってきます」
 マリア:「ああ」

 自動販売機でホットレモンを買ってきた。

 マリア:「うん、確かに温かい」

 そんなことして過ごすうちに、駅構内に放送が流れた。

〔「今度の上り列車は、1番線から10時13分発の普通列車、松本行きが2両編成で参ります。ご利用のお客様は、1番線へお越しください」〕

 1番線は改札口を通ってすぐ目の前にあるホームである。
 なので、階段の昇り降りはしなくて良い。
 稲生は飲み干したホットレモンのペットボトルをゴミ箱に捨てた。
 小雪の舞う線路の向こうから、ヘッドライトが近づいてくる。
 E127系だが、大糸線で運用されている型式はセミクロスシートと呼ばれる座席配置になっている。
 ロングシートが主体だが、一部にボックスシートも備わっているということだ。

〔「ご乗車の際、ドア横のボタンを押してドアを開けてください。白馬、白馬です。ご乗車ありがとうございました。1番線の電車は10時13分発、普通列車の松本行きです。ご乗車になりますと、すぐの発車となります。お近くのドアからご乗車ください」〕

 稲生達は前の車両に乗り込んだ。
 車内はさすがに暖房が効いて暖かい。
 ボックスシートではなく、ドア横の2人席に並んで座った。
 この方が『魔女』のマリアが落ち着くからである。
 都会の通勤電車みたいな座り方で旅情は薄れるが、致し方無いし、考えようによっては、この方がマリアと密着できるという稲生にとってはメリットな部分もある。

〔「お待たせ致しました。普通列車の松本行き、まもなく発車致します」〕

 通常はワンマン運転なのだが、冬期はスキー客などで需要がある為か、ツーマン運転になることもある。
 スキー客が押し寄せるのは、この時間ならむしろ松本から(引いては東京方面から)の下り列車だと思うのだが、そこは乗務行路の都合もあるのだろう。
 電車はVVVFインバータの音を響かせて、白馬駅を出発した。

〔「JR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は信濃大町方面、普通列車の松本行きです。飯森、神城、南神城、簗場の順に、終点松本までの各駅に停車致します。途中、信濃大町には10時50分、【中略】終点松本には11時46分の到着です。電車は終点まで2両編成での運転です。お手洗いは後ろの車両にございます。【中略】次は飯森、飯森です」〕

 マリアはバッグの中からB5版サイズほどの魔道書を取り出して、それを読み出した。
 尚、網棚に置いた大きめの荷物の中には前回と同様、ミク人形とハク人形が入っている。
 普通列車には車内販売が無いと知っているのか、今はおとなしく鞄の中に入っていた。
 魔道書を読む時、マリアは赤い縁の眼鏡を掛けるが、これはダンテが書いたラテン語を英語に翻訳する為である。
 稲生が取り出したのも魔道書だが、マリアが読んでいるものと比べると難易度は低い。
 これはマリアが一人前になっているのに対し、稲生はまだ見習だからという差である。
 因みにこの魔道書、ただの本ではない。
 稲生が読める魔道書では、ダンテ一門に所属する魔道師全てのプロフィールを読むことができるのだ。
 クリスマスパーティ期間中の夜中に襲って来たリリィのもある。
 本に映し出される姿は、コミュ障の地味な少女の時のものであり、覚醒したパンクな姿を見ることはできない。
 何気に更新されており、『諸事情により、無期限の禁酒令が下されている』とあった。
 少女とはいえ、フランス人で酒が禁止されたか。
 まあ、これも自業自得の修行であろう。

[同日11:46.天候:晴 JR松本駅]

 電車が大糸線の終点駅に近づく。
 だいぶ車内は混んで来た。
 スキー板やスノーボードを抱えた乗客も散見されることから、これから滑りに行くというよりも、昨日から滑っていてこれから帰るパターンだろうか。

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、松本、松本です。到着ホームは6番線、お出口は右側です。どなた様もお忘れ物の無いよう、よくお確かめの上、お降りの準備をお願い致します。松本駅からのお乗り換えのご案内です。今度の篠ノ井線、中央本線直通、特急“あずさ”16号、新宿行きは、2番線から12時ちょうどの発車です。【中略】本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 運転席からATSの警報音が聞こえてくる。
 信号を冒進しているわけではなく、単に場内信号が注意(黄色)を現示しているだけである。
 道路の信号機ではブレーキを踏まなければならないが(なに?名古屋では逆にアクセルを踏むって!?)、鉄道の信号機は速度制限が付いているだけで停止の義務は無い。

 電車はゆっくりとホームに入り、そして停止した。
 終点駅であってもドアは自動では開かず、ドア横のボタンを押さなくてはならない。
 尚、6番線の隣の7番線はアルピコ交通(松本電鉄)のホームになっており、そこへの乗り換えは便利である。
 特急に乗り換える稲生達は、荷物を持って階段を登らなくてはならない。

 稲生:「マリアさん、お弁当買って行きましょうよ」
 マリア:「おっ、そうだな」
 稲生:「車内販売もあるでしょうけど、もうお昼ですから」
 マリア:「分かった」

 車内販売有りの言葉に反応し、ゴソゴソのキャリーバッグから顔を出すハク人形とミク人形。

 稲生:「今はダメだよ、出て来ちゃ!」

 稲生が注意すると、すごすごとバッグの中に戻る人形2体。
 最近は稲生の言う事も聞くようになったか。

 稲生:「牛肉弁当ください。あと、温かいお茶も」
 マリア:「ん?確かに美味しそうだ。私もそれ」
 稲生:「2つください」

 だが、お茶に稲生はほうじ茶を買ったのに、マリアはストレートティーを求める辺りがちょっと違う。

〔ご案内致します。今度の2番線の列車は、12時ちょうど発、特急“あずさ”16号、新宿行きです。……〕

 ホームから沢田敏子氏の案内放送が聞こえた。
 有名な声優で、ラジオライブラリー“新・人間革命”の朗読もしている。
 稲生達は駅弁とお茶を買い込むと、特急の発車する2番線へと向かった。
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“大魔道師の弟子” 「出発前の大掃除」

2016-12-28 16:44:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月28日09:00.天候:晴 長野県北部某所 マリアの屋敷]

 イリーナ:「出発前に、部屋をきれいにしてからにしましょうね」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「人形達がやってくれますよ?」
 イリーナ:「たまには自分でやりなさい」
 マリア:「ちっ……」
 稲生:「ははは……」

 稲生は自分の部屋に戻った。

 稲生:「ダニエラさん、掃除機貸して」
 ダニエラ:「ダイソンの吸引力の変わらない掃除機と、ダイマオンの吸ったゴミを魔界のどこかへ送る魔法の掃除機とどちらになさいますか?」
 稲生:「何ですか、ダイマオンって!?大魔王のもじりですか!?普通のでいいですから!」
 ダニエラ:「かしこまりました……」

 それでも稲生の場合、そんなに部屋に物は置いていない。
 掃除機で埃を吸い取ったり、バスルームを掃除するだけで終わった。

 稲生:「うーん……こんなものかな?ダニエラさんがいつも掃除してくれてるから楽ですよ」

 稲生は机の上を拭いた。
 その後で水晶球を見る。

 稲生:「マリアさん達はまだやってるのか……。そうだ。僕は他の部屋を掃除してこよう」

 稲生は部屋の外に出た。

 稲生:「僕の部屋だけ鍵が別だけど、他の鍵はそのエリアの担当メイドが持ってるんだよね?」
 ダニエラ:「さようでございます……」
 稲生:「このエリアの鍵は剣の鍵か」

 要はタグに剣の絵が描いてある鍵のことである。

 稲生:「ダニエラさんが持っていたりしない?」
 ダニエラ:「…………」(←ニヤリと笑って、エプロンのポケットから剣の鍵を取り出す)
 稲生:「ありがとう」

 稲生が住んでいる部屋はゲストルームのうちの1つである。
 要は剣の鍵というのは、このゲストルームの鍵のことなのである。
 稲生の部屋だけ鍵を変えてもらい、それは矢の鍵となった。
 弓の鍵はマリアの部屋の鍵である。
 因みに、VIPルームだけは鍵で開かず、魔法でないと開けられない。
 先日はダンテが宿泊したが、それ以外の日はイリーナが使っている。
 そのイリーナもこの屋敷に常駐しているわけではないので、空室であることが多い。

[同日11:00.天候:晴 マリアの屋敷2F東側]

 稲生:「いやあ、全部の部屋を掃除すると、さすがにいい運動になるねぇ……。ダニエラさん、次は西側に行こう。向こうの鍵は誰が持ってるの?」
 ダニエラ:「稲生様……恐れ入りますが、稲生様はもうこの辺でよろしいかと……」
 稲生:「え?どうして?」
 ダニエラ:「イリーナ様は『自分の部屋を掃除せよ』と仰せでした。稲生様は既にそれを達成しておられ、且つ周辺の部屋も掃除しておられます。もう十分なのではないかと……」
 稲生:「いや、そんなことは無いよ」
 ダニエラ:「それに……本日の食事当番は私ですので、そろそろ昼食の準備をしなくてはなりません」
 稲生:「そうか。分かったよ。それじゃ、僕は鍵の開いている部屋を掃除することにしよう」

 稲生は西側の2Fエリアに向かった。
 夜になれば……昼であっても不慣れだと不気味なホラー屋敷。
 さすがは魔女が居住しているだけのことはある。

 稲生:「えーと、ここは渉外室だな。普段使ってないだけに、埃っぽいや」

 何故か壁に、暴対法の条文が書かれた紙が貼られている。
 企業ゴロが現れた時に通す、特別な応接室のようだ。

 稲生:「えーと、この部屋の注意点は……。奥の控室の壁に掛かっているショットガンを取らないように、か……」

 稲生は手帳を見ながら、部屋のトラップに引っ掛からないようにした。
 この屋敷自体がダンジョンである為、謎解きの書かれたメモを手帳に書きつけていた。

 稲生:「ショットガンを取ると、天井が実は吊り天井になっていて、ドアがロックされ、落ちてくる天井に押し潰されてバッドエンド直行か……。凄い仕掛けだな」

 あまり余計な物が置かれていない為、稲生は掃除機を掛けて埃を吸い出したり、テーブルの上を拭くだけで良かった。
 渉外室の掃除はすぐに終わる。
 今度は別の部屋に向かった。

 モンスターA:「我を見た者……殺す……!」
 稲生:「僕だよ!部屋の掃除に来ただけだ!」

 屋敷内を警備しているのはメイド人形だけではない。
 イリーナが魔界から連れて来た番犬もいたりする。
 もちろん、丸腰では即死エンドとなる。

 モンスター:「ちっ……」
 稲生:「ちって何だよ、ちって!」

 また、ある部屋では……。

 モンスターB:「ガウウウッ!!」
 稲生:「ちょっと待った!部屋の掃除に来ただけだから!」

 大きな口を開けて稲生に飛び掛かって来る猛獣モンスターがいたが、稲生は木の棒で口の中につっかえ棒をした。

 モンスターB:「あがががががが!?」(←口を開けた状態でつっかえ棒がされて、口を閉じれない)
 稲生:「多分この屋敷……ステージ1辺りに持って来られそうな雰囲気なんだけど、いきなりハードモードな造りとトラップだもんなぁ……」

 更に別の部屋では……。

 稲生:「えーと、なに?ドアを開けるのに数字を『58』にしないといけない?キハ58系かよ」

 ダイヤルを左に回したり、右に回したり……。

 稲生:「ゲームと同じで、何とかなる精神でやってますw」

 ピーン♪ガチャ……。

 稲生:「よし、開いた」

[同日12:00.天候:晴 マリアの屋敷1F西側 大食堂]

 イリーナ:「そろそろお昼にしましょう。お?今日のお昼はパスタね。おーい、ユウタ君!あなたのはミートソースだお!」

 イリーナはボンゴレ、マリアはペペロンチーノという細かさ。

 イリーナ:「あれ?ユウタ君、部屋にいないの?」
 マリア:「他の部屋を掃除しているらしいです。……まさか、トラップに引っ掛かって!?」
 イリーナ:「うそ……!?大至急、各部屋を捜索して!」

 イリーナがメイド人形達に命令を出した直後だった。
 大食堂の床は、白とグレーのチェック柄タイルが敷かれている。
 マリアの座っている椅子のすぐ前のタイルが持ち上げられて……。

 稲生:「やっと出られた!さすが地下室は難易度が高……あれ!?」

 稲生がタイルの中から出てきた時、目の前にはマリアの下半身があった。

 マリア:「!!!」

 マリア、慌ててパッとスカートを押さえた。

 稲生:「うあっ!?」

 テーブルの中から這い出てくる稲生。

 イリーナ:「お帰り。ご苦労さんだったね」
 稲生:「まだ2階の一部と地下室の一部しか掃除できてません。盾の鍵が見つからなくて……」
 イリーナ:「ゴメーン。アタシが持ってた。てへてへw」
 稲生:「なーんだ、勘弁してくださいよ、先生」
 イリーナ:「ま、御褒美はさっき見たマリアのパンツでいいでしょ。早いとこ食べよう」
 マリア:「……!!」
 稲生:「いや、マリアさん、僕見てませんから!」
 マリア:「大掃除はもう終了でいいですよね、師匠?」

 こめかみに怒筋を浮かべるマリアだった。

 イリーナ:「そ、そうね。後は人形達に任せましょう」

 昼食が喉を通りにくい3人だった。
 住人の稲生ですら脱出困難な屋敷ということが露呈されてしまった。
 もしこれが侵入者だったとしたら、盾の鍵を手に入れるのにイリーナを倒さなければならないという、ベリーハードという言葉ですら手ぬるい難易度だったわけである。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「皆の仕事納め」

2016-12-28 10:11:39 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月28日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]

 敷島:「仕事納めだから会社の大掃除でもしようかと思っていたんだが、移転して間もないから、まだそんなに汚れてないんだよな」
 シンディ:「そうですね」
 敷島:「まあ普段、キミ達が掃除してくれてるからってのもあるけど」
 シンディ:「ありがとうございます。忘年会は会議室ですか?」
 敷島:「ああ。寿司とかオードブルとか、もう予約してあるだろう?本当はこっちの方がいいよ」

 敷島は『敷島家のクリスマスパーティ』という悪夢を思い出した。

 敷島:「老害ジジィ共の相手より、こうして会社の為に頑張ってくれた社員の皆やボーカロイド達を労う方がさ」
 シンディ:(その老害ジジィ達から、かなり資金をもらってるのにねぇ……)

 そこはシンディ、空気を読んで飲み込む。
 しかしエミリーなら、はっきりと言うだろう。

 敷島:「でも社長、この業界は年末年始も関係無いんじゃないの?」
 シンディ:「まあな。だけど一応、ケジメとして仕事納めと仕事始めはちゃんとしようってことさ。本来例え芸能事務所であっても、俺のような役員や事務方は休みになるはずなんだ」
 シンディ:「なるほど……」
 敷島:「年末年始特番ったって、殆どは収録だしね。まあ、収録番組の癖にお台場のテレビ局は『LIVE』なんて表示を……」
 シンディ:「あら、電話だわ」
 敷島:「んんっ!?」

[同日11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 アリス:「うん、これで良しっと……」
 アルエット:「ありがとうございます!」

 アリスはアルエットの整備を行っていた。

 アルエット:「科学館はお休みなんですね」
 アリス:「そう。クリスマスが終わってから、来年の4日までね」
 アルエット:「何だか寂しいなぁ……」
 アリス:「年末年始だけ、あなたは会社に戻ることになるよ。会社にはボーカロイドもいるし、これなら寂しくないでしょう?」
 アルエット:「お姉ちゃんはいますか!?」
 アリス:「シンディはうちで護衛することになるから、会社にはいないよ」
 アルエット:「えーっ!」
 萌:「博士、博士!翔太さんは!?翔太さんは会社にいないんですか!?」
 アリス:「ショータ?ああ、井辺プロデューサーのこと?一応、プロデューサーも年末年始は休みってことになってるからねぇ……。でもあの人、ぷらっと会社に来ることがあるみたいだから、何とも言えないよ」
 萌:「……分かりました。( ̄ー ̄)」
 アルエット:(鞄の中に忍び込んで、こっそりついて行くつもりだな……)

 萌は唯一の妖精型である。
 KR団としてはマルチタイプよりも更に、スパイや破壊工作に特化したロボットを製造しようとしたらしいが、KR団最後の研究者である吉塚広美がファンシーキャラとしての妖精に設計し直した。

 アリス:「Next!」

 アリスが研究室の外に向かって声を掛けると、ガシャンガシャンと鍬を担いだゴンスケが入って来た。

 ゴンスケ:「あ、ども。よろしくお願いしますです」
 アリス:「エミリーにイモ畑を焼き払われても尚、めげずに畑を作り直したそのバイタリティは立派なものだわ」
 アルエット:「お姉ちゃん達、怒らせると怖いモンねー」
 アリス:「アルエットと萌は外に出ていなさい」
 アルエット:「はーい」

 萌はアルエットの肩に掴まって、移動を楽していた。

[同日12:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学 南里志郎記念館]

 学生A:「トイレ掃除終わりました!」
 学生B:「今時、紐引っ張って流すタイプとは……」

 因みに作者も、紐引っ張って流すトイレをガチで見たのは1回だけである。
 改築前の東北急行バス仙台営業所の中。

 平賀:「ご苦労さん。エミリーが常設展示されてるんだから、せめて改築くらいしてくれって学長に頼んでるんだけど、なかなか予算を出してくれなくてねぇ……」
 学生C:「昔の先輩達みたいに、学生運動して予算出してもらいましょうよ!」
 学生D:「オメー、いつの時代の話してんだ?」
 学生E:「先生、どうして予算が降りないんですか?講堂はしっかり建て直ししてたじゃないですか」
 平賀:「七海を作った時に、ヤツが色々と物ぶっ壊したりしてたんもんで、それが未だに尾を引いてるらしい」
 学生A:「マジっすか!」
 平賀:「スマン、みんな。自分達のせいで、このゼミもなかなか予算が……」
 学生B:「その七海さんがようやく実用化されて、量産化にも成功したってのに……」
 平賀:「ほら、自分も最近は人のこと言えないんだけど、ここは理系大学だろ?頭の固い教授達が多いんだよ」
 学生C:「学長がケチなだけだと思います」
 学生D:「異議なーし!」
 学生E:「異議なーし!」
 エミリー:「プロフェッサー平賀。展示エリアの・掃除が・終わりました」
 平賀:「ご苦労さん。これで記念館の方は、粗方終わったかな?皆、朝から悪かったな」
 学生A:「いえいえ」
 学生B:「問題無いッス!」

 エミリーは平賀と学生達の様子を微笑を浮かべて見ていた。

 エミリー:(平賀博士にアンドロイドマスターの素質が無いかと言ったら、そうでもない。だけど、やはり敷島社長の前ではどうしても霞む。東京決戦の際、シンディに殺され掛かったことは大きなマイナスだ……。敷島社長がシャーロックホームズだとしたら、平賀博士はワトソンか……)

[同日18:00.天候:晴 敷島エージェンシー]

 敷島:「さあさあ、皆!今年1年お疲れさん!こんなことくらいしかできなくて申し訳無いけど、寿司食いねぇ!酒飲みねぇだ!好きに盛り上がってくれ」
 井辺:「えー、それでは皆様、コップを拝借……」

 尚、事務所にいるボーカロイドはラジエーターに入れる水か、或いはロボット用の機械オイルである。

 井辺:「お疲れさまでした!」

 適当に社員達が出前の寿司やオードブル盛り合わせをつまんでいると、シンディが慌てて敷島の所に駆け付けた。

 敷島:「えっ、叔父さんが!?」

 そこへ入って来たのは、敷島の叔父の敷島俊介だった。
 親会社の四季エンタープライズの代表取締役社長である。

 井辺:「敷島社長!」
 孝夫:「ん?何だい?」
 俊介:「いや、オマエじゃない!……ああ、いやいや!気を使わなくて結構!『敷島家のクリスマスパーティ』に私は海外出張で参加できず、ここにいるもう1人の社長が散々グチグチ言っていたという話を小耳に挟んだものでねぇ……」
 孝夫:「ここの事務所は盗聴器でも仕掛けられてるんですか!?」
 俊介:「何を言っているのか分からんが、私がこうしてここに来たのは、そんな孝夫の愚痴に付き合ってくれた社員の皆さんを労う為だ」
 孝夫:「俺のせい!?」
 俊介:「まあ、皆さん。こんなまだ社長としては青臭いヤツではありますけども、何とかよろしくやってください。というわけで、私からも感謝の気持ちを!」

 俊介がパチンと指を鳴らすと、鯛の活け造りや船盛、更には高級日本酒などが運ばれて来た。

 孝夫:「おおっ、さすがは叔父さん!……では私が代表として、味見をば!」
 俊介:「あー、シンディ君。そこの社長を止めたまえ」
 シンディ:「はーい」

 シンディ、後ろから敷島を羽交い絞めにする。

 孝夫:「こら、シンディ!何をする!?」
 シンディ:「社長の命令です」
 鏡音リン:「おおっ!?シンディのおっぱいが社長の背中にムニュムニュ当たってるYo!?」
 MEIKO:「それに対抗できるのは、バスト90cmのルカ(※)だけよ!」

 ※クリプトン社、公式設定です。

 俊介:「はっはっはー!盛り上がってるねー!それじゃ、来年も良いお年を。メリークリスマス!」
 孝夫:「何がメリークリスマスだ!シンディ、放せ!」

 敷島エージェンシーの仕事納めは、昨年の旧事務所時代もだいたいこんな感じだったという。
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