[1月8日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島のマンション]
敷島は平賀と夕食を取った後、マンションに戻った。
敷島:「ただいまァ」
二海:「お帰りなさいませ、社長」
アリス:「遅かったじゃない」
敷島:「悪かった。てか、もう起きて大丈夫なのか?」
アリス:「何とかね。で、まさか手ぶらで帰ってきたんじゃないでしょうね?」
敷島:「分かってるって。これでどうだ?」
敷島はケーキの入った箱を掲げた。
敷島:「甘い物は脳にいいんだったな?」
アリス:「まあ……しょうがないね。今度は早く帰って来てよ」
敷島:「了解、了解。シンディ、アリスに切り分けてあげてくれ」
シンディ:「かしこまりました」
アリス:「タカオとトニーの分は?」
敷島:「いや、俺はいいよ。トニーは?」
二海:「お坊ちゃまはもう既にお休みです」
シンディ:「冷蔵庫に入れておけば、1日くらい持つでしょ。それに、社長のショートケーキもあるでしょ」
敷島:「アリスが食べたければいいよ」
アリス:「あら、そう?じゃ、頂きまーす」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら。
アリスは満面の笑みを浮かべて、ケーキを口に運んだのだった。
アリス:「ああ、そうそう。エミリーの件はどうするの?」
敷島:「お前はどうするべきだと思う?シンディの出番が、かなり少なくなってしまうぞ」
アリス:「私的には、家にメイドが2人いた方がいい気はするけどねぇ……。おかげで、保育園要らずだよ」
敷島:「秘書は1人で十分だ。会社には他に一海もいるし」
シンディ:「私は別に、お坊ちゃまの子守り役でいいですよ」
敷島:「うーん……。あとはアリスの護衛をしてもらうとかだな……」
アリス:「私の?」
敷島:「キミも十分、KR団の残党から狙われるような存在に見えるぞ?」
アリス:「そうかな?」
敷島:「何だかんだ言って、マルチタイプを造れる技術者は狙われるってことだ。平賀先生は七海を強化して対応するとのことだ」
シンディ:「何気に七海も頑丈だからね。まだメイドロイドが規格化される前の試作中の試作なだけに、ね」
アリス:「七海を強化?どうするつもりなの?」
敷島:「もう少し頑丈にして、レーザーガンでも装備させるんじゃないか?」
アリス:「まるでマルチタイプだね」
敷島:「だからこそ、平賀先生はもうエミリーは要らないのかもしれない。師事していた南里所長の遺言もあるから、一応はオーナー登録しているけどな。だけど使わず、記念館暮らしをさせているんだから、持て余しているのは事実だろう」
アリス:「だったら……」
敷島:「ん?」
アリス:「早いとこエミリーと契約した方がいいわ。シンディと交替で働かせてもいいしね」
敷島:「慌てなくてもいいって平賀先生は言ってたし……」
アリス:「いつでも登録変更はできるから、みたいなこと言ってなかった?」
敷島:「ああ、言ってたぞ。よく知ってるな?」
アリス:「!……早く契約して!」
敷島:「何だ、どうした?」
アリス:「すぐに契約変更できるようにしているということは、ある程度のセキュリティを解除してるってことだよ。もしKR団の残党みたいなヤツらにそれを知られたら……」
敷島:「そんなことがあるのか?」
アリス:「アタシはその隙を突いて、エミリーを操ったんだからね!」
敷島:「……ああっ!」
敷島は昔の出来事を思い出した。
まだアリスが敵対していた頃だ。
養祖父のウィリーが敷島達のせいで死んだと誤解していたアリスは、その仇討ちをするべく、ある作戦を立てた。
エミリーの所有権が平賀に移される際、セキュリティが甘くなることを知ったアリスは、切り替え時期を狙ってハッキングした。
その作戦は成功し、オーナー登録をアリスにされたエミリーは悪堕ちして敷島達に襲い掛かったことがある。
その時、ボーカロイドの鏡音リンとレンが意外な活躍をしてくれた。
結果的にはアリスを冷凍倉庫に閉じ込めることに成功し、エミリーもバッテリー切れに追い込んで停止させた。
敷島:「で、でもユーザー登録だけだぞ?オーナー登録はセキュリティはそのままだから……」
アリス:「甘い甘い!アタシはユーザー登録からオーナー登録設定に入り込んだから、1つでも甘くなってるとヤバいよ?」
敷島:「! すぐに平賀先生に連絡する」
敷島は急いでスマホを出した。
アリス:「通話はダメよ!メールにして!」
敷島:「メールか?」
アリス:「アタシは電話の盗聴もしたから」
敷島:「オマエなぁ……」
シンディ:「…………」
JARA財団VSアリス軍団の頃、シンディは前期型のボディは破砕処分され、後期型のボディは東北地方の廃ホテルに保管されていたので、この出来事については一切知らない。
アリス:「こっちはシンディがいない状態だったんだからね」
シンディ:「役立たずで申し訳ありませんでした」
アリス:「いいのよ。じー様の使い方が悪かったんだから」
敷島:「しょうがねーな……」
敷島はPCで平賀のPCにメールを打った。
敷島:「PCがハッキングされたら結局ヤバいんじゃないか?」
アリス:「直接的な通話を盗聴されるよりはマシだよ」
シンディ:「何でしたら、私と姉さんとで代わりに交信しましょうか?」
アリス:「いや、それもダメ。アンタ達のやり取りは、バージョン・シリーズも聞いてる。KR団の残党がバージョンを確保していたら、そいつを使って傍受する恐れがあるわ」
シンディ:「こ、これは失礼しました」
敷島:「よし。送信したぞ」
アリスの発言については平賀も意外だったようで、急いでセキュリティを元に戻す旨の返信が返って来た。
その後で、敷島は電話を掛けた。
敷島:「平賀先生。エミリーと代わって頂けませんか?」
[同日同時刻 天候:晴 さいたま市大宮区 パレスホテル大宮]
平賀:「エミリーとですね。少々お待ちください。エミリー、敷島さんだ」
エミリー:「イエス」
エミリーは平賀と電話を替わった。
平賀は急いでエミリーの動作や状態などを監視しているソフトを立ち上げる。
オーナーしかアクセス権限の無いものだ。
エミリー:「敷島さん……」
敷島:「あー、エミリー。実は諸事情があって、再びお前のユーザー登録のセキュリティ状態を元に戻すことになった。だけど、心配するな。今現在、俺はお前のユーザーに登録してもらう方向で話を進めている」
エミリー:「ありがとう・ございます……」
敷島:「今、お前をどう使おうか検討中だ。せっかくのマルチタイプだからな。持ち味を生かせない使い方は、俺はしない。だから答えが見つかるまで、しばらく待ってもらいたい」
エミリー:「かしこまりました。つまり・私との・契約は・内定と・いうことで・よろしい・ですか?」
敷島:「そういうことだ。悪いな。長く待たせてしまって。優柔不断でなかなか即決できない。人間なんて、そういうもんだ。分かるか?お前はそんな人間に使われようとしてるんだぞ?」
エミリー:「敷島さんに・使われる・のでしたら・お待ちして・おります」
敷島:「ああ、悪いな。とにかく、そういうことだから。いずれによ、オーナーは平賀先生なんだから、平賀先生の言う事はちゃんと聞くんだぞ?」
エミリー:「承知して・おります」
敷島の電話が切れて、エミリーも受話器を置いた。
エミリー:「プロフェッサー平賀……」
平賀:「ん?もう電話終わったのか?……どうした?」
エミリーは両目からポロポロと涙を流していた。
エミリー:「嬉しいです……。本当に・嬉しい……」
平賀:「そうか。敷島さんなら、使い方を間違えることも無いだろうからな。そんなに嬉しいか」
エミリー:「イエス……」
平賀:「……よし、セキュリティを元に戻したぞ。ハッキングされた跡は無いから、間に合ったらしいな。風呂に入るから、バスタブに湯を入れてくれ」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは頷くとバスルームに向かった。
その様子を見ながら平賀は煙草に火を点けた。
平賀:「やはりエミリーは、敷島さんが使う方がいいか。アンドロイドマスター、ねぇ……。俺達、研究者には付かない称号だな」
敷島は平賀と夕食を取った後、マンションに戻った。
敷島:「ただいまァ」
二海:「お帰りなさいませ、社長」
アリス:「遅かったじゃない」
敷島:「悪かった。てか、もう起きて大丈夫なのか?」
アリス:「何とかね。で、まさか手ぶらで帰ってきたんじゃないでしょうね?」
敷島:「分かってるって。これでどうだ?」
敷島はケーキの入った箱を掲げた。
敷島:「甘い物は脳にいいんだったな?」
アリス:「まあ……しょうがないね。今度は早く帰って来てよ」
敷島:「了解、了解。シンディ、アリスに切り分けてあげてくれ」
シンディ:「かしこまりました」
アリス:「タカオとトニーの分は?」
敷島:「いや、俺はいいよ。トニーは?」
二海:「お坊ちゃまはもう既にお休みです」
シンディ:「冷蔵庫に入れておけば、1日くらい持つでしょ。それに、社長のショートケーキもあるでしょ」
敷島:「アリスが食べたければいいよ」
アリス:「あら、そう?じゃ、頂きまーす」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら。
アリスは満面の笑みを浮かべて、ケーキを口に運んだのだった。
アリス:「ああ、そうそう。エミリーの件はどうするの?」
敷島:「お前はどうするべきだと思う?シンディの出番が、かなり少なくなってしまうぞ」
アリス:「私的には、家にメイドが2人いた方がいい気はするけどねぇ……。おかげで、保育園要らずだよ」
敷島:「秘書は1人で十分だ。会社には他に一海もいるし」
シンディ:「私は別に、お坊ちゃまの子守り役でいいですよ」
敷島:「うーん……。あとはアリスの護衛をしてもらうとかだな……」
アリス:「私の?」
敷島:「キミも十分、KR団の残党から狙われるような存在に見えるぞ?」
アリス:「そうかな?」
敷島:「何だかんだ言って、マルチタイプを造れる技術者は狙われるってことだ。平賀先生は七海を強化して対応するとのことだ」
シンディ:「何気に七海も頑丈だからね。まだメイドロイドが規格化される前の試作中の試作なだけに、ね」
アリス:「七海を強化?どうするつもりなの?」
敷島:「もう少し頑丈にして、レーザーガンでも装備させるんじゃないか?」
アリス:「まるでマルチタイプだね」
敷島:「だからこそ、平賀先生はもうエミリーは要らないのかもしれない。師事していた南里所長の遺言もあるから、一応はオーナー登録しているけどな。だけど使わず、記念館暮らしをさせているんだから、持て余しているのは事実だろう」
アリス:「だったら……」
敷島:「ん?」
アリス:「早いとこエミリーと契約した方がいいわ。シンディと交替で働かせてもいいしね」
敷島:「慌てなくてもいいって平賀先生は言ってたし……」
アリス:「いつでも登録変更はできるから、みたいなこと言ってなかった?」
敷島:「ああ、言ってたぞ。よく知ってるな?」
アリス:「!……早く契約して!」
敷島:「何だ、どうした?」
アリス:「すぐに契約変更できるようにしているということは、ある程度のセキュリティを解除してるってことだよ。もしKR団の残党みたいなヤツらにそれを知られたら……」
敷島:「そんなことがあるのか?」
アリス:「アタシはその隙を突いて、エミリーを操ったんだからね!」
敷島:「……ああっ!」
敷島は昔の出来事を思い出した。
まだアリスが敵対していた頃だ。
養祖父のウィリーが敷島達のせいで死んだと誤解していたアリスは、その仇討ちをするべく、ある作戦を立てた。
エミリーの所有権が平賀に移される際、セキュリティが甘くなることを知ったアリスは、切り替え時期を狙ってハッキングした。
その作戦は成功し、オーナー登録をアリスにされたエミリーは悪堕ちして敷島達に襲い掛かったことがある。
その時、ボーカロイドの鏡音リンとレンが意外な活躍をしてくれた。
結果的にはアリスを冷凍倉庫に閉じ込めることに成功し、エミリーもバッテリー切れに追い込んで停止させた。
敷島:「で、でもユーザー登録だけだぞ?オーナー登録はセキュリティはそのままだから……」
アリス:「甘い甘い!アタシはユーザー登録からオーナー登録設定に入り込んだから、1つでも甘くなってるとヤバいよ?」
敷島:「! すぐに平賀先生に連絡する」
敷島は急いでスマホを出した。
アリス:「通話はダメよ!メールにして!」
敷島:「メールか?」
アリス:「アタシは電話の盗聴もしたから」
敷島:「オマエなぁ……」
シンディ:「…………」
JARA財団VSアリス軍団の頃、シンディは前期型のボディは破砕処分され、後期型のボディは東北地方の廃ホテルに保管されていたので、この出来事については一切知らない。
アリス:「こっちはシンディがいない状態だったんだからね」
シンディ:「役立たずで申し訳ありませんでした」
アリス:「いいのよ。じー様の使い方が悪かったんだから」
敷島:「しょうがねーな……」
敷島はPCで平賀のPCにメールを打った。
敷島:「PCがハッキングされたら結局ヤバいんじゃないか?」
アリス:「直接的な通話を盗聴されるよりはマシだよ」
シンディ:「何でしたら、私と姉さんとで代わりに交信しましょうか?」
アリス:「いや、それもダメ。アンタ達のやり取りは、バージョン・シリーズも聞いてる。KR団の残党がバージョンを確保していたら、そいつを使って傍受する恐れがあるわ」
シンディ:「こ、これは失礼しました」
敷島:「よし。送信したぞ」
アリスの発言については平賀も意外だったようで、急いでセキュリティを元に戻す旨の返信が返って来た。
その後で、敷島は電話を掛けた。
敷島:「平賀先生。エミリーと代わって頂けませんか?」
[同日同時刻 天候:晴 さいたま市大宮区 パレスホテル大宮]
平賀:「エミリーとですね。少々お待ちください。エミリー、敷島さんだ」
エミリー:「イエス」
エミリーは平賀と電話を替わった。
平賀は急いでエミリーの動作や状態などを監視しているソフトを立ち上げる。
オーナーしかアクセス権限の無いものだ。
エミリー:「敷島さん……」
敷島:「あー、エミリー。実は諸事情があって、再びお前のユーザー登録のセキュリティ状態を元に戻すことになった。だけど、心配するな。今現在、俺はお前のユーザーに登録してもらう方向で話を進めている」
エミリー:「ありがとう・ございます……」
敷島:「今、お前をどう使おうか検討中だ。せっかくのマルチタイプだからな。持ち味を生かせない使い方は、俺はしない。だから答えが見つかるまで、しばらく待ってもらいたい」
エミリー:「かしこまりました。つまり・私との・契約は・内定と・いうことで・よろしい・ですか?」
敷島:「そういうことだ。悪いな。長く待たせてしまって。優柔不断でなかなか即決できない。人間なんて、そういうもんだ。分かるか?お前はそんな人間に使われようとしてるんだぞ?」
エミリー:「敷島さんに・使われる・のでしたら・お待ちして・おります」
敷島:「ああ、悪いな。とにかく、そういうことだから。いずれによ、オーナーは平賀先生なんだから、平賀先生の言う事はちゃんと聞くんだぞ?」
エミリー:「承知して・おります」
敷島の電話が切れて、エミリーも受話器を置いた。
エミリー:「プロフェッサー平賀……」
平賀:「ん?もう電話終わったのか?……どうした?」
エミリーは両目からポロポロと涙を流していた。
エミリー:「嬉しいです……。本当に・嬉しい……」
平賀:「そうか。敷島さんなら、使い方を間違えることも無いだろうからな。そんなに嬉しいか」
エミリー:「イエス……」
平賀:「……よし、セキュリティを元に戻したぞ。ハッキングされた跡は無いから、間に合ったらしいな。風呂に入るから、バスタブに湯を入れてくれ」
エミリー:「かしこまりました」
エミリーは頷くとバスルームに向かった。
その様子を見ながら平賀は煙草に火を点けた。
平賀:「やはりエミリーは、敷島さんが使う方がいいか。アンドロイドマスター、ねぇ……。俺達、研究者には付かない称号だな」