報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「敷島エージェンシーの仕事始め」

2017-02-03 19:06:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月4日06:38.天候:晴 JR大宮駅・新幹線ホーム]

 敷島:「今日から仕事始めか。今年もいいことあるといいなぁ……」
 シンディ:「その為の初詣では?」
 敷島:「まあ、そうなんだけどなぁ……」

〔14番線に6時39分発、“なすの”252号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から8号車と10号車です。まもなく14番線に、“なすの”252号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 結局、小切手は返せずじまいだった。
 後で電話してみると、
「ワシの好意が受け取れんのか!」
 と、逆ギレされた。
 仕方が無いので、本当にトニーの為に使うことにした。

〔「14番線、ご注意ください。“なすの”252号、東京行きの到着です。お下がりください。黄色い線の内側をお歩きください。グリーン車以外は全部自由席です」〕

 東北新幹線では古参のE2系と呼ばれる車両がホームに滑り込んできた。

 シンディ:「社長、今思ったんだけど……」
 敷島:「何だ?」
 シンディ:「好決算なんだから、社長もこのまま新幹線通勤にしたら?その方が、ワンルームマンション借りるより安くつくと思うけど?」
 敷島:「元も子もないこと、言うなァ……」

 大仰なエアの音と共にドアが開く。

〔「おはようございます。大宮、大宮です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 敷島達は1号車に乗り込んだ。
 もっと遅い時間になると、新幹線通勤客で自由席は満席になるが、始発列車はまだ空いていた。
 シンディと2人席に座る。
 すぐにホームから、発車ベルの音が僅かに聞こえてきた。

 敷島:「俺がワンルームマンション借りてるのは、会社に何かあった時の為、すぐに駆け付けられるようにってことなんだ。何しろ、ボカロは大事な財産だからな」
 シンディ:「新幹線なら東京まで25分しか掛からないし、そこからタクシー飛ばせば15分で着くでしょ?」
 敷島:「40分じゃ遅いな」
 シンディ:「アタシが一っ飛びすれば駆け付けられるよ。緊急用だから片道の燃料しか無いけど、大宮から豊洲までは持つと思う」
 敷島:「いや、それでもダメだ。東雲なら、車で10分から15分で着ける。それでいいんだ」
 シンディ:「うーん……」
 敷島:「本当は都内に住めたらいいんだろうが、それだとアリスの通勤が大変になるからな。ただでさえあいつ、車通勤だし」

 アリスの勤務先は、さいたま市の郊外である。
 芸能プロダクションは、どうしてもテレビでの収録やイベントの数からして、都内に事務所を構えないと不利になる。

 シンディ:「そうねぇ……」
 敷島:「つまりだ。今の状態でいいってことだ」
 シンディ:「アリス博士も単独で通勤されてるから、護衛という意味では姉さんを呼んだ方がいいかもね。私が博士の護衛をして、姉さんに社長の護衛をしてもらうの」
 敷島:「やはり、そうなるかぁ……」
 シンディ:「そんなにボーカロイド達のことが気になるなら、アタシも一緒に泊まり込んで、あのコ達の警備をしてもいいしね」
 敷島:「そうだなぁ……」

 因みにエミリーに記念館暮らしをさせているくらいだから、平賀については自分の警護は必要無いのだろう。
 平賀には七海というメイドロイドの試作機があるが、護衛としても十分に機能することが数々のデータから証明された。
 エミリーやシンディのように、敵を殲滅するほどの攻撃力は持たないものの、主人を銃撃から守ることはできる。
 だから、エミリーを護衛として使うつもりは無いようである。

 エミリー:「姉さんも、もっと働きたいのよ。プロフェッサー南里相手なら、介護ロイドでも良かっただろうけど、今はもう絶大的な存在の南里博士はもういないんだから」
 敷島:「そうだな。前向きに考えよう」
 シンディ:(聞いた?姉さん、前向きに考えてくれるってよ。だから、もう少し待っててね)

 シンディは300km以上離れた場所に住んでいる姉の所にこっそり通信した。
 姉のエミリーからはご機嫌な様子の返事があった。

 敷島:「だが、やっぱりネックがある」
 シンディ:「何が?」
 敷島:「エミリーはアリスの言う事は聞かないだろう?」
 シンディ:「あ……!」
 敷島:「アリスにとっては、言う事を聞かないロイドは要らないと思うだろう。あいつにとって、使い勝手がいいのはやっぱりシンディなんだよ。エミリーは使い勝手が悪い」
 シンディ:「姉さんに、アリス博士の言う事も聞いておくように伝えておくね」
 敷島:「頼むよ」

 シンディは即座にエミリーに送信した。
 だが、エミリーからの返信は無かった。
 列車が東京駅に到着する頃にやっと返信があったが、ただ単に、『了解』の一言だけであった。

[同日08:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「おはよう、井辺君。今年もよろしくー」
 井辺:「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 敷島が出勤してくると、既に井辺が出勤していた。

 敷島:「どれ、ボーカロイド達に会ってくるか。正月番組とかも頑張ってたもんなぁ……」

 敷島がボーカロイドの控え室に向かった。

 初音ミク:「たかお社長!明けまして、おめでとうございます!」
 敷島:「よう、正月特番の歌、良かったぞ。今年も頑張ってくれな」
 ミク:「はい!」

 敷島がミクの頭を撫でてやると、

 ミク:「えへへ……」

 満面の笑みを浮かべて喜ぶのだった。

 鏡音リン:「あっ!みくみく、いいなーっ!ねぇ、社長!リンもナデナデしてー!」
 鏡音レン:「こーら、リン。いきなり社長に失礼だろ。先に新年のご挨拶をしなきゃ」

 ボーカロイドの双子機といえば、この鏡音リンとレン。
 リンは相変わらずのおきゃんぶりだが、レンはもう少ししっかりしている。
 だが同じ設定年齢14歳ということもあってか、たまに無邪気なところも見せる。

 敷島:「最近は仕事別々になることが多いけど、今年もよろしくな」

 敷島は双子機の頭を両手でナデナデした。

 リン:「わーい!(*´▽`*)」
 レン:「はい、頑張ります!」

 さらに奥に行くと、ボーカロイド年長組がいた。

 KAITO:「あ、社長。明けましておめでとうございます」
 MEIKO:「今年もよろしく。社長なんだから、もう少し遅くてもいいのに……」
 敷島:「はははっ!皆の顔を早く見たくてなぁ!年末特番、ご苦労さんだったな」
 KAITO:「いえいえ」
 MEIKO:「早いとこ、紅白に出たいね」
 敷島:「頑張って営業するよ。ルカは?」
 巡音ルカ:「おはようございます。今年もよろしくお願いします」
 敷島:「ああ、よろしく。お前が1番、堅実な仕事をしてくれてるからな。このままこの調子で頼むよ」
 ルカ:「はい、お任せください」
 敷島:「花柄模様の着物のポスター、よく似合ってたよ。1番、売れ行きが好調らしいじゃないか」
 MEIKO:「アタシと僅差だったんだよ」
 敷島:「そうだったな。MEIKOの場合は、酒瓶片手にほろ酔い状態のグラビアが大人気だったっていうじゃないか」
 MEIKO:「ありがとう」

 あと、敷島はMEGAbyteとも会った。

 敷島:「少しずつ名前が知られているようになっている。この調子で頑張ってくれよ」
 結月ゆかり:「はい!」
 Lily:「了解しました」
 未夢:「頑張ります!」

 敷島はボーカロイド達と会うと、社長室に向かった。

 敷島:「どれ、皆が出勤してくるまで待つか。ボーカロイド達、調子が良くて良かった」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「敷島家のお正月」 2

2017-02-03 10:54:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月1日15:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 敷島家]

 来客:「では、今年もよろしくお願いします」
 敷島:「ええ、こちらこそ」

 来客を見送る敷島。

 敷島:「ボーカロイドが売れるようになってから、急に来訪者が増えるようになったな」
 アリス:「いいことじゃない」
 敷島:「ほんの数年前まで、俺が色んな取引先に新年の挨拶に向かっていたくらいなのに……。これじゃ、行く暇が無いよ」
 アリス:「だから、向こうから来てくれるんじゃない」
 敷島:「迎える方は迎える方で大変なんだな……」

 ピンポーン♪(玄関のインターホン)

 敷島:「うわ、また来た。今度は誰だ?」
 シンディ:「私が……」

 シンディがインターホンの受話器を取った。

 シンディ:「は、はい!?」

 何故かシンディが驚愕している。

 敷島:「ん?誰だ?」
 アリス:「KR団の残党が新年の挨拶に来た?」
 敷島:「シンディのレーザーガンがお返しだな!」

 出力の調整はいくらでも可能なので、公安委員会の前ではポインター程度の出力で誤魔化したという。

 シンディ:「社長、敷島最高顧問がお見えです!」
 敷島:「はあ!?ついに徘徊の認知症が出たか!?」
 敷島孝之亟:「誰が徘徊老人じゃい!」
 敷島:「いや、だって……!」
 孝之亟:「明けまして、おめでとうじゃの」
 アリス:「オメデトウゴザイマス……。(やべっ、びっくりして片言になっちゃった)」

 御存知の通り、アリスは素で日本語がペラペラである。

 敷島:「アポ無しで突然とは……」
 孝之亟:「んっふふふふふ……。ワシゃ昔から、こういうサプライズが好きなんじゃ」
 敷島:「こんな狭いマンションに来なくても、時間が取れたら、こちらから足を運ぶつもりだったんですがね」
 孝之亟:「そうか?一族の誰かが、『“バイオハザード7”のベイカー家みたいな家に誰が行くか!』と言っていたらしいが……」
 敷島:「時系列合わないこと言わないでください!」
 孝之亟:「しかし、ワシも新し物好きなことは知ってるじゃろう?秘密の隠し部屋とか、色んな仕掛けを家の中に作ってみた。おかげさまで、新年の挨拶に来た客の入った数と出た数が合わんのじゃ」
 敷島:「今すぐ救助してください!……自社ビルでもそんなことしようとして、消防法に触れたことは覚えてますよね?」
 孝之亟:「うむ。それなら、自分の家なら大丈夫じゃと思った」
 敷島:「いや、大丈夫じゃないから!おおかた、庭の池もクランクをどこかから拾ってきて、水を抜かないと外に出られない仕掛けなんでしょ!?」
 孝之亟:「何故それを知っておる?」
 敷島:「敷島一族の人間ですから、何となく分かりますよ」
 アリス:(敷島ファミリーって、Ninjyaの家系?)

 シンディがお茶を運んできた。

 シンディ:「粗茶でございますが……」
 孝之亟:「うむ。わざわざスマンの。ところで、ワシ専用のこのロボットはいつ出来るのかね?ワシゃ、これだけが楽しみでのぅ……」
 敷島:(絶対ウソだ。他に色々楽しみ抱えてるくせに!)
 アリス:「Ah...失礼、えっとですね……。来月中には出来上がると思います」
 孝之亟:「うむうむ、そうか」
 アリス:「きっと最高顧問のお気に召すと思いますわ」
 孝之亟:「おおっ、それはありがたい。それでは……」

 すると、隣の部屋からトニーの泣き声が聞こえてきた。

 アリス:「Oh!?……すいません、ちょっと失礼します」
 孝之亟:「うむ……?おお、そうかそうか。孝夫、お前には息子がおったんじゃなー」
 敷島:「ええ、そえですよ」
 孝之亟:「しかし、よくできたものじゃのぅ?確かお前は、無精子症とやらじゃったんじゃろう?よく種ができたな?」
 敷島:「ええ。奇跡ですよ。正に、奇跡です」
 シンディ:「…………」

 シンディの記憶のファイル検索、浮気に走ろうとする敷島を羽交い絞めにして電気ショックを与えるシーンがヒットした。
 どうせ使えない下半身なんだからとマジギレしたアリスに、アソコに電気ショックを与えるように命令され、そうしてみたら精子が作られるようになった不思議。

 孝之亟:「おお、そうじゃ。せっかくじゃから、ワシも遠い孫の顔が見たいのぉ?」
 敷島:「最高顧問からすれば私も何人もいる孫の1人なんだから、玄孫だか曽孫だかになると思いますが」
 孝之亟:「まあ、そんなことどうでも良いではないか」

 シンディがトニーを抱き抱えて連れて来た。
 既に泣き止んでいる。

 孝之亟:「うむうむ。ワシがオマエのお祖父ちゃんじゃよ〜。どうじゃ?『お祖父ちゃん』もしくは、『じぃじ』と呼んでくれんかの〜?ん?『じぃじ』と?言えるかの〜?」
 トニー:「じーじ」
 孝之亟:「どほほほほ!さすがはワシの血を引く者じゃ!ん!将来、敷島家を背負って立つのじゃぞ〜!」
 敷島:(絶対、トニーには90年後、こんなブッ飛んだ爺さんにならないように育てないと……)

 孝之亟は着ている羽織り袴の着物の懐の中から、封筒を取り出した。

 孝之亟:「ワシから可愛い孫へのお年玉じゃ。受け取りなさい」
 敷島:「最高顧問、トニーはまだ1歳で、早過ぎますよ」
 孝之亟:「いいからいいから。何なら、お前で少しピンハネしても構わんよ」
 敷島:「ピンハネって……」

 ポチ袋はペラペラの薄さだ。
 恐らくお札が1枚程度といったところか。

 孝之亟:「ワシから可愛い孫への気持ちじゃよ?」
 敷島:「分かりました。トニーの為に、有効に使わせて頂きます。ありがとうございました」
 孝之亟:「どれ、ワシゃそろそろお暇しようとするかの」
 敷島:「この後、どこへ?」
 孝之亟:「んー?もう家に帰るつもりじゃよ。そうそう。『敷島家の新年会』を次回の3連休の時に行うので、お前もゆめゆめ参加を忘れるでないぞ〜?」
 敷島:「はあ……。(やっぱりやるのかよ……)」
 孝之亟:「そんな顔をするでない。今度はちゃんとお前の所のアイドルにも活躍してもらうでな」
 敷島:「そうなんですか」

 敷島とシンディは、孝之亟をマンションのエントランスまで見送った。

 敷島:「すいません、アリスは今、トニーのことで手が放せませんで……」
 孝之亟:「構わんよ。可愛い孫が最優先事項じゃからの。もし保育園が入り用になったら、ワシが紹介するでの」
 敷島:「ありがとうございます。(二海が面倒見てくれてるからいいんだけど……)」

 マンションのエントランスには、黒塗りのセンチュリーが停車している。
 専属の運転手が恭しく、助手席後ろのドアを開けた。

 孝之亟:「それじゃ、またよろしくな」
 敷島:「はい。ありがとうございました」

 孝之亟を乗せたセンチュリーが出発した。

 シンディ:「最高顧問からお小遣いもらっちゃったね」
 敷島:「全く。1歳に1万円も包んでくれたのか?」
 シンディ:「5000円とか1000円だったりしてね?」
 敷島:「その方が気が楽でいいよ」

 敷島はマンションの中に戻りがてら、ポチ袋の中を確認した。
 すると、中に入っていたのは1万円札ではなかった。
 かといって、5000円や1000円でもない。
 一瞬、商品券かと思ったのだが、それでもなかった。
 入っていたのは……何と、小切手。
 その額は……。

 敷島:「だっ!?」
 シンディ:「社長!?」

 敷島は小切手を放り投げて、マンションの外に飛び出した。

 敷島:「ちょっと待てい、ジジィ!!」

 シンディは急いで小切手を拾い上げた。
 そこに書かれていた額面は……。

 シンディ:「100万円……!?」

 さすがのシンディも、これにはフリーズし掛かったという(孝之亟の意味を理解しようとして、エラーが多発した為)。
 もっとも、アリスは素直に喜んでいたというが……。

 シンディ:(後期タイプとして再稼働させてくれたのは……前期型の贖罪の他に、人間についての不思議をもっと理解せよということなのかしら……?)
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