報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「シンディの暴走」

2017-02-27 21:46:06 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日21:30.天候:雪 廃ペンション1F]

 再び姿を消してしまったシンディ。
 エミリーと萌はその後を追うべく、廊下の先へ進んだ。
 途中、左側にドアがあり、入ってみるとそこはバスルームになっていた。
 ユニットバス形式だが、ホテルのそれと違い、かなり広い。
 だが、そこは血の海になっていた。
 エミリーでさえ、顔をしかめたくらいである。
 バスルームに沈められた死体。
 白人風の男の死体で、苦悶の表情を浮かべて死んでいた。
 頭にメモが貼り付けられていて、『用済み』とだけ書かれていた。

 エミリー:「ここにも武器は無い……か。ん?」

 その時、エミリーのスキャンに金属反応があった。
 それは洋式便器の中。
 そこにも血が溜まっている。
 レバーを引くと、水が流れて血だまりも流れていった。
 その中から現れたのは、1丁のハンドガン。
 マグナムではなく、普通のハンドガンだった。
 元から銃弾は入っているようで、壊れてもいないらしい。

 エミリー:「あのロボットにこれが効くだろうか?」

 エミリーが体術で倒す方が強いだろう。
 だが、あの時はたまたま1機しか現れなかったからそれでも良かったが、もし複数で現れて来たら、武器無しではキツいかもしれない。
 一応、持って行くことにした。
 人間のテロリストが生きて現れたことは無い。
 あの黄色いジャンパーの男が何者なのかは分からないが、敵だとしても、どうして襲って来ないのかが分からなかった。
 バスルームを出て、先に進む。
 今度は右手にドアがあったが、何故かここは鉄の板が貼り付けられ、更に有刺鉄線まで張られて入れないようになっていた。
 ドアノブを回してみても、開く様子が無い。
 もう少し先へ行くことにした。
 突き当たりを右に曲がると、もう1つドアがある。
 だが、こちらも鍵が掛かってて開かない。
 鍵が掛かっているだけなので、力づくでこじ開けようか。
 そう考えた時、後ろから大きな音がした。

 エミリー:「なに?」
 萌:「さっきの階段の所から聞こえたよ!」

 エミリーが、さっきの地下室へ向かう階段の所まで走った。

 エミリー:「シンディ?」

 スキャンすると、シンディの反応があった。
 いつの間にエミリー達は、シンディを追い越してしまったのだろうか。
 数段ほど階段を下りる。

 シンディ:「フーッ!フーッ!フーッ!」
 エミリー:「!?」

 シンディが階段を這い上がって来た。

 エミリー:「シンディ?どうした?」
 シンディ:「ウアアアアアアッ!!」

 シンディの両目は赤色に光り、物凄い形相になってエミリーに掴みかかってきた。

 エミリー:「シンディ!?」

 シンディはマルチタイプ持ち前の腕力でエミリーを投げ飛ばした。
 1階の廊下に叩き付けられるエミリー。

 エミリー:「シンディ、何をする!?」

 シンディは鬼のような形相になって、包丁のようなものを取り出した。
 それでエミリーに襲い掛かって来る。
 近接戦ならエミリーの方が上回っていたのだが、銃火器を取り外した際に、シンディもエミリーと近接戦の能力を高めに設定し直されている。

 エミリー:「シンディ、やめろ!」
 シンディ:「ウアアアアッ!」

 シンディは包丁をエミリーに振り下ろす。
 もちろん、頑丈なマルチタイプのこと、そんなものはほとんど効かない。
 それを知ってて包丁で襲い掛かってくるのだから、今のシンディには自我が無いのだろう。
 エミリーはわざと包丁の攻撃を受けつつ、シンディに接近すると、ヘッドバットを食らわせた。
 だが、シンディも体当たりを食わらしてくる。
 エミリーが倒れると、シンディが包丁を落とした。

 シンディ:「が……あ……!声が聞こえる……!私に……命令してくる人がいる……!い……嫌です……!私……姉さんと……」

 シンディは頭を壁に叩き付けた。

 シンディ:「姉さんを……壊したくない……!」

 シンディが何度も頭を叩き付けると、安全装置が働いたのか、シンディが強制的にシャットダウンしたようだ。
 そして、バタッと仰向けに倒れる。

 エミリー:「シンディ、どうしてこんな……」
 萌:「シンディに命令する人がいたみたいだね。エミリーを襲えって。シンディに命令できる人って言ったら……敷島社長とアリス博士?」
 エミリー:「敷島社長がそんなことをするとは思えない。だいいち、テロリストに襲われてしまって、それどころじゃないはず」
 萌:「でもアリス博士だって、こんな命令する人じゃないよ」
 エミリー:「どういうことなんだ?」

 エミリーはしゃがみ込んで、倒れているシンディを起こそうとした。
 だが、シンディはシャットダウンしたのではなかった。
 またもやあの鬼のような形相をして、起き上がった。

 シンディ:「私に構うな!」
 エミリー:「!!!」

 シンディはエミリーの胸倉を掴むと、壁に叩き付けた。
 壁をブチ破り、シンディは封印されたドアの奥に放り込まれる。
 有刺鉄線がされた部屋の奥は、どうやら書斎になっていたようだ。
 やはりここは、ペンションのオーナーの住まいだったのだろうか。
 しかし今、そんなことを考えているヒマは無い。
 エミリーの目に、手斧が飛び込んで来た。
 この部屋に元からあったものだろうか。

 シンディ:「エミリーを……姉さんを……壊せと……命令……!ウアアアアアアッ!!」

 シンディは今度はサバイバルナイフを振りかざしてきた。
 これはシンディの左足に括り付けられていた武器である。
 エミリーの左脛の中にも、似たようなものは入っている。
 エミリーはそれを使わず、拾った手斧でシンディに対抗した。
 互角のようにも見えたが、エミリーの方が先にクリティカルヒットを繰り出した。
 シンディの頭に手斧を叩き付けることができ、それで怯んだところを今度は首元に刃を突き刺した。
 そこから赤黒いオイルと火花を噴き出す。

 エミリー:「シンディ……どうして、こんな……」

 シンディは信じられないといった顔をしながら、再び倒れた。

 エミリー:「私……妹を壊し……」
 萌:「いや、これはしょうがないでしょ!襲ってくるシンディが悪いんだよっ!」

 と、その時、どこからか電話が鳴る音がした。
 廊下の向こうからだ。
 エミリーはそこへ向かうと、階段室から見て左手の廊下の所に電話機があった。
 電話を取ると、その向こうから声が聞こえた。

 アリス:「シンディの反応が消えたわ。あなたが勝ったのね、エミリー?」
 エミリー:「アリス博士ですか?シンディを暴走させたのは?」
 アリス:「まさか。そんなワケないでしょ。張本人は別にいる。それより、タカオもテロリストに襲われたらしいね?」
 エミリー:「そのようです」
 アリス:「あなたが見込んだマスター殿ですもの、そう簡単に死んでるとは思えない。とはいえ、誰かが外部にこのことを伝えに行かないと」
 エミリー:「アリス博士はどこにいらっしゃるんです?」
 アリス:「それは言えない。私も結局、捕まってる立場だから。まあ、ある理由があって、比較的自由にはさせてもらってるけどね。もっとも、このアジトの中だけでだけど。私の救助は最後でいい。とにかく、タカオを見つけて助けてあげて。私なんかの命令は聞けないだろうけど、でも常識で考えて、いま自分が何をすべきかくらいは分かるでしょ」
 エミリー:「分かりました。でも、どこから脱出すれば良いでしょうか?」
 アリス:「あなたが今いるのは別館だね。確か、天井裏……天窓は何のセキュリティも入ってないからそこから抜け出せるはずよ」
 エミリー:「ですが、2階から上には行けないのです」
 アリス:「いや、誰かが階段を作動させてる。……消去法でタカオしかいないけどね。もしかしたら、タカオもそこへいるかもしれないわ」
 エミリー:「分かりました。向かってみます」
 アリス:「気をつけて行くのよ」

 アリスの電話が切れた。

 エミリー:「天窓だ。天井裏へ向かうぞ」
 萌:「うん」

 エミリー達は指定された場所へと向かった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「エミリーの初戦」

2017-02-27 15:14:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日21:00.天候:不明 北海道日高地方 廃ペンション別館・地下階]

 地下の監禁室のような場所でシンディを救出したエミリーと萌。
 シンディには特段損傷も無く、歩けるようだった。
 シンディの手引きで、脱出ルートを進む。
 だがその時、シンディが何かに気づいたようだった。

 シンディ:「姉さん、いつの間に滑らかな喋り方になったの!?」
 エミリー:「お前は……!」
 萌:「言語ソフトを更新したんだよねー」
 シンディ:「言語ソフトの更新は禁止だって……」
 エミリー:「くだらないことを言ってるヒマがあったら、さっさと出口へ誘導しろ!話は後だ!!」
 シンディ:「は、はいっ!」

 姉の恫喝に妹のシンディはすっかり怖気づいてしまった。

 シンディ:「こ、この奥よ……」
 エミリー:「そうか。どうして道を知ってる?」
 シンディ:「あの黄色いジャンパーの男に、ここまで引っ張られて来たの」
 エミリー:「引っ張ってきた!?」

 シンディの自重は100キロを軽く超えている。
 当初の200キロと比べればかなり軽量化することはできたが、それでもまだメイドロイドと比べれば重い。
 あの黄色いジャンパーの男は60歳くらいの初老の男で、確かに体格はガッシリしている感じはするが、それでもシンディを運べる力があるとは思えなかった。

 エミリー:「何だこれは?」

 途中にロボットの残骸があった。
 黒く塗装されたもので、何の用途で造られていたのかまでは分からない。
 だが、そのロボットが装備していたと思われる銃器も転がっていた。
 それも壊れていて、とても銃弾が放てるとは思えない。

 シンディ:「分からないわ」
 萌:「何か、科学館の研究室みたいだね」
 エミリー:「うむ……」

 シンディは狭い通路を身をよじらせて入り込む。

 エミリー:「本当にここなのか?」
 シンディ:「ええ。ここを通ったの、覚えてるわ」

 エミリーも身をよじらせて、隙間に潜り込んだ。
 萌が通るには余裕であるが。

 萌:「2人ともオッパイが大きいから、引っ掛かっちゃうね」
 エミリー:「黙ってろ」

 何とか狭い通路を通過すると、鉄製のドアがあった。

 シンディ:「これよ、これ!このドアだわ!」
 エミリー:「待て。向こう側に見張りがいるかもしれない。慎重に開けるんだ」

 あいにくと鉄扉だと、向こう側がスキャンできない。
 エミリーは右手を光線銃に変形させた。

 シンディ:「いい?開けるよ」
 エミリー:「ああ」

 シンディは鉄扉を開けた。
 エミリーはバッと身構える。
 だが、中から見張りのロボットや人間が襲ってくることはなかった。
 ドアの向こうは古びた机に椅子、ソファが置かれていた。
 机の上のスタンドは点灯し、後付けの工事用照明も点灯していて、中はそんなに暗くない。

 シンディ:「この先にもドアがあって……」
 エミリー:「ドア?」

 だが、あるのはどう見ても壁だ。

 シンディ:「無い!?ドアが無いわ!ウソ!?こんなのって無い!」
 エミリー:「落ち着け。もしかしたら、お前のメモリーに異常が出ているのかも……」
 シンディ:「本当よ!信じて!ここにドアがあったの!」
 エミリー:「分かった。私はこっち側を調べてみる。お前はここで休んでろ」
 シンディ:「うん……。姉さんが来てくれたから、やっと『家族』になれるわ……」
 エミリー:「……?」

 キャビネットやステンレスの棚が並んでいる場所があって、エミリーはそこを探してみることにした。

 エミリー:(ロボット用の機械油?さっきのロボット用か?)

 他にもハンドガンの弾やショットガンの弾などもあった。
 これは頂いて行く。

 エミリー:(もしあのロボットが他にも稼働しているとするなら、少なくとも武器はハンドガンとショットガンか……。ん?マシンガンも?)

 マシンガンの弾もあった。
 だが、肝心の銃器が無い。
 1番奥まで行くと、壁があった。
 少なくとも、ドアがあるわけではない。

 エミリー:「壁が薄い?」

 エミリーが壁を叩いてみると、軽い音がした。
 ここをブチ破れば、新たなルートが発見できるかもしれない。
 エミリーはそれをしようとした。

 シンディ:「姉さん……何をしてるの……?」

 ソファの方からシンディの声がした。
 エミリーは振り向かず、壁の方を見ながら答えた。

 エミリー:「壁の薄い箇所がある。もしかしたら、この向こうに何かあるかもしれない。シンディと一緒なら、破れるかもしれない。手伝ってくれないか?」
 シンディ:「そんなことする必要は無いよ……」

 ボコッ!という音がして、壁がブチ破られる音がした。
 エミリーがいる所ではない。
 さっき、シンディがドアが無いと喚いた所だ。

 エミリー:「シンディ!?」

 エミリーは急いでさっきの場所に戻った。
 そこにはシンディの姿は無く、代わりに新たな通路の入口があった。
 ドアが無くなっていたのは、壁で埋められていたからだった。
 それをシンディがブチ破ったのだ。

 エミリー:「シンディ、どこだ!?」

 エミリーと萌はシンディが開けた穴の中に入った。
 そこは倉庫になっているようだった。
 そして……。

 エミリー:「!?」
 ???:「ギャアアアアッ!ギュルルルルルルルル!!」

 ダクトから何かが現れた。
 それは黒塗りのロボット。
 さっき見た残骸によく似ていた。
 単眼で、そこからは赤く鈍く光るランプが点灯している。
 身長はエミリーよりもやや高いくらいだから、180cm台か。
 ダクトの中から現れるくらいだから、かなり柔軟な設計になっているようだ。
 エミリーのスキャンでも、ロボットと出ている。
 それならば、遠慮はいらない。
 エミリーに向かって、右手をハンドガンに変形させて発砲してきた。

 エミリー:「お前、言葉は喋れるか!?」
 ロボット:「フシュー!フシュルルルルルル!!」
 エミリー:「……ダメだな」

 狭い所での戦闘だが、相手はたかが1機。
 エミリーはレスリングのように、黒いロボットにタックルした。
 ロボットが転倒する。
 そして、持ち前の腕力でロボットの頭部を叩き割った。
 火花と煙が噴き出し、ロボットはガクンガクン震えていたが、ついに稼働を停止した。

 萌:「さすが!」
 エミリー:「初めて見るロボットだ。もしかして、社長達もこれに襲われたのか?」
 萌:「バージョンよりも動きやすそうだね。さすがにバージョンは、ダクトの中は通れないよ」
 エミリー:「うむ。それより、シンディだ」

 エミリー達は先へ進んだ。
 もちろんその前に、倒したロボットから銃弾を頂戴することは忘れない。
 部屋の外に出ると、上に上がる階段があった。
 そこを一気に上がると、またドアがある。
 開けると、どうやらさっきの廃ペンションの1階に出たようだ。

 萌:「外は吹雪だよ」

 窓は板張りがされている上、更にその外側にも有刺鉄線が張り巡らされている。
 ここをブチ破れば脱出できるだろう。
 だが、その前にシンディとアリス、そして敷島を救出する必要があった。

 エミリー:「シンディ!どこにいるんだ!?」

 時折強い風が拭くのか、それで古い窓がガタガタ言っている。
 エミリーが呼び掛けても、シンディが答えてくることは無かった。

 エミリー:「シンディのヤツ、一体どこまで行ったんだ?」

 階段室の左側は行き止まり。
 右側には廊下が続いている。
 取りあえず、エミリー達は右側の廊下を進むことにした。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「不死身の敷島」

2017-02-27 12:54:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日20:15.天候:雪 北海道日高地方・廃ペンション]

 敷島は雪原を走っていた。

 敷島:「くそっ!やっぱりテロ・ロボットいやがった!まさか、エミリー達がいないのをいいことに来るとは……!」

 背後からは黒塗りの等身大ロボットが歩いて襲ってくる。
 覆面パトカーは爆発、炎上している。
 恐らく、逃げ遅れた星警部補と矢ヶ崎巡査部長は死んだことだろう。
 『不死身の敷島』はその名を汚すことなく、上手く脱出できていた。

 パパパパパパパン!(ロボットが敷島に向かってマシンガンを発砲)

 敷島:「くそっ!いちいち撃ちまくるな!」

 高身長の人間と同じくらいの高さの2足歩行ロボット。
 バージョン・シリーズではなく、敷島も初めて見るタイプだ。
 見た目は、カッコ良さなど微塵も無い。
 また、バージョン・シリーズの場合はどことなくコミカルな動きをしたりもするのだが、あのロボット達にはそんな愛嬌も無い。
 幸いなのは、走ることはできないらしく、敷島に対しては歩いて襲ってくること。
 それでも旧型のバージョンと比べれば、動きは速い。
 多分、耐久力もあるだろう。
 ただ、表面が鋼鉄で覆われているわけではないようなので、こちらから発砲すれば壊れるのかもしれない。
 敷島はエミリー達が入った別館に飛び込んだ。
 内側からはエミリーの力を持ってしても開かなかったドアが、外側からは開いた。
 外からは、追い掛けてきたロボット達の言葉になっていない怒号とドアをこじ開けようとするのが分かった。

 敷島:「しつこい奴らだ!」

 敷島は暗い館内に入るに当たり、懐中電灯を灯した。
 パトカーから持ち出すことができた唯一の道具である。

 敷島:「ん?」

 その時、敷島は途中に何かが落ちているのに気づいた。
 それはチェーンカッター。

 敷島:「こんなもん、武器にならんだろう」

 だが敷島は、一応持って行くことにした。
 そして、それはすぐに役に立った。
 キッチンに入る手前の場所にある戸棚。
 そこがチェーンで封印されているのが目に入った。

 敷島:「よし」

 敷島はそれを今しがた拾ったカッターで切り落とした。
 中に入っていたのはヒューズ。

 敷島:「これがエミリーが探していた階段のヒューズか。よし」

 敷島はこのヒューズを持って、分電盤のある応接室に向かった。
 応接室に分電盤があるのも不思議な話だが。
 分電盤にヒューズをセットすると、通電ランプが点灯した。
 これでエミリーが断念した階段のスイッチを押すことができるはずだ。
 敷島は2階に上がった。
 すると、確かにエミリーが来た時には消灯していた緑のランプが今度は点灯していた。

 敷島:「よっ」

 赤いボタンを押すと、天井から更に上に上がる階段が下りて来た。
 この別館は3階建てだったのだ。
 敷島はその階段を登った。

 敷島:「エミリー達は地下に行ったみたいだが、俺は上に向かってる。果たして、どっちが地獄なのか……」

 3階は客室らしき部屋がいくつかある。
 やはり、ペンションとして機能していたのか。
 その割には、だいぶ老朽化が進んでいる。
 別館の方は、もっと早くに廃業していたのだろうか。
 敷島は手近な部屋に入ってみた。
 すえた臭いのするベッドが2つあり、机の上のスタンドは点灯している。
 そしてその机の上には、ハンドガンが置いてあった。
 銃弾も置いてある。

 敷島:「あのロボット達に、このハンドガンが効くとは思えんが……。まあ、人間のテロリストには効くだろう」

 敷島はハンドガンを持ち出すことにした。
 しかし、こうしてハンドガンが置いてあるということは、ますますここがテロリスト達のアジトとして使われていることが濃厚となったわけだ。
 敷島が部屋の外に出ようとした時だった。

 敷島:「!!!」

 びっくりしたのは、部屋の電話が鳴ったからだ。
 敷島は恐る恐る電話を取った。

 敷島:「も、もしもし……?」
 アリス:「その声はタカオ?」
 敷島:「アリスか!今どこにいる!?」
 アリス:「分からない。何かの廃屋だと思うけど……。でも廃屋のように見えて、人は住んでるのよ」
 敷島:「それは黄色いジャンパーを着た男じゃないか?」
 アリス:「何で知ってるの!?」
 敷島:「やっぱりそうか。実は俺達も、キミのいる廃屋の中にいるみたいだ。助けに来たんだよ。その廃屋のどの辺にいるか分からないのか?」
 アリス:「……窓は無いわ。そして階段をずっと下りて来たから、多分地下だと思う」
 敷島:「地下か。よし。実はエミリー達が地下に向かった。エミリーと萌だ。俺も今から向かう」
 アリス:「ちょっと待って!パパとは会ったの!?」
 敷島:「パパ!?どういうことだ!?」
 アリス:「パパに見つからないように気をつけて」

 電話が切れた。

 敷島:「お、おい!何だ、パパってのは!?お前のパパか!?」

 だが、電話が切れているので、敷島の問い掛けにアリスは答えなかった。

 敷島:「あの黄色いジャンパーの男が?アリスの親は確か……行方不明……」

[同日20:45.天候:雪 廃ペンション地下階]

 エミリーと萌は水浸しの区画を抜けた。
 ドアの向こうに行くと、個室らしき部屋がいくつも並んでいる。
 だが、どうも収容所のような感じで、ペンションの客室のようには見えなかった。
 廊下には夜間工事などで使うカバー付きのランプが点灯している(いわゆる、スズラン)。
 エミリーはスキャンしながら廊下を進んだ。

 エミリー:「金属反応が……!」

 どの部屋ももぬけの殻らしく、何の反応も無かった。
 だがそのうちの1つだけ、金属反応があった。
 つまり、ロボットかロイドの反応だ。
 エミリーが詳しくスキャンすると、中にいるのは……。

 エミリー:「シンディ!?」

 シンディの反応だった。
 エミリーはドアをドンドン叩いた。

 エミリー:「シンディ、私だ!ここを開けてくれ!」

 だが、中からは応答が無い。
 ドアの上には小窓がある。
 萌が飛んで、その小窓から中を覗いてみた。

 萌:「ベッドがあるね。その上に、シンディが横になってる」
 エミリー:「シンディ、寝るな!起きろーっ!」

 ガンガンとドアを叩いたり蹴ったりしているのだが、マルチタイプを閉じ込めているだけに、ビクともしない。

 萌:「ちょっと待って」

 萌は小窓から体をよじらせて中に入った。
 そして、ドアノブを何やらカチャカチャとやっている。
 カチッという音がして、ドアが開いた。
 萌の手にはキーピックが握られていた。
 武器として使う折り畳み式の薙刀(を模した手術用のメスに近い)とは別に、もう一本持っている棒。
 これがキーピックとして使える代物らしい。

 エミリー:「さすがだな」

 エミリーは中に入って、横たわっている妹機に近づいた。
 スキャンしている限りでは、完全に電源が落ちているわけではないようだ。

 エミリー:「シンディ、大丈夫か?」

 シンディの肩に手を置いて、仰向けにする。
 シンディが目を覚ました。

 シンディ:「姉さん……?姉さん、どうしてここに?」
 エミリー:「お前とアリス博士を助けに来た。お前こそ、どうしてここにいる?アリス博士はどこだ?」
 シンディ:「アリス博士は……分からない。どうして私がここにいるのかも……」
 エミリー:「そうか。取りあえず私が知っているのは、ここは北海道の日高地方。廃業したペンションの地下だが、どうもテロリストのアジトになっているみたいだ。もちろん、それはアリス博士達やお前をさらった連中のことだ。他のDCJの皆さんは、無事に救助されている」
 シンディ:「そうなの。……それより、誰もここに来ることは見られてない!?」
 エミリー:「いや、黄色いジャンパーを着た男とは会っている。会話はしていない。人間かどうかも分からない」
 シンディ:「会ってるの!?あいつは化け物よ!早くここから逃げないと!」
 萌:「お化けなの!?」
 シンディ:「私がここにいるのも、そいつに一発でやられたから」
 萌:「マルチタイプを一撃で倒すんだもんね。確かに化け物だね」
 エミリー:「分かった。実は敷島社長も危ない。確かに、のんびりはしていられない」
 シンディ:「社長が?」
 エミリー:「このペンションから少し離れた所で私達の動きを監視しておられたのだが、そこをテロリスト達に見つかったらしい」
 シンディ:「社長のことだから多分無事だと思うけど……」

 それについてはエミリーも萌も異議なしだった。
 何故か敷島だけは無事であるような気がして仕方が無かった。

 シンディ:「確か、こっちよ」

 シンディが指さしたのは、エミリー達が来た方向とは反対だった。

 エミリー:「そうか」
 シンディ:「! 姉さん、そういえば……!」

 シンディは何か重要な事に気づいたかのような顔をした。

 エミリー:「!?」

 シンディの口から語られるものとは一体?
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