[2月3日07:20.天候:晴 JR大宮駅西口]
敷島とエミリーは、あの時アリス達を見送ったバス停にいた。
羽田空港行きのリムジンバスが出るバス停である。
もしかしたら、既にこの時から事件の臭いは漂っていたのかもしれない。
だからなるべく、アリス達と同じ足取りを追うことにしたのである。
エミリー:「バスが来ました」
敷島:「ああ」
大宮駅西口7時20分発のバスは、京急バスが担当する。
だから昨日、豊洲駅から乗ったエアポートリムジンと違い、バスの車体の塗装も白と赤というものだった。
バスが敷島達の前で停車して、大きなエアー音を立てる。
運転手:「はい、お待たせしました。羽田空港行きです」
アリス達が乗って行ったのとは違う運転手が降りて来た。
バスの乗務員はローテーションで動いているので、毎日運行のバスであっても、毎日が同じ運転手とは限らない。
運転手:「お荷物はそこに置いておいてください。後で積み込みます」
係員のいないバス停では運転手が積み下ろしをするので、バスの荷物室の前に荷物を置いておくことになる。
敷島とエミリーは運転手にチケットを渡してバスに乗り込んだ。
既に数人の乗客が乗っているのは、このバスが始発ではないからだろう。
エミリー:「社長、こちらに」
敷島:「ああ」
敷島達はアリス達が乗ったのと同じ場所、後ろの席に座った。
豊洲駅発と違い、こちらは後ろにトイレが付いている。
そのすぐ前の席だ。
敷島:「まさか送った相手と同じバスの、しかも同じ席に座ろうとは思わなかったな」
エミリー:「ええ。ですが、車両までは違うものです」
敷島:「そうなのか?」
エミリー:「ええ。ナンバーが違います」
敷島:「お前、そういう所も見てるんだなぁ」
エミリー:「特殊工作用としての用途も、私達にはありますので。もっとも、シンディはそこまでしているか分かりませんが」
敷島:「おいおい。同型機なんだから、同じようにしてもらわないと困るよ」
エミリー:「規格は同じなんですが、平賀博士やアリス博士とではコンセプトが違いますから」
敷島:「うーむ……」
だいたい半分くらいの席が埋まったところで、バスは出発した。
早朝の便だと、この後でさいたま新都心駅にも止まるようだが、この便はもうこのまま羽田空港に向かうようだ。
まずは女声の自動放送が流れた後、運転手の肉声放送が流れる。
〔「……羽田空港第2ターミナルには8時45分、第1ターミナルには8時50分、終点国際線ターミナルには9時ちょうどの到着予定です。……」〕
敷島:「このルートをアリス達が通ったはずだ。エミリー、シンディの電源が切られる前の動きは覚えてるな?」
エミリー:「はい」
敷島:「なるべくアリス達が通ったルートをそのまま行く。何か変わったことがあるはずなんだ」
エミリー:「了解しました」
[同日08:45.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]
エミリー:「社長、起きて下さい。まもなく第2ターミナルです」
敷島:「……はっ!?しまった!つい、眠ってしまった!アリス達の動向を追うはずが……」
エミリー:「私はずっと見ていましたが、特に変わった所はありませんでしたよ」
敷島:「そ、そうなのか?」
そういうことしているうちにバスが停車した。
運転手:「羽田空港第2ターミナルです」
敷島:「ああっと!」
敷島は手荷物として荷棚に置いた荷物を下ろした。
そして、急いでバスを降りる。
係員:「お荷物ありますか?」
エミリー:「あります。社長」
社長:「ああっと!そうだった!」
敷島はバスの荷物室から、大きなキャリーケースを降ろしてもらった。
これはエミリーを飛行機で輸送する為のものである。
社長:「早いとこ行くぞ」
エミリー:「ちょっと待ってください」
社長:「何だ?」
エミリーはその大きなケースを開けた。
その更に内側にあるポケットの中を開ける。
エミリー:「何をしている!」
エミリーは咎めるように言った。
敷島:「お前は……!?」
萌:「エヘヘヘ……」
妖精型ロイド、萌だった。
旧KR団最後の研究者、吉塚広美が製作した唯一の妖精型である。
井辺のことを1番慕っていて、今ではロボット未来科学館でアルエットと一緒に展示されていた。
萌:「おはよーございます」
エミリー:「どういうことか、説明してもらおう」
エミリーは険しい顔付きになって萌を睨みつけた。
尚、萌という名前は彼女の型番、MOE-409から取った。
井辺が見つけた時はまだ試作中だった為か性別の設定が無く、萌は自分のことをボクと呼んでいた。
ところが後でアリス達に、妖精は女の子ということで、性別設定を女にされた。
体付きや顔付きも、もう少し女の子に近いものに改良されたのだが、未だに何故か一人称はボクのままである。
萌:「いや〜、井辺さんがなかなか会いに来てくれないんで、社長さんの荷物の中に紛れ込んじゃいました」
エミリー:「さっさと帰れ!」
萌:「帰り方が分からないんです。GPSが付いてないもんで」
敷島:「今からDCJさんに送り返す時間も無ければ、うちの会社まで持って行く時間も無いぞ。しょうがない。もしかしたら、お前にも働いてもらう機会があるかもしれない。一緒に来てもらう」
萌:「井辺さんは?」
敷島:「いないよ」
萌:「えーっ!」
エミリー:「いい加減にしろ。ワガママ言うと、私が強制送還するぞ?」
萌:「ひぇっ!そ、それだけは……!」
エミリー:「それなら、敷島社長の言う事は全て聞け」
萌:「は、はい……」
敷島:「萌程度なら、手荷物として機内持ち込みできるかな?」
エミリー:「金属探知機に引っ掛かるのがオチだと思います」
敷島:「……だな」
妖精型だけに、萌の身長は30cmも無い。
フィギュア程度の大きさである。
敷島:「エミリーと仲良くここに入ってもらうから」
萌:「ボク、お荷物ですか?」
敷島:「さっきもバスの荷物として乗っていただろうが」
エミリー:「そういうことだ」
敷島:「で、エミリー。アリス達はこの後、どうしたんだ?」
エミリー:「はい。集合時刻まで時間があったようで、朝食を取られています」
敷島:「よし。俺も同じ店で朝飯食うぞ。どこだ?」
エミリー:「こっちです」
エミリーは自分が荷物として詰め込まれるケースを引きながら、敷島を誘導した。
尚、萌はしばらくの間、エミリーの肩に乗っかっていた。
敷島とエミリーは、あの時アリス達を見送ったバス停にいた。
羽田空港行きのリムジンバスが出るバス停である。
もしかしたら、既にこの時から事件の臭いは漂っていたのかもしれない。
だからなるべく、アリス達と同じ足取りを追うことにしたのである。
エミリー:「バスが来ました」
敷島:「ああ」
大宮駅西口7時20分発のバスは、京急バスが担当する。
だから昨日、豊洲駅から乗ったエアポートリムジンと違い、バスの車体の塗装も白と赤というものだった。
バスが敷島達の前で停車して、大きなエアー音を立てる。
運転手:「はい、お待たせしました。羽田空港行きです」
アリス達が乗って行ったのとは違う運転手が降りて来た。
バスの乗務員はローテーションで動いているので、毎日運行のバスであっても、毎日が同じ運転手とは限らない。
運転手:「お荷物はそこに置いておいてください。後で積み込みます」
係員のいないバス停では運転手が積み下ろしをするので、バスの荷物室の前に荷物を置いておくことになる。
敷島とエミリーは運転手にチケットを渡してバスに乗り込んだ。
既に数人の乗客が乗っているのは、このバスが始発ではないからだろう。
エミリー:「社長、こちらに」
敷島:「ああ」
敷島達はアリス達が乗ったのと同じ場所、後ろの席に座った。
豊洲駅発と違い、こちらは後ろにトイレが付いている。
そのすぐ前の席だ。
敷島:「まさか送った相手と同じバスの、しかも同じ席に座ろうとは思わなかったな」
エミリー:「ええ。ですが、車両までは違うものです」
敷島:「そうなのか?」
エミリー:「ええ。ナンバーが違います」
敷島:「お前、そういう所も見てるんだなぁ」
エミリー:「特殊工作用としての用途も、私達にはありますので。もっとも、シンディはそこまでしているか分かりませんが」
敷島:「おいおい。同型機なんだから、同じようにしてもらわないと困るよ」
エミリー:「規格は同じなんですが、平賀博士やアリス博士とではコンセプトが違いますから」
敷島:「うーむ……」
だいたい半分くらいの席が埋まったところで、バスは出発した。
早朝の便だと、この後でさいたま新都心駅にも止まるようだが、この便はもうこのまま羽田空港に向かうようだ。
まずは女声の自動放送が流れた後、運転手の肉声放送が流れる。
〔「……羽田空港第2ターミナルには8時45分、第1ターミナルには8時50分、終点国際線ターミナルには9時ちょうどの到着予定です。……」〕
敷島:「このルートをアリス達が通ったはずだ。エミリー、シンディの電源が切られる前の動きは覚えてるな?」
エミリー:「はい」
敷島:「なるべくアリス達が通ったルートをそのまま行く。何か変わったことがあるはずなんだ」
エミリー:「了解しました」
[同日08:45.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]
エミリー:「社長、起きて下さい。まもなく第2ターミナルです」
敷島:「……はっ!?しまった!つい、眠ってしまった!アリス達の動向を追うはずが……」
エミリー:「私はずっと見ていましたが、特に変わった所はありませんでしたよ」
敷島:「そ、そうなのか?」
そういうことしているうちにバスが停車した。
運転手:「羽田空港第2ターミナルです」
敷島:「ああっと!」
敷島は手荷物として荷棚に置いた荷物を下ろした。
そして、急いでバスを降りる。
係員:「お荷物ありますか?」
エミリー:「あります。社長」
社長:「ああっと!そうだった!」
敷島はバスの荷物室から、大きなキャリーケースを降ろしてもらった。
これはエミリーを飛行機で輸送する為のものである。
社長:「早いとこ行くぞ」
エミリー:「ちょっと待ってください」
社長:「何だ?」
エミリーはその大きなケースを開けた。
その更に内側にあるポケットの中を開ける。
エミリー:「何をしている!」
エミリーは咎めるように言った。
敷島:「お前は……!?」
萌:「エヘヘヘ……」
妖精型ロイド、萌だった。
旧KR団最後の研究者、吉塚広美が製作した唯一の妖精型である。
井辺のことを1番慕っていて、今ではロボット未来科学館でアルエットと一緒に展示されていた。
萌:「おはよーございます」
エミリー:「どういうことか、説明してもらおう」
エミリーは険しい顔付きになって萌を睨みつけた。
尚、萌という名前は彼女の型番、MOE-409から取った。
井辺が見つけた時はまだ試作中だった為か性別の設定が無く、萌は自分のことをボクと呼んでいた。
ところが後でアリス達に、妖精は女の子ということで、性別設定を女にされた。
体付きや顔付きも、もう少し女の子に近いものに改良されたのだが、未だに何故か一人称はボクのままである。
萌:「いや〜、井辺さんがなかなか会いに来てくれないんで、社長さんの荷物の中に紛れ込んじゃいました」
エミリー:「さっさと帰れ!」
萌:「帰り方が分からないんです。GPSが付いてないもんで」
敷島:「今からDCJさんに送り返す時間も無ければ、うちの会社まで持って行く時間も無いぞ。しょうがない。もしかしたら、お前にも働いてもらう機会があるかもしれない。一緒に来てもらう」
萌:「井辺さんは?」
敷島:「いないよ」
萌:「えーっ!」
エミリー:「いい加減にしろ。ワガママ言うと、私が強制送還するぞ?」
萌:「ひぇっ!そ、それだけは……!」
エミリー:「それなら、敷島社長の言う事は全て聞け」
萌:「は、はい……」
敷島:「萌程度なら、手荷物として機内持ち込みできるかな?」
エミリー:「金属探知機に引っ掛かるのがオチだと思います」
敷島:「……だな」
妖精型だけに、萌の身長は30cmも無い。
フィギュア程度の大きさである。
敷島:「エミリーと仲良くここに入ってもらうから」
萌:「ボク、お荷物ですか?」
敷島:「さっきもバスの荷物として乗っていただろうが」
エミリー:「そういうことだ」
敷島:「で、エミリー。アリス達はこの後、どうしたんだ?」
エミリー:「はい。集合時刻まで時間があったようで、朝食を取られています」
敷島:「よし。俺も同じ店で朝飯食うぞ。どこだ?」
エミリー:「こっちです」
エミリーは自分が荷物として詰め込まれるケースを引きながら、敷島を誘導した。
尚、萌はしばらくの間、エミリーの肩に乗っかっていた。