[2月3日13:00.天候:晴 新千歳空港]
村中:「さすがは北海道。雪がたんまりですな」
鷲田:「当たり前だ。ターミナルから一歩でも外に出ると、俺達は震え上がることになるだろう。……で、奴さん達はどうした?」
2人の私服刑事はトイレの方を見た。
敷島:「いやいや、遅くなりまして」
敷島とエミリーがバタバタと走って来る。
因みに萌はエミリーの肩に乗っていた。
村中:「せっかく飛行機がダイヤ通りに着けたというのに、頼むよ」
敷島:「すいません。萌の再起動に時間が掛かりまして……」
鷲田:「今時、こんなファンシーロボットが役に立つのかね?」
敷島:「KR団のアジトに潜入する時とか、結構役に立ちますよ」
萌:「任せて安心です!」
鷲田:「そうかぁ?」
村中:「それより敷島社長、科学館の皆さんはこの後どうやって札幌まで行ったんだい?」
敷島:「行程表によると、貸切バスで向かったようです。バス会社が……北国観光?」
村中:「予め、依頼しておいたんだろうねぇ?」
エミリー:「北国観光バスです!」
敷島達のいるターミナルは到着口であり、そこから外に出るとバスターミナルになっている。
エミリーがちょうどそのターミナルを通過していく観光バスを見つけた。
エミリー:「誰も乗っていないので、回送でしょう」
村中:「なるほど。空港からの観光客を当て込んでいるバス会社ならば、空港内に営業所を持っていてもおかしくはないな」
鷲田:「待て待て、村中君」
村中:「何です?」
鷲田:「その前に1つ聞きたいのだが、キミの秘書代行ロボットの喋り方は、こんな滑らかなものだったかね?もっとこう、いかにもロボットが喋っているような喋り方だったと思うのだが……」
萌:「あ、そうそう!ボクも気になってた!」
萌は見た目には10代の少女を模した妖精型ロイドなのだが、何故だか試作中の頃の名残りのままで、未だに自分を『ボク』と呼ぶ。
いわゆる、『ボクっ娘』になっていた。
敷島:「えっと、それはですね……」
エミリー:「言語ソフトを更新しました。やはり昔のままですと、皆さんにも不便をお掛けしますので」
エミリーはニコッと笑って説明した。
もちろん、その言葉はウソだろう。
少なくともエミリーを監視している端末を見ても、言語ソフトが更新された記録は残っていない。
わざとロボット喋りをしていて、元の仕様に戻しただけである。
鷲田:「ふむ。そういうことか」
村中:「同型の姉妹機だから顔はよく似ているけども、さすがに声までは違うからね。妹さんと、こんがらがることは無いか」
鷲田:「ま、そういうことならいい。さっさとバスの営業所に行くぞ」
敷島達は天候は良いものの、北海道の寒風の吹き荒ぶターミナルの外に出た。
敷島:「エミリー、ナイス誤魔化し」
敷島は小声でエミリーに言った。
エミリーはフッと笑って答えた。
エミリー:「人間がロボット喋りをすれば不自然極まりないでしょうが、ロイドがロボット喋りをすることに、誰も何の疑問も抱きませんでしたからね。そして、ロイドが人間と同じ喋り方をすることも……」
敷島:「シンディだのキールだのレイチェルだの、他の弟妹達が普通の喋り方なのに、お前だけロボット喋りなことに、もっと疑問を持つべきだったよ」
エミリー:「ですが、それも無理は無いと思います。何故なら、その妹達ですら何の疑問も持たなかったのですから」
敷島:「ったく。どいつもこいつもバカばっかりだ」
敷島達はバスターミナルの外れにある貸切バスの乗り場までやってきた。
そこには件の観光バスが停車していた。
係員:「では皆様、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
敷島達が駆け付けると、団体客を乗せたそのバスが発車して行った。
係員は50代くらいの男性で、バス会社の名前が入ったコートを着ていた。
鷲田:「あー、ちょっと今、お話よろしいですかな?」
係員:「はい?」
村中:「私達、東京から来た警視庁の者です」
鷲田と村中が警察手帳を見せると、係員はびっくりした顔になった。
係員:「警察の人が何ですか?」
鷲田:「あなたはいつもこうやって、団体客を見送っておられるのかな?」
係員:「はい。飛行機の到着口からは少し距離がありますので、私共の方でそこまでお迎えに行きまして、そこからこの乗り場までご案内しているんですよ」
村中:「1月30日もそのようにしていたわけですか?」
係員:「はい。その時も勤務でしたから」
鷲田:「あなたが案内した団体の中に、DCJロボット未来科学館の慰安旅行のツアーはいなかったかね?」
係員:「DCJ?……ああ、何かそんな名前の団体さんがいましたね」
鷲田:「その中にアメリカ人……金髪の白人の女性がいたと思うが、覚えていらっしゃるかね?」
村中:「およそ30名ほどの日本人のツアーに、1人だけ外国人が混じっているわけだから、結構インパクトに残ると思うんだ。思い出せないかな?」
敷島:「警視達、シンディも入れれば2人ですよ?」
鷲田:「バカ。シンディは電源が入っていないんだろう?」
敷島:「あ、そうでした」
係員:「あ、思い出した。確かに、いましたよ。欧米の方らしく、とても陽気な人ですね」
鷲田:「ここから乗ったので、間違い無いのかな?」
係員:「はい。札幌の東急REIホテルまで行かれるとか……」
敷島:「当たってる!」
鷲田:「ふーむ……。では、空港からホテルまでの道筋も合っているわけか」
だが、係員は信じられないことを言った。
係員:「ポルトガルから来られた、いかにも陽気なラテン系って感じの人でしたね。ポルトガルじゃ雪は珍しいんでしょうね、この辺に積もっている雪を触っては、随分喜んでましたよ」
敷島:「は?」
鷲田:「おい、ちょっと待ってくれ。私達が捜しているのはアメリカ人だぞ?」
村中:「どういうこと?というか、どうしてあなたはその外国人女性がポルトガル人だって分かったの?」
係員:「ポルトガル語を喋っていたからですよ。あ、日本語も喋れるみたいですけど。前に私、スペインやポルトガルから来たツアーの人達をご案内したことがあったので、ポルトガル語だと分かったんですよ」
鷲田:「敷島社長?」
敷島:「アリスがポルトガル語を喋っていたのを聞いたことはないですよ。てか、あいつ、英語と日本語しか喋れないはずです」
村中:「一体、どういうことなんだ?」
一口に白人といっても数々の民族に分かれているわけだが、申し訳無い。
日本人から見れば、全部一緒くた(一色淡というのは誤用)である。
鷲田:「利用する時に書類にサインとかするだろう?」
係員:「ええ、もちろん」
鷲田:「その控えを見せてもらいたいのだが、可能かね?」
係員:「ちょっと、私の一存では……」
鷲田:「分かった。営業所に行ってみよう。営業所はどこかね?」
係員:「あちらです」
敷島達はバスの営業所に行くことにした。
村中:「さすがは北海道。雪がたんまりですな」
鷲田:「当たり前だ。ターミナルから一歩でも外に出ると、俺達は震え上がることになるだろう。……で、奴さん達はどうした?」
2人の私服刑事はトイレの方を見た。
敷島:「いやいや、遅くなりまして」
敷島とエミリーがバタバタと走って来る。
因みに萌はエミリーの肩に乗っていた。
村中:「せっかく飛行機がダイヤ通りに着けたというのに、頼むよ」
敷島:「すいません。萌の再起動に時間が掛かりまして……」
鷲田:「今時、こんなファンシーロボットが役に立つのかね?」
敷島:「KR団のアジトに潜入する時とか、結構役に立ちますよ」
萌:「任せて安心です!」
鷲田:「そうかぁ?」
村中:「それより敷島社長、科学館の皆さんはこの後どうやって札幌まで行ったんだい?」
敷島:「行程表によると、貸切バスで向かったようです。バス会社が……北国観光?」
村中:「予め、依頼しておいたんだろうねぇ?」
エミリー:「北国観光バスです!」
敷島達のいるターミナルは到着口であり、そこから外に出るとバスターミナルになっている。
エミリーがちょうどそのターミナルを通過していく観光バスを見つけた。
エミリー:「誰も乗っていないので、回送でしょう」
村中:「なるほど。空港からの観光客を当て込んでいるバス会社ならば、空港内に営業所を持っていてもおかしくはないな」
鷲田:「待て待て、村中君」
村中:「何です?」
鷲田:「その前に1つ聞きたいのだが、キミの秘書代行ロボットの喋り方は、こんな滑らかなものだったかね?もっとこう、いかにもロボットが喋っているような喋り方だったと思うのだが……」
萌:「あ、そうそう!ボクも気になってた!」
萌は見た目には10代の少女を模した妖精型ロイドなのだが、何故だか試作中の頃の名残りのままで、未だに自分を『ボク』と呼ぶ。
いわゆる、『ボクっ娘』になっていた。
敷島:「えっと、それはですね……」
エミリー:「言語ソフトを更新しました。やはり昔のままですと、皆さんにも不便をお掛けしますので」
エミリーはニコッと笑って説明した。
もちろん、その言葉はウソだろう。
少なくともエミリーを監視している端末を見ても、言語ソフトが更新された記録は残っていない。
わざとロボット喋りをしていて、元の仕様に戻しただけである。
鷲田:「ふむ。そういうことか」
村中:「同型の姉妹機だから顔はよく似ているけども、さすがに声までは違うからね。妹さんと、こんがらがることは無いか」
鷲田:「ま、そういうことならいい。さっさとバスの営業所に行くぞ」
敷島達は天候は良いものの、北海道の寒風の吹き荒ぶターミナルの外に出た。
敷島:「エミリー、ナイス誤魔化し」
敷島は小声でエミリーに言った。
エミリーはフッと笑って答えた。
エミリー:「人間がロボット喋りをすれば不自然極まりないでしょうが、ロイドがロボット喋りをすることに、誰も何の疑問も抱きませんでしたからね。そして、ロイドが人間と同じ喋り方をすることも……」
敷島:「シンディだのキールだのレイチェルだの、他の弟妹達が普通の喋り方なのに、お前だけロボット喋りなことに、もっと疑問を持つべきだったよ」
エミリー:「ですが、それも無理は無いと思います。何故なら、その妹達ですら何の疑問も持たなかったのですから」
敷島:「ったく。どいつもこいつもバカばっかりだ」
敷島達はバスターミナルの外れにある貸切バスの乗り場までやってきた。
そこには件の観光バスが停車していた。
係員:「では皆様、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
敷島達が駆け付けると、団体客を乗せたそのバスが発車して行った。
係員は50代くらいの男性で、バス会社の名前が入ったコートを着ていた。
鷲田:「あー、ちょっと今、お話よろしいですかな?」
係員:「はい?」
村中:「私達、東京から来た警視庁の者です」
鷲田と村中が警察手帳を見せると、係員はびっくりした顔になった。
係員:「警察の人が何ですか?」
鷲田:「あなたはいつもこうやって、団体客を見送っておられるのかな?」
係員:「はい。飛行機の到着口からは少し距離がありますので、私共の方でそこまでお迎えに行きまして、そこからこの乗り場までご案内しているんですよ」
村中:「1月30日もそのようにしていたわけですか?」
係員:「はい。その時も勤務でしたから」
鷲田:「あなたが案内した団体の中に、DCJロボット未来科学館の慰安旅行のツアーはいなかったかね?」
係員:「DCJ?……ああ、何かそんな名前の団体さんがいましたね」
鷲田:「その中にアメリカ人……金髪の白人の女性がいたと思うが、覚えていらっしゃるかね?」
村中:「およそ30名ほどの日本人のツアーに、1人だけ外国人が混じっているわけだから、結構インパクトに残ると思うんだ。思い出せないかな?」
敷島:「警視達、シンディも入れれば2人ですよ?」
鷲田:「バカ。シンディは電源が入っていないんだろう?」
敷島:「あ、そうでした」
係員:「あ、思い出した。確かに、いましたよ。欧米の方らしく、とても陽気な人ですね」
鷲田:「ここから乗ったので、間違い無いのかな?」
係員:「はい。札幌の東急REIホテルまで行かれるとか……」
敷島:「当たってる!」
鷲田:「ふーむ……。では、空港からホテルまでの道筋も合っているわけか」
だが、係員は信じられないことを言った。
係員:「ポルトガルから来られた、いかにも陽気なラテン系って感じの人でしたね。ポルトガルじゃ雪は珍しいんでしょうね、この辺に積もっている雪を触っては、随分喜んでましたよ」
敷島:「は?」
鷲田:「おい、ちょっと待ってくれ。私達が捜しているのはアメリカ人だぞ?」
村中:「どういうこと?というか、どうしてあなたはその外国人女性がポルトガル人だって分かったの?」
係員:「ポルトガル語を喋っていたからですよ。あ、日本語も喋れるみたいですけど。前に私、スペインやポルトガルから来たツアーの人達をご案内したことがあったので、ポルトガル語だと分かったんですよ」
鷲田:「敷島社長?」
敷島:「アリスがポルトガル語を喋っていたのを聞いたことはないですよ。てか、あいつ、英語と日本語しか喋れないはずです」
村中:「一体、どういうことなんだ?」
一口に白人といっても数々の民族に分かれているわけだが、申し訳無い。
日本人から見れば、全部一緒くた(一色淡というのは誤用)である。
鷲田:「利用する時に書類にサインとかするだろう?」
係員:「ええ、もちろん」
鷲田:「その控えを見せてもらいたいのだが、可能かね?」
係員:「ちょっと、私の一存では……」
鷲田:「分かった。営業所に行ってみよう。営業所はどこかね?」
係員:「あちらです」
敷島達はバスの営業所に行くことにした。