報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「Uターン中の探偵」

2021-02-01 19:59:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日11:34.天候:晴 宮城県石巻市 JR石巻駅]

〔ピンポーン♪ まもなく、石巻です。石巻では全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、定期券は駅の自動改札機をご利用ください。運賃、整理券は駅係員にお渡しください。石巻から仙石線と仙石東北ラインはお乗り換えです〕

 今回の旅行で最後に乗る“生粋の”気動車が石巻駅に接近した。
 やはり石巻駅では乗降客が多いのか、降りる準備を始める乗客が目立つ。

〔いしのまき~、石巻~、石巻~。仙石線と仙石東北ラインご利用のお客様は、お乗り換えです。お忘れ物の無いように、ご注意ください〕

 気動車から降りた私達は改札口へは行かず、仙石線ホームへと向かう。
 そこから乗り換えるは、仙石東北ライン。
 今や仙石線は各駅停車のみが運転されるようになり、快速列車は仙石東北ラインがその任を負う。
 そこに向かって列車を待っていると、私のスマホに着信があった。
 画面を見ると、公一伯父さんからであった。

 愛原:「はい、もしもし?」
 公一:「おお、学か。今どこだ?」
 愛原:「石巻駅だけど?……うん。これから仙石東北ラインで仙台駅に向かうよ」
 公一:「佐々木さんとは会ったか?鮎川に行ったのか?」
 愛原:「行ったよ。とても親切にしてくれたよ。民宿まで紹介してくれてさ。後で会ったら御礼を……」
 公一:「その鮎川で、何か変わったことは無かったか?」
 愛原:「佐々木先生もその場にいたけど、リサの亜種みたいなのが襲って来た。もちろん、うちのリサが返り討ちにしてやったよ。佐々木先生にもケガは無いから安心して」
 公一:「それ以外には?」
 愛原:「あー。午前中、鮎川を出る時にバスに乗ったんだけど、鮎川港バス停で待機中にパトカーが何台か来て大騒ぎだったね。何があったのかと……」
 公一:「集落の子供達が行方不明になったんじゃと!」
 愛原:「はい!?」
 公一:「佐々木さんが午前中、民宿に連絡してそうだと分かったらしい。オマエ、何か心当たりは無いか?幸いあの民宿のコ達は無事だったみたいだが……」
 愛原:「いや、心当たりったって、子供に心当たりなんて……」

 その時、私の脳裏にある光景がよぎった。
 それは今朝早く、漁港の調査をしている時だ。
 偽遊漁船なのか本物のそれだったのかは分からずじまいだったが、その船に乗り込む数人の少年少女がいた。

 愛原:「……伯父さん。行方不明になったコ達の数と年齢と性別って分かる?」
 公一:「それは調べてみんことには分からんが……」
 愛原:「ちょっと調べといてくれる?……うん。いや、もしかしたら、俺の思い過ごしかもしれないし。だから、さ……」

 私は電話を切った。

 高橋:「何かあったんスか?」
 愛原:「いや、あの……。鮎川を出るバスに乗った時、やたらあの地区をパトカーが走ってただろう?」
 高橋:「そうっスね」
 愛原:「どうやらそれ、そこの集落に住んでいた子供達が行方不明になったかららしいぞ?」
 高橋:「マジっスか!?」
 愛原:「今伯父さんにその数とか調べてもらうことにしたけど、もしかしたらさ……。あの漁船……クルーザーに乗った子供達のことかもしれないぞ?」
 高橋:「ええーっ!?だけどそのガキ……いや、子供達、特に怖がったりはしてなかったんでしょう?」
 愛原:「そうなんだ。だから、不審だと感じてはいなかった……」

 とはいうものの、今思い返したら、子供達を連れていたのは親ではなかったような気がする。
 親子の割には、どこか余所余所しい所があったからだ。

 愛原:「相手が旧なのか新なのか知らないけど、アンブレラと関係のある所だったらヤバい気がする。ちょっと、当局に電話してくるわ」
 リサ:「トーキョク?」
 高橋:「善場の姉ちゃんっスね。分かります」

〔まもなく1番線に、列車が参ります。危ないですから、黄色い線まで、お下がりください〕

 愛原:「ボックスシート、取っといてくれよ?」
 高橋:「分かりました」

 私はスマホ片手にホームから離れた。

[同日11:53.天候:晴 JR仙石東北ライン5570D列車先頭車内]

〔まもなく1番線から、仙石東北ライン、快速列車、仙台行きが発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕

 ホームに発車メロディ“Sea Green”(https://www.youtube.com/watch?v=haSkvGwhlDk)が流れる。
 尚、実際に流れるのは1コーラス30秒だけである。
 列車が軽やかに走り出す。
 列車番号でお気づきの方もいらっしゃると思うが、この列車は気動車である。
 しかし、ハイブリットタイプの気動車だ。
 石巻駅から仙台駅まで、ずっと電化区間を走るのに、何故か気動車なのである。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は仙石東北ライン、快速、仙台行きです。停車駅は陸前山下、蛇田、陸前赤井、矢本、陸前小野、野蒜、高城町、塩釜、国府多賀城、陸前山王、岩切、東仙台、終点仙台です。次は陸前山下、陸前山下。お出口は、右側です〕

 気動車なのは仙石線が直流、東北本線が交流だからである。
 本来ならそれの切り替えを行う区間が存在するのだが(例として東北本線なら黒磯~高久間、常磐線なら取手~藤代間)、本来の仙石東北ラインである東北本線と仙石線との接続線が短い為にその区間を設けることができず、それでそのような区間を必要としない気動車となった。

 高橋:「……ていうか先生、善場の姉ちゃんと何があったんですか?」

 ボックスシートに座って憮然とする私に対し、向かい側に座る高橋が恐る恐る聞いて来た。
 窓側に座るリサも私の不機嫌さを感じ取ってか、窓の外の景色をジッと見ているだけで、私の方を見ようとはしない。

 愛原:「いやー……」
 高橋:「さ、サーセン」
 愛原:「善場主任に怒られたよ」
 高橋:「正月三が日の休みの日に電話してくんなってことですか?」
 愛原:「いや、違う。私が電話をしてきたこと自体は、何も言ってなかった。それよりも、俺達が勝手に動いて、しかもその途中経過を報告しなかったことに対して怒られた」
 高橋:「何スか、それ?」
 愛原:「私も『正式な契約に基づく業務ではないので、正月明けの新年の挨拶の時に報告書をお渡ししようかと思っていました』と言ったんだが、『浮気調査や素行調査ならともかく、アンブレラの動きを探るのは特殊な業務です。それで何も無かったのならともかく、何かあった時は連絡くらいしてください!』ってさ」

 話しているうちに、私は何だか笑みが零れてしまった。
 あの終始ポーカーフェイスまたは微笑を浮かべているだけのリサ・トレヴァー『0番』が、あの電話では声を荒げ、その時の表情はどんなものだったのかと思うと……。

 高橋:「姉ちゃんが怒るくらい、先生の調査結果は貴重なものだってことですよ。それこそ、報告書を明日持って行ってやるといいんじゃないですか?特に、リサの亜種『220番』とか、港から出ていた偽遊漁船のネタとかは絶対に貴重なネタですよ」
 愛原:「そのことなんだが、それで行方不明の子供達がいるから、警察に連絡した方がいいですかって聞いたんだ。そしたら、『愛原所長の調査結果が全てを物語っています。警察の手に負える相手ではありません。明日、詳しい話を聞かせて頂きます。それで決めましょう。但し、BSAAには一報を入れておきます』だってさ」
 高橋:「ま、確かにあれがアンブレラだとしたら、サツの手に負える相手じゃないですね」
 愛原:「それで、BSAAの出番ってわけだ」
 高橋:「先生の出番は?」
 愛原:「宮城ではもう無いってことさ。善場主任が明日の話をしたってことは、『早く東京に帰って来い』ってことだから」
 高橋:「ははっ(笑)。先生、善場の姉ちゃんのこと、分かってんじゃないスか」
 愛原:「あ?どういう意味だ?」
 高橋:「いや、何でもないっス」

 高橋は何か含んだ笑いを浮かべた。
 リサはその意味を感じ取ったか、今度は彼女が不機嫌そうになり、ジト目で私を見た。
 そして今度は引っ付いてくるようになった。
コメント
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