報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰京の探偵」

2021-02-03 20:01:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅新幹線乗り場→東北新幹線8188B列車10号車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 正月三が日も今日で終わり。
 私と高橋とリサは、東京へUターンしようとしている。
 本来ならUターンラッシュたけなわのはずなのだが、コロナ禍の影響で駅構内は普段の休日よりも空いている気がする。
 地元客の利用が多い在来線の方が賑わっているくらいだ。
 ラチ内……もとい、改札内の待合室で時間を潰し、その後でホームに向かった。

〔11番線に停車中の電車は、15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。この電車は福島、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。……〕

 下り副線ホームに、列車が止まっていた。
 なので発車してから暫くの間、逆走する形になる。
 最後尾の10号車に乗り込むと、指定された3人席に座った。
 席順は変わらない。
 荷棚に荷物や買った土産を置く。

〔「ご案内致します。この電車は15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。仙台を出ますと、次の停車駅は福島です。……」〕

 車内販売は無いので、ホームで飲み物などを買い、それをテーブルの上に置く。

 愛原:「リサは学校いつから?」
 リサ:「7日から」
 愛原:「随分中途半端だな」
 リサ:「本当は11日までだったんだけど、授業日数足りないからって短縮された」
 愛原:「そういうことか。まあ、大変だけど頑張ってくれとしか言いようがない」
 リサ:「私はいいけどね」

 しばらくして、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
 仙台フィルハーモニー管弦楽団が演奏した“青葉城恋唄”である。

〔「11番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 甲高い客終合図のブザーが車内に聞こえてくるほど、車内は静かで空いているということだ。
 ドアが閉まると、列車がスーッと発車する。

 愛原:「色々あったが、取りあえずこんな所だろう。問題は明日からだ。鮎川であったこと、善場主任に報告しないとな」
 高橋:「姉ちゃんから怒られるんでしょう?俺も付き合いますよ」
 愛原:「すまんな」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“やまびこ”号、東京行きです。途中の福島で後ろに7両、11号車から17号車を連結致します。次は、福島に止まります。……〕

 列車は仙台市内では時速100キロ程度の徐行で進むが、市外に出るとグングン速度を上げて行く。
 3人席は海側なので、そこの車窓の先には私の実家もあるはずなのだが、さすがにここからは見えない。
 辛うじて若林区役所が見えるくらいである。

 愛原:「『1番』を倒せないまま年が明けちゃったけど、今年は大丈夫かな?」
 高橋:「向こうが出て来てくれないと、こっちは何もできないっスからね」
 リサ:「『1番』は臆病で卑怯なんだよ。多分こうしている間にも、誰か人間を襲って、肉に食らい付いてると思う」
 愛原:「そりゃヤバいな」
 高橋:「あの剣道女子はどうするんですか?日本刀振り回してたヤツ」
 愛原:「栗原蓮華さんか。『3番』や『5番』をいつの間にか斬ってたらしいし、ついでに『1番』も斬ってくれてると楽なんだけどな」
 リサ:「『1番』は命令されないと動かない。誰が命令しているのかは知らないけど」
 愛原:「それはリサ、オマエも同じだろう?」
 リサ:「そう。私も同じ。だから、何でも命令してね」
 愛原:「取りあえず、『人の血肉を食うな』という命令かな」
 リサ:「分かった」
 高橋:「しかし先生。だったら、『1番』にもそういう命令出せばいいのに、どうしてそうしないんスかね?」
 愛原:「知らんな。『1番』に命令できる人物が、あえてそうしないんだろう」
 リサ:「もしくは、命令できる人がいないのかも……」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「いくら何でも、命令する人間が出なさ過ぎだよ。少しは分かってもいいはずなのにね」
 愛原:「なるほどなぁ……」
 高橋:「ガチでいねーのか?」
 リサ:「前はいたのかもしれないけど、食い殺したのかもね」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「私は大丈夫だよ。先生のことは信じてるから」

 だがその信頼関係が失われた時、私もリサの牙に掛けられるというわけだ。

[同日17:36.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 仙台からおよそ2時間。
 私達は無事に都内の地にいた。

 リサ:「サイトーのヤツ、私がいなくて寂しかったって。LINEが止まらない」
 高橋:「あえて既読スルーしてやれよw」
 リサ:「そしたらサイトー、私の所へ飛んで来る」
 高橋:「とんでもねぇストーカーだ」
 リサ:「BOWにあえて食われに来る人間」
 高橋:「あー、そりゃ食われる方が悪い」
 愛原:「高橋」
 高橋:「あっ、サーセン」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 リサ:「サイトーは『是非食べて!』って言ってくれてるんだけど……」
 愛原:「却下する。命令だ」
 リサ:「はーい」

 私は席を立つと、荷棚に置いた荷物を下ろした。

 高橋:「善場の姉ちゃんには“萩の月”ですか。オーソドックスですね」
 愛原:「しょうがない。俺の偏見だけど、女性には甘い物がいいだろうと思ってな。斉藤社長とボスには牛タンと、宮城の銘酒を送っておいた」
 高橋:「アネゴには贈れなくて残念ですね」
 愛原:「しょうがないから高野君には、ポストカードを『手紙』という形で送ることにした」
 高橋:「いいアイディアですね」
 愛原:「だろぉ?明日か明後日には拘置所に届くだろう」

 絵葉書でも葉書である以上、手紙として送れるし、拘置所も受け取り拒否はしないだろう。

〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕

 列車が東京駅20番線に到着すると、私達はホームに降りた。

 愛原:「2泊3日だけなのに、何か久しぶりに帰って来た気がするなぁ……」
 高橋:「そうですね。ここからどうします?」
 愛原:「バスで帰るのが1番安上がりなんだけど、ちょっと乗り継ぎ悪いし、荷物も増えたからタクシーで帰ろう」
 高橋:「分かりました」

 私達は改札口を出ると、八重洲口側のタクシー乗り場に向かった。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「仙台駅の探偵」

2021-02-03 14:52:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日12:53.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅1F在来線ホーム→3F“牛タン通り”]

〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、左側です。新幹線、仙石線、仙山線、常磐線、仙台空港アクセス線、仙台市地下鉄南北線と仙台市地下鉄東西線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 首都圏のJR電車と同じ声優さん、同じ言い回しの自動放送が車内に流れる。
 ここまで来ると車内はほぽ満席になり、ドア付近に立ち客も出始めている。
 日本語の自動放送と英語放送が流れた後、車掌の肉声による乗り換え案内も流れる。
 それを合図にするようにして、私達も降りる準備を始めた。

 愛原:「あとは昼食を取ってお土産を買うだけだ。先に新幹線のキップを買っておくか」
 高橋:「それはいいですね。乗る列車を決めておけば、ダラダラと残ることも無いでしょうから」

 列車がゆっくりと仙台駅2番線に入線した。

〔せんだい~、仙台~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 愛原:「2Fの改札口で待っているはずだ」
 高橋:「はい」

 ドアが開いて乗客達が降り出すと、私達も一緒に列車を降りた。
 階段を登って改札口を出ると、そこで両親は待っていた。

 父親:「お帰り。ご苦労さん」
 母親:「石巻とか女川まで行って来たんだって?大変だったわねぇ……」
 愛原:「いや、まあ……ハハハ……。あ、これ、お土産」

 私は鮎川のビジターセンターで買って来た鯨肉の缶詰の入った紙袋を渡した。

 父親:「そうか。鮎川からも捕鯨船が出てたなぁ……」
 母親:「さすがに気仙沼じゃないから、フカヒレではないのね」

 東京駅のどこかで、フカヒレ食べれる店があったような……?

 愛原:「それより、早く食べに行こうよ。うちのリサ、腹空かせてるから」
 父親:「おおっ!そりゃ悪かった!」
 リサ:「い、いえ。私は別に……」

 しかし、そのタイミングで都合良くリサの腹が鳴った。

 父親:「早く行こう。牛タン食べさせてやるから、この上だ」

 私の前で平気で裸になってて、さすがに今はそんなことも無くなったが、しかし短いスカートでバンバンパンチラしてくるリサが、何故か腹を鳴らしただけで恥ずかしそうに俯いた。
 ようやく心も人間に近づいてくれたのだろうか。
 リサを人間に戻す手立ては後に確立できても、心が化け物のままではダメだと善場主任は言う。
 私達は更に上に行くエスカレーターに乗ると、新幹線改札口のある3Fに向かった。
 ここには牛タン店の並ぶ“牛タン通り”と寿司店の並ぶ“寿司通り”がある。
 しかし寿司は刺身も含めて、今回の旅行で既に食べてしまった。
 特に、鮎川の民宿ではこれでもかというほど海の幸が出て来たからな……。
 それにしても、あの料理をキャンセルしてしまった宿泊客3人組というのは一体誰だったのだろう?

 愛原:「あっ、お父さん。ちょっと待ってくれる?」

 エスカレーターを上がって左に曲がる前、私は直進した。
 その先には指定席券売機や“みどりの窓口”がある。

 愛原:「先に新幹線のキップ買うよ」
 父親:「あー、そうか。その方がいいな」
 高橋:「お供します!」
 父親:「俺達はここで待ってるよ」

 私達はズラッと並ぶ指定席券売機に向かった。

 愛原:「食事の時間が1時間くらいだとして、あとは土産を買う時間も考えれば……これでいいか」
 高橋:「行きは“はやぶさ”、帰りは“やまびこ”ですか?」
 愛原:「ん?逆じゃね?帰省なんだから、下りが『帰り』だろう?」
 高橋:「あっ、サーセン!」
 愛原:「あ、いや。あくまでも、俺にとっては、か。オマエ達にとっては、今の発言で正しいんだった。悪かったな」
 高橋:「いえ……」

 なるべく空いている仙台始発の列車を狙ってみるが、やはりコロナ禍の影響でガラガラだった。
 仙台始発でなくても良いくらい。
 でもまあ、確実な方を選んだ。

 愛原:「これでいいだろう」
 高橋:「1番前っスか?」
 愛原:「いや、1番後ろだ。先頭車は自由席だから」
 高橋:「ああ」

 リサと同乗する際の注意点として、鉄道利用の際はなるべく先頭車か最後尾に乗るというものがある。
 これは万が一、リサが暴走した場合、BSAAが外から狙撃する場合のターゲットにしやすい為だという。
 中間車でも、首都圏の中距離電車みたいに2階建てグリーン車という分かり易い目印であれば良い。

 愛原:「お待たせ」
 父親:「んで、早く行こうか」

 私達は“牛タン通り”に向かった。

[同日14:00.天候:晴 JR仙台駅3F“たんや善次郎”→“おみやげ処せんだい”4号店]

 リサ:(たんや善次郎→炭や善次郎→炭次郎 善→炭治郎 善逸……)

 さっきからリサがニヤニヤしているのだが、そんなに牛タンが美味かったのだろうか。

 父親:「よし。じゃあ、新年会はここまでにして、そろそろ出ようか」
 愛原:「はい」
 高橋:「御馳走さまでした!」
 愛原:「ああ、いいよ。俺が出すよ。最近、いい売り上げだし……」
 父親:「心配するな。オマエの懐に入る純利益より、俺の年金(国民年金、厚生年金、企業年金、個人年金)の方が高いから」
 愛原:「くっ……!」

 現在のアラウンド70の平均年金受給額っていくらだ?
 てかうちの父親、絶対その平均より上行ってんだろ、全く。

 愛原:「さっさと土産を買おう!」
 高橋:「は、はい」

 店を出て、新幹線乗り場のすぐ近くにある土産物売り場に向かう。

 愛原:「どこへの土産ですか?」
 高橋:「ボスと斉藤社長と善場主任だ。うちの事務所は、この御三方によって支えられている」
 リサ:「私もサイトーに何か買って行く」
 愛原:「ああ。そうするといい」
 高橋:「先生。アネゴへの土産は……?」
 愛原:「多分、無理だろうな。どうしても、池田屋辺りで買ったものでないとダメみたいだ」
 高橋:「拘置所の所長に、『山吹色の菓子でございます。これでどうか1つ、アネゴのことを……』というのは?」
 愛原:「贈賄罪で俺が逮捕されるわ!」

 贈収賄で罪に問われるのは政治家だけではない。
 地方・国家不問で、公務員に対しても適用されるのである。
 え?国家公務員たる善場主任に送って大丈夫なのかって?
 それで私に便宜を図ってもらうわけではないから大丈夫。
 ただ単に、新年の御挨拶を兼ねるだけだ。
 ……あ、ダメか。
 確か昨年、何か贈呈しようとしたら断わられた記憶がある。
 接待として一緒に食べるのはOKなのか。
 だけど善場主任、あまり酒飲まないんだよなぁ……。

 リサ:「私は何にしようかな……」

 土産を選んでいる間、時間はあっという間に過ぎて行った。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする