[1月3日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅新幹線乗り場→東北新幹線8188B列車10号車内]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
正月三が日も今日で終わり。
私と高橋とリサは、東京へUターンしようとしている。
本来ならUターンラッシュたけなわのはずなのだが、コロナ禍の影響で駅構内は普段の休日よりも空いている気がする。
地元客の利用が多い在来線の方が賑わっているくらいだ。
ラチ内……もとい、改札内の待合室で時間を潰し、その後でホームに向かった。
〔11番線に停車中の電車は、15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。この電車は福島、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。……〕
下り副線ホームに、列車が止まっていた。
なので発車してから暫くの間、逆走する形になる。
最後尾の10号車に乗り込むと、指定された3人席に座った。
席順は変わらない。
荷棚に荷物や買った土産を置く。
〔「ご案内致します。この電車は15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。仙台を出ますと、次の停車駅は福島です。……」〕
車内販売は無いので、ホームで飲み物などを買い、それをテーブルの上に置く。
愛原:「リサは学校いつから?」
リサ:「7日から」
愛原:「随分中途半端だな」
リサ:「本当は11日までだったんだけど、授業日数足りないからって短縮された」
愛原:「そういうことか。まあ、大変だけど頑張ってくれとしか言いようがない」
リサ:「私はいいけどね」
しばらくして、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
仙台フィルハーモニー管弦楽団が演奏した“青葉城恋唄”である。
〔「11番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕
甲高い客終合図のブザーが車内に聞こえてくるほど、車内は静かで空いているということだ。
ドアが閉まると、列車がスーッと発車する。
愛原:「色々あったが、取りあえずこんな所だろう。問題は明日からだ。鮎川であったこと、善場主任に報告しないとな」
高橋:「姉ちゃんから怒られるんでしょう?俺も付き合いますよ」
愛原:「すまんな」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“やまびこ”号、東京行きです。途中の福島で後ろに7両、11号車から17号車を連結致します。次は、福島に止まります。……〕
列車は仙台市内では時速100キロ程度の徐行で進むが、市外に出るとグングン速度を上げて行く。
3人席は海側なので、そこの車窓の先には私の実家もあるはずなのだが、さすがにここからは見えない。
辛うじて若林区役所が見えるくらいである。
愛原:「『1番』を倒せないまま年が明けちゃったけど、今年は大丈夫かな?」
高橋:「向こうが出て来てくれないと、こっちは何もできないっスからね」
リサ:「『1番』は臆病で卑怯なんだよ。多分こうしている間にも、誰か人間を襲って、肉に食らい付いてると思う」
愛原:「そりゃヤバいな」
高橋:「あの剣道女子はどうするんですか?日本刀振り回してたヤツ」
愛原:「栗原蓮華さんか。『3番』や『5番』をいつの間にか斬ってたらしいし、ついでに『1番』も斬ってくれてると楽なんだけどな」
リサ:「『1番』は命令されないと動かない。誰が命令しているのかは知らないけど」
愛原:「それはリサ、オマエも同じだろう?」
リサ:「そう。私も同じ。だから、何でも命令してね」
愛原:「取りあえず、『人の血肉を食うな』という命令かな」
リサ:「分かった」
高橋:「しかし先生。だったら、『1番』にもそういう命令出せばいいのに、どうしてそうしないんスかね?」
愛原:「知らんな。『1番』に命令できる人物が、あえてそうしないんだろう」
リサ:「もしくは、命令できる人がいないのかも……」
愛原:「えっ?」
リサ:「いくら何でも、命令する人間が出なさ過ぎだよ。少しは分かってもいいはずなのにね」
愛原:「なるほどなぁ……」
高橋:「ガチでいねーのか?」
リサ:「前はいたのかもしれないけど、食い殺したのかもね」
愛原:「えっ?」
リサ:「私は大丈夫だよ。先生のことは信じてるから」
だがその信頼関係が失われた時、私もリサの牙に掛けられるというわけだ。
[同日17:36.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
仙台からおよそ2時間。
私達は無事に都内の地にいた。
リサ:「サイトーのヤツ、私がいなくて寂しかったって。LINEが止まらない」
高橋:「あえて既読スルーしてやれよw」
リサ:「そしたらサイトー、私の所へ飛んで来る」
高橋:「とんでもねぇストーカーだ」
リサ:「BOWにあえて食われに来る人間」
高橋:「あー、そりゃ食われる方が悪い」
愛原:「高橋」
高橋:「あっ、サーセン」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサ:「サイトーは『是非食べて!』って言ってくれてるんだけど……」
愛原:「却下する。命令だ」
リサ:「はーい」
私は席を立つと、荷棚に置いた荷物を下ろした。
高橋:「善場の姉ちゃんには“萩の月”ですか。オーソドックスですね」
愛原:「しょうがない。俺の偏見だけど、女性には甘い物がいいだろうと思ってな。斉藤社長とボスには牛タンと、宮城の銘酒を送っておいた」
高橋:「アネゴには贈れなくて残念ですね」
愛原:「しょうがないから高野君には、ポストカードを『手紙』という形で送ることにした」
高橋:「いいアイディアですね」
愛原:「だろぉ?明日か明後日には拘置所に届くだろう」
絵葉書でも葉書である以上、手紙として送れるし、拘置所も受け取り拒否はしないだろう。
〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕
列車が東京駅20番線に到着すると、私達はホームに降りた。
愛原:「2泊3日だけなのに、何か久しぶりに帰って来た気がするなぁ……」
高橋:「そうですね。ここからどうします?」
愛原:「バスで帰るのが1番安上がりなんだけど、ちょっと乗り継ぎ悪いし、荷物も増えたからタクシーで帰ろう」
高橋:「分かりました」
私達は改札口を出ると、八重洲口側のタクシー乗り場に向かった。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
正月三が日も今日で終わり。
私と高橋とリサは、東京へUターンしようとしている。
本来ならUターンラッシュたけなわのはずなのだが、コロナ禍の影響で駅構内は普段の休日よりも空いている気がする。
地元客の利用が多い在来線の方が賑わっているくらいだ。
ラチ内……もとい、改札内の待合室で時間を潰し、その後でホームに向かった。
〔11番線に停車中の電車は、15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。この電車は福島、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。……〕
下り副線ホームに、列車が止まっていた。
なので発車してから暫くの間、逆走する形になる。
最後尾の10号車に乗り込むと、指定された3人席に座った。
席順は変わらない。
荷棚に荷物や買った土産を置く。
〔「ご案内致します。この電車は15時33分発、“やまびこ”188号、東京行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。仙台を出ますと、次の停車駅は福島です。……」〕
車内販売は無いので、ホームで飲み物などを買い、それをテーブルの上に置く。
愛原:「リサは学校いつから?」
リサ:「7日から」
愛原:「随分中途半端だな」
リサ:「本当は11日までだったんだけど、授業日数足りないからって短縮された」
愛原:「そういうことか。まあ、大変だけど頑張ってくれとしか言いようがない」
リサ:「私はいいけどね」
しばらくして、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
仙台フィルハーモニー管弦楽団が演奏した“青葉城恋唄”である。
〔「11番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕
甲高い客終合図のブザーが車内に聞こえてくるほど、車内は静かで空いているということだ。
ドアが閉まると、列車がスーッと発車する。
愛原:「色々あったが、取りあえずこんな所だろう。問題は明日からだ。鮎川であったこと、善場主任に報告しないとな」
高橋:「姉ちゃんから怒られるんでしょう?俺も付き合いますよ」
愛原:「すまんな」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“やまびこ”号、東京行きです。途中の福島で後ろに7両、11号車から17号車を連結致します。次は、福島に止まります。……〕
列車は仙台市内では時速100キロ程度の徐行で進むが、市外に出るとグングン速度を上げて行く。
3人席は海側なので、そこの車窓の先には私の実家もあるはずなのだが、さすがにここからは見えない。
辛うじて若林区役所が見えるくらいである。
愛原:「『1番』を倒せないまま年が明けちゃったけど、今年は大丈夫かな?」
高橋:「向こうが出て来てくれないと、こっちは何もできないっスからね」
リサ:「『1番』は臆病で卑怯なんだよ。多分こうしている間にも、誰か人間を襲って、肉に食らい付いてると思う」
愛原:「そりゃヤバいな」
高橋:「あの剣道女子はどうするんですか?日本刀振り回してたヤツ」
愛原:「栗原蓮華さんか。『3番』や『5番』をいつの間にか斬ってたらしいし、ついでに『1番』も斬ってくれてると楽なんだけどな」
リサ:「『1番』は命令されないと動かない。誰が命令しているのかは知らないけど」
愛原:「それはリサ、オマエも同じだろう?」
リサ:「そう。私も同じ。だから、何でも命令してね」
愛原:「取りあえず、『人の血肉を食うな』という命令かな」
リサ:「分かった」
高橋:「しかし先生。だったら、『1番』にもそういう命令出せばいいのに、どうしてそうしないんスかね?」
愛原:「知らんな。『1番』に命令できる人物が、あえてそうしないんだろう」
リサ:「もしくは、命令できる人がいないのかも……」
愛原:「えっ?」
リサ:「いくら何でも、命令する人間が出なさ過ぎだよ。少しは分かってもいいはずなのにね」
愛原:「なるほどなぁ……」
高橋:「ガチでいねーのか?」
リサ:「前はいたのかもしれないけど、食い殺したのかもね」
愛原:「えっ?」
リサ:「私は大丈夫だよ。先生のことは信じてるから」
だがその信頼関係が失われた時、私もリサの牙に掛けられるというわけだ。
[同日17:36.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
仙台からおよそ2時間。
私達は無事に都内の地にいた。
リサ:「サイトーのヤツ、私がいなくて寂しかったって。LINEが止まらない」
高橋:「あえて既読スルーしてやれよw」
リサ:「そしたらサイトー、私の所へ飛んで来る」
高橋:「とんでもねぇストーカーだ」
リサ:「BOWにあえて食われに来る人間」
高橋:「あー、そりゃ食われる方が悪い」
愛原:「高橋」
高橋:「あっ、サーセン」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサ:「サイトーは『是非食べて!』って言ってくれてるんだけど……」
愛原:「却下する。命令だ」
リサ:「はーい」
私は席を立つと、荷棚に置いた荷物を下ろした。
高橋:「善場の姉ちゃんには“萩の月”ですか。オーソドックスですね」
愛原:「しょうがない。俺の偏見だけど、女性には甘い物がいいだろうと思ってな。斉藤社長とボスには牛タンと、宮城の銘酒を送っておいた」
高橋:「アネゴには贈れなくて残念ですね」
愛原:「しょうがないから高野君には、ポストカードを『手紙』という形で送ることにした」
高橋:「いいアイディアですね」
愛原:「だろぉ?明日か明後日には拘置所に届くだろう」
絵葉書でも葉書である以上、手紙として送れるし、拘置所も受け取り拒否はしないだろう。
〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕
列車が東京駅20番線に到着すると、私達はホームに降りた。
愛原:「2泊3日だけなのに、何か久しぶりに帰って来た気がするなぁ……」
高橋:「そうですね。ここからどうします?」
愛原:「バスで帰るのが1番安上がりなんだけど、ちょっと乗り継ぎ悪いし、荷物も増えたからタクシーで帰ろう」
高橋:「分かりました」
私達は改札口を出ると、八重洲口側のタクシー乗り場に向かった。