報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「新情報」

2021-02-04 20:02:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月5日10:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 翌日になり、善場主任が私の事務所を訪ねて来た。

 善場:「今日はお時間を取って頂き、ありがとうございます」
 愛原:「いいえ。御足労頂き、ありがとうございます」

 私と善場主任は応接室にいる。
 高橋がお茶を持って来た。
 かつてはこの役目、高野君が受けてくれていたのだが……。

 愛原:「お話というのは、例の偽遊漁船のことですか?」
 善場:「そうです。BSAAからの調査報告が入りましたので、お教えしようかと思いまして」
 愛原:「ありがとうございます。それで、調査結果はどうでした?」
 善場:「予想はどちらもハズレのようです」
 愛原:「ハズレのようです?では、正答は……」
 善場:「推理を練り直す必要があるようですね」
 愛原:「つまり、偽遊漁船はどこかの島に向かったわけでもなく、かといってどこかの港に向かったわけでもないと……?」
 善場:「そうです」
 愛原:「では、あの船は一体どこへ向かったんですか?」
 善場:「もう1つ考えられる理由が、『他の船に移った』説です」
 愛原:「ええっ!?」
 善場:「偽遊漁船は外洋にも出られるクルーザーが利用されたと見られます。愛原所長の写真で見た船がそうでしたから」
 愛原:「あ、はい。私もそう思います」
 善場:「それで外洋まで出た後、そこに停泊していた別の船に乗り移った可能性もあります」
 愛原:「ええっ!?そんな大それたことが?」
 善場:「はい」
 愛原:「でも、釣りに行くと言って乗ったのに、別の船に乗り移らされようとしたら、怪しむんじゃないですか?」
 善場:「上手いこと騙したか、或いは脅して乗せたか、いくらでもやり方は考え付きます。因みに行方不明になったコ達ですが、家族には『友達と釣りに行く』と言っていたそうです」
 愛原:「よく親は納得しましたね?」
 善場:「例えばA君がいたとしましょう。A君は『B君やC君と釣りに行く』と言い、B君は『A君やC君と釣りに行く』と言います。C君は……ですね。漁港の町の子供達ですから、日頃から子供達だけて釣りに行くことは珍しく無かったのでしょう」

 山村に住んでいる子供が山に遊びに行くようなものか。

 愛原:「それで、主任はその船に心当たりはあるのですか?」
 善場:「全くありません。でも、私はある船が怪しいとは思っています」
 愛原:「ある船?」
 善場:「豪華客船ですよ」
 愛原:「豪華客船!?」
 善場:「今、豪華客船はコロナ禍で長期休業を余儀なくされています」
 愛原:「でしょうね!」
 善場:「しかしずっと係留したままにしておくことはできず、時折は回送状態で航行することがあるそうです」

 エンジンをずっと止めておくと、いざ始動した時に不具合を起こしたり、スクリューに藻が絡んだりすることがある。
 また、船内設備に関しても、係留中は何でも無くても、航行中に不具合が発生することもある。
 その為、多くの豪華客船は所属国の領海内で回送運転をすることがたまにあるのだそうだ。

 愛原:「いや、でもそんな、都合良く豪華客船に乗せて監禁するなんて……」
 善場:「2005年のヴェルトロ事件では、豪華客船が舞台でした。有り得なくは無いです」
 愛原:「うーん……」
 善場:「もちろん、貨物船にも注目しています。2017年、アメリカのルイジアナ州で起きたベイカー農場事件は、貨物船の事故が発端でしたから」

 実際には貨物船に便乗していた新型BOWエブリンが船内で暴走し、バイオハザードを引き起こしたものである。

 愛原:「でもお話を伺った限りでは、私達の出番は無さそうですね。仮にその船があったとして、それに対処するのはBSAAでしょう?」
 善場:「そういうことになりますね。で、私が注目したいのは、『1番』のことなんです」
 愛原:「『1番』は未だに行方不明ですよ。うちのリサも、全く見当が付かないと言っています」
 善場:「私はその船に『1番』が乗っているのではないかと考えています。そして、餌となる少年少女を運ばせているのではないかと」
 愛原:「ええっ!?」
 善場:「全く尻尾を出さないのは、海にいるからだとすれば辻褄は合うんですよ」
 愛原:「でも、『1番』はどうやって船に?」
 善場:「もちろん、手引きした人物がいるんですよ。それが恐らく、所長が会ったガスマスクの男や白井伝三郎氏なのではないでしょうか?」
 愛原:「うーむ……」

 白井伝三郎氏のことは斉藤社長から少し聞いている。
 日本アンブレラ在りし頃、そこから科学教師として東京中央学園高等部に派遣された研究員であると。
 授業時間以外は殆ど科学室や科学準備室に籠っており、特に準備室の奥に存在する倉庫を秘密の研究室にしていたと。
 そこは顧問を務める科学部や生物部の部員ですら入ることを許しておらず、教職員でも許されていなかったと。
 かつてその秘密を探ろうとした新聞部があったが、ある日を境にその取材に関わっていた部員全員が行方不明になったと。
 私も社長に依頼されて、そこを調べたことがある。
 しかしその倉庫は既に蛻の殻になっており、そこで外に繋がる秘密の地下通路を見つけることはできたものの、それがかつて存在した日本アンブレラの営業所跡に通じていたことが分かっただけだった。

 愛原:「斉藤社長に頼んで、もう少し詳しい話を聞ければと思います」
 善場:「それはいいですね。是非そうしてください」
 愛原:「後で斉藤社長に頼んでみます」

 善場主任が帰った後、私は斉藤社長にメールを送った。
 すると意外にも、社長からの返信は早かった。
 しかも、どうも私のメールを予想していたらしく、『愛原さんが白井に的を絞ると思っていましたよ。せっかくですから、例の現場で話をしましょう。そう、東京中央学園上野高校ですよ。日曜日なら学校も休みですし、私から学校関係者へは許可を取りましょう』とのことだった。

 愛原:「随分と話が早いな……」

 斉藤社長は恐らく、早くから白井伝三郎が怪しいと思っていたのだろう。
 五十嵐元社長は、どうやらただのお飾り社長だったようだ。
 息子の元副社長なんかも、『実権は研究部門が握っていた。アメリカの親会社もその方針だったから、社長も自分も、ただ会議をしてハンコを押すだけの仕事しか無かった』と証言している。
 もちろん、自分達が責任を逃れる為にそう言っているだけとも取れるが。
 だが、斉藤社長の話の早さからして、恐らくそれが現実だったのだろう。
 もしかしたら斉藤社長は、私よりももっと真相に近い所にいるのかもしれない。
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“私立探偵 愛原学” 「仕事始めの探偵」

2021-02-04 12:08:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月4日10:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所 応接室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事始め。
 早速私はNPO法人デイライトの事務所に向かった。
 表向きはNPO法人だが、その実態は日本政府の出先機関の1つで、主にバイオテロに対応する部署である。
 そこに善場主任を訪ねた。
 因みに、そこに高橋とリサも同席させている。

 愛原:「明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」
 善場:「こちらこそ、よろしくお願い致します」
 愛原:「先日は先走り過ぎまして、申し訳ありませんでした」
 善場:「いいえ。こちらこそ、言い過ぎました。大変失礼致しました」
 愛原:「こちらが報告書です」

 私は報告書を差し出した。

 善場:「拝見致します」

 善場主任はそれを受け取った。

 善場:「……恐らく罠でしょうね」
 愛原:「罠!?」
 善場:「鮎川の港から実験体を遊漁船に似せた船に乗って連れ去ったというのは本当でしょう。しかし、それに愛原所長方も乗せようとしたのかもしれません。しかし、所長の判断でそれに掛かることは無かったみたいですね」
 高橋:「さすが先生!ご英断です!」
 善場:「そうですね」
 愛原:「それで、BSAAに一報を入れたとのことですが、どうなりましたか?」
 善場:「今日、調査のヘリを飛ばすことになっています。それ次第ですね」
 愛原:「なるほど」
 善場:「私の予想では、どこか無人島あるいはそこに行くと見せかけて、またどこかの港に接岸し、再び上陸したものと思われます」
 愛原:「あ、なるほど。私はどこかの島だと思っていましたが、再び上陸ということも有り得るんですな」
 善場:「遊漁船自体が偽物ですから、別に釣りはしなくていいわけですからね」
 愛原:「そりゃそうだ」
 善場:「しかし再び上陸となると、その分、足は付きやすくなります。そのリスクを向こうがどう捉えるかですね」
 愛原:「なるほどなぁ……」
 善場:「あとはこちらで調査します。調査自体はありがとうございました。これに対する報酬は支払わせて頂きます。但し、今後は無断で調査は行わないでください」
 愛原:「はい。申し訳ありませんでした」

[同日11:15.天候:晴 都営バス新橋停留所→都営バス業10系統車内]

 善場主任への報告並びに打ち合わせが終わり、私達は事務所に戻ることにした。
 デイライト事務所の最寄りのバス停に行き、そこからバスに乗り込む。

 愛原:「これで全く違う展開になったらウケるな」
 高橋:「そうですね」

 バスに乗って1番後ろの席に座った。

 愛原:「リサ、『1番』の居場所、目星とか付かないのか?」
 リサ:「分かんない。全然分かんない」

 リサは首を横に振った。

 愛原:「前はリサにちょっかい出して来たりしてたのにな」

 都営大江戸線の戦い以降、『1番』は私達の前から姿を消した。
 通っていた聖クラリス女学院も、病気を理由に長期欠席しているらしい。
 学校での偽名は不明。
 恐らく善場主任は分かっているのだろう。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは時間になると発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは勝どき橋南詰、豊洲駅前、東京都現代美術館前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は本所吾妻橋。日蓮正宗本行寺、常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリーが御便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 リサ:「本当に『1番』って生きてるんだろうか……?」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「私だって処分されるかどうかの瀬戸際だったから、もしかしたら『1番』もって思ったんだけど……」
 愛原:「おい、そりゃ本当か?」
 リサ:「分かんないけどね」
 愛原:「いずれにせよ、調査の結果次第だな」

[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 お昼の情報ワイド番組では、鮎川で行方不明になった子供達の事が報道されていた。
 既にマスコミにも知られたらしい。
 しかも番組では、港から不審なクルーザーが出たという所まで報じていた。
 これでもうあの偽遊漁船は、あの港から出ることはあるまい。
 そのマスコミでも、偽遊漁船がどこへ向かったのかまでは分からないようだった。
 中にはヘリを飛ばし、金華山周辺からリポーターが報ずる番組もあったが、テレビで観る限りでは怪しい所は見受けられなかった。
 これはやはり善場主任の見解通り、一旦沖に出て、またどこかの港に接岸して降ろしたというパターンか?

 高橋:「先生、コーヒーです」
 愛原:「おっ、ありがとう」
 高橋:「今度は“ミヤネ屋”ですか?」
 愛原:「コロナばっかりだったから、マスコミも良いネタだと思ったらしいな。しかも、犯人があのアンブレラ関係者ではないかという所まで言ってるよ」
 高橋:「これは姉ちゃん達の作戦ですかね?」
 愛原:「かもな。あのガスマスクと白井伝三郎の関係も気になる所だ」
 高橋:「えーと……大トロでしたっけ?」
 愛原:「ヴェルトロだよ!何だよ、大トロって!?マグロか!」
 高橋:「さ、サーセン。じゃあ俺、夕食の買い出しがあるんで……」
 愛原:「ああ、分かった。オマエがトロの話をしたもんだから、寿司食いたくなってきた」
 高橋:「寿司ですか」
 愛原:「スーパーに行くんだろ?そこのパック詰めのヤツでいいから、寿司で頼むよ」
 高橋:「分かりました」

 高橋が買い出しの為に事務所を出る。
 この間、私は1人になる。
 それにしても……。
 私は自分のPCをネットに繋いだ。
 斉藤社長、意外とTwitterをやっているようだ。

 愛原:「『取引先から頂いた牛タンと日本酒で一杯やっています。功徳~~~~~~!!』ってさ、牛タンは斉藤社長に送ったヤツなんだよ。で、日本酒はボスに送ったヤツのはずなのに、どうして斉藤社長が飲んでるんだろう?」

 もちろん、駅の土産物売り場で買った物だ。
 大量生産されている物だろうから、たまたま私のと他の取引先の人のとが被ったとも考えられるが……。
 その時、私のスマホに電話が掛かって来た。
 画面を見ると善場主任だった。

 愛原:「はい、もしもし?」
 善場:「愛原所長、善場です」
 愛原:「お疲れ様です。何かありましたか?」
 善場:「明日、事務所にお伺いしてもよろしいですか?」
 愛原:「あ、はい。私は特に予定はありませんので、大丈夫ですが……」
 善場:「ありがとうございます。明日、よろしくお願いします」

 何か調査で見つかったのだろうか。
 今じゃなく、明日ということは、今日中に何かが分かって、それを明日教えてくれるということなのだろう。
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