報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探索強制終了と地震」

2021-02-15 19:55:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月13日22:00.天候:晴 東京中央学園上野高校新校舎・宿直室]

 私達は黒木先生が教師として勤めていた時、よく寝泊まりしていたという宿直室を調べていた。
 宿直室は和室だったので、畳が敷かれている。
 今度は畳を剥がして、その下を調べることにした。
 国税庁も査察に入る時は畳の下も調べるというからな。

 愛原:「うん?」

 和室は6畳間である。
 つまり、畳が6枚敷かれているということだな。
 全部の畳を剥がすつもりでやってみたのだが、そのうち、1枚の下から茶封筒が見つかった。
 だいぶ前からあったのか、かなり色あせている。

 愛原:「何だこれ?」

 中を開けると、透明のビニール袋に入れられた手紙が入っていた。
 ビニール袋に包まれていたからか、中の手紙はそんなに劣化していなかった。
 手紙は手書きではなかった。
 パソコンのワードで作成されたもののようだ。

 愛原:「『白井伝三郎には気をつけろ。奴はサイコパスだ。人の命を何とも思っていない』」
 高橋:「怪文書みたいっスね」

 私達にとっては何を今さら的な内容であるが、少なくとも私達の他に白井の異常性に気づいた者がいたというわけだ。
 他の紙には、『科学準備室倉庫の中から呻き声が聞こえるという噂は本当だ』ともあった。

 斉藤秀樹:「そうなんです。私もこの噂を聞いたことがあります。それで当時の新聞部長が、あの中で何の実験をしているのか暴いてやろうと考えていたらしいですね」

 そして最後の紙を見た時、私は背筋に寒い物が走るのを感じた。
 それだけ赤茶色の文字で書き殴られていたからだ。

 それはおれだ またまん月 まただれか食べたい

 斉藤:「こ、これは……!?」
 リサ:「……うん。ほんの微かに血の臭いがする。それも……人間の血の臭いじゃない……」
 愛原:「ええっ!?」
 高橋:「先生、ここ!ここの板が外れます!」

 畳の下の床板の2枚が簡単に外れるようになっていた。
 しかしいくら和室だからといって、鉄筋コンクリート造りの校舎で、畳の下が木の床とは?
 それとも、これでいいのか?
 私は高橋に床板を剥がさせた。
 そして、今度こそ床下の地面が現れる。
 そこにあったのは……。

 愛原:「な、何たるちゃあ……」
 高橋:「こ、これは……!」
 斉藤:「そ、そうか……。そういうことだったのか……」
 坂上:「け、警察に電話してきます!!」

 床下にあったのは、おびただしい白骨死体の数々だった。

 斉藤:「黒木先生は……人間じゃなかったんですよ。恐らくは……白井が造ったBOW。満月……というのは……」
 リサ:「ハンターやタイラント君が暴れやすい夜があったの。確かそれは……満月の時だって」

 そして、またリサの記憶が戻ったようだ。

 リサ:「『7番』が言ってた。『あいつ(恐らく白井)が言ってたけど、男を素体にすると満月が来る度に捕食欲が高まるから使い物にならない。だから、キミ達女の子に期待しているんだよって。ンなワケないよねー。どうせエロい目的なだけでしょーに』って」
 愛原:「そういうことだったのか……」

 しばらくして坂上先生が戻ってきた。

 坂上:「警察に通報しました!」
 斉藤:「坂上、キミが旧校舎から追い出された時、満月だったかい?」
 坂上:「えっ?な、何だい?唐突に」
 斉藤:「いいから!キミ達が“トイレの花子さん”のことを調べようとして黒木に旧校舎から追い出された時、空は満月だったかい?」
 坂上:「そ、そんなこといちいち覚えてないよ。ただ……もしかしたら、そうだったかもしれない。もう夜だったのに、校庭は意外と明るかった記憶が残ってる。それだけ月明りが強かったってことだから、もしかしたら満月だったのかもしれないな」
 愛原:「でも、坂上先生は助かってますよね?」
 坂上:「いや、それが……。私の回の時も、1人参加者が来なかったと言いましたよね?」
 愛原:「ええ」
 坂上:「その後も、その参加者は行方不明のままなんです」
 愛原:「ええっ!?」

 恐らく黒木が書いたであろうこの文書も警察が調べるだろうから、私はこの紙を今のうちにスマホで撮影しておいた。
 これも恐らく善場主任への報告案件になると思ったからだ。
 しばらくしてパトカーのサイレンの音が聞こえ、警察がやってきた。
 警察の事情聴取に素直に応じながら、私はふと考えた。
 白井は恐らくどこかで生きているだろう。
 恐らく、ヴェルトロの残党と何か企んでいるのかもしれない。
 少なくとも、五十嵐元社長達とは関係を断っているだろう。
 しかし、黒木はどこに行ったのだろうか?
 これがアメリカのアンブレラであれば、用済みとなった者は躊躇なく殺処分しているだろうが……。

[同日23:08.天候:晴 同地区内 コインパーキング]

 私達は1時間ほど警察に状況説明と事情聴取を受けた。
 まあ、なかなか説明するのが大変だった。
 何しろメンバーに大製薬企業の代表取締役社長と、前科数犯の元凶悪少年が一緒にいるのだから。
 それが“学校の七不思議”を追って来たというのだから。
 もしも床下で発見されていた死体が、まだ新しいものだったら、間違い無く疑われていただろう。
 当然あの怪文書も警察に押収された。
 ようやく解放された時には、23時を過ぎていた。
 一番可愛そうなのは坂上先生か。
 ヘタすると学園の暗部が暴かれた原因にもなったのだから。
 斉藤社長は、いざとなったら自分が味方すると強く言ったが……。
 学校を後にして、車を止めていた駐車場に向かう時だった。

 愛原:「疲れたかな……。目まいが……」
 リサ:「違うよ、先生!揺れてるよ!」
 愛原:「!?」

 私は近くの電柱を見た。
 確かにその上の電線が風も無いのにユラユラ揺れている。
 そして、下から突き上げるような地鳴りがした。

 愛原:「お、お、お!?」
 斉藤:「皆さん、早く車へ!落下物に気を付けてください!」
 愛原:「そ、そうですね!」

 駐車場までは目と鼻の先だ。
 私達は揺れが収まるのを待つことはせず、急いで駐車場へ走った。
 幸い、周りで何か落下物が落ちて来るようなことはなかった。
 駐車場の横に置かれている自販機も無事である。

 新庄:「旦那様!皆様!」

 私達の姿を確認すると、運転席にいた新庄さんが降りて来た。

 斉藤:「少し強い地震があったようだ。震源地と震度を確認してくれ」
 新庄:「かしこまりました!」

 幸いこの辺りは停電も無かった。
 私は自販機に行って、飲み物を買い求めた。

 斉藤絵恋:「ん……リサさん……」
 リサ:「サイトー、お待たせ」

 絵恋さんは待ちくたびれたのか、シートを倒して寝ていた。
 寝落ちしていたのか、地震があったことは覚えていないようだ。
 車内のカーナビはテレビも映るタイプなので、それでNHKを映す。
 通常の番組から、緊急放送に変わっていた。

 愛原:「発覚した事件に、この地震か。何だか、意外な展開がありそうだ」
 高橋:「はい」
 斉藤秀樹:「愛原さん、家まで送りましょう。私達はその後で帰ります」
 愛原:「ありがとうございます」

 駐車料金を払った新庄さんがまた戻ってきて、それから車が出発した。
 テレビからは震源地に近い福島県や宮城県が大変なことになったと報じていた。
 一応、後で実家や公一伯父さんには連絡しておこう。
 それにしても、白井は一体何がしたいのだろうな。
 多分、完璧で完全な生物兵器でも造りたいのだろうが……。
 そんなんでノーベル賞でも取れると思っているのだろうか?

 秀樹:「愛原さん、お気づきになりましたか?」
 愛原:「何がです?」
 秀樹:「あの白骨死体の山……あの下に丸い鉄板が見えました。あれは多分マンホール。……いや、隠し通路の入口だったのかもしれません」
 愛原:「……あの白骨死体の山のせいで、しばらくは探索は無理でしょうな」

 もちろん警察はそのマンホールと思しき丸い鉄板も調べるだろう。
 もしそれがマンホールだとしたら、中も調べるはずだ。
 マンホールの中に死体が隠されていたという事件も過去にはあったからだ。
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“私立探偵 愛原学” 「夜の探索」

2021-02-15 15:42:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月13日21:00.天候:晴 東京都台東区上野 旧・日本アンブレラ上野営業所跡]

 私達は夜間に現場に向かってみた。
 ここは東京中央学園上野高校にも程近い場所である。
 今回は車で向かった。
 近くの駐車場に車を止め、そこから徒歩で向かう。

 リサ:「まさかサイトーが一緒だと思わなかった」
 愛原:「『リサさんと一緒じゃなきゃヤダ』ってね」
 斉藤秀樹:「申し訳ありません。うちの娘がわがままで……」
 高橋:「さすがに車の中で待っててもらうぜ、と」

 というわけで、斉藤絵恋さんは運転手の新庄さんと一緒に車で待っててもらうことになった。

 愛原:「営業所跡はどうなってるんですか?」
 秀樹:「今でも空き家らしいんですよ。曰く付きの事務所ですからね」

 営業所跡は古い雑居ビルの1階にあった。
 いくら古いとはいえ、都心にあるのだから、いくらでも借り手が付きそうなものである。
 しかし、確かにまだ空き家の状態だった。

 秀樹:「オーナーには話を付けています。管理人から鍵を借りましょう」

 ビルには警備員はいないが管理人室はあって、そこから鍵を借りることはできた。

 愛原:「確かに何も無いや」
 秀樹:「あのマンホールですね。表向きは下水道のマンホールということになっていますが……」
 愛原:「どうして事務所の真ん中にマンホールがあるのか、確かに不自然ですね」
 秀樹:「如何に本来の営業所として使用するつもりが無かったということでしょうね。しかもこのビル、裏手に搬入口があります。昭和通りから一本入った路地の所にありますから、人目からは隠れられるわけですね。もちろん今ですと、出入口等に防犯カメラくらいはあるでしょうが、あくまでもそれは出入りを監視する為の物ですから、梱包で誤魔化せるわけです。いくら防犯カメラでも、梱包品の中身を見ることはできませんからね」
 愛原:「確かに……」

 私はマンホールの蓋を開けた。
 公道にある下水道のマンホールは特殊な器具が無いと開かない仕組みになっているが、この事務所のマンホールは簡単に手で持ち上げて開けることができた。
 よく見ると蓋の意匠が、科学準備室倉庫側にあるものと同じである。

 愛原:「よし。入って見ます」

 私はライトを点けて、梯子を下りた。
 素掘りのトンネルが現れる。
 時々、電車が走る音が聞こえてくるのは、地下鉄のトンネルが近くにあるからだろう。
 途中に分岐なんてあったか?
 まあ、前に入った時はどこに繋がっているかを確認するので精一杯だったが……。

 愛原:「んん……?」

 注意深く壁や地面、天井を見ながら進んだが、結局分岐らしい場所は見つけられずに、反対側の出口に辿り着いた。
 もちろん昇ってみると、そこは東京中央学園上野高校の科学準備室倉庫である。

 愛原:「斉藤社長、やっぱり分岐なんて無いですよ」
 秀樹:「参りましたね……。私の見込み違いだったのでしょうか……」

 さすがの斉藤社長も首を傾げる。

 愛原:「やはり旧校舎の壁を壊して確認するしか……」

 その時、私はふと思った。

 愛原:「あの、社長」
 秀樹:「何ですか?」
 愛原:「白井はここに籠って、怪しい研究をしていたんですよね?」
 秀樹:「そうです。授業がある時以外はここに籠っていることが多かったです」
 愛原:「黒木先生は宿直室によく寝泊まりしていたらしいですね?」
 秀樹:「積極的に宿直を買って出ていたとのことです。宿直したい先生なんていませんでしたから、そのことが先生達の間でも評判だったようです」
 愛原:「宿直室を調べられませんか?」
 秀樹:「……なるほど。それは良い着眼点ですね。ちょっと坂上に確認してみましょう」

 斉藤社長は再びトンネルの中に戻った。

 高橋:「こっからもう職員室に行った方が早いんじゃないスか?」
 愛原:「アホ。いくら何でもそれは怪し過ぎるだろう」
 高橋:「サーセン」

 私達は一旦トンネルに戻り、事務所跡へ引き返した。
 その後で斉藤社長は、坂上先生に電話をした。
 幸い坂上先生は職員室にいたようで、私達の申し出に驚いたそうだが、斉藤社長の頼み込みのおかげで何とかなった。

 秀樹:「坂上の立ち会いで、何とか探索できそうです」
 愛原:「さすが社長。ありがとうございます」

 営業所跡を出ると、私達は上野高校に向かった。

 坂上:「さすがは斉藤だ。この辺は執念深い」
 秀樹:「学校では黒木先生のこと、何か分かったかい?」

 通用口から学校に入ると、坂上先生が出迎えてくれた。

 坂上:「ああ。ちょっとおかしな話を聞いたんだ」
 秀樹:「おかしな話?」
 坂上:「まあ、黒木先生がよく宿直当番をしていたから確率が高いのは当たり前なんだが、『黒木先生が宿直の時に、生徒が行方不明になる』というものだ」
 秀樹:「どういうことだ?」
 坂上:「俺にも覚えがあるが、下校時刻を過ぎても帰らない生徒はたまにいる。そんな時、宿直制度があった時は宿直の教員が見回りして追い出していたわけだ。で、追い出した生徒の学年やクラス、名前を日誌に記入して提出するんだが……行方不明になった生徒は、必ず黒木先生に追い出された生徒なんだ」
 秀樹:「えっ!?」
 坂上:「もちろん黒木先生は、『下校したことを確認している』と主張したらしいが……。実際、俺達が追い出された時も、黒木先生が校門まで見送ってくれたからな」
 秀樹:「黒木先生がいた頃はロクに防犯カメラも無かった頃だから、その辺は上手く誤魔化せそうだ」

 私達は坂上先生に付いて、宿直室へと向かった。
 今そこは校務員室になっている。
 夜は宿直室として当番の教員が寝泊まりしていたが、昼間は校務員が使用していた。
 入ると、左にキッチンがある。
 奥に靴を脱いで上がる和室があった。
 そこには押入れともう1つドアがあり、そこは洗濯機や洗面台、そして風呂があった。
 何か、ここだけ生活感がある。

 秀樹:「なるほど。これだけの設備があれば、住めそうだな」
 坂上:「今は殆ど機能していないよ。ガスコンロは撤去されたし、今は誰も泊まらないから、浴室も物置と化している」

 夜間の警備は全て機械警備になり、誰かが侵入しようとすると防犯センサーが働いて警備会社に自動通報される仕組みになっている。
 大学くらい大きくなれば、さすがに警備員が常駐しているのだろうが。

 秀樹:「どこを調べますか?」
 愛原:「マンホールは……無いですよね」

 キッチン周りにそんなものは無い。
 押入れの中には使われていない布団があり、それを出して中を調べたが、怪しいものは無かった。
 あとは浴室の中を調べたが、そこにもマンホールや他に怪しいものは無い。
 当てが外れたか?

 愛原:「この畳の下は?」
 坂上:「畳を剥がす気ですか?」
 秀樹:「やってみましょう」

 私達は畳を剥がしてみた。
 すると、そこにあったのは……。 

 1:死体
 2:マンホール
 3:鍵
 4:カード
 5:何も無かった
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“私立探偵 愛原学” 「斉藤社長の話」

2021-02-15 11:23:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月13日16:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 斉藤家]

 愛原:「それで、黒木先生は何と?」
 斉藤:「何て言ったと思います?」
 愛原:「『そうか……。そんなに気になるのか……』ですかね?」
 斉藤:「そうなんです。それで黒木先生は少し考え込んだ後、『分かった。どうしても気になるというのなら、俺が何とかしてやる』と言いましてね」
 愛原:「『何とかしてやる』とは?」
 斉藤:「新聞部などで気になる者もいれば、連れて来て良いということでした。但し、日曜日の午後ですね」
 愛原:「日曜日の午後?」
 斉藤:「旧校舎に連れて行ってくれるというんです。そこで、『先生はもっと怖い話を知っている。しかも“トイレの花子さん”と違い、証拠付きだ。“トイレの花子さん”なんかよりも、ずっと面白いぞ』とのことでした」
 愛原:「んん?」
 斉藤:「とにかく、願っても無いことでしたので、私はその話に乗ることにしたんです」

 日曜日の午後にしたのは、一番人目が少ない日であり、時間帯だったからだろう。
 何しろ先生が率先して校則違反をしようというのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
 とにかく斉藤社長は、新聞部の中から来れる者を集め、学校の裏門から旧校舎へと向かったそうだ。
 その時集まったのは、斉藤社長も入れて6人だけ。
 3年生ということもあって、色々と忙しかったのだろう。

 斉藤:「黒木先生は最初に、『先生に連れて来られたなんて内緒だぞ?先生が怒られちまう』なんて笑いながら言ってくれましたね」
 愛原:「想像できます。本当に学園ドラマの中にいそうな先生なんですね」
 斉藤:「そうですね」

 斉藤社長達は旧校舎の中に入った。
 いくらまだ明るい時間帯とはいえ旧校舎の中は薄暗く、そこかしこで寒気を感じるほどであった。

 斉藤:「現場に行きがてら、黒木先生はこんなことを話してくれました」

 それは第2次世界大戦中のことである。
 その頃から東京中央学園は存在した。
 今残っている建物は、戦後になってから建て直されたものだという。
 というのは、場所が上野にあるということからも分かる通り、あの校舎は大戦末期、連合軍からの空襲に晒され、東京大空襲の折には半壊してしまったという。
 全壊全焼した建物が数多くあった中、半壊半焼で済んだのは不幸中の幸いだと言えよう。
 その戦時中のことだ。

 斉藤:「戦時中、あの校舎には地下室があったというんです」
 愛原:「地下室ですか!?」
 斉藤:「ええ。何でも当時、あの学校は臨時の病院のような役割をさせられていたらしいのです。地下室はそのような機能を与えられてから造られたということでした。その地下室が何の目的で造られたのか、殆ど分かっていなかったそうなんです」
 愛原:「どういうことなんでしょう?」
 斉藤:「病院は一般の都民がというよりは、軍隊の野戦病院みたいな感じだったらしいです。要は、戦地から半死半生で送り返されてきた兵士達の療養所的な場所だったらしいですね。地下室は関係者用の防空壕だとか、倉庫だとか、はたまた遺体安置所としてだとか、色々と噂されていたようです」
 愛原:「その場所って……?」
 斉藤:「1階の奥ですよ。先日、私達は入口から1番近い教室に入ったでしょう?」
 愛原:「ええ」
 斉藤:「そして、そこから程近い階段で2階に上がりました。だから気づかなかったんです。で、今その地下室への階段は塞がれています」
 愛原:「あ、そうなんですか」

 大日本帝国側の敗戦で大東亜戦争が終わり、その後、旧日本軍も解体されたことで、軍隊に接収されていた校舎も、晴れて東京中央学園に返還された。
 学園側は医療施設から元の学校施設に戻す為に苦労させられたらしいが、その一環で地下室への入口を壁で塞いだのだという。

 斉藤:「もしもただの倉庫だったのなら、そのまま使うことを考えたと思うのですが、塞いだということは、学校施設として使うには不適切なものがあったと考えられます。だから噂で、『防空壕跡だった』とか、『遺体安置所だった』とか言われたようです」
 愛原:「その場所、行って分かりますか?」
 斉藤:「分かりますよ。その部分だけ若干、壁の色が違うんです」

 黒木先生もその学園の卒業生だったらしい。
 今現在60代半ばの人が現役生だった頃は、あの旧校舎もまた現役であった。

 斉藤:「その壁の前まで行った後、黒木先生は自分が現役生だった頃に遭った話をしてくれました。当時からもこの壁に関する噂話は、とても有名なものだったとのことでした。色々とあったようですが、黒木先生は『校舎の中に誰もいなくなると、この壁の前に兵士の幽霊が現れる。そしてその兵士に目を付けられると、呪い殺されるというものだが、先生は見てしまったんだ』と言ってました」

 黒木先生は学校に宿題を忘れてしまったという。
 どうしても翌日に提出しなければならないものだったから、家から急いで取りに向かったのだという。
 その時、既に夜になっていて、校舎の中は当然誰もいなかった。
 宿直の教師はいたが、見つかって怒られることを恐れた黒木先生は、まるで泥棒のように侵入して行ったという。
 当時はまだセキュリティもしっかりしていなかった時代だったから、鍵の掛かっていない窓なんかもあったりして、そこから割と容易く侵入できたらしい。
 で、黒木先生の教室は1階の奥にあった。
 そう、あの壁の前を通らなくてはならなかった。

 斉藤:「その時、黒木先生は人の気配を感じたそうです。最初は上手く宿直の先生の目を盗んだつもりが、足音に気づいて自分を追って来たんだろうかと思ったそうです」

 そこで近くの教室に逃げ込み、そこでやり過ごすことを考えた黒木先生だったが、どうも様子が違うことに気づいた。

 斉藤:「その人物が教室に入って来ることは無かったそうなんです。そこで黒木先生が恐る恐る教室から出てみると……」

 そこに兵士の亡霊が佇んでいたそうである。
 壁の方を向いて悲しそうに佇んでいたが、黒木先生に気づくと振り向いて一転恐ろしい形相になり、追い掛けて来たので急いで逃げたという。
 それからは絶対に夜の学校には近づかないようにしていたという。
 幸い、昼間に現れることは無かったようだ。

 斉藤:「私は黒木先生の話は作り話で、私達のような好奇心旺盛な生徒を抑える為にそんなことを言ったんだと思っていました。しかし、例の“花子さん”の体験をして、私は“花子さん”の話が本当で、兵士の幽霊の方がやっぱり嘘だったと思うんですよ」
 愛原:「黒木先生はどうしてそんなウソを吐いたんだと思いますか?好奇心旺盛な生徒を抑える為だけでしたか?」
 斉藤:「私は賭けをしたんだと思いますよ。あの壁の向こう側には、もっと別の何かがある。黒木先生はその壁の向こう側にある物を知っている。しかし頑なに禁止してしまうと、私達がいつか暴いてしまうかもしれない。そこで壁の前までは連れて行き、そこで怖い話をあたかも実体験であるかのように聞かせ、警告したんだと思いますね。実際あの壁で、学校が戦時中、軍人用の医療施設になっていたのは本当ですし、中にはそこで治療の甲斐無く死亡してしまった兵士も大勢いたでしょうから、その壁の向こう側は遺体安置所で、そこの前で無念の戦死を遂げた兵士の亡霊が現れた……なんて言われたら、当時の10代の少年は騙されてしまいますね」
 愛原:「もっと別の何か……」
 斉藤:「だからこそそれを知っている黒木先生は旧校舎の取り壊しに頑なに反対し、白井もそれを知って反対したんだと思いますね」
 愛原:「何でしょう?」
 斉藤:「気になりますでしょう?壁を破壊して、是非とも中を見てみたいものですよ」
 愛原:「はは……。実際、それは無理でしょうね」
 斉藤:「無理……と、思いますか?」
 愛原:「ええ?」
 斉藤:「実はあの壁の向こう側が、日本アンブレラと繋がりがあるのかもしれないんですよ」
 愛原:「ど、どういうことですか?日本アンブレラどころか、経営母体のアメリカのアンブレラが創立されたのは、戦後ずっと後になってからのことでしょう?」
 斉藤:「実は日本アンブレラの元社長である五十嵐なんですが、祖父が元軍医であることが分かりました」
 愛原:「ええっ!?」
 斉藤:「それも、あの臨時医療施設で勤めていたというんです」
 愛原:「な、何ですって!?」
 斉藤:「日本アンブレラの本社は大手町に置かれていましたが、営業所が上野にあったというのは……どういうことなんでしょうね?」
 愛原:「ええと……」
 斉藤:「しかも上野の営業所は、殆ど実体の無い幽霊営業所だった。なのに、営業所として存在していた。何故でしょうね?」
 愛原:「あの地下道……!?」
 斉藤:「お気づきですか?新校舎の科学準備室にあった秘密の隠し通路。あれは上野営業所に繋がっていましたが、実は途中で分岐している、或いはもっと別に入口があって、それが旧校舎の地下室に繋がっているのだとしたら?」
 愛原:「ああ!」
 斉藤:「壁はさすがに破壊できませんが、地下通路を見るだけならできますよね?」

 話は決まった。
 もう1度、あの地下通路を調べると。
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