[9月1日17:00.秋田県大館市 大館駅近くのホテル 敷島孝夫&キール・ブルー]
「それでは敷島孝夫様、本日より1泊のご利用ですね」
「はい」
敷島は財団が用意したホテルへ、チェック・インの手続きをしていた。
「それと、こちらは日本アンドロイド研究開発財団仙台支部様より、敷島様宛てのものです」
「は?」
フロント係が敷島に封筒を渡す。
中を見ると、高速バスの乗車券だった。
「何だよ、帰りはバスかよ」
敷島は苦笑した。
「どうかなさいましたか?」
「いや〜……」
客室へ向かうエレベーターに乗り込む。
「さっき電話で、支部長から『帰りの足は確保しておいた』っていうメールが来てね。何のこっちゃって思ったけど、これか。何だなぁ、新幹線に乗れると思ってたのに」
「最近の高速バスは運賃が安いですし、高速道路網も整備されているからでしょうね」
「『高速移動できるよ』って、高速バスだったか」
チーン!(エレベーターが止まる)
ガァー……。(ドアが開いた)
「仙台駅までですか?」
「えーと……おっ、広瀬通一番町(※)ってあるな。なるほど。ここなら、地下鉄にも乗り換えしやすい」
(※正にこの日から秋北バスの大館〜仙台線は、『電力ビル前』から『広瀬通一番町』にバス停を変更したようである)
部屋に入る。ビジネスホテルならではの、オーソドックスな部屋の造りだった。
「大館駅前9時発だから、それまでにはチェック・アウトしないとな」
「はい」
「捜索で、だいぶ体が汚れただろ。先に体洗ってこいよ。俺は夕飯食って来る」
「では、お言葉に甘えまして……」
敷島が再びホテルのロビーまで来た時、電話が鳴った。アリスからだった。
「よう、どうした?」
{「コロンボ(※※)から聞いたよ。明日、帰って来るんですって?」}
(※※森須支部長のこと。見た目や振る舞いが刑事コロンボの主人公に似ているから)
「ああ。支部長が今日は1泊して帰れって言うからさ」
{「なるべく急いだ方がいいのにねぇ……」}
「つったって、シンディの起動実験はもう終わったんだろ?」
{「そうよ。だから、あとはメモリーが必要なだけ」}
「そのメモリーだって、今俺が持ってるヤツ、そのまんま使えるわけじゃないだろう?」
危険な部分は削除し、シンディを本当にエミリーの2号機にするのを当プロジェクトの目的とする。
これがプロジェクト承認の大きな理由だ。
敷島も、よくこんなの通ったと思っている。
本来ならこんな殺人兵器、とっとと処分が妥当だと思っていた。
{「もちろん、解析して振り分けるのには時間が掛かるわよ。今のところ、エミリーのメモリーをコピーしたダミーを使ってみようかと思ってるけど……」}
「そっちの方が安全じゃないのか?」
{「そのエミリーだって、私達が生まれる前は殺人兵器だったんだからね」}
「今からじゃ、想像もつかないけどな。……用件ってそれか?」
{「前にエミリーのメモリーを取り外した時、危うく紛失したことがあったでしょ?」}
「ああ。間違って、リンの荷物に入っちゃったってヤツだな。“マリオ”や“ルイージ”はもちろん、試作型のバージョン5.0軍団まで勝手に出動して偉い騒ぎになったっけなぁ……。いい思い出だ」
バージョン5.0はウィリーが設計したものの、実際に製作したのはアリスである。
基本スペックは設計図通りに作ったが、あとはアリスがアレンジして作った部分も多い。その典型たるものが、“マリオ”と“ルイージ”だ。
「本当にエミリーって慕われてるんだなぁ……。あいつらが勝手に出動するなんて」
{「ていうかさ、マルチタイプって、バージョン・シリーズを使役することができるでしょ?」}
「知ってるよ、それくらい。決戦の時、シンディが全機出動させて苦戦したなぁ……」
{「エミリー……というか、マルチタイプに異常があった場合、バージョン・シリーズが出動するプログラムになっていたみたい」}
「それで?」
{「いくら整備の為とはいえ、メモリーが外れるというのは異常なわけよ」}
「外した瞬間、監視端末のアラームが鳴ったな。うるさくてしょうが無かったよ。マリオ達は騒ぎ立てるしよ」
{「同タイプのシンディも同じなんだろうなぁって……」}
「ああ、そうじゃないの」
{「シンディのメモリーを追って、もしかしたら、そっちにバージョン・シリーズが襲いに行くかもしれないから気をつけてって言ってるの!」}
「バカ!それを早く言え!ていうか、お前だってバージョン・シリーズを操る立場だろうが!何とかしろよ!」
[9月1日20:00.大館市内のホテル・701号室 敷島孝夫&キール・ブルー]
「このメモリー、危険だ」
「これを狙って、バージョン・シリーズが?」
敷島は真新しいバッグに、メモリーの入ったケースを入れ替えた。
夕食がてら市街地のショッピングセンターに立ち寄り、そこで買い求めたものだ。
このバッグには鍵が付いており、敷島は厳重に施錠した。そして、
「キール。鍵はお前が持て」
「かしこまりました」
「バッグは俺が持つ。これで完璧だ」
「はい」
「まあ、バッグごと忘れたらどうするんだというツッコミはあるが、なるべくそれを防ぐ為の手段なのかな?」
「と、言いますと?」
「明日の高速バス、仙台行きだから乗り換え回数も少ないだろ?」
「はい」
「乗り換えが少ないということは、忘れ物や落し物のリスクも、それだけ低くなるってことだ」
「なるほど」
「メモリーの運搬と保管については、これでよし。あとはアリスの懸念通りにならないことだな」
「ご安心ください。バージョン4.0くらいでしたら、私で退治できます」
「大丈夫か?乱戦になったら結構キツいぞ。エミリーですら苦戦するくらいだ。だからあいつ、見つけ次第、即、頭部を撃ち抜いて瞬殺することを学習したようだ」
「ええ。聞いています」
「でも、こんな所に4.0がいるかねぇ?」
「スキャンにも掛からないステルス機能付きですから、神出鬼没とはよく言ったものです。とにかく、私が張りますから、参事は安心してお休みください」
「分かったよ。あっ、と……その前に」
「?」
「今日は22時から、ミクとルカが歌番組に出るんだった」
「新曲発表ですか?」
「それもあるし、昔の懐かしい歌なんかも歌うよ。それ見てから寝よう」
「地方で視聴できる番組ですか?」
「だってNHKだもん」
「失礼しました」
[9月2日07:00.大館市内のホテル・701号室 敷島&キール]
「参事。起床の時間でございます」
さすが執事ロボットらしく、キールは時間ピッタリなのはもちろん、起こし方が丁寧だ。
「ああ……。って、バージョンは?襲ってこなかったのか?」
「ええ。どうやら、取り越し苦労だったようで」
「だよなぁ……。夢ん中で、町中にバージョン・シリーズが溢れかえって、その中を逃げ回る夢を見たよ。下のレストランで朝飯食ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
[同日07:30.同場所1階レストラン、朝食会場 敷島孝夫]
「おはよう。何だ、びっくりさせやがって。結局、バージョンのヤツ、襲って来なかったじゃんかよ」
朝食会場に差し掛かる頃、またアリスから電話が掛かって来た。
{「この天然バカ男。後でミクとルカに感謝しな」}
「はあ?昨日、NHKの歌番組で頑張ってくれてたじゃないか。それについては、もちろん労うつもりだよ」
{「ミクとルカが歌った歌、ちゃんと聴いてた?」}
「バカにすんな。俺はプロデューサーだぞ。キールがミクの歌った“人形裁判”と、ルカの歌った“千年幻想郷”にシビれたと言ってる。彼女らの歌唱力はまだまだ更に伸びる……」
{「それよ!」}
「は?」
{「あの歌、ただの歌じゃないでしょ?人間が歌うとただの歌だけど、ボーロカイドが歌うとある現象が起きるって知らない?」}
「えーと……。ん!?」
朝食会場には大きなテレビモニターが数台あって、全て同じ番組を流していた。
それで情報番組をやっているのだが、大館市内のあちこちに動かないロボットが転がっていて話題になっていた。
「あれ……バージョンだ」
{「ミクとルカが電気信号の歌を歌ってくれたおかげで、バージョン・シリーズの動きを全部止めたんだから。帰ってきたら、2人に感謝しなさいよ」}
「マジで、俺んとこに向かってたの……?」
{「いつ勝手に再起動するか分からないから、早いとこその町から離れて」}
「おい、仙台まで追ってきたらどうするんだよ!?」
{「メモリー解析中は、あたかもそれがちゃんとマルチタイプに搭載されているように偽装するから大丈夫。だから早く持って来て!」}
「分かったよ。ったく、怖いことばかりだなー」
敷島は電話を切った。
怖いと言っておきながら、ちゃんと朝食は平らげたという。
「それでは敷島孝夫様、本日より1泊のご利用ですね」
「はい」
敷島は財団が用意したホテルへ、チェック・インの手続きをしていた。
「それと、こちらは日本アンドロイド研究開発財団仙台支部様より、敷島様宛てのものです」
「は?」
フロント係が敷島に封筒を渡す。
中を見ると、高速バスの乗車券だった。
「何だよ、帰りはバスかよ」
敷島は苦笑した。
「どうかなさいましたか?」
「いや〜……」
客室へ向かうエレベーターに乗り込む。
「さっき電話で、支部長から『帰りの足は確保しておいた』っていうメールが来てね。何のこっちゃって思ったけど、これか。何だなぁ、新幹線に乗れると思ってたのに」
「最近の高速バスは運賃が安いですし、高速道路網も整備されているからでしょうね」
「『高速移動できるよ』って、高速バスだったか」
チーン!(エレベーターが止まる)
ガァー……。(ドアが開いた)
「仙台駅までですか?」
「えーと……おっ、広瀬通一番町(※)ってあるな。なるほど。ここなら、地下鉄にも乗り換えしやすい」
(※正にこの日から秋北バスの大館〜仙台線は、『電力ビル前』から『広瀬通一番町』にバス停を変更したようである)
部屋に入る。ビジネスホテルならではの、オーソドックスな部屋の造りだった。
「大館駅前9時発だから、それまでにはチェック・アウトしないとな」
「はい」
「捜索で、だいぶ体が汚れただろ。先に体洗ってこいよ。俺は夕飯食って来る」
「では、お言葉に甘えまして……」
敷島が再びホテルのロビーまで来た時、電話が鳴った。アリスからだった。
「よう、どうした?」
{「コロンボ(※※)から聞いたよ。明日、帰って来るんですって?」}
(※※森須支部長のこと。見た目や振る舞いが刑事コロンボの主人公に似ているから)
「ああ。支部長が今日は1泊して帰れって言うからさ」
{「なるべく急いだ方がいいのにねぇ……」}
「つったって、シンディの起動実験はもう終わったんだろ?」
{「そうよ。だから、あとはメモリーが必要なだけ」}
「そのメモリーだって、今俺が持ってるヤツ、そのまんま使えるわけじゃないだろう?」
危険な部分は削除し、シンディを本当にエミリーの2号機にするのを当プロジェクトの目的とする。
これがプロジェクト承認の大きな理由だ。
敷島も、よくこんなの通ったと思っている。
本来ならこんな殺人兵器、とっとと処分が妥当だと思っていた。
{「もちろん、解析して振り分けるのには時間が掛かるわよ。今のところ、エミリーのメモリーをコピーしたダミーを使ってみようかと思ってるけど……」}
「そっちの方が安全じゃないのか?」
{「そのエミリーだって、私達が生まれる前は殺人兵器だったんだからね」}
「今からじゃ、想像もつかないけどな。……用件ってそれか?」
{「前にエミリーのメモリーを取り外した時、危うく紛失したことがあったでしょ?」}
「ああ。間違って、リンの荷物に入っちゃったってヤツだな。“マリオ”や“ルイージ”はもちろん、試作型のバージョン5.0軍団まで勝手に出動して偉い騒ぎになったっけなぁ……。いい思い出だ」
バージョン5.0はウィリーが設計したものの、実際に製作したのはアリスである。
基本スペックは設計図通りに作ったが、あとはアリスがアレンジして作った部分も多い。その典型たるものが、“マリオ”と“ルイージ”だ。
「本当にエミリーって慕われてるんだなぁ……。あいつらが勝手に出動するなんて」
{「ていうかさ、マルチタイプって、バージョン・シリーズを使役することができるでしょ?」}
「知ってるよ、それくらい。決戦の時、シンディが全機出動させて苦戦したなぁ……」
{「エミリー……というか、マルチタイプに異常があった場合、バージョン・シリーズが出動するプログラムになっていたみたい」}
「それで?」
{「いくら整備の為とはいえ、メモリーが外れるというのは異常なわけよ」}
「外した瞬間、監視端末のアラームが鳴ったな。うるさくてしょうが無かったよ。マリオ達は騒ぎ立てるしよ」
{「同タイプのシンディも同じなんだろうなぁって……」}
「ああ、そうじゃないの」
{「シンディのメモリーを追って、もしかしたら、そっちにバージョン・シリーズが襲いに行くかもしれないから気をつけてって言ってるの!」}
「バカ!それを早く言え!ていうか、お前だってバージョン・シリーズを操る立場だろうが!何とかしろよ!」
[9月1日20:00.大館市内のホテル・701号室 敷島孝夫&キール・ブルー]
「このメモリー、危険だ」
「これを狙って、バージョン・シリーズが?」
敷島は真新しいバッグに、メモリーの入ったケースを入れ替えた。
夕食がてら市街地のショッピングセンターに立ち寄り、そこで買い求めたものだ。
このバッグには鍵が付いており、敷島は厳重に施錠した。そして、
「キール。鍵はお前が持て」
「かしこまりました」
「バッグは俺が持つ。これで完璧だ」
「はい」
「まあ、バッグごと忘れたらどうするんだというツッコミはあるが、なるべくそれを防ぐ為の手段なのかな?」
「と、言いますと?」
「明日の高速バス、仙台行きだから乗り換え回数も少ないだろ?」
「はい」
「乗り換えが少ないということは、忘れ物や落し物のリスクも、それだけ低くなるってことだ」
「なるほど」
「メモリーの運搬と保管については、これでよし。あとはアリスの懸念通りにならないことだな」
「ご安心ください。バージョン4.0くらいでしたら、私で退治できます」
「大丈夫か?乱戦になったら結構キツいぞ。エミリーですら苦戦するくらいだ。だからあいつ、見つけ次第、即、頭部を撃ち抜いて瞬殺することを学習したようだ」
「ええ。聞いています」
「でも、こんな所に4.0がいるかねぇ?」
「スキャンにも掛からないステルス機能付きですから、神出鬼没とはよく言ったものです。とにかく、私が張りますから、参事は安心してお休みください」
「分かったよ。あっ、と……その前に」
「?」
「今日は22時から、ミクとルカが歌番組に出るんだった」
「新曲発表ですか?」
「それもあるし、昔の懐かしい歌なんかも歌うよ。それ見てから寝よう」
「地方で視聴できる番組ですか?」
「だってNHKだもん」
「失礼しました」
[9月2日07:00.大館市内のホテル・701号室 敷島&キール]
「参事。起床の時間でございます」
さすが執事ロボットらしく、キールは時間ピッタリなのはもちろん、起こし方が丁寧だ。
「ああ……。って、バージョンは?襲ってこなかったのか?」
「ええ。どうやら、取り越し苦労だったようで」
「だよなぁ……。夢ん中で、町中にバージョン・シリーズが溢れかえって、その中を逃げ回る夢を見たよ。下のレストランで朝飯食ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
[同日07:30.同場所1階レストラン、朝食会場 敷島孝夫]
「おはよう。何だ、びっくりさせやがって。結局、バージョンのヤツ、襲って来なかったじゃんかよ」
朝食会場に差し掛かる頃、またアリスから電話が掛かって来た。
{「この天然バカ男。後でミクとルカに感謝しな」}
「はあ?昨日、NHKの歌番組で頑張ってくれてたじゃないか。それについては、もちろん労うつもりだよ」
{「ミクとルカが歌った歌、ちゃんと聴いてた?」}
「バカにすんな。俺はプロデューサーだぞ。キールがミクの歌った“人形裁判”と、ルカの歌った“千年幻想郷”にシビれたと言ってる。彼女らの歌唱力はまだまだ更に伸びる……」
{「それよ!」}
「は?」
{「あの歌、ただの歌じゃないでしょ?人間が歌うとただの歌だけど、ボーロカイドが歌うとある現象が起きるって知らない?」}
「えーと……。ん!?」
朝食会場には大きなテレビモニターが数台あって、全て同じ番組を流していた。
それで情報番組をやっているのだが、大館市内のあちこちに動かないロボットが転がっていて話題になっていた。
「あれ……バージョンだ」
{「ミクとルカが電気信号の歌を歌ってくれたおかげで、バージョン・シリーズの動きを全部止めたんだから。帰ってきたら、2人に感謝しなさいよ」}
「マジで、俺んとこに向かってたの……?」
{「いつ勝手に再起動するか分からないから、早いとこその町から離れて」}
「おい、仙台まで追ってきたらどうするんだよ!?」
{「メモリー解析中は、あたかもそれがちゃんとマルチタイプに搭載されているように偽装するから大丈夫。だから早く持って来て!」}
「分かったよ。ったく、怖いことばかりだなー」
敷島は電話を切った。
怖いと言っておきながら、ちゃんと朝食は平らげたという。
あの201系がLEDっスか?
LED化自体悪いとは言いませんけど、せめて東日本のE233系みたいにフルカラーLEDくらいにはしないとダメですね。
首都圏の路線バスも、ほとんどがLED表示になりましたが、昼は見えにくいですよ。
タクシーの種別表示も、幕式からLED式になりましたねぇ……。
全ての幕式表示の共通点で、目的の表示に達したところで、ちょいと行き過ぎてまた戻るという動きが萌えポイントでした。
それのまぁ見えにくいことwww方向幕時代はとっても見やすかったんですけどね・・・