報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「埼玉に到着」

2024-12-12 14:51:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月14日19時24分 天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR東北新幹線267B列車・1号車内→大宮駅・新幹線乗り場]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、小山に止まります〕

 私達を乗せた列車は、無事に大宮駅に接近した。
 この時点では、まだ何も起こらない。

 愛原「ホームに喫煙所がある。パールは吸い溜めしてくれて構わない。俺達は待ってる」
 パール「先生?」
 リサ「先生……?」

 2人とも、意外そうに目を丸くした。

 パール「宜しいのですか?」
 愛原「大宮駅を出たら、もう吸える所が無くなるからな」
 パール「そう、ですか……」
 愛原「但し、20分以内に吸い終わってくれ」
 パール「いえ、そんなに吸いませんよ!?」
 愛原「そうか」

 列車がホームに進入する。

 リサ「先生、本当に大丈夫なの?」
 愛原「俺の予想が正しかったら、恐らくは鬼の男達はリサに追い付けない。もし追い付けたり、先回りされていたなら、やはり彼らは血鬼術でも使えるんだろうと思う」
 リサ「んん?」

 そして、列車は停車し、ドアが開いた。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。14番線の電車は、東北新幹線“なすの”267号、那須塩原行きです。“やまびこ”“つばさ”号では、ございません。“やまびこ”“つばさ”号は、次の列車をお待ちください」〕

 私達はホームに降りた。
 そして、ホーム上を歩く。
 喫煙所に向かっている間に発車のベルが鳴り、“なすの”号は発車していった。

 愛原「そこが喫煙所だ。まあ、ゆっくり吸っててくれ」
 パール「ありがとうございます……。すぐに戻ってきますよ。……マサも禁煙中ですし、私もそうした方がいいかもしれませんね」

 パールはそう言うと、喫煙所に向かって行った。
 高橋は拘置所の中だ。
 タバコなど自由に吸えない。
 ヘビースモーカーの高橋にとっては、拷問にも等しいことだろう。

[同日19時43分 天候:曇 同地区内 JR大宮駅・埼京線ホーム→埼京線1988K電車・10号車内]

 パールは5分ほどで戻って来た。
 未だに鬼の男が現れることはない。
 新幹線の改札口を出ると、特急券が回収され、ついに手元には乗車券1枚だけが残った。
 そして今度は地下のホームに移動し、埼京線に乗り換える。
 停車していたのは、東京臨海高速鉄道の車両。

〔この電車は、埼京線、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです〕
〔「お待たせ致しました。19時43分発、埼京線、りんかい線直通の各駅停車、新木場行き、まもなく発車致します」〕

 先頭車に乗り込むと、ホームから発車メロディが流れて来た。

 愛原「何だか十津川警部になった気分だな……」

 座席は虫食い状態で空いているが、隣り合って座れるほど空いているわけではなく、また、北与野駅は次の駅なので、そのままドアの近くに立っていることにした。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 そして、ドアが閉まる。
 別の鉄道会社の車両ながら、殆ど規格はJRに合わせている為か、ドアチャイムも同じ物である。
 都営新宿線の東京都交通局の車両みたい。
 ホームドアが無い為、ドアが閉まり切ると、電車はすぐに走り出した。
 副線ホームに止まっていた為、本線に出るのにポイントを通過する。
 その際、電車が左右に揺れた。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、埼京線、りんかい線直通、各駅停車、新木場行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 車内に自動放送が流れる。
 最近まで自動放送が無かった為、車掌が肉声放送をしていたが、今はそんなことも無くなった。

 リサ「何が十津川警部なの?」
 愛原「俺の推理が正しければ、リサは少なくとも今は、鬼の男に襲われることはない。その推理が正しいかどうか、次の北与野駅で証明できると思う。
 リサ「んん??」

[同日19時45分 天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 地下ホームから出発した電車は、ポイントを渡って上り本線に入り、速度を上げた。
 そして急坂を登り、地上に出たかと思うと、そのまま高架線まで上がる。
 ここから先、赤羽駅まで、新幹線との並行区間に入るのだ。
 その途中の北与野駅もまた高架駅である。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 北与野駅に到着し、私達は電車を降りる。
 停車時間が僅かな為、発車メロディも1コーラスも鳴らず、すぐに切られてしまう。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車はドアを閉めて、すぐに発車した。
 大宮駅同様、北与野駅にもホームドアは無い。
 りんかい線の車両が規格に合わないからだとされている。

 愛原「来たっ!」
 リサ「ん!?」

 私は新幹線の線路を見ていた。
 東京方面から、列車が接近してくる。
 それは“こまち”のE6系を前方に、“はやぶさ”のE5系を後方に連結した東北新幹線だった。
 東北新幹線に限らず、上野~大宮間を走行する列車は、全て最高速度が130kmに制限されている。
 これは在来線の最高速度と同様の速度ではあるが、新幹線でこの速度は徐行レベルだろう。
 もともと最高速度がそれに抑えられている上、停車駅の大宮駅が近いということもあり、更に速度は落としているだろう。
 だから、一介の人間の私でも確認できた。

 リサ「ああーっ!」

 11号車、つまり秋田新幹線の車両に乗っている鬼の男達の姿が。
 リサからは一応、そいつの特徴については聞いている。
 その特徴に合致する男達が乗っていた。
 向こうも気づいたらしく、窓に張り付いてこっちを見ている。

 愛原「やっぱりな……」

 窓側にはリサが気にした若い男が乗っていて、通路側には、確かに帽子を被った老人のような者が乗っていた。

 リサ「やっぱりって何!?」
 愛原「あれは多分、秋田の鬼だ。もしかしたら、太平山美樹の仲間かもしれないぞ?ちょっと聞いてみろ」
 リサ「わ、分かった!」
 愛原「多分、何らかの事情で三島辺りまで旅行に行って、その帰りだろう。あの列車で秋田に帰ったら、向こうに着くのは深夜だが、鬼ならむしろ夜の方が元気だろう」
 パール「そういうことだったんですね。でも、よく彼らが秋田新幹線に乗るって分かりましたね?」
 愛原「分かった理由は2つある。1つは、東京駅23番線。どうして彼らがピンポイントで23番線に来たか、だよ」

 

 愛原「俺達が乗った“なすの”267号の後、23番線から発車する列車は、彼らが乗っていた“はやぶさ”“こまち”43号だったからだよ。だから別に、リサを襲うつもりで追ってきたわけではないと思う」
 リサ「でもわたしを見て、物凄く反応してた。あれ絶対、わたしとヤりたい顔。鬼の男っていつもそう!」
 愛原「どちらにせよ、同行者がいるってことは、勝手な行動はできないってことだ。大宮駅で飛び降りて、ここまで追い掛けてくるなんてことはしないだろうさ」
 リサ「むー……」
 パール「もう1つの理由は何だったんですか?」
 愛原「秋田の鬼達って、上野利恵達とも交流があるらしいな。俺達がたまたま乗った“なすの”号って、那須塩原行きだっただろう?そこに行くと思っていたらしい」

 私はスマホを取り出した。
 上野利恵からメールが来ている。

 愛原「『秋田の太平山一族の鬼から、問い合わせがありました。かわいい鬼の女の子がそちらに向かったようですが、そちらの一族ですかって』ってね」
 リサ「う……利恵のヤツ、勝手に先生にメールしやがって……!」
 愛原「まあまあ。これはさすがに必要な業務連絡だよ。おかげで、推理が更に進んだんだからな。リサが太平山美樹と知り合いのおかげで、その鬼の男も勝手なことはできんだろうさ。奴らもメンツを気にするだろう?」
 リサ「むー……。後でミキに聞いてみる。どうせ、新しい金棒をもらわなきゃだし」
 愛原「もらうったって、いくらするんだ?」
 リサ「タダでいいって。その代わり、送料着払いでシクヨロって話だけど」
 愛原「タダでいいのか!?」
 リサ「なーんかね、今時金棒使う鬼なんていないから、余ってるんだってよ」
 愛原「そ、そういうもんなのか!」
 パール「鬼の世界でも、流行りとかあるんですね」
 愛原「ま、まあ、とにかくこれで解決だ。1度秋田に帰ったら、しばらくは上京できんだろう。つまり、しばらくは安全だってことさ。その間にリサは美樹に連絡して、更なる防衛線を張るんだ」
 リサ「分かった」
 パール「先生、解決したのでしたら、次はコインロッカーを」
 愛原「おっ、そうだったな。どこにある?」
 パール「確か、改札の外です」
 愛原「よし、行くぞ!」

 私達は地上にある改札口に向かって、足早に階段を下りた。

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