報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「一夜明けて」

2017-02-22 22:45:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日07:00.天候:晴 北海道札幌市 東急REIホテル・客室]

 敷島:「う……」

 敷島はカーテンの隙間から入る朝日の光で目が覚めた。
 そして、ガバッと上半身を起こす。

 敷島:「おい!ミクからの連絡はどうした!?」

 既に充電も終わり、スリープモードに入っていたエミリーは椅子に座っていたが、敷島の声の反応して起動する。
 萌はエミリーの膝の上で寝ていた。

 エミリー:「昨夜、連絡がありました。社長の伝言を伝え、そのようにさせました」
 敷島:「どうして俺を起こさなかった?」
 エミリー:「社長はお疲れです。アリス博士のことでここ数日、よく眠れておりません。ミクへの伝言と指示は私でもできますので、お任せください」
 敷島:「……それで、どうなった?」
 エミリー:「小山副館長の予想通りでした。ミクはシンディへの通信で件の歌を歌い、シンディは再起動しました」
 敷島:「おおっ!」
 エミリー:「ですが、またシャットダウンしてしまったのです」
 敷島:「バッテリー切れか何かか?」
 エミリー:「いいえ。強い衝撃を受けたことによる、出力低下によるものです。それによって作動した安全装置による強制シャットダウンです」
 敷島:「どういうことなんだ?」
 エミリー:「何者かによって攻撃を受けたようです。これがその時の画像です」

 エミリーは右手の人差し指を変形させた。
 それがUSBポートのような形状になる。
 敷島が持ってきたノートPCに接続すると、早速その画像が浮かび上がった。

 敷島:「何だこれは!?」

 それはシンディが廃屋の外に1歩外に出た途端、背後から襲われた時のもの。
 一瞬でも屋外に出たことでGPSや電波が入るようになり、ちょうどシンディと通信をリンクさせようとしていたエミリーと繋がり、最後の記憶の映像が送信されたものだ。
 それは右手に大きなスタンガンを持った男。
 年齢は50代から60代といった初老の年齢。
 黄色いっぽいシャツに、眼鏡を掛けている。
 顔立ちは日本人とは思えないほどの彫りの深い顔立ちだ。

 男:「Welcome to the family,missy!」

 などとシンディに英語で喋っている。

 敷島:「『家族へようこそ、お嬢さん』???」

 敷島は首を傾げながら直訳した。

 エミリー:「『お前も家族だ』でいいと思います」
 敷島:「何だそれ?……ていうか、シンディを一撃で倒すなんて……俺以上じゃん!?」
 エミリー:「はあ……」
 敷島:「俺の代わりに、このオッサンがアンドロイドマスターになった方がいいんじゃないのか?」
 エミリー:「そういう問題ではありません」
 敷島:「で、この画像の場所はどこなんだ?」
 エミリー:「それは……」

[同日07:30.天候:晴 東急REIホテル]

 敷島は朝食会場に行った。
 恐らく、そこで鷲田警視達が朝食を取っているだろうと踏んでのことだった。 

 敷島:「ん?鷲田警視達、いないな?」
 エミリー:「まだ、お休みになられているのか、それとも……」
 敷島:「シンディはまだ再起動しないのか?」
 エミリー:「はい。何度も通信リンクを試みてはいるのですが、繋がりません」
 敷島:「そうか。もう1度、ミクにやってもらうか。いや……」

 敷島はシンディの再々起動を躊躇った。
 恐らくシンディは今、敵の手中に落ちているだろう。
 すぐにまた攻撃されたのは、敵にとってシンディを起動されたらまずいからかもしれない。
 もしまた起動させたら、今度こそ壊されるかもしれない。
 少なくとも今はまだ壊されていないことは、エミリーが分かるのだそうだ。

[同日08:30.天候:晴 同ホテル・フロント]

 敷島:「えっ!?鷲田さん達はもうチェック・アウトされたんですか!?」
 フロントマン:「さようでございます。敷島様に伝言をお預かりしておりますので、こちらです」

 フロントマンは敷島に1枚の封筒を渡した。
 すぐにそれを敷島は開ける。
 中にはこう書いてあった。

『事件解決は近い。犯人一味の一網打尽と人質全員救出の為に、先に出発する。事件解決のニュースを見るまでは連絡不要』

 敷島:「何だ?一気に動いたのか?」
 エミリー:「偽バスの行方を追えば、自ずとアリス博士達の捕まっている場所も分かりそうなものですからね」
 敷島:「じゃあ、ついでにシンディも助けてくれるか。何だ。鷲田警視達もやる時ゃやるんだな」
 エミリー:「そのようですね。申し訳ありません。何だか、お役に立てなくて……」
 敷島:「いや、いいよ。マルチタイプが完全にその機能を発揮するのは、いつでもどこでも……というのは違うと思ってるから」
 エミリー:「違う?」
 敷島:「ああ。一旦、部屋に戻ろう」

 敷島達はエレベーターに乗り込んだ。
 他にエレベーターに乗っている客はいない。

 敷島:「お前達、マルチタイプは、ゲームでいうボスだ。中ボスから大ボスまで張れるくらいの。ボスが最初から出てくるパターンなんて無いだろう?」
 エミリー:「それはそうですが……」
 敷島:「東京決戦では、シンディは割と序盤から出てたけどな」
 エミリー:「今でもそうですが、シンディは戦法というものに疎いのです。敷島社長は奇しくも、そんなシンディの弱点を突いて、東京決戦に勝ったのです」
 敷島:「そうかね?あの時は無我夢中で、あんまりよく覚えていないんだが」
 エミリー:「そうですか」

 エレベーターが敷島の宿泊している部屋のフロアに到着する。
 エミリーはサッと降りて、エレベーターのドアを押さえた。
 ビジネスマナーとしては上席者を先に降ろすらしいが、エミリーの場合は敷島の護衛も兼ねているからだろう。
 先に降りて、敵の待ち伏せを警戒する為である。

 エミリー:「私があの時のシンディの立場なら、先に平賀博士を襲いには行きません」
 敷島:「じゃあ、どうする?」
 エミリー:「ウィリアム博士の横に付いて、敷島社長達を待ち受けていたでしょう」
 敷島:「なるほど。だとしたら、ウィリーもバカだってことさ。シンディに、『出迎えてやれ』と命令したらしいぞ」
 エミリー:「そのようですね」

 前期型のシンディは様々なウィルスに冒されていて、完全にウィリーのロボットと化していた。
 マルチタイプは基本、オーナーの命令は何でも聞くことにはなっているのだが、時折意見することもある。
 そこがロボットとの大きな違いである。
 意見したり、提言したりすることもあって、それもまたマルチタイプの持ち味である。
 敷島はよくシンディにも意見を求めていた為、エミリーにはマルチタイプの持ち味を生かしていると好意的に受け止められていた。

 エミリー:「私なら、大きく構えて迎え撃つ方を提案していました」
 敷島:「そうか。さすがの俺も、そんなことされたら蜂の巣になっていただろうな。良かったよ。お前が敵じゃなくて」
 エミリー:「全幅の信頼、ありがとうございます」

 敷島はカードキーで部屋のドアロックを解除した。
 部屋では萌が留守番していたはずだが、敷島達が部屋に入ると、慌てて飛んできた。

 萌:「社長さん!エミリー!大変だよ!」
 敷島:「何だ、どうした!?」
 萌:「テレビを観てください!」

 萌はずっとテレビを観ていたようだった。
 敷島達は部屋の中に入ると、テレビの画面に目をやった。
 そこに映っていたのは……。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「シンディ再起動」

2017-02-21 19:13:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日17:00.天候:曇 北海道札幌市 東京REIホテル]

 敷島は初音ミクの専属マネージャーである篠里に電話を掛けた。

 篠里:「はい、篠里です」
 敷島:「あ、篠里君。私だけど、今電話大丈夫かな?」
 篠里:「社長!……奥様方の行方は分かりましたか?」
 敷島:「いや、あいにくとまだだ。それより今、ミクは仕事中かな?」
 篠里:「はい。テレビの収録です。まもなく終了しますが」
 敷島:「会社にはいつ戻る?」
 篠里:「そうですね……。私はこの収録が終わったら戻りますが」
 敷島:「キミじゃない。ミクはいつ戻る?」
 篠里:「恐らく、日付が変わる頃かと」
 敷島:「なにぃ?どういうことだ?」
 篠里:「社長、お忘れですか?ミクはオールナイトニッポンの特別ゲストとして呼ばれることになったんですよ」
 敷島:「あ……!なに?それが今日だって!?」
 篠里:「そうなんです。ですので、夜中過ぎになると思いますよ。まあ、ミクは人間じゃないので、深夜労働とかは無関係なので何の心配も……」
 敷島:「くそっ!こんな時に……!とにかく、ミクが会社に戻ったら、すぐに俺のケータイに連絡するように伝えてくれないか?」
 篠里:「えっ!?ですが、時間帯が……」
 敷島:「何時でもいいから!」
 篠里:「わ、分かりました」

 敷島は電話を切った。

 村中:「敷島社長、私と警視は一旦ここを出る。警視は今から道警本部に向かうところだし、私は北国観光バスの本社へ向かう。あなたはどうする?」
 敷島:「取りあえず、私は市内のホテルに泊まります」
 村中:「このホテルに泊まったらどうだい?ここなら街中だしね」
 敷島:「村中課長と鷲田警視は?」
 村中:「私達もこのホテルに泊まるよ。もしかしたら、犯人がここに戻って来る可能性も無きにしもあらずだからね」
 敷島:「分かりました。部屋、空いてるのかな……?」
 村中:「さっき聞いたら、ツインとダブルなら1つずつ空いてるってさ」
 敷島:「なるほど」
 鷲田:「おい、村中君。そろそろいいかな?」
 村中:「はい。それじゃ、そっちで分かったことがあったらすぐに教えてよ?」
 敷島:「分かりました」

 敷島は大きく頷いた。

 エミリー:「社長、ミクに何をやらせる気ですか?」
 敷島:「社長室に、お前やシンディの通信機があるだろう?」
 エミリー:「はい」

 遠くにいるマルチタイプと交信する際に使用する。
 放送用の卓上マイクを改造したものだ。
 ミクにはそれの通信機を使ってシンディに歌を送信する。
 その歌が電気信号となって、シンディを遠隔で再起動できるかもしれないということだ。

[2月4日時間不明(恐らく夜間) 天候:不明 場所不明]

 シンディ:「う……」

 シンディが再起動した。
 起き上がると、真っ暗な部屋にいるのが分かった。
 すぐに暗視カメラに切り替える。
 これでライトが無くても、暗闇での行動が可能。
 この機能はボーカロイドにも付いているが、使用中は目がオレンジ色または赤色にボウッと光るので不気味だと人間達からは不評である。

 シンディ:「ここは……?」

 どこかの廃屋のようだった。
 古い木張りの床があり、応接室だったのか、埃かぶった皮張りの茶色のソファが置かれている。

 シンディ:(マスター達の泊まっているホテル?いや、それにしては汚い部屋だね……)

 場所を特定しようとGPSを作動させようとしたが、何故か動かない。

 シンディ:(とにかくここを出ましょう)

 ドアを開けると、すぐに廊下になっていた。
 だがその廊下も、古い木張りの床になっている。
 壁も所々剥がれ落ちていて、まるでこれでは廃屋だ。

 シンディ:(一体何なのここは?どうして私はここにいるの?)

 廊下に置かれたスタンドは点灯しているので、停電しているわけではないようだ。
 つまり、見た目は廃屋同然であるものの、本当の廃墟というわけではない。
 2階に上がる階段があるようだが、シンディはそこではなく、もっと奥へ向かうことにした。
 もっとも、ここが1階だとも限らないが。
 少し進むと、キッチンがあった。
 どうやら、ここは普通の家らしい。
 造りが洋風なので、洋館か何かだろうか。
 しかし、人の気配は全くない。
 引っ越した後というよりは、それまで人が住んでいたのが、急にいなくなってしまって何年もそのままといった感じだ。
 何故なら家財道具はそのままだし、キッチンの鍋や腐った食材もそのままだからである。

 シンディ:(こんな所にマスターがいるとは思えない。マスターは一体、どこに?)

 キッチンを通り抜けて、また廊下に出る。
 随分と変わった構造の家だ。
 ようやく、外に出られそうなドアを見つけた。
 だが、カギが掛かっている。

 シンディ:「こんなもの……!」

 シンディはマルチタイプならではの力でドアを蹴破った。
 そして、外灯が照らす外へと出ようとした時だった。

 ガシッ!(シンディの右肩を何者かが掴む)

 シンディ:「!?」

 そして振り向かされると、そこにいたのは……。

 ???:「お前も『家族』だ」
 シンディ:「ぅあああああああああっ!!」

 シンディの体に高圧電流が走る。
 そこでシンディの電源は再び切れてしまった。

[同日03:00.天候:雪 北海道札幌市 東急REIホテル・客室]

 エミリー:「シンディ?シンディ!応答して!」

 エミリーは再びシンディの電源が切れたことを察知した。

 萌:「うるさいよ、エミリー。社長さんが起きちゃうよ」
 エミリー:「そうだった。だが、シンディの居場所が分かった」
 萌:「そうなの?」
 エミリー:「恐らく一瞬でも、電波が入る所に行ったんだろう。それを社長達に報告する」
 萌:「う、うん」

 1人の女性型ロイドともう1人の妖精型ロイドは、ベッドに横たわる人間の男を見た。

 萌:「社長さん、寝てるね」
 エミリー:「無理もない。奥様のことが心配で、ろくに眠れなかったのだ。だから初音ミクとの連絡は、勝手ながら私が代行させてもらった」
 萌:「怒られるんじゃない?」
 エミリー:「それでもいい。後でお役に立てたとなれば、私はそれでいい」
 萌:「そういうものかぁ……。ボクも井辺さんのお役に立てるといいな」
 エミリー:「朝になって社長が起床されたら、すぐに報告しよう」
 萌:「うん」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「少しずつ分かってきたアリス達の足取り」

2017-02-21 12:15:23 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日16:45.天候:曇 北海道札幌市 東急REIホテル1Fロビー]

 支配人:「先ほどは失礼致しました」
 鷲田:「いやいや。何かありましたかな?」
 支配人:「この者が事情を知っているようですので、もしよろしければと思いまして……」

 支配人は、このホテルの制服を着たホテルマンの男性を連れて来た。
 ホテルマンは敷島達に一礼する。

 鷲田:「ご協力ありがとう。で、何をご存知なのかね?」
 ホテルマン:「実は当日(1月30日)のことなんですが、私がフロント業務に就いておりましたところ、1つのクレームがございました」
 村中:「クレーム?」
 ホテルマン:「はい。1人の男性のお客様だったのですが、こういった内容でした」

 男性客は新千歳空港に到着した後、このホテルにチェックインするつもりだったらしい。
 だから、最初から予約は入れていたわけだ。
 新千歳空港からどうやって札幌市内まで行こうか考えている時に、たまたま到着口の前に停車していたバスを見つけた。

 ホテルマン:「そのバスには大きく当ホテルの送迎バスと書かれていたそうで、それに乗って行かれようとしたそうです。ところが、『「これは団体専用だからダメだ」と断られた。そんなことどこにも書いてないのに、どうなってるんだ!』といった内容のクレームです」
 村中:「普通は団体専用と断られたら諦めるんだけど、いるんだよねぇ、そういうクレーマーが」
 敷島:「支配人さん、やっぱり団体専用とはいえ、送迎バスを走らせるんじゃないですか」
 支配人:「ところが当ホテルでは、そのような記録も連絡も全く無いんです」
 敷島:「は?」
 ホテルマン:「そのお客様が証拠の写真を撮影しようとカメラを向けたら、物凄い剣幕で運転手や案内係から怒鳴られたとも申されております」
 敷島:「その男性客はどこに?」
 ホテルマン:「あいにくと昨日、チェックアウトされております」
 支配人:「赤川君、もしかして、まだあの写真は残ってますか?」
 ホテルマン:「はい」
 支配人:「すぐに持って来てください」
 ホテルマン:「はい!」

 赤川という名のホテルマンは急いで、事務室に取って返した。

 鷲田:「あの写真というのは?」
 支配人:「例のお客様が近影ならムリだということで、そのバスが出発した後、望遠で撮影されたのですよ」
 村中:「クレーマーの執念は凄いねぇ……」
 支配人:「ご宿泊の最中は、ごく普通のお客様でした」
 敷島:「やはり、偽バスが出されていたんですね」

 少しして赤川というホテルマンが戻ってきた。

 赤川:「こちらになります」
 鷲田:「ほほぉ……」

 デジカメで撮影したのだろう。
 写真といっても紙に印刷されたものだ。
 そのバスは旧年式の三菱ふそう・エアロエースだった。

 
(バス会社は違うが、これが三菱ふそう・エアロエースの旧年式車)

 敷島:「結構、本格的な観光バスだ。一体、どこで手に入れたのやら……」
 鷲田:「ふむ……。というかこれ、北国観光バスじゃないか。一体どうなってる?」
 村中:「まさか、北国観光バス自体がグルだったとか?」
 敷島:「ええっ?」
 支配人:「因みに、こちらが当ホテルの送迎バスになります」

 支配人はタブレットでホテルの公式サイトを見せた。
 そこには送迎バスの写真もある。

 敷島:「色が違う」
 支配人:「ええ。当ホテルの送迎バスも、バス会社に運行を委託したものでありますが、専用の塗装で運行して頂いております」
 鷲田:「すると、そのバス会社オリジナルの塗装で運転されるということは……?」
 支配人:「基本的にございません。それ以前に、新千歳空港からは運行しておりませんし」
 鷲田:「なるほどな」
 敷島:「ん?これは……」

 写真は何枚かあるのだが、最後の1枚はバスの後部を写したものだった。
 ボールペンでナンバープレートのところに矢印がしてあり、手書きでナンバーが書かれていた。

 赤川:「お客様は、バスのナンバーまで御記憶でした。それでメモしたんです」
 村中:「クレーマーの執念は凄いねぇ……」

 そのナンバーは、『札幌231 は 27-39』とあった。

 敷島:「初音ミクかよw」
 鷲田:「ちょっと待った。事業用(緑ナンバー)の場合、平仮名で、『は』は使えんぞ」
 敷島:「ええっ!?」
 村中:「うん。緑ナンバーで使える平仮名は、『あ』『い』『う』『え』『を』『か』『き』『く』『け』『こ』だけだ」
 敷島:「そうなんですか!」

 因みに『お』は白ナンバーや軽自動車ナンバーでも使えない。
 代わりに『を』を使う。

 敷島:「ということは……」
 鷲田:「バスは知らんが、ナンバーは偽造ナンバーだということだ」
 村中:「警視、これで少しずつはっきりしてきましたね」
 鷲田:「うむ。道警に頼んで、この偽バスの行き先を探ってもらおう。あと、北国観光バスに、『おたくのバスが犯罪に使われた』とでも言っとけ」
 村中:「はい!」

 とはいえ、敷島は北国観光バスそのものがアリス達誘拐の一翼を担っていたとは思えなかった。
 もし会社や営業所ぐるみなら、わざわざ偽造ナンバーを取り付ける必要は無い。
 本物のバスを使って、ごくありきたりのツアーバスを装えば良いのだ。
 それとも、バス1台が盗難にでも遭ったのだろうか?
 或いは、犯人達が道内にある本物の観光バスを装う為に、たまたま北国観光バスと同じ塗装に塗ったか。

 敷島:「ん?」

 と、そこへ敷島のスマホが鳴った。
 取ってみると、画面には小山副館長の名前が出ていた。

 敷島:「ちょっと失礼します」

 敷島は席を立つと、少し離れた場所に移動した。

 敷島:「もしもし?」
 小山:「あ、敷島さん。今、電話よろしいですか?」
 敷島:「はい」
 小山:「実は、もしかしたらシンディを遠隔でONにできるかもしれない方法が見つかりました」
 敷島:「おおっ!それは何ですか?」
 小山:「初音ミクの持ち歌に、『ミクのドドンパ』というのがあるでしょう?」
 敷島:「はい」
 小山:「あれを何とかシンディに聴かせれば、再起動できるかもしれないようです」
 敷島:「その方法が……」
 小山:「方法につきましては、私より詳しい敷島さんにお任せします。それでは……」

 小山が電話を切ったので、敷島も電話を切った。

 敷島:「えーと……どうしようかな?……あ、なるほど」

 敷島は取りあえず、ミクのマネージャーに電話をすることにした。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「アリス達の足取りを追う」 5

2017-02-20 21:30:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日15:00.天候:晴 新千歳空港・ANA到着口前バス停]

 1台の空港連絡バスがバス停に到着する。

 運転手:「お待たせしました。15時ちょうど発、札幌都心直行便です」

 やってきたバスはベタな空港連絡バスの法則通りのものだった。
 高速バス仕様だが、4列シートのトイレ無しである。
 運転席の横に運賃箱はあるが、後払いであり、乗車券を既に購入している乗客は降りる時にその乗車券を運賃箱に放り込むだけで良い。
 空港のバスターミナルなだけに、乗り場には係員がいる為、エミリーを入れていた大型のキャリーバッグは係員に荷物室に積んでもらう。

 鷲田:「直行便に乗れて良かったな。少しでも早く着いて、ホテル側の事情を聞きたい」
 村中:「そうですね」

 敷島達はバスに乗り込んだ。
 直行便とは言うが、南千歳駅前までは何ヶ所か停車するらしい。
 バスは時間通りに出発すると、今度は同じターミナルの並びにあるJAL到着口からも乗客を乗せた。
 その次は国際線ターミナルに止まるという。
 国際線から先に出発する羽田空港のバスとは順番が逆だ。
 その途中で、先ほどの送迎バスや観光バスが発着する場所を通過する。
 また北国観光バスが、次の団体客を乗せている所が見えた。
 その隣には、どこかのホテルの送迎バス。
 それも、ホテルの自社便によるマイクロバスとかではなく、どこかのバス会社に委託しているのであろう。
 ホテルの名前が大きく書かれており、バス会社は小さく書かれていたのでどこの会社だかは判別できなかったが、少なくとも緑ナンバーであったことから、そうだとだいたい分かる。

 敷島:「ん……!?」

 敷島の頭で何かが繋がったような気がした。

 鷲田:「どうしたね?また何か、ロクでもないこと思いついたか?」

 敷島達のすぐ前に座る鷲田が振り向いてニヤッと笑った。

 敷島:「いや、そんなことはないですよ。ただ、アリス達は素直に北国観光バスに乗ったのかなぁ……って」
 村中:「何が言いたいんだい?」
 敷島:「今さっき、送迎バスの乗り場の所にホテルの送迎バスが止まっていたんです。もしかしたらアリス達、そっちに乗ったのかもしれません」
 鷲田:「しかしそうなると、行程表とは違う内容になってしまうことになるが?」
 敷島:「ええ、そうです。多分、偽ツアーの方が先に新千歳空港に着いたことで、易々と北国観光バスに乗れたのでしょう。そして、その後に来た本物の科学館のツアーの方は、偽のバスに乗ってしまい、全く別の所に連れて行かれたのかもしれません」
 村中:「なるほど。ホテルの方で送迎バスのサービスをしていれば、それに成り済ましてミスリードさせることが可能ってわけか」
 鷲田:「だがしかし、そんなことが本当に可能なのかね?」
 エミリー:「可能だと思います」

 と、エミリー。

 エミリー:「偽ツアーの方は成田空港からの出発でした。実際に同じANA便、2153便という便がアリス博士達より40分も早く到着できます」
 鷲田:「40分?そんなに早く着いたら、逆に怪しいのではないかね?」
 敷島:「いや、そんなことはないでしょう。大抵は客をすぐに迎えに行けるよう、少し早めに来て待つのがベタな法則ですから。偽ツアー客には、適当に説明しておけばいいでしょう。そして本物のDCJツアーが来る前にさっさと合流してしまえば、本物が来る前に出発できるというわけです」
 鷲田:「それで?本物のDCJさんを輸送した偽バスは、誰がどうやって用意したというのかね?」
 敷島:「バス会社の係員が偽ツアーを誘導していったのを見計らって、偽の係員を用意しておくんです。そしてアリス達が到着したら、偽バスの方へ誘導する」
 村中:「あり得る話だね。だけど、偽バスなんか、なかなか用意できるものじゃないな。白バス営業防止の為、実は大型バスのレンタルや購入にはそれなりの審査があるんだ。わざわざそれを本州から持ってきたとは考えにくいから、この道内で調達しただろうね」
 鷲田:「可能性はあるな」
 敷島:「そうなると、ホテルまで聞きに行く必要は無いんじゃ?結局、偽ツアーの人達しかチェックインしていないわけでしょ?」
 鷲田:「その主催者を挙げて尋問するというルートもあるからな」
 敷島:「いや、どうせ北海道にはいないでしょ?」
 鷲田:「本州には部下達がいるからな。結構頼りになるぞ」
 敷島:「そうですか」

[同日16:20.天候:曇 北海道札幌市 東京REIホテル]

 敷島:「まだ冬だから当然ですけど、北海道は暗くなるのが早いですね」
 鷲田:「札幌はまだ東京よりちょっと早い程度だが、道東に行くともっと日の入りが早いそうだ」
 村中:「逆に沖縄は17時になってもまだ明るいんだ。日本って意外と広いよ」
 敷島:「そうですねぇ……。ここじゃ天気が悪くなったら雪が降るのが当たり前ですが、沖縄は普通に雨ですもんね」
 鷲田:「そういうことだ」

 敷島達はホテルのロビーにいる。

 支配人:「お待たせ致しました。私が当ホテルの支配人です」
 鷲田:「こりゃお忙しいところ、申し訳ありませんな。私達は東京から参りました警視庁の鷲田と申します」
 村中:「同じく村中と申します。こちらが、捜査協力依頼書です」
 支配人:「それで、ご質問の内容というのは?」

 鷲田達は偽ツアーのことについて聞いた。
 そこで分かったことがあった。
 やはり、チェックインしたのは偽のツアーだった。
 但し、乗り付けたバスは本物の北国観光バス。
 敷島は小山副館長から送られた岩下副館長や西山館長の写真を支配人に見せた。
 すると、支配人はおろか、実際にDCJ観光の偽ツアーをアテンドしたホテルマンは見覚えが無いという。
 そして敷島は、アリスやシンディの写真も見せた。

 支配人:「違いますね。確かにあの団体客の皆様の中に、1人だけ白人女性がいらっしゃいましたが、このような方ではありませんでした」
 敷島:「そうですか……」
 村中:「警視、これではっきりしましたね。科学館の人達はこのホテルには泊まっていない、新千歳空港から別のルートで誘拐されたんでしょう」
 鷲田:「そういうことになるな。幹事の『岩下』という人物について聞きたいのだが、写真とかは無いかね?」
 支配人:「申し訳ありませんが……」
 鷲田:「では、防犯カメラの映像を見せて頂きたい。令状ではなく、依頼書で申し訳無いが、よろしいですかな?」
 支配人:「どちらのカメラをご覧になりますか?」
 鷲田:「まずは偽ツアーの全体像を見たいので、このロビーを映しているカメラと直接フロントを映しているものを見せて頂きたい」
 支配人:「かしこまりました」
 敷島:「あ、あの、支配人さん」
 支配人:「何でございますか?」
 敷島:「このホテル、送迎バスみたいなものは走らせてますか?それも、大型バスです」
 支配人:「はい。大型バスで運行させて頂いておりますが……」
 敷島:「おおっ!当たった!」
 鷲田:「それは新千歳空港から出ているのかな?」
 支配人:「いいえ。札幌駅前からのみになります」
 敷島:「ええっ!?……それでも何か特別に走らせたりとかは……?」
 支配人:「申し訳ございませんが、今まで1度もございません。お客様方の方で観光バスを手配して頂いて、それを……というのはよくありますが……」
 敷島:「違ったかぁ……」

 敷島はガッカリした。
 だが、村中はこんな質問をした。

 村中:「ですが支配人、実際にこのDCJ観光さんと同じタイミングでこのホテルにチェックインするはずの団体客が、新千歳空港からこのホテルへの直行便と称したバスに乗り込んでしまったのですよ。恐らく、何の疑いも無く。何か、心当たりはありますかね?」
 支配人:「そう、申されましても……」

 支配人は困ったような顔をした。

 ホテルマン:「あの、支配人。ちょっとよろしいでしょうか?」
 支配人:「少々お待ちください」
 鷲田:「ああ」

 支配人は席を立った。
 ホテルマンが何やら、敷島達の方を見ながら耳打ちしている。
 そして戻ってきた支配人が、衝撃的なことを言った。
 その内容とは?
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ここまでのまとめ」

2017-02-19 22:51:07 | アンドロイドマスターシリーズ
 DCJロボット未来科学館:

 DCJ(デイライトコーポレーション・ジャパン)が運営する一般向けのパビリオン施設。
 DCが開発したロボットやロイドの展示などを行っている。
 元々は埼玉研究所を大幅にリニューアルしたもの。
 元が研究施設だった為、今でも研究員は詰めている。
 相次ぐロボット・テロに際し、世間の悪化したイメージを払拭する為にオープンした。
 常設展示品にセキュリティ用のバージョン4.0や農耕用ロボットのゴンスケ、マルチタイプ現行年式としてのアルエット、妖精型ロイドの萌などがいる。
 週末はイベントなどが行われており、エミリーやシンディが持ち技を披露することもある。
 またはボーカロイドもたまにライブを行う。
 研究所時代では行われていなかった慰安旅行を行うようになったが、今回の北海道旅行の際には参加者全員がシンディも含めて行方不明になるという事態に陥った。
 鷲田警視など、警察は既に動いているが、まだマスコミに発表はされていない。
 誘拐事件などはマスコミに緘口令が出されるのが通例であるため。
 誘拐犯からの犯行声明などはまだ出ていないが、敷島達はKR団の生き残りが犯人ではないかと見ている。
 羽田空港までは稼働していたシンディをトレスしていたエミリーにより、少なくとも羽田空港までは無事であったことが確認されている。
 また、羽田空港の時点で誘拐されたとは考えにくい。
 北海道の新千歳空港行きの飛行機に乗った確率も高い。
 新千歳空港から先の足取りが掴めていない。

 エミリー:

 マルチタイプ1号機。
 ロイドの中では女帝とも言える立場にあるが、決して人間達の前では驕るような態度は見せない。
 但し、最近までロボット喋りやロボットのような振る舞いをしていたのは、偏に本当に自分を使いこなせる人間(アンドロイドマスター)を探す為の仮面であった。
 敷島がその最有力候補と確定し、敷島の前限定でその仮面を外す。
 シンディのような滑らかな口調ではあるものの、まるで人間を小馬鹿にしたような態度に敷島は見えた。
 その為、最初はエミリーの申し出を断っていた。
 エミリーも敷島に不愉快な思いをさせたのはさすがにマズいと思ったか、シンディのアドバイスもあって、少し謙虚な態度を見せるようになった。
 滑らかな口調は徐々に他の者へも見せるようになり、表向きには言語ソフトを更新したからという理由になっている。
 ようやく仮とはいえ、敷島とユーザー登録がされたことをとても喜んだ。
 但し、まだ仮である為、忠誠を誓う為のナイフ(の形をしたリモコン)は渡していないもよう。
 今回の事件において、どのように活躍するか。
 尚、テーマ音楽は東方Projectの“人形裁判”であったが、仮面を脱ぎ捨てたことにより、“ピュアヒューリーズ 〜心の在り処”に変更。

 萌:

 KR団最後の研究者とされる吉塚広美(故人)の製作した妖精型ロイド。
 大きさは身長30cm弱。
 黒い髪をMEIKOのようなショートボブにしており、小さなリボンをあしらったヘッドセットを着けている。
 背中に伸縮性の羽が付いていて、これで飛行できる。
 小さな体を駆使してダクト内に入り込んだり、ちょっとした隙間に潜り込むなどする隠密活動ができる。
 KR団のアジトからの脱出の際、井辺翔太と協力したことで、井辺のことを1番信頼している。
 その時はまだ試作中であった為、明確な性別の設定が無く、一人称は『ボク』であるが、DCJで展示されるに当たり、性別設定を女にされたにも関わらず、相変わらず一人称は『ボク』のままである。
 おとぎ話の妖精のように全身を発光させて敵の目を眩ますだけでなく、発光による発熱で攻撃することもできる。
 また、手術用のメスを改造した折り畳み式の武器も持っており、薙刀のように使って攻撃もできる。
 ファンシーロボットなのだが、フリフリしたいかにも妖精らしい服装は嫌いで、普段は黒いTシャツにデニムのショートパンツといったラフな姿をしている。
 好きなことは入浴で、お湯の出る洗面台に湯を張って、よく入浴をしている。
 飛ぶことはできるが、移動はあまり自分でしようとせず、誰かの肩に乗っかって移動することが多い。
 バージョン4.0などは、萌が乗っかったことにすら気づかない。
 名前は彼女の型番、MOE-409から取った。
 テーマ音楽は同じく東方Projectの“九月のパンプキン”。

 北国観光バス:

 北海道内を営業エリアとする観光バス会社(当作品における架空のバス会社)。
 路線バスや特定輸送(企業や学校の送迎バス)はやっていない。
 新千歳空港に到着した団体客輸送を主に行っている。
 行き先は大抵、札幌市内。
 偽ツアーと知らずに、DCJ観光という架空の観光会社が企画したツアーの参加者達を札幌市内まで輸送した。
 尚、北国観光バスはDCJなる名前のツアー予約は1台しか受けていない。
 そして、いざやってきた偽ツアーの方を輸送してしまった。
 お分かりだろうか?
 偽ツアーを輸送してしまったら、本物のDCJ慰安旅行ツアーの面々はどうしたのだろうか?
 新千歳空港に取り残されることになるのに、彼らは騒ぎ立てなかったのである。
 本物のDCJ慰安旅行ツアーは、どこに行ってしまったのだろうか?
コメント
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