報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ここから本編再開」

2019-08-23 22:00:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月6日10:59.天候:晴 千葉県成田市 JR成田空港駅]

 成田空港でイリーナを出迎えた稲生とマリアは、成田空港駅へ向かった。

 稲生:「ポーリン先生はタクシーですが、本当にいいんですか?」
 イリーナ:「いいよ。別に急いでるわけじゃないし」
 稲生:「分かりました。でも、夏休みで“成田エクスプレス”は軒並み満席なんですよねぇ……」
 イリーナ:「自由席は無いの?」
 稲生:「“成田エクスプレス”には、基本的に自由席はありません。快速なら全車自由席ですが……」
 イリーナ:「じゃあ、それでいいよ」
 稲生:「分かりました。……まあ、一応グリーン車にしておきましょう」

 稲生、2階建てグリーン車のグリーン券を購入しておく。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の列車は、10時59分発、快速、逗子行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 他の東京近郊の中距離電車と同じように、4号車と5号車には2階建てグリーン車が連結されている。
 5号車に乗り込んだ。

 イリーナ:「来る時は何で来たの?」
 稲生:「バスです」
 イリーナ:「あ、そうか。バスという手もあったね」
 稲生:「まあ、バスも道路状況によっては時間が読めませんから……」
 イリーナ:「まあ、それもそうだけど」

 イリーナは稲生達の前に座ると、お決まりの寝る体勢に入った。

 イリーナ:「東京駅に着いたらよろしくね」
 稲生:「あ、はい」

〔この電車は成田線、総武快速線、横須賀線直通、快速、逗子行きです。停車駅は空港第2ビル、成田、酒々井、佐倉、物井、四街道、都賀、千葉、稲毛、津田沼、船橋、市川、新小岩、錦糸町、錦糸町から先の各駅です。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕

 2階席と1階席には網棚が無いので、人形達はマリアの膝の上に乗っている。

〔「お待たせ致しました。10時59分発、快速、逗子行き、まもなく発車致します」〕

 ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 そして、普通車のドアと同じドアチャイムの音が聞こえてきた。
 バンというドアが閉まる音がすると、列車は静かに走り出した。

〔まもなく空港第2ビル、空港第2ビル。お出口は、右側です〕
〔The next station is Narita Airport Terminal 2・3 station.The doors are right side will open.〕

 放送が簡易なのは、次の駅まで1キロしか離れていないことと、下車客はまず考えられず、乗車客しかいないであろうという想定によるもの。
 そして、乗客が固まってから纏めて詳しい案内をしようということだ。
 イリーナは座席を最大限に倒し、ローブのフードを被っていた。
 この時、イリーナはフードだけでなく、黒いマスクも着用していた。
 飛行機の中では空調によって喉がやられやすい為だとしているが、あまり素顔が有名になってしまったこともあり、顔バレを防ぐというのもあるらしい。
 今では仕事の時には、必ずマスクをして顔バレしないようにしているらしい。

 稲生:「東京駅までは1時間半以上あります。先生の気持ちも分かるというものです」
 マリア:「師匠が電車しか選択をしなかったのも分かるよ。今、高速道路が大渋滞らしいから」
 稲生:「そうなんですか。エレーナ達、大変だなぁ……」
 マリア:「料金とかはどうなの?」
 稲生:「空港定額タクシーに乗るんでしたら、渋滞に巻き込まれても料金が上がることはないですけどね」
 マリア:「そうか……」

 空港第2ビル駅からも多くの乗客が乗って来た。
 グリーン車が満席になって、イリーナの隣にもビジネスマンらしきスーツ姿の乗客が乗って来たくらいだ。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は成田線、総武快速線、横須賀線直通、快速、逗子行きです。【中略】次は、成田です〕

 客層はビジネスマンよりも、夏休みの旅行客が多い。
 どうしても、2階席から埋まる傾向があるようだ。

 稲生:「よほど2階建てグリーン車が珍しいんですかね。海外でもそれくらいの列車、走ってそうな気がしますけど……」
 マリア:「アジアでは珍しいんじゃないの?多分、中国の鉄道以外にダブルデッカーを私は知らない」
 稲生:「……あ、それもそうか」

 今はまだ地下トンネルを走っているが、成田駅の手前で地上に出るので、今はまだ眺望などは望めない。

[同日12:32.天候:不明 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 総武快速線の錦糸町駅を出た電車は、再び地下トンネルへと潜っていく。
 その為か、E217系というこの車両は他の中距離電車と違い、非常用貫通扉などが付いた地下鉄対応車となっている。
 2020年度にはE235系、つまり現在山手線で運転されている車両に置き換えられるそうだが、貫通扉の付いたバージョンなのだろうか。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。地下総武線ホーム1番線到着、お出口は右側です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。この電車は横須賀線直通、逗子行きです。横須賀線内、逗子まで各駅に停車致します」〕

 稲生:「先生、先生。そろそろ降りますよ」
 イリーナ:「ん……そうかい」

 素直にイリーナは起きた。
 起きる時はマスクを取る。
 多分、座席に座って寝るという体勢上、エアコンの風などで喉がやられやすいのだろう。
 占い師としての仕事の時は顔バレしないように着けているようだが、それまで素顔で活動していた為に、今更感はある。

 電車が地下ホームに入線する。

〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、新橋に止まります〕

 ここで降りる乗客は多い。
 稲生達も電車を降りた。
 海外からの来日客がやはり多く見られた。

 稲生:「それじゃ、今度は上野東京ラインに乗り換えましょう」
 イリーナ:「了解。勇太君のお父さんの病院、面会時間は午後からだっけ?このタイミングで行けば、途中で待ち惚け食らうこともないわけだね」
 稲生:「あ、はい。そういうことです。でも、父は昨日手術を終えたばかりで病室が……あっ?」

 そこへ稲生のスマホにメールの着信があった。
 それは母親の佳子からで、一般の病室へ移ったということだった。
 もっとも、なるべく会社と連絡が取りやすいように、個室に入ったとは思うが(個室なら電話やPCが自由に使える為)。

 イリーナ:「アタシがこのタイミングで戻って来たのは、そういう運命だってことさ。良かったねぇ」
 稲生:「あ、ありがとうございます!」
 マリア:(その占いを先にやっておけば良かったのに……って、きっとあれか。昨夜のことで、気でも使ってくれたかな)
 イリーナ:「うんうん。『仲良き事は美しき哉』、マリアとも仲良くやれているし、先生として嬉しいことの1つだわ」
 マリア:(やっぱりバレてるか……)

 地下ホームから、今度は地上ホームへと向かう魔道士達。
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“魔女エレーナの日常” 「成田空港へ」

2019-08-23 10:28:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月6日08:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 鈴木:「ただいま戻りました」
 オーナー:「ああ、鈴木さん。お帰りなさい」

 鈴木は1度起きると、朝食を取りに出かけていた。
 幸いこのホテルに隣接する創作料理店がモーニングをやっているので、宿泊プランによってはそこで朝食を取ることができる。

 オーナー:「鈴木さん、申し訳無いんですけど、エレーナ達を起こして来てくれませんか?」
 鈴木:「えっ?」
 オーナー:「今日はポーリン先生……つまり、エレーナとリリアンヌの先生が来日される日で、当然弟子として迎えに行かなければならないんですよ。モスクワから来る10時半到着の飛行機だというのに、まだ起きる気配が無いんです」
 鈴木:「分かりました。そういうことなら、起こして来ます」
 オーナー:「すいませんね。これがエレベーターの鍵です」

 鈴木はオーナーからエレベーターの鍵を預かった。
 早速呼び出しボタンの下にある鍵穴に差し込み、それをONの位置に回すと、地下階へ行くボタンが押せるようになる。

 鈴木:「ムフフ……。ここは小声で、『おはようございまーす』っていうのをやってみるかな」

 平成時代初期の頃まで行われていた、芸能人寝起きレポート。
 テレビのドッキリのジャンルの1つだったのだろう。
 さすがに今はバラエティでも行われていない。
 エレベーターが地下階に到着すると、薄暗い機械室の風景が目に広がる。

 鈴木:「このドアはテンキー式なんですが、ちゃんと把握済みなんですね。功徳です」

 元々はボイラー技士室だった部屋の為、ドアは鉄製の殺風景なものだが、一応入口には『ELENA』という丸文字みたいなアルファベットの名札が掲げられている。
 カチカチとテンキーの番号を押してドアを開ける。

 鈴木:「おはようございまーす……」

 鈴木は右手にマイクを持つフリをし、小声で静かにエレーナの部屋に入って行った。

 鈴木:「エレーナとリリィは、どんな格好で寝ているのか楽しみで……ぅわったったっ!?」

 床にあった障害物につまずき、派手にコケる鈴木。

 エレーナ:「なになになに!?」
 リリィ:「!?」
 鈴木:「NG……テイク2……もう一回……」(@_@;)〜☆
 エレーナ:「な、な、何やってんだーっ!?」

[同日09:01.天候:不明 都営地下鉄森下駅大江戸線ホーム]

〔まもなく3番線に、両国、春日経由、都庁前行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 鈴木の派手なモーニングコールに、何とか寝坊を免れた魔女2人。

 エレーナ:「それにしても、オーナーにも困ったもんだぜ……」
 鈴木:「オーナーは何度もキミの部屋にコールを鳴らしたというぞ?」
 エレーナ:「電池が切れてたんだよ。あのインターホン、電池式だから……」
 鈴木:「いかにも電気で動いているように見えるのにねぇ……」

 小型車両の8両編成が入線してくる。

〔森下、森下。都営新宿線は、お乗り換えです。3番線は両国、春日経由、都庁前行きです〕

 朝ラッシュのピークは過ぎたと言えど、まだ余波が残っている為、電車は空いていない。
 もっとも、都営地下鉄の中では空いている路線なので、余裕で乗り込むことはできた。
 短い発車メロディが鳴って、すぐにホームドアと車両のドアが閉まる。
 駆け込み乗車は無かったのか、すぐに発車した。

〔次は両国(江戸東京博物館前)、両国(江戸東京博物館前)。JR総武線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Ryogoku(Edo-Tokyo Hakubutukan-mae)(E12).Please change here for the JR Sobu line.〕

 そこでふとエレーナは気付く。

 エレーナ:「てか、何でオマエが付いて来てるんだぜ!?」
 鈴木:「ポーリン先生とやらに御挨拶を……」
 エレーナ:「アホか。帰れ帰れ」
 鈴木:「成田空港までの交通費として、京成上野から“スカイアクセス”を……」
 エレーナ:「ちっ、しょうがねーな」
 鈴木:「稲生先輩でもまだ乗ったことの無い“スカイアクセス”、最高速度は160キロです」
 リリィ:「フフフ……ホウキより速い」
 エレーナ:「ホウキで160キロも出したら、息できねーっての。せいぜい100キロがいい所だぜ」
 鈴木:「あれ?そう言えば“魔女の宅急便”の主人公も、途中から貨物列車に便乗してたね?」
 エレーナ:「ずっと雨ん中飛ぶわけにもいかないし、ぶっちゃけ電車に乗った方が楽だぜ」
 リリィ:「フフフ……。地下世界こそ、パラダーイス……」

 暗くてジメジメした所を好むリリィ。
 これも幼少時代に何かあったからだろうか。

[同日10:30.天候:晴 千葉県成田市 成田国際空港第1ターミナル]

 リリィは初めて乗る“スカイアクセス”に、窓の外に釘付けだった。

 エレーナ:「いい電車だったと思うけど、たった36分ってのが勿体無いぜ」
 鈴木:「“モーニングライナー”とか“イブニングライナー”とかだと本線経由だから、スピードは遅いけど、その分乗車時間も長くなると思うけどね」
 エレーナ:「ま、『スピードを買う』ってところか」
 鈴木:「そういうことさ。それでもJRの“成田エクスプレス”より安いんだけどね」
 エレーナ:「どんだけ吹っ掛けてるんだぜ?それともJRの方が相場通りで、京成が良心的なのか?」
 鈴木:「その相場を吊り上げてるのがJRなんだよ。帰りも京成にする?」
 エレーナ:「先生にはもっと高級なものに乗って頂かないとダメだぜ。帰りはタクシーにするぜ」
 鈴木:「そういう所には金使うんだ」
 エレーナ:「その為に溜め込んでるんだぜ」
 鈴木:「なるほどねぇ……」
 エレーナ:「てか、オマエはもう帰れ」
 鈴木:「いいじゃんか。御挨拶くらい……」
 エレーナ:「御本尊様とやらを捨てる覚悟があるのなら、紹介してやってもいいぜ?」

 エレーナはニヤリと笑った。

 鈴木:「そんなぁ……!」
 マリア:「何やってんだ、オマエら?」

 そこへマリアと稲生が現れた。

 エレーナ:「おおっ!?昨日からコンドーム一箱使い切った稲生氏!?」
 稲生:「えっ!?何でそれを!?」
 エレーナ:「カマかけてやっただけだぜ?どうやら当たったみたいだぜ。何かくれだぜ」
 マリア:「アホか!」
 稲生:「何でエレーナ達がここにいるの?」
 鈴木:「エレーナ達の先生が来日されるってんで、迎えに来たんです。俺はそんなに偉い先生なら、是非とも御挨拶をと思って」
 マリア:「ポーリン先生が!?」
 エレーナ:「てか、オマエらもここにいるってことは……?」
 マリア:「うちの先生もモスクワから戻って来る所だ。ポーリン先生は?」
 エレーナ:「こっちも10時半到着のモスクワからの便って……なっにぃーっ!?」

 と、そこへ到着ゲートからぞろぞろ乗客が出てきた。
 その中に……。

 イリーナ:「やあやあ、よく来てくれたねぇ。ポーリン姉さんとも一緒に乗れて功徳〜〜〜〜!!」
 ポーリン:「私には罰そのものだけどなっ!何でこんな落ちこぼれと一緒に乗らなきゃいかんのだ……」
 エレーナ:「先生、お疲れ様です!お迎えに上がりました!」
 リリィ:「フヒヒヒ……。お、お荷物、お持ちしますです……」
 ポーリン:「ありがとう」
 鈴木:「先生、この度は遥々日本へようこそ!私、エレーナやリリアンヌと懇意にさせて頂いております鈴木弘明と申します!せめて名刺だけでも!」
 ポーリン:「メェ・ラ」

 ボッ!(指先から発せられた火で、名刺が火に包まれる)

 鈴木:「あちっ!?あぢぢぢぢぢ!!」
 エレーナ:「だから言っただろ、このバカ」
 稲生:「アホだ」
 マリア:「アホだ」
 イリーナ:「あー……ポーリン姉さんは真面目な人だから、そういう冗談は通用しないよ?アタシだったら、一緒に笑ってあげるんだけどねぇ……」
 ポーリン:「笑い事じゃない!エレーナ、こいつのお守りで疲れたから、ホテルまでの車を用意しなさい」
 エレーナ:「はい、お任せを!」

 エレーナ達はタクシー乗り場に向かった。

 エレーナ:「何か、イリーナ先生、電車で行くとか言ってますよ?」
 ポーリン:「放っておきなさい。それより、ホテルの部屋は確保されている?」
 エレーナ:「はい。デラックスシングルルームをお取りしてございます」
 ポーリン:「ありがとう」
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“魔女エレーナの日常” 「ポーリン組+αの晩餐会」

2019-08-22 21:43:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月5日20:00.天候:雲 東京都江東区森下 某焼肉店]

 エレーナ:「焼肉奢ってもらえて功徳だぜ!ヒック!」
 鈴木:「そうだろそうだろォ?顕正会よりも充実してるんだぜよォ!」
 リリィ:「フヒヒヒヒ……。2人とも、飲み過ぎ……です……」
 鈴木:「まあ、そう言いなさんなって。今度、登用試験があるんだろ?五級?」
 エレーナ:「クラス分けは無いって。要は見習解除試験だな。マスターになる為の試験を受ける資格を得る為の試験みたいなものだ」
 鈴木:「正に、中学校の全国統一模試の魔女版だな。この模試の結果如何によって、どこの高校を受けるか、受けられるかが決まって来るという……」
 エレーナ:「鈴木はどうなんだ?」
 鈴木:「俺は埼玉の高校クビになったからな。顕正会活動のせいで。まあ、別の高校に入り直して何とか卒業したけど、何か社会に出る気が無くなっちまってさぁ……。この時、エレーナから勧誘受けてたら入ってたよ」
 エレーナ:「だから勧誘しないって。アンタには才能が無いんだから……」

 エレーナはグイッとビールを口に流し込んだ。

 エレーナ:「おかわりいい?」
 鈴木:「いいよ。飲み放題だし。リリィもこの際、アルコール飲んじゃったら?」
 リリィ:「フヒヒ……。いいんですか?」
 エレーナ:「鈴木の前では飲まない方がいいな。こいつに酒飲ませたら、『流血の惨を見る事、必至であります』だぜ?」
 鈴木:「そんなに酒癖悪いのかい?」
 エレーナ:「まあ……厳密に言えばそういうわけじゃねーんだが……。まあ、説明するのも面倒だから、勝手にそう思っててくれていいぜ。なあ、リリィ?」
 リリィ:「フヒヒ……。エレーナ先輩にお任せします……。じゃあ、私はオレンジジュースで」
 鈴木:「すいません、ビール中生1つとハイボール1つとオレンジジュース追加お願いします」
 店員:「かしこまりました。空いているグラス、お下げします!」
 鈴木:「俺達にスポット当ててくれるのは嬉しいんだけど、いきなりどうしたんだろうな?」
 エレーナ:「おおかた今頃、本編じゃエロシーンの撮影中だから、その繋ぎじゃね?」
 鈴木:「エロシーン!?」
 エレーナ:「今頃、稲生氏の家は稲生氏とマリアンナの2人っきりだぜ。相思相愛の男女が2人っきりの場所でやることと言ったら1つだろ?あぁ?」
 鈴木:「でも稲生先輩は、長野でもマリアさんと2人っきりなんでしょ?」
 エレーナ:「いつセンセーが帰って来るか分かんないし、そもそもあの屋敷自体、センセーの肝煎りで造られたヤツだから、いつどこで監視されてるか分かったもんじゃない。そんな所じゃ起つモンも起たないし、濡れるモンも濡れないってことさ」
 鈴木:「なるほどなぁ……」
 リリィ:「フフフ……。(よ、よく分かんないけど、きっと先輩、下ネタを言ってるんだ……)」
 鈴木:「じゃあ、エレーナ。そろそろ俺達もエロシーンの撮影に入ろうか?」
 エレーナ:「冗談じゃねぇ、バーカ」
 鈴木:「……一蹴された」
 エレーナ:「こればっかりはいくら積まれても譲らねーぜ」
 鈴木:「え、でもエレーナ、処女なんでしょ?」
 エレーナ:「この体はな。だけど、それまで使ってた体は非処女ばかりだったから、別に経験なしってわけじゃねーぜ」
 鈴木:「そうか。エレーナがやりたくないってんなら仕方ない。……どうだい、リリィ?この際だから、キミと18禁シーンを……」
 リリィ:「フヒッ!?」
 エレーナ:「おい、性犯罪者!」
 鈴木:「冗談だって」
 店員:「お待たせしました。ビール中生とハイボールとオレンジジュースです」
 鈴木:「どうも」
 エレーナ:「気を取り直して飲み直すぜ。今度はハイボールだ」
 鈴木:「どうぞ。俺が言いたいのは、もしもリリィが試験に合格したら、ゲームでも買ってあげようかと思って」
 リリィ:「フヒッ!?ほほ、本当ですか!?」
 鈴木:「ああ。親父の知り合いの社長に卸売業がいるから、その社長に頼めば卸売価格で譲ってもらえるはずだ」
 エレーナ:「凄い人脈だな。御両親とは仲直りしたのか?」
 鈴木:「俺が顕正会を辞めて、真面目に学校に行くようになったのが確認できた途端、急に優しくなったよ。これも本物の仏法の功徳かな」
 エレーナ:「それについてはノーコメントだが、『仲良き事は美しき哉』だぜ」
 リリィ:「フヒヒヒ……。ダンテ一門の綱領……です……」
 鈴木:「まあ、親父としては大学に行って欲しかったんだろうが、今さら入れる大学なんて無いしな。かといって高卒じゃ、潰しが効かないし。専門学校を卒業したら、IT企業かゲームメーカーに入ってクリエイターになるって夢も見つかったし」
 エレーナ:「まあ、私も無職の男と知り合いよりは、学生の男と知り合いの方がマシだと思ってるよ」
 鈴木:「やはり彼氏には何かしらの肩書きを持っていてほしいと……」
 エレーナ:「何か話を変な方向に持って行きそうだから、これ以上この話は止めるぜ。で、リリィにはどんなゲームを買ってくれるんだ?」
 鈴木:「そりゃリリィの好きなもの買ってあげるさ。PS4でもXboxでもPSVitaでもいいよ」
 リリィ:「おー!わ、わわ、私……がが、頑張ります!」
 鈴木:「ていうか、魔界にテレビなんてあるの?」
 エレーナ:「無いけどアルカディアシティは一応電化されてるから、こっちからテレビでも持って行けばいいんだぜ」
 鈴木:「まあ、一番無難なのは据置型よりは携帯型かな」
 リリィ:「フフ……どっちも欲しい……です」
 エレーナ:「それはさすがに贅沢ってもんだ。どれか1つにしろ。さもないと、ただでさえズタズタにされた貞操が完全に救い無しになってしまうぞ?」
 リリィ:「ヒィッ!?……は、はは、はい……!」
 鈴木:「俺達の感覚じゃ、魔界ってのは地獄界の類義語みたいな場所だと思っていたが……」
 リリィ:「いや実際そうだぜ。ただ、ほんのごく一部には例外な地域があるんだ。だから正に、アルカディア(理想郷)なんだぜ」
 鈴木:「ふーん……。人間界じゃ、魔界の穴を塞ぐのに伝説の剣とか探し回って大変な思いをしてるのねぇ……」
 エレーナ:「魔界じゃ『何か地面が陥没してる』程度の騒ぎだぜ」
 鈴木:「何だそりゃ……。あ、肉とか追加する?」
 リリィ:「も、もうお腹一杯です……。あ、でも最後にデザート食べたい……です……」
 鈴木:「いいよ。デザートも食べ放題のうちに入ってるし」
 エレーナ:「また今夜もうちのホテルに泊まるのか?何か、予約入ってたぞ?」
 鈴木:「もちろんだとも。夏休みで部屋が満室なんだって?大変だね」
 エレーナ:「お陰様で、経営は順調みたいだぜ」
 鈴木:「あ、普通のシングルルームでいいからね?」
 エレーナ:「当たり前だろ。お1人様でツインやダブルの部屋通せるか」
 リリィ:「帰ったらゲームの続きやりたい……です……」
 エレーナ:「明日になったら、ちゃんと勉強しろよ」
 リリィ:「はい」
 鈴木:「稲生先輩も見習解除試験っての受けるの?」
 エレーナ:「いや、稲生氏は免除だぜ」
 鈴木:「ええっ!?」
 エレーナ:「稲生氏は才能豊かだし、あと門内のゴタゴタを色々と解決に導いたことが評価されたんで、免除決定だ」
 鈴木:「何気に先輩、スーパーマンなんだな……」
 エレーナ:「ま、そういうことだな」
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“魔女エレーナの日常” 「ゲリラ豪雨」

2019-08-22 17:13:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月5日18:30.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 まるで滝のような雨が降る森下地区。
 その上空をずぶ濡れになってホウキで飛行する魔女がいた。

 エレーナ:「あーっ、もう!サイアク!」

 スーッとホテルの屋上に着陸する。

 エレーナ:「あともうちょっとだったのに!」

 ずぶ濡れになったとんがり帽子を取ると、その下のウェーブの掛かったセミロングの金髪はそれほど濡れていなかった。

 エレーナ:「早く着替えないと風邪引いちまうぜ」

 エレベーターに乗り込み、鍵を差し込んで地下階まで行けるようにする。
 エレベーターのドアが閉まる直前、外で雷鳴が響いた。

 エレーナ:「雷が落ちる前で良かったぜ。飛行すらできなくなるところだった」

 スーッとエレベーターは下階へ下りて行く。
 が、それが1階で止まった。

 エレーナ:「誰よ?下のボタン押したの?STAFF ONLYだっつの」

 ドアが開くと……。

 鈴木:「ぬーん」
 エレーナ:「って、なにアンタしれっと乗って来てんの!?外からは鍵が無いとエレベーター止まんないはずだぜ!?」
 鈴木:「んん?うちのマンションのエレベーターが、このホテルのそれと同じメーカーなもんで、鍵なら持ってるよ」
 エレーナ:「何で一般人がエレベーター鍵持ってるの!?おかしいでしょ、常識的に考えて!」
 鈴木:「そこは親の財力と権力で。フフフ……」
 エレーナ:「オマエなぁ……」
 鈴木:「というわけでお邪魔します」
 エレーナ:「邪魔だから帰れ!……ックシュ!」
 鈴木:「ほらほら、早く着替えないと風邪引くよ」
 エレーナ:「うるっさい!アタシの部屋に来んな!」

 しかしエレベーターのドアが閉まり、再び降下する。

 鈴木:「御土産あるから。ハワイ旅行の」
 エレーナ:「マカデミアナッツならいらないぜ」

 エレベーターが地下階に到着する。

 鈴木:「まあまあ。箱の下に付加価値も入ってるから」

 底には諭吉先生が隠れていた。

 エレーナ:「ちっ、しょーがねーな。茶くらい出してやるぜ」
 鈴木:「そうこなくちゃ!」

 地下は機械室になっているのだが、そこの一画にエレーナの部屋があった。

 鈴木:「地下室に住むってどうなの?」
 エレーナ:「魔女が日の当たる所に住むもんじゃないってことさ」

 部屋のドアをエレーナが開けると……。

 リリィ:「フヒヒヒ……。エレーナ先輩、お帰りなさい」
 エレーナ:「おう、ただいまだぜ」
 鈴木:「こんにちは」
 リリィ:「フヒッ!?……よ、ようこそいらっしゃいませ……
 鈴木:「全然歓迎してないね」
 リリィ:「先輩、ずぶ濡れ……です……」
 エレーナ:「ああ。配達からの帰り、ゲリラ豪雨に遭っちまった。私の予知能力も大したことないなー」
 鈴木:「スマホの天気予報でさえ、雨が降り出してから雨マークに変わる有り様だからな」
 エレーナ:「私は着替えて来る。変な気起こしたら、妹分からの……」
 リリィ:「フヒヒヒ……!りゅ、流血の惨を見る事、必至であります……フフフ……!」

 リリアンヌ、ローブの中から大型のアーミーナイフを取り出し、その刃をペロッと舐めた。

 鈴木:「ダメだよ。JCがそんな物騒なもの持ってちゃ」
 エレーナ:「何か、土産でも無いのか?」
 鈴木:「ゲームで良かったらあるよ?」
 リリィ:「フヒッ?やります!」

 鈴木、鞄の中を開けるとPS4が出てきた。
 早速それをテレビに繋いで行く。

 鈴木:「こういうのに夢中になっているのを見ると、普通のJCのようなんだけどなぁ……」
 エレーナ:「リリィだって、虐待さえ受けなければ妖気なフランス人だったはずなんだぜ」

 エレーナは自分の着替えを用意すると、それでシャワールームに入って行った。

 リリィ:「おー!」

 リリィ、早速コントローラーを握る。

 リリィ:「フヒヒヒ……!血しぶきこそ、パラダーイス……」
 鈴木:「怖い怖い」

 というか、血しぶきの出るゲームを持って来る鈴木も鈴木だと思うが。
 しばらくして、着替えたエレーナがシャワールームから出てきた。

 鈴木:「Tシャツにジーンズ……随分ラフな格好だね?」
 エレーナ:「ああ?部屋に閉じこもる時は、だいたいこんなもんだぜ。とんがり帽子とかは仕事用だぜ」
 鈴木:「仕事用……」
 エレーナ:「ああ、もちろん魔女の宅急便な」
 鈴木:「ホテルの仕事をしている時も、普通にブラウスにスカート、ベストを着てるよな?」
 エレーナ:「だから、仕事用だぜ。リリィ、鈴木からの土産のマカデミアナッツだ」
 リリィ:「フヒッ?い、いただきます……」
 エレーナ:「おっ、約束の茶だな。リリィ、日東紅茶のティーバッグ、どこに入れてたっけ?」
 リリィ:「そ、そこの棚の……中です……」
 エレーナ:「おっ、そうか」
 鈴木:「魔女の出してくるお茶が日東紅茶……。もっとこう、薬草を煎じた、飲むだけでHPが回復するようなお茶とか無いの?」
 エレーナ:「あぁ?そんなもんタダで飲ますわけ……って、まあ……何だ。諭吉先生をもらったんだから、サービスしてやるか」
 鈴木:「よっ!そうこなくちゃ!」
 リリィ:「み、ミスター鈴木!あ、あの宝箱。どど、どっちがミミックだ?」
 鈴木:「あれは左だな」
 リリィ:「なるほど。ま、魔界でもミミックは超危険……」
 鈴木:「ミミックってガチでいたのか……」
 エレーナ:「ああ。確か、マリアンナの家にもあったぜ」
 鈴木:「マジで!?」
 エレーナ:「うちでも防犯用に置こうかなんてオーナーに言ってるんだけど、全然許可もらえないんだ」
 鈴木:「そりゃ、人喰い箱なんか設置したら過剰防衛上等だもんな」
 エレーナ:「魔界じゃゴミ処理に使うんだけどな。人間のゴミとかな」
 鈴木:「ゴミ扱いされないよう気をつけます」
 リリィ:「ファフニール!ファフニール出た!」
 鈴木:「おー、もうボスの所まで行ったか。さすがリリィだ。ファフニールは洞窟の奥で宝物を守っているドラゴンなんだけど、その宝物を気にするあまり、気が削がれる傾向があるから……」
 リリィ:「な、なるほど」
 鈴木:「稲生先輩やマリアさんとは会ってる?」
 エレーナ:「用が無きゃ互いに合わねーぜ。それに今日はあの2人、取込み中だ」
 鈴木:「ん?どういうこと?」
 エレーナ:「マリアンナのヤツ、今日は稲生氏の実家に泊まるんだけど、稲生氏以外に誰も今夜はいないみたいだぜ。鈴木ならその意味、分かるよな?」
 鈴木:「マジか!?」
 エレーナ:「あの2人もゲリラ豪雨に当たってずぶ濡れになっちまったみたいだから、取りあえず一緒に風呂に入る所からヤるんじゃないか?」
 鈴木:「稲生パイセンもスミに置けないなぁ……」
 リリィ:「み、ミスター鈴木!ファフニールが降参の意思表示してる!」
 鈴木:「ああ、それは罠だから許しちゃダメ。もっと徹底的に」
 リリィ:「わわ、分かった!」

 何気に鈴木も魔女達と仲良くやっているのだった。
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“大魔道師の弟子” 「スワローあかぎ1号」

2019-08-21 11:16:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月5日17:40.天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく上野、上野です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください」〕

 稲生達を乗せた山手線電車が上野駅のホームに滑り込む。
 こちらは東京駅と違い、ホームドアがある。

〔うえの〜、上野〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、鶯谷に止まります〕

 2人で手繋ぎしながら電車を降りる。
 低いホームへ向かう為、階段を下りる。
 JR上野駅は起伏のある場所に建っている為、初めて来ると、どこが1階になるのか分からないかもしれない。
 これから稲生達が向かう『低いホーム』が1階である。
 ということは、『高いホーム』の1つである山手線のホームは【お察しください】。

〔JR上野駅をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の高崎線特急“スワローあかぎ”1号、本庄行きは14番線から発車致します。……〕

 埼玉県の奥地まで行く特急だが、群馬県までは行かない。
 とりあえず、いおなずんさんに謝ろうか。

 稲生:「新幹線の到着ホームも14番線なら、特急のホームも14番線って面白いですね」
 マリア:「数字のマジックか。確か、それを研究している組もあったはず」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「一見してカジノに入り浸るギャンブラーだけどね」
 稲生:「日本にも来ますか?」
 マリア:「多分無いな。何故なら、日本にはカジノが無い」
 稲生:「あー……。パチンコとか競馬じゃダメ?」
 マリア:「OKだったら、とっくに日本に来てるよ」
 稲生:「それもそうか」

〔まもなく14番線に、当駅始発、特急“スワローあかぎ”1号、本庄行きが参ります。危ないですから、黄色いブロックまでお下がりください。この列車は、7両です。……〕

 14番線に到着すると、接近放送が鳴り響いているところだった。

 稲生:「7号車だから1番前ですね」
 マリア:「相変わらず先頭車が好きだねぇ」
 稲生:「空いている車両が好きなんですよ。だからさっきの新幹線は1番後ろです」
 マリア:「なるほど」
 稲生:「ジュースでも買って行きます?」
 マリア:「そうしよう。夕食は?」
 稲生:「さっき母さんからメールがあって、今日は父さんに付き添って病院に泊まるから、適当に食べててってことです」
 マリア:「ふーん……。え?」
 ハク人形:「リンゴジュースはよ!」
 稲生:「はいはい」
 ミク人形:「ネギジュースはよ!」
 稲生:「はいはい……って、無いから!」

 オエ……(長ネギ嫌いの作者、ネギジュースと聞くだけで吐き気が……)。

〔「14番線に到着の電車は、18時ちょうど発、高崎線の特急“スワローあかぎ”1号、本庄行きです。4号車のグリーン車も含めまして、全車両指定席です。まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。……」〕

 人形達にジュースを買ってやる稲生。
 人間形態ではメイドの仕事を粛々とこなすマリアの手作り人形も、人形形態ではコミカルな行動・言動をしてくれる。

 稲生:「マリアさんは何がいいですか?」
 マリア:「わ、私は……」
 稲生:「ん?」
 マリア:「紅茶を……」
 稲生:「分かりました」

 稲生も缶コーヒーを買って、それから7号車に乗り込んだ。

 稲生:「この席ですね」

 夕方ラッシュということもあってか、少しずつ席が埋まって来ている。
 窓の外では多くの帰宅客が、足早にホームを歩いていた。
 これはこの特急列車に乗らない、或いは乗れない乗客が、特急の前後に発車する当駅始発の普通列車に並ぶ為だ。
 少しでも空いている乗降口に早く並ぶ為、足早に歩いているのである。
 既に席を確保している稲生達は、そんな乗客達を横目に、発車を悠長に待つことができるのである。

〔「ご案内致します。この電車は高崎線回りの特急“スワローあかぎ”1号、本庄行きです。電車は1番前が7号車、1番後ろが1号車です。7両編成、全ての車両が座席指定となっております。指定席特急券または座席未指定券をお持ちのお客様以外のご利用はできませんので、ご注意ください。……」〕

 稲生:「どうしました、マリアさん?」

 稲生は窓側に座るマリアに話し掛けた。

 マリア:「あの……勇太のママは今夜いないんだって?」
 稲生:「らしいです」
 マリア:「師匠も今夜は来ない。勇太のダディも入院中。つまり、今日は勇太の家にいるのは……」
 稲生:「! そ、そうですね……」

[同日18:00.天候:晴 JR高崎線4001M電車7号車内]

 ホームの方から発車ベルの鳴り響く音が微かに聞こえて来る。
 かつては発車メロディが流れていたこともあったが、またベルに戻されている。

〔14番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 全車両指定席の列車では駆け込み乗車も無いのか、乗降ドアの再開閉も無く、定刻通りに発車することができた。
 低いホームから発車する時はゆっくりと加速する。
 まるで支線から発車するかのようだが、実は尾久駅手前のポイント通過が高いホームから発車する列車と違って無い。
 つまり、低いホームから発車する線路の方が本線だということになる。
 しかしながら歴史上、尾久駅を通る時点で支線なのである。
 本線は京浜東北線の王子回り。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。18時ちょうど発、高崎線特急“スワローあかぎ”1号、本庄行きです。これから先の停車駅と、到着時刻をご案内致します。次は、赤羽に止まります。赤羽、浦和、大宮、上尾、桶川、北本、鴻巣、熊谷、深谷、終点本庄の順に止まります。途中、大宮到着は18時27分。……」〕

 稲生:「早く家に帰りたいところだけど、途中で何か食べて行こう。何がいい?」
 マリア:「……肉系統」
 稲生:「分かった。肉ね」

 稲生はスマホを取り出して、大宮近辺の店を検索した。
 夕日を浴びて北に向かう特急列車。
 車内は既に90%の座席が埋まっている。
 そんな電車を照らす太陽だが、上空には陰りが見え始めていた。
コメント (1)
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