[9月1日12:00.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅周辺]
先週、魔界から戻って来た稲生は、イリーナの占いが的中していたことを知った。
藤谷春人の父の藤谷秋彦は正証寺の登山部長で、彼が作成した往復はがきが届いていた。
魔道師の屋敷にも郵便物が届くのだが、恐らく届けたのはエレーナであろう。
彼女は先週魔界で行われた暑気払いには参加していなかった。
恐らく、魔女の宅急便の仕事で忙しかったのだろう。
イリーナ組はしっかり日曜日は休む。
土曜日は自習の為(ていうか平日もじゃね?)、実質的な週休2日制だ。
その休みを利用して稲生は車を出してもらい、村の中心部へやってきたというわけだ。
駅のみどりの窓口やコンビニなどへ行く。
この時、ついでにマリアやイリーナからお使いを頼まれることもある為、『脱走』にはならない。
よほど弟子の脱走には気を使っているのか、特に見習については単独での外出を認めていないほどだ。
門内一緩いイリーナ組でさえ、門規にそう書かれている以上、勝手な判断はできなかった。
但し、使い走りは例外とされている為、それにかこつけた形だ。
稲生:「えー、新幹線のキップOK、高速バスのキップOK、それとマリアさんに頼まれた【ぴー】OK、先生に頼まれた【ぴー】と【ぴー】、更に【ぴー】OKっと……」
伏字にするのは、男性が買うには憚れるものだからだろうか。
因みにこの使い走り、別に稲生が単独というわけではない。
ダニエラ:「稲生様……。マリアンナ様の生理用品、購入してきました……」
稲生:「そこは伏字にしないんだ。どうも、ありがとう」
男性が買うには憚れるものは、メイド人形のダニエラに買いに行かせる。
彼女はマリアが作ったメイド人形の1つであるが、何故か稲生のことが気に入り、自ら率先して稲生専属メイドを買って出るほどだ。
他のメイド人形が武器にレイピア(西洋の細身の剣)やスピア(西洋の槍)を使うのに対し、ダニエラはメイド長のミカエラ、副メイド長のクラリスと同様、銃火器を使う。
稲生:「じゃあ、帰るとするか」
しかしせっかくの日曜日、稲生はマリアと一緒に出掛けないのだろうか?
せっかくの相思相愛なのに……。
稲生:「よっと」
稲生は待たせていた車に乗り込んだ。
車種はトヨタ・ジャパンタクシーに酷似している。
なので傍から見れば、予約しているタクシーに乗り込むくらいにしか見えないだろう。
稲生:「それじゃ、屋敷に戻ってください」
運転手:「かしこまりました」
白い制帽を目深に被った運転手が大きく頷いた。
ダニエラ:「……Yes,captain.稲生様がこれからお戻りになります。……Yes.それでは御昼食は、稲生様がお戻りになってから……」
ダニエラは車載電話を取ると、それで屋敷に電話していたようだ。
電話の相手はメイド長のミカエラか。
ダニエラはメイド長を『Captain』と呼び、マリアを『Master』と呼び、イリーナを『Boss』と呼ぶ。
得てして妙な表現である。
稲生:「マリアさんの具合はどうですか?」
ダニエラ:「Captain.稲生様がmasterの具合を心配されております。……Yes.それではそのようにお伝えしておきます。失礼します」
ダニエラは電話を切った。
稲生:「マリアさんの具合は?」
ダニエラ:「生理痛が酷く、御昼食は稲生様お1人でお願いしますとのことです」
稲生:「分かりました。……エレーナが言ってたんだけど、あんまり生理痛が酷い場合は1度診てもらった方がいいらしいな」
ダニエラ:「私は人形ですので、よく分かりませんが……」
稲生:「ああ、そうか。僕も男だしなぁ……」
ダニエラ:「予算が余りましたので、一応ドラッグストアで生理痛の薬を購入しておきました」
稲生:「おっ、気が利くな。エレーナから買うと高いしなぁ……」
[同日12:30.天候:晴 白馬村郊外山中 マリアの屋敷]
稲生:「ただいまですー」
屋敷の正面玄関のドアを開けると、2階吹き抜けのエントランスホールが眼前に現れる。
大きなシャンデリアが吊り下げられており、適度に日が差し込む辺りはホラー要素は見受けられない。
ミカエラ:「お帰りなさいませ、稲生様」
稲生:「これがマリアさんので、これがイリーナ先生用」
ミカエラ:「かしこまりました」
ミカエラが目くばせすると、配下のメイド人形がそれぞれ受け取って、それぞれの部屋に向かった。
ミカエラ:「御昼食の用意が整ってございます」
稲生:「ありがとう。マリアさんの具合は悪いんだって?」
ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」
稲生:「あんまり酷い場合、病院で診てもらった方がいいかもよ?」
ミカエラ:「それには及ばないのが魔道士というものでして……」
稲生:「そうなの。先生は?」
ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」
『ウソつけぇ!』という言葉が喉元まで出かかった稲生だったが、それを無理やり呑み込んだ。
稲生:「そ、そうなんだ。先生には市販の薬は効きそうにないな……」
ミカエラ:「Bossの場合は、しばらくお休みになられれば治ると思います」
稲生:「だろうね。何せ、不死身の大魔道師だから」
稲生は自分の買った物を自分の部屋に置きに行くと、すぐに食堂に向かった。
ダニエラ:「本日はミートソースパスタ、グリーンサラダに、オニオンコンソメスープでございます」
稲生:「了解。頂きます」
稲生が食べ始めると、ダニエラが食堂内にあるジュークボックスを操作し、そこからBGMが流れ始める。
曲調はケルト音楽のようだ。
冒険活劇が主たるファンタジーゲームのBGMで流れて来そうなものだ。
恐らくこれはイリーナの趣味。
イリーナの部屋にもジュークボックスがあり、それでよくケルト音楽が掛かっている。
ロシア民謡もあると思うのだが、意外とイリーナはそれをあまり聴かない。
稲生:(食べ終わったら、藤谷班長と鈴木君に準備完了の連絡くらいしておくか)
稲生はパスタを口に運ぶとそう思った。
味の確認などできない人形達であるが、それでも随分美味に作れるのは、レシピ通りに寸分違わず作れるからなのだそうだ。
先週、魔界から戻って来た稲生は、イリーナの占いが的中していたことを知った。
藤谷春人の父の藤谷秋彦は正証寺の登山部長で、彼が作成した往復はがきが届いていた。
魔道師の屋敷にも郵便物が届くのだが、恐らく届けたのはエレーナであろう。
彼女は先週魔界で行われた暑気払いには参加していなかった。
恐らく、魔女の宅急便の仕事で忙しかったのだろう。
イリーナ組はしっかり日曜日は休む。
土曜日は自習の為(ていうか平日もじゃね?)、実質的な週休2日制だ。
その休みを利用して稲生は車を出してもらい、村の中心部へやってきたというわけだ。
駅のみどりの窓口やコンビニなどへ行く。
この時、ついでにマリアやイリーナからお使いを頼まれることもある為、『脱走』にはならない。
よほど弟子の脱走には気を使っているのか、特に見習については単独での外出を認めていないほどだ。
門内一緩いイリーナ組でさえ、門規にそう書かれている以上、勝手な判断はできなかった。
但し、使い走りは例外とされている為、それにかこつけた形だ。
稲生:「えー、新幹線のキップOK、高速バスのキップOK、それとマリアさんに頼まれた【ぴー】OK、先生に頼まれた【ぴー】と【ぴー】、更に【ぴー】OKっと……」
伏字にするのは、男性が買うには憚れるものだからだろうか。
因みにこの使い走り、別に稲生が単独というわけではない。
ダニエラ:「稲生様……。マリアンナ様の生理用品、購入してきました……」
稲生:「そこは伏字にしないんだ。どうも、ありがとう」
男性が買うには憚れるものは、メイド人形のダニエラに買いに行かせる。
彼女はマリアが作ったメイド人形の1つであるが、何故か稲生のことが気に入り、自ら率先して稲生専属メイドを買って出るほどだ。
他のメイド人形が武器にレイピア(西洋の細身の剣)やスピア(西洋の槍)を使うのに対し、ダニエラはメイド長のミカエラ、副メイド長のクラリスと同様、銃火器を使う。
稲生:「じゃあ、帰るとするか」
しかしせっかくの日曜日、稲生はマリアと一緒に出掛けないのだろうか?
せっかくの相思相愛なのに……。
稲生:「よっと」
稲生は待たせていた車に乗り込んだ。
車種はトヨタ・ジャパンタクシーに酷似している。
なので傍から見れば、予約しているタクシーに乗り込むくらいにしか見えないだろう。
稲生:「それじゃ、屋敷に戻ってください」
運転手:「かしこまりました」
白い制帽を目深に被った運転手が大きく頷いた。
ダニエラ:「……Yes,captain.稲生様がこれからお戻りになります。……Yes.それでは御昼食は、稲生様がお戻りになってから……」
ダニエラは車載電話を取ると、それで屋敷に電話していたようだ。
電話の相手はメイド長のミカエラか。
ダニエラはメイド長を『Captain』と呼び、マリアを『Master』と呼び、イリーナを『Boss』と呼ぶ。
得てして妙な表現である。
稲生:「マリアさんの具合はどうですか?」
ダニエラ:「Captain.稲生様がmasterの具合を心配されております。……Yes.それではそのようにお伝えしておきます。失礼します」
ダニエラは電話を切った。
稲生:「マリアさんの具合は?」
ダニエラ:「生理痛が酷く、御昼食は稲生様お1人でお願いしますとのことです」
稲生:「分かりました。……エレーナが言ってたんだけど、あんまり生理痛が酷い場合は1度診てもらった方がいいらしいな」
ダニエラ:「私は人形ですので、よく分かりませんが……」
稲生:「ああ、そうか。僕も男だしなぁ……」
ダニエラ:「予算が余りましたので、一応ドラッグストアで生理痛の薬を購入しておきました」
稲生:「おっ、気が利くな。エレーナから買うと高いしなぁ……」
[同日12:30.天候:晴 白馬村郊外山中 マリアの屋敷]
稲生:「ただいまですー」
屋敷の正面玄関のドアを開けると、2階吹き抜けのエントランスホールが眼前に現れる。
大きなシャンデリアが吊り下げられており、適度に日が差し込む辺りはホラー要素は見受けられない。
ミカエラ:「お帰りなさいませ、稲生様」
稲生:「これがマリアさんので、これがイリーナ先生用」
ミカエラ:「かしこまりました」
ミカエラが目くばせすると、配下のメイド人形がそれぞれ受け取って、それぞれの部屋に向かった。
ミカエラ:「御昼食の用意が整ってございます」
稲生:「ありがとう。マリアさんの具合は悪いんだって?」
ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」
稲生:「あんまり酷い場合、病院で診てもらった方がいいかもよ?」
ミカエラ:「それには及ばないのが魔道士というものでして……」
稲生:「そうなの。先生は?」
ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」
『ウソつけぇ!』という言葉が喉元まで出かかった稲生だったが、それを無理やり呑み込んだ。
稲生:「そ、そうなんだ。先生には市販の薬は効きそうにないな……」
ミカエラ:「Bossの場合は、しばらくお休みになられれば治ると思います」
稲生:「だろうね。何せ、不死身の大魔道師だから」
稲生は自分の買った物を自分の部屋に置きに行くと、すぐに食堂に向かった。
ダニエラ:「本日はミートソースパスタ、グリーンサラダに、オニオンコンソメスープでございます」
稲生:「了解。頂きます」
稲生が食べ始めると、ダニエラが食堂内にあるジュークボックスを操作し、そこからBGMが流れ始める。
曲調はケルト音楽のようだ。
冒険活劇が主たるファンタジーゲームのBGMで流れて来そうなものだ。
恐らくこれはイリーナの趣味。
イリーナの部屋にもジュークボックスがあり、それでよくケルト音楽が掛かっている。
ロシア民謡もあると思うのだが、意外とイリーナはそれをあまり聴かない。
稲生:(食べ終わったら、藤谷班長と鈴木君に準備完了の連絡くらいしておくか)
稲生はパスタを口に運ぶとそう思った。
味の確認などできない人形達であるが、それでも随分美味に作れるのは、レシピ通りに寸分違わず作れるからなのだそうだ。