報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「登山の準備」

2019-09-28 10:14:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月1日12:00.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅周辺]

 先週、魔界から戻って来た稲生は、イリーナの占いが的中していたことを知った。
 藤谷春人の父の藤谷秋彦は正証寺の登山部長で、彼が作成した往復はがきが届いていた。
 魔道師の屋敷にも郵便物が届くのだが、恐らく届けたのはエレーナであろう。
 彼女は先週魔界で行われた暑気払いには参加していなかった。
 恐らく、魔女の宅急便の仕事で忙しかったのだろう。
 イリーナ組はしっかり日曜日は休む。
 土曜日は自習の為(ていうか平日もじゃね?)、実質的な週休2日制だ。
 その休みを利用して稲生は車を出してもらい、村の中心部へやってきたというわけだ。
 駅のみどりの窓口やコンビニなどへ行く。
 この時、ついでにマリアやイリーナからお使いを頼まれることもある為、『脱走』にはならない。
 よほど弟子の脱走には気を使っているのか、特に見習については単独での外出を認めていないほどだ。
 門内一緩いイリーナ組でさえ、門規にそう書かれている以上、勝手な判断はできなかった。
 但し、使い走りは例外とされている為、それにかこつけた形だ。

 稲生:「えー、新幹線のキップOK、高速バスのキップOK、それとマリアさんに頼まれた【ぴー】OK、先生に頼まれた【ぴー】と【ぴー】、更に【ぴー】OKっと……」

 伏字にするのは、男性が買うには憚れるものだからだろうか。
 因みにこの使い走り、別に稲生が単独というわけではない。

 ダニエラ:「稲生様……。マリアンナ様の生理用品、購入してきました……」
 稲生:「そこは伏字にしないんだ。どうも、ありがとう」

 男性が買うには憚れるものは、メイド人形のダニエラに買いに行かせる。
 彼女はマリアが作ったメイド人形の1つであるが、何故か稲生のことが気に入り、自ら率先して稲生専属メイドを買って出るほどだ。
 他のメイド人形が武器にレイピア(西洋の細身の剣)やスピア(西洋の槍)を使うのに対し、ダニエラはメイド長のミカエラ、副メイド長のクラリスと同様、銃火器を使う。

 稲生:「じゃあ、帰るとするか」

 しかしせっかくの日曜日、稲生はマリアと一緒に出掛けないのだろうか?
 せっかくの相思相愛なのに……。

 稲生:「よっと」

 稲生は待たせていた車に乗り込んだ。
 車種はトヨタ・ジャパンタクシーに酷似している。
 なので傍から見れば、予約しているタクシーに乗り込むくらいにしか見えないだろう。

 稲生:「それじゃ、屋敷に戻ってください」
 運転手:「かしこまりました」

 白い制帽を目深に被った運転手が大きく頷いた。

 ダニエラ:「……Yes,captain.稲生様がこれからお戻りになります。……Yes.それでは御昼食は、稲生様がお戻りになってから……」

 ダニエラは車載電話を取ると、それで屋敷に電話していたようだ。
 電話の相手はメイド長のミカエラか。
 ダニエラはメイド長を『Captain』と呼び、マリアを『Master』と呼び、イリーナを『Boss』と呼ぶ。
 得てして妙な表現である。

 稲生:「マリアさんの具合はどうですか?」
 ダニエラ:「Captain.稲生様がmasterの具合を心配されております。……Yes.それではそのようにお伝えしておきます。失礼します」

 ダニエラは電話を切った。

 稲生:「マリアさんの具合は?」
 ダニエラ:「生理痛が酷く、御昼食は稲生様お1人でお願いしますとのことです」
 稲生:「分かりました。……エレーナが言ってたんだけど、あんまり生理痛が酷い場合は1度診てもらった方がいいらしいな」
 ダニエラ:「私は人形ですので、よく分かりませんが……」
 稲生:「ああ、そうか。僕も男だしなぁ……」
 ダニエラ:「予算が余りましたので、一応ドラッグストアで生理痛の薬を購入しておきました」
 稲生:「おっ、気が利くな。エレーナから買うと高いしなぁ……」

[同日12:30.天候:晴 白馬村郊外山中 マリアの屋敷]

 稲生:「ただいまですー」

 屋敷の正面玄関のドアを開けると、2階吹き抜けのエントランスホールが眼前に現れる。
 大きなシャンデリアが吊り下げられており、適度に日が差し込む辺りはホラー要素は見受けられない。

 ミカエラ:「お帰りなさいませ、稲生様」
 稲生:「これがマリアさんので、これがイリーナ先生用」
 ミカエラ:「かしこまりました」

 ミカエラが目くばせすると、配下のメイド人形がそれぞれ受け取って、それぞれの部屋に向かった。

 ミカエラ:「御昼食の用意が整ってございます」
 稲生:「ありがとう。マリアさんの具合は悪いんだって?」
 ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」
 稲生:「あんまり酷い場合、病院で診てもらった方がいいかもよ?」
 ミカエラ:「それには及ばないのが魔道士というものでして……」
 稲生:「そうなの。先生は?」
 ミカエラ:「頭痛や生理痛が酷いとのことです」

 『ウソつけぇ!』という言葉が喉元まで出かかった稲生だったが、それを無理やり呑み込んだ。

 稲生:「そ、そうなんだ。先生には市販の薬は効きそうにないな……」
 ミカエラ:「Bossの場合は、しばらくお休みになられれば治ると思います」
 稲生:「だろうね。何せ、不死身の大魔道師だから」

 稲生は自分の買った物を自分の部屋に置きに行くと、すぐに食堂に向かった。

 ダニエラ:「本日はミートソースパスタ、グリーンサラダに、オニオンコンソメスープでございます」
 稲生:「了解。頂きます」

 稲生が食べ始めると、ダニエラが食堂内にあるジュークボックスを操作し、そこからBGMが流れ始める。
 曲調はケルト音楽のようだ。
 冒険活劇が主たるファンタジーゲームのBGMで流れて来そうなものだ。
 恐らくこれはイリーナの趣味。
 イリーナの部屋にもジュークボックスがあり、それでよくケルト音楽が掛かっている。
 ロシア民謡もあると思うのだが、意外とイリーナはそれをあまり聴かない。

 稲生:(食べ終わったら、藤谷班長と鈴木君に準備完了の連絡くらいしておくか)

 稲生はパスタを口に運ぶとそう思った。
 味の確認などできない人形達であるが、それでも随分美味に作れるのは、レシピ通りに寸分違わず作れるからなのだそうだ。
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“大魔道師の弟子” 「魔界への誘い」

2019-09-27 21:13:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間8月25日20:00.天候:晴 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ 魔王城新館]

 リリアンヌ:「ヒャーッハハハハハハハーッ!キノコの宴だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ダンテ一門の暑気払いは、たまに魔界の魔王城で行われることもある。
 もちろんこれは、魔界共和党党首で首相の安倍春明の企画に乗っかったものである。
 場内のコンベンションホールでは、設置されたステージでリリアンヌが趣味のヘビーメタルを披露している。
 ヘビメタというか、デスメタルである。
 当然ながら、いつもは地味なすっぴんにTシャツやジーンズなどのラフな格好でいるのに対し、今は完全にデスメタルのメイクをし、衣装も刺々しいものを着ている。
 そして、手にはエレキギター。
 リリアンヌは中等教育を受けていなかった為、それを受ける為に魔界に住んでいる。
 アルカディアシティにも学校はあり、ダンテ一門の見習弟子で中等教育を受けていない者は通学が義務付けられていた。
 で、そこは全寮制であり、希望すれば高等教育も受けられる。
 日本で言うところの義務教育を終えていない見習が、通学を義務付けられるのである。
 リリアンヌもその1人であった。
 尚、イリーナ組の弟子2人はこの限りではない。
 マリアはハイスクールをギリギリ何とか卒業できるレベルで入門したし、稲生なんかは完全に大学卒業と同時に入門したので、改めて教育を受ける必要は無かった。

 リリアンヌ:「メルシー・ボークー!」

 リリアンヌはフランス人。
 最後には自動通訳魔法を使わず、母国語のフランス語でライブを締めた。
 尚、今のを英語に直すと、“Thank you so much!”となる。
 これを更に日本語に訳すまでは、しなくても良いだろう。

 横田:「はい、拍手〜。沢山の拍手をお願い致します。拍手をすればするほど、リリアンヌさんがハッスルし、衣装を脱いでくれます。クフフフフフ……」
 リリアンヌ:「ヒャッハーッ!」

 ボコッ!(リリアンヌにエレキギターでボコられる横田理事)

 横田:「嗚呼ッ!御無体な!」

 稲生:「相変わらずだなぁ……」

 稲生は稲生でリリアンヌに精一杯の拍手を送った。

 稲生:「最近、ケンショーレンジャーとして活動していないみたいだけど……」
 横田:「クフフフフフ……。ここ最近は魔界共和党理事の仕事が忙しく、それどころではなくなったのです。功徳です」
 稲生:「うわっ、いつの間に背後に!?……顕正会の仕事は?」
 横田:「それ以上は【自主規制致します】」
 安倍:「横田君は司会に専念して」
 横田:「総理!これは大変失礼をば……」

 横田理事、そそくさと司会席に戻る。

 横田:「それでは次なる余興は、『魔界のサンドイッチマン』こと、『本当にサンドイッチになった男』2人の漫才コントです」

 稲生:「安倍総理、もしかして……?」
 安倍:「ええ。人間界に帰る前に、またうちの女王陛下の為に一肌脱いで頂きたいのです」
 稲生:「分かりましたよ」

 魔界王国アルカディアを総べる魔王は、今は女性。
 つまり、女魔王だ。
 略式の冠であるティアラは、黒いコウモリをモチーフにしたおどろおどろしいものだ。
 肌の色も青白く、瞳の色も赤い所は魔族であるとすぐに分かる。
 だが、その微笑みに邪悪さは感じられない。
 この女王ルーシー・ブラッドプール1世の出自は吸血鬼。
 つまり、主食は人間の血液なのである。
 吸血鬼は男女共に人間の女性の血液を好む傾向にあるが、ルーシーは男女関係無く、血液型O型に拘った。
 で、この場にいる血液型O型の人間というのが稲生だけなのである。
 稲生は既に魔道士であるが、まだ見習ということもあり、まだまだ人間臭さを残している。
 その為、ルーシーの目に留まったようである。

 安倍:「それでは400ml献血をお願いしたいのであります」
 稲生:「人間界の安倍総理みたいな喋り方、やめてくださいよ」
 安倍:「晋三おじさんは、私の遠い親戚なのであります」
 稲生:「分かってますよ」
 安倍:「もちろん、美味しい料理を沢山食べて頂いてからで結構です」
 稲生:「その方が血液にも味が出るでしょうからね」

 尚、王場内には献血ルームがあり、有志の国民による女王への血液献上が行われているもよう。
 協力すると、恩賜があるらしい。

[魔界時間8月26日00:00.魔王城内→魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅]

 魔王城内に日付の変わる鐘の音が鳴り響く。

 稲生:「クロックタワーみたい」
 マリア:「いや、それまんま『時計台』って意味なんだけどね」
 イリーナ:「それじゃ、私達は帰ろうかね。今回は一次会で引き上げだよ」
 稲生:「はい」
 マリア:「了解です」
 アナスタシア:「イリーナ組は一次会で引き上げるのね?」
 イリーナ:「ええ。ダンテ先生が来られていないから、少し盛り上がりに欠けるもの……」
 アナスタシア:「ま、それは確かに。いずれまた人間界でパーティーでもやりましょう。人間界の方がダンテ先生も参加して下さるわよ」
 イリーナ:「だといいけどねぇ……」
 稲生:「先生、馬車を用意してくれたみたいですよ」
 マリア:「駅まで馬車で行けます」
 イリーナ:「あいよ。それじゃ、私達はお先にね」
 アナスタシア:「ああ」

 稲生達は一足先に魔王城をあとにした。

 稲生:「僕達が真っ先に帰るみたいですね」
 イリーナ:「他の組は魔王城に泊まるみたいだけど、あなた達はそうしたい?」
 稲生:「僕はどちらでも……」
 イリーナ:「日本人らしい答えね」
 マリア:「ぶっちゃけ、魔王城ってホラー過ぎて落ち着かないんですよね」
 イリーナ:「うちの屋敷も相当ホラーチックだけど、その上を行くからね」

 マリアの屋敷は“バイオハザード”に出て来る洋館みたいなもの。
 ゾンビさえいなければ、それなりに快適に過ごせた屋敷であったはずだ。
 それに対して魔王城は“アダムスファミリー”の洋館を更に巨大化したようなものだと表現すれば分かりやすいかな?
 そこの家族だけしか快適に過ごせない。

 イリーナ:「1番街駅から冥界鉄道公社の特別列車に乗れるから、それで人間界に帰るわよ」
 稲生:「今度の電車はどんなヤツだろう……?」
 マリア:「勇太、あんまり期待しない方がいいよ?」
 稲生:「そうですかね」
 イリーナ:「帰ったら、郵便物の山の仕分け作業があるから、勇太君よろしくね」
 稲生:「あ、はい」
 イリーナ:「因みに私の占いでは、勇太君宛ての手紙もあるよ?」
 稲生:「そうなんですか。誰からでしょう?」
 イリーナ:「藤谷春人君からだって」
 稲生:「あ、もしかして、支部総登山のお知らせかな。でも、修行で忙しいから行けないや……」
 イリーナ:「別に行ってもいいよ」
 稲生:「えっ、本当ですか?」
 イリーナ:「お土産はお饅頭でよろしく」
 稲生:「わ、分かりました」
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“私立探偵 愛原学” 「東京に到着」

2019-09-26 18:54:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日20:28.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 2泊3日の温泉旅行も、まもなく終了しようとしている。
 私達を乗せた新幹線は、高層ビルの間を縫うようにして走行していた。

 愛原:「そろそろ降りる準備するか」
 高橋:「はい」
 愛原:「斉藤さんは大宮で降りなかったんだな」
 斉藤:「はい。今日はこのままマンションに帰って、それから明日学校へ行く方が楽なので」
 愛原:「でも、お父さんへのお土産はどうするの?」
 斉藤:「明日、新庄に持って行ってもらいます」

 新庄とは斉藤家お抱えの専属運転手のこと。
 初老の男性で、埼玉の本家では執事も兼ねているようだ。
 今、家事使用人というのは兼業であることが多いようだ。
 “ちびまる子ちゃん”の花輪家だって、執事のヒデじぃが運転手を兼ねているが、正に新庄氏はそのポジションだということだ。
 大昔は執事と運転手は別だったのだろうが。
 その執事や運転手も派遣会社からの派遣が多くなり、斉藤家みたいに直接雇用というのは珍しい形態となっている。

〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。到着ホームは23番線、お出口は右側です。お降りの際、お忘れ物の無いよう、もう1度よくお確かめください。……」〕

 高橋:「先生、駅から先は?」
 愛原:「最終の都営バスに間に合うようにしている。それで帰れる」
 高橋:「さすがです」

 列車が東京駅のホームに滑り込んだ。
 新幹線ホームでも端の方で、すぐ隣は東海道本線のホームである。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京、終点、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は折り返し、20時44分発、“やまびこ”159号、仙台行きと“つばさ”159号、山形行きとなります。……」〕

 私達はホームに降りた。

 愛原:「さすがに東京は暑いな」
 高橋:「この時点で、まだ28度です」
 愛原:「熱帯夜だな。さっさと帰って、ビールで一杯やりたいよ」
 高橋:「ちゃんと冷蔵庫に冷やしてあります」
 愛原:「さすがだな。まあ、おつまみは枝豆と漬物でいいや」
 高橋:「後で御用意しますね」

 夏休み最後の日曜日ということもあってか、駅構内は多くの旅行客で賑わっていた。

 愛原:「丸の内北口まで出るのが大変だ」
 リサ:「これだけ人が多いと、一思いに薙ぎ払いたくなる」
 斉藤:「支配者チック〜
 愛原:「せんでいい」

 どうにか駅構内を出るが、丸の内口もまた賑わっている。
 日曜日なのでその先のオフィス街は閑散としているのだろうが、レンガ造りの駅舎で有名なこっち側もまた観光名所の1つになっている為だ。

 高野:「先生。何を以ってこのミッションを終了とするべきですかね?やはり、斉藤さんをお家まで送ってからですか?」
 愛原:「まあ、そうだろな。『家に帰るまでが旅行』って言うからな」
 斉藤:「あ、それなら大丈夫です。バス停にうちのメイドが迎えに来ることになっているので、それで終了でよろしいかと」
 愛原:「そうなんだ。メイドさん1人で大丈夫?」

 ……という質問は愚問であると、私は思った。
 何しろ鳴子温泉の時、斉藤さんは襲い掛かって来た餓鬼を空手技でピヨらせたのだから。
 SP要らずの御嬢様とは、斉藤さんのことだ。
 それでも時と場合によっては、警備会社に頼んで身辺警護を用意することもあるらしい。

[同日20:55.天候:晴 千代田区丸の内 東京都営バス東20系統車内]

 20時台で最終バスとなる路線だから、あまり大した混雑はしないということだ。
 反対側の八重洲口から豊洲方面に向かう路線が、深夜バスまで運行しているのとは対照的である。
 最終バスの表記は行き先表示を赤枠で囲ったり、行き先を表示した後、『最終バス』と表示するのを交互に行ったりと、バスの車種によって違うらしい。
 私達が乗ったバスは行き先表示を赤枠で囲むタイプであった。
 これは赤電車と呼ばれる、路面電車(都電)の終電が行き先表示を赤く照らしていた頃の名残りだ。
 恐らく、今でも都電荒川線ではそのようにしているのではないだろうか。
 それとも、あの電車も行き先表示がLED化されているから、都営バスと同じように行き先表示を赤枠で囲むタイプかもしれない。

 愛原:「中は涼しい」
 高橋:「先生、どうぞ」

 後ろの2人席に座ると、高橋は頭上のクーラー吹き出し口を私に向けた。

 愛原:「別に無理して直撃させなくていいからな?」
 高橋:「失礼しました!」
 愛原:「俺としては、帰宅後のビールが楽しみなんだ」
 高橋:「俺もです」
 愛原:「ん?俺の晩酌に付き合うか?」
 高橋:「お供致します!地獄の果てまでも!」
 愛原:「いや、だから何で地獄に行く前提なんだよ」

 発車の時間になる。
 この時点でバスの座席が程々に埋まっている状態だ。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

 仙台で乗った中型バスと違い、こちらは堂々たる大型バスである。
 しかも、オートマ。
 マニュアルならシフトレバーのある辺りに、シフトボタンが設置されている。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは日本橋、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。東京駅日本橋口をご利用の方は、こちらが御便利です。次は、呉服橋でございます〕

 因みにボスが所望した“萩の月”40個入りは、駅の土産物店では見当たらなかった。
 売り切れだったのか、それとも、たまたま私が行った店では取り扱ってなかったのか、それは分からない。
 しょうがないので20個入りを2つ買い、それをそのまま宅急便で送った。
 一応、宅急便で送った旨、ボスにメールしておいた。
 問い合わせ番号も添えて。
 だからなのか、翌日にはちゃんと仕事が紹介されたのである。
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“私立探偵 愛原学” 「最終日は平和だった」

2019-09-26 14:47:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日17:51.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 仙台駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく夏休み最後の旅行も終盤に差し掛かった。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく仙台、仙台です。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです」〕

 電車がホームに滑り込む。

〔仙台、仙台。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 愛原:「降りるぞー」

 私は座席に座ってウトウトしているリサの肩を揺さぶった。

 リサ:「ふぁい……」

 体力自慢、怪力自慢のBOWも生物である以上は眠くなる。
 リサは隣に座っている斉藤さんに声を掛けた。

〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 仙台市地下鉄では最も乗降客の多い仙台駅に到着する。
 ここで、帰りの新幹線に乗り換えるわけだが……。

 愛原:「ちょっとついでに駅弁屋でも覗いてみよう」
 高野:「ああ、そうか。時間帯的に夕食は駅弁になりますね」

 因みに土産物については、ホテルのチェックアウト前に、本来ならホテルの売店や温泉街の土産物店で見繕う予定だった。
 しかし2夜連続のBOWの襲撃により、それは叶わなかった。
 そこで、最終日に買うことになったわけだ。
 一応、コロナワールドに行く前に購入している。

 愛原:「お土産忘れるなよー」
 リサ:「はーい」

 地下鉄の改札口を出て、JRの駅に向かう。
 そこにあるコインロッカーに、大きな荷物は預けていた。

 高橋:「あ?なにJCが酒買ってんだ、ああ?」

 高橋、斉藤さんが買った地元の銘酒を目ざとく見つける。

 斉藤:「これはお父さんへの御土産です」
 愛原:「斉藤社長、酒飲みなのか。是非今度、御一緒したいものだな」
 斉藤:「お父さんに言っておきますね」

 形式上は、私が斉藤社長を接待する形……としか思えないが。
 何だかんだ言って、斉藤さんが1番お土産を大量購入している。

 高野:「先生はボスに買ってあげなくていいんですか?」
 愛原:「そのボスがどこのどなたか分からない以上、買っても送れないだろう」

 と、そこへ電話が鳴った。

 愛原:「はい、もしもし」
 ボス:「私だ」
 愛原:「ボス!……仕事の依頼ですか?」
 ボス:「いや、それは明日からだ。キミ達は今、仙台にいるのだろう?」
 愛原:「そうですけど?」
 ボス:「私は“萩の月”が大好きだ」
 愛原:「……もしかして今の会話、盗聴してました?」
 ボス:「尚、件の物(ブツ)は探偵協会に送ってもらえればよろしい」
 愛原:「ボス、松島で聞いたBSAAのHQの声に似てますが……」
 ボス:「気のせいだ」
 愛原:「いや、しかし……」
 ボス:「知らん」
 愛原:「とても他人とは思えな……」
 ボス:「それでは“萩の月”40個入りを送ってくれたまえ」
 愛原:「デカいな!それ1番デカいサイズの箱ですよね!?」
 ボス:「それではよろしく頼む。明日は実入りの良い仕事を紹介しよう」

 ボスからの電話が切れた。
 今までの仕事は実入りが悪いとボスも知ってて紹介していたか……。

 愛原:「全く。おい、どこかに盗聴器仕掛けられてんぞ?変な物見つけたら、すぐ俺に言ってくれよ?」
 高野:「さすがボスですね」
 高橋:「先生、後でボスの正体暴きに行きましょうよ?」
 愛原:「いや、俺もそうしたいんだけどねぇ……」

[同日18:25.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム→東北新幹線8192B列車10号車内]

〔11番線の電車は、18時25分発、“やまびこ”192号、東京行きです。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。この電車は白石蔵王、福島、大宮、上野、終点東京の順に止まります。……〕

 駅弁を購入した私達は新幹線ホームに上がると、副線に停車している列車に乗り込んだ。
 途中で山形新幹線を連結するからなのか、車両はE5系“はやぶさ”の車両ではなく、E2系のかつて“はやて”として運転されていた車両だった。
 それの1番後ろの車両に乗り込む。
 E5系だとグランクラスになる車両だが、E2系では普通車だ。
 普通に3人席と2人席が並んでいる。
 往路と同じ座席割にした。
 私と高橋と高野君で3人席、リサと斉藤さんで2人席というわけだ。

〔「ご案内致します。この電車は18時25分発、“やまびこ”192号、東京行きでございます。停車駅は白石蔵王、福島、大宮、上野、終点東京です。臨時列車の為、停車駅が変則的になっております。停車駅にご注意ください。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 座席に座った私は早速、駅構内で買った駅弁を開けることにした。

 愛原:「疲れても腹は減るな」
 高橋:「全くですね」
 斉藤:「……でね、この紐を引っ張ると、お弁当が温かくなるの」
 リサ:「おー!……爆発したりしない?」
 斉藤:「しないしない!」

〔11番線から、“やまびこ”192号、東京行きが発車致します。次は、白石蔵王に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 列車の外からオーケストラの演奏が聞こえて来る。
 発車メロディは“青葉城恋唄”をブラスバンドで生演奏したものを録音し、それを発車メロディとしているそうだ。

 愛原:「皆して牛タン弁当かい」
 高野:「牛タン食べそこないましたからねぇ」
 高橋:「海鮮は松島で食べたからいいですが、名物を食えないままというのは、どうかなと……」
 愛原:「確かにな」

 外から客終合図の甲高いブサー音が聞こえたと思うと、乗降ドアの閉まる音が聞こえて来た。
 そして、車内にモーターの音が響いて来て列車が走り出した。
 下り副線ホームに停車していることもあってか、一瞬下り線を逆走する形になる。
 ホームを出発すると、車内に夕日が差し込んで来た。

 リサ:「きれいな夕焼け」
 斉藤:「じゃあ、明日も晴れるね」
 リサ:「そうなの?」
 斉藤:「夕焼けがきれいな夕方は、明日晴れるフラグだって聞いたことあるの」
 リサ:「研究所にいた頃は、こんな夕焼け見る機会無かったなぁ……」
 斉藤:「け、研究所!?」
 リサ:「薄暗い地下室で鎖に繋がれて過ごす毎日」
 斉藤:「ええーっ!?」
 リサ:「……というアメリカのリサ・トレヴァーの話」
 斉藤:「あ、なんだ。ゲームの話だね」
 リサ:(でも半分以上は私の話)

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、白石蔵王に止まります。……〕

 高橋:「先生、これで仕事は終了ですか?」
 愛原:「まだまだ。東京に着くまでが旅行だからな。……あれだぞ?東京駅じゃなくて、無事に斉藤さんを家の人に渡してからだぞ?」
 高橋:「はい、メモっておきます!」
 愛原:「食いながらメモるな!」

 ポイントを渡って上り線に出た列車は速度を上げたが、仙台市内ではカーブが多いこともあってか、そこまで高速度は出さない。
 とはいえ、隣を走る在来線電車を軽やかに追い抜くくらいのスピードではある。
 そこは大宮を出て埼京線の横を走る所に似てはいるかな。
 仙台市内を出ると、グングン速度を上げていく。
 恐らく時速275キロまで出すのだろう。
 因みにこの時、車窓にパチンコ屋の煌びやかな看板が目に入る。
 高橋がウハウハで合流したのが何だか羨ましく、私も一発打ちたい衝動に駆られたが、そんな人間がパチ屋にとってカモであることは十分知っている。
 なので、その衝動は抑えたのだが……。
 ま、また仕事がヒマになったら打ちに行くか。
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“私立探偵 愛原学” 「3日目に無事に終わる?」

2019-09-24 21:43:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日17:13.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区 ミヤコーバス鶴巻停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 3日目は仙台市東部にあるアミューズメント施設で過ごした。
 高橋のお勧めで、目的の温泉施設もあれば、パチンコ屋もゲームセンターもある。
 2夜連続のBOW退治で疲れた私は、高橋と合流すると、早々に休憩コーナーに入って仮眠モードに入ってしまった。
 その間、JC達は元気なもので、ゲーセンに行ってたらしい。
 一応、付き添いは高野君で。
 高橋は高橋で私に付き添い、温泉にサッとだけ入ると、後は休憩コーナーにある漫画を読み漁っていたという。
 で、夕方になってそろそろ帰る時間だ。

 高橋:「先生、バス来ましたよ」
 愛原:「おう」

 大型トラックも行き交う片側三車線の産業道路の左車線を、紅白色の路線バスがやってくる。

〔「荒井駅前行きです」〕

 往路と同じ中型バスだったが、今度は乗客が7〜8人ほど乗っており、先客がいたので1番後ろの座席ではなく、2人席と1人席に別れて座った。

〔発車します。ご注意ください〕

 バスが走り出す。
 時速60キロ以上で走行する他車の間を出発するのだから大変だ。
 因みにバス停車帯は存在しない。
 まあ、それは都内では珍しいことではないが(川越街道とか、新大橋通りとか、青梅街道とか)。

〔ピンポーン♪ 次は岡田西町、岡田西町でございます〕

 高橋:「先生があまりにもよく寝ていらしたので、起こすのを躊躇うところでしたよ」
 愛原:「そういう時は遠慮せず起こしてくれていいんだよ」

 高野君が電話してくれなかったら、私達は本数の少ないバスに乗り遅れたことだろう。
 そして地下鉄にも乗り遅れ、最終的には乗車予定の新幹線にも乗り遅れるということだ。

 高橋:「大丈夫っスよ。バスに乗り遅れたら、俺が佐藤に頼んで車出してもらいますから」
 愛原:「5人だぞ?佐藤君とやらを入れたら6人だが、大丈夫なのか?」
 高橋:「あいつの車、エスティマなんで、余裕で8人乗れます」
 愛原:「そいつも確か、イニシャルDに出て来た車だな。マジかよ……」
 高橋:「体型に合って、デカい車が好きなんですよ。エスティマがオシャカになったら、ハイエースにするとか言ってますし」
 愛原:「それも、思いっ切り改造するんだろうなぁ……」
 高橋:「車好きの車は、カスタムしてナンボなもんで」

 高橋は軽くウィンクした。

 愛原:「てか、ヴェルファイアとかにはしないんだ?カッコ良さで言うなら、そっちじゃないの?」
 高橋:「俺もセダンが好きなんで、ワンボ好きのヤツがどういうこだわりなんだか、実はあんまりよく知らないんスよ」
 愛原:「まあ、荷物はよく運べるけどね」

 リサが私のマンションに引っ越してくる際、リサが使うベッドや机は、高橋の都内の走り屋友達のワンボックスで運ばせてもらったことがあるけど……。

 高橋:「ま、そんなところです。バスに比べたら、ちゃっちぃですがね」
 愛原:「そりゃそうだろ」

[同日17:30.天候:晴 仙台市宮城野区 仙台市地下鉄荒井駅→東西線電車先頭車内]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、荒井駅前、荒井駅前でございます。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください」〕

 バスはマンションなどの宅地建設が行われている区域に入ると、その中心部にある地下鉄荒井駅前のロータリーに入った。
 緑色の仙台市営バスが停車している中、紅白のバスは目立つ。
 ……何だか一瞬、『赤いきつねと緑のたぬき』というフレーズが頭に浮かんだ。

 愛原:「おい、キミ達、降りるよ」

 私は2人席に寄り添うようにして座るリサと斉藤さんに言った。
 さすがに疲れて寝てしまうくらいにはなったかな。

 運転手:「ありがとうございましたー」

 バスを降りて駅構内に入る。

 愛原:「さすがに疲れたかい?」
 斉藤:「少しだけ……」
 リサ:「私は大丈夫。でも、サイトーが気持ち良さそうに寝てたから、私も釣られた」
 愛原:「はは、そうか。地下鉄でも途中で降りるから、ちゃんと起きてくれよ?」

 バスに乗車した時と同じように、地下鉄もPasmoで乗れる。
 ピピッとタッチしてコンコースに入り、そのまま地下に下りるとすぐホームである。
 いくら新しい地下鉄は深い所を通るとはいえ、それは都心や市街地部分のことであり、郊外部分はそれほどでもないようだ。
 始発駅ということもあってか、電車は既にホームに停車しており、4両編成の電車全ての車両が閑散としている。

〔お知らせ致します。この電車は、八木山動物公園行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕
〔「17時37分発、仙台方面、八木山動物公園行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 先頭車に乗り込み、ブルーの座席に腰掛ける。
 座ると何だか眠くなるのは、私も同じか。

 愛原:「リサ、ゲーセンでも斉藤さんと盛り上がったの?」
 リサ:「うん。またエアホッケーやった」
 愛原:「おー、そうか。それは良かったな」
 リサ:「高野お姉ちゃんは、レーシングゲームで盛り上がってたけど」
 愛原:「マジか!?」
 高橋:「アネゴもやんのか?」
 高野:「ちょっとだけ」
 リサ:「物凄く上手かった」
 愛原:「へえ、意外だね。確か、イニシャルDをモチーフにしたゲームがあったな?」
 高橋:「アネゴも峠攻めすんのか?」
 高野:「ちょっとだけね」
 愛原:「そりゃあいい。今度、高橋と勝負してみてくれよ」
 高橋:「ふっ、望む所です」
 高野:「吠え面かくのがオチだから、やめときなさい」
 高橋:「ンだコラ!?」
 愛原:「はーいはい。ケンカはダメだよ。とにかく、今は帰ることに集中だ。勝負は東京に帰ってからな?」
 高橋:「先生がそう仰るのなら……」
 高野:「しょうがないですね」

〔「お待たせ致しました。17時37分発、仙台方面、八木山動物公園行き、まもなく発車致します」〕
〔2番線から、八木山動物公園行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 各駅共通の短い発車サイン音が鳴って、ドアが閉まった。
 閑散とした駅では駆け込み乗車する乗客も少ないのか、再開閉することもなく、すぐに発車する。

〔次は六丁の目、六丁の目、サンピア仙台前です〕
〔The next stop is Rokuchonome station.〕

 私は途中で寝過ごさないよう、なるべく会話を繋いでおくことにした。
 幸いうちの事務所のメンバーらは、そんな私の気持ちに応えてくれたのである。
コメント (1)
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