報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「越後羅洲の人々」

2022-09-15 15:01:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日13:00.天候:晴 新潟県新潟市北区某所 国道7号線(新新バイパス)→ドライブイン“はんごろし”]

 スーパー銭湯をあとにした私達は、何故か北区に向かっていた。
 昼食を食べ損なった私達の為に、高橋の先輩の1人が経営するドライブインで奢ってくれるという。
 それに、うかうかしていたら警察が来てしまうので。
 高橋の後輩達が乗って来た車は、やはりというべきか、【走り屋仕様】だった。
 しかし、“イニシャルD”のあれと違い、もっと暴走族っぽい見た目である。
 共同危険行為型の暴走族が乗る車は、とにかく爆音が出て目立つ派手なデザインであることを良しとする。
 しかし、“イニシャルD”に出て来る走り屋達は、スピード重視である。
 高橋の後輩達のは、それらのいいとこ取りをしようとした車であった。
 また、車だけとは限らない。
 バイクに乗っている後輩達もいた。
 バイク乗りのは、どちらかというと旧車會タイプである。
 一応ヘルメットは被り、信号も守るのだが、それ以外は【お察しください】。
 私達は、そんな後輩達の1人が運転する車のリアシートに座っていた。
 車種は古いタイプのチェイサー。
 当然マフラーは改造されていて、加速する度に爆音が出るようになっている。
 ギアアップする度に、『ボヒュウッ!』という音が響く。
 先頭にはバイクが2台。
 後ろには車が2台と更にバイクが2台と、まるでVIPの輸送である。
 運転しているのは、スーパー銭湯内で私の胸倉を掴み、高橋に腹パンされてノビた男である。
 肥満体の為に力自慢なのだろうが、頭は坊主にしていて、体のあちこちにピアスを入れている。
 鼻にもピアスをしていて、そこからチェーンを伸ばしていた。
 クチャクチャとガムを噛んでいる。
 名前を西川と言った。
 助手席に乗っているのは、逆にやせ型であるが、髪をソフトモヒカンにして赤く染めている。
 で、やはり耳やら鼻やらにピアスを着けていた。
 こちらはサングラスを掛けて、タバコを吸っている。
 名前を佐藤と言った。

 愛原:「な、何か、本当にいいのかな……」
 高橋:「いいんですよ。寛いでください、先生」

 私は高橋とリサに挟まれるようにして座っている。
 高橋が助手席の後ろ、リサは運転席の後ろに座っていた。
 リサはまるで遊園地のアトラクションに乗っているかのようなテンションで、窓の外を見ている。
 佐藤はタバコを吸い終えると、後ろを振り向いて言った。

 佐藤:「それにしてもボス……いや、先輩、さすがっスね」
 高橋:「何がだ」

 高橋もまた、後ろでタバコを吸っている。
 一応、窓は開けてもらっているが、こりゃ私の服にもタバコの臭いが染み付きそうだ。
 佐藤はリサをいやらしい目で見ながら答えた。
 因みに高橋は一応、ここの組織を卒業しているので、もうボスやら総長ではない。
 それにしても、この世界ではOBも尊敬されるのだ。

 佐藤:「こんなかわいいコ、どこで見っけて来たんスか?」
 リサ:「ええっ?」

 リサは『かわいい』と言われて、少し照れた笑いを浮かべた。
 確かに、見た目は美少女なのだよ、見た目は。

 高橋:「こいつは俺の女じゃねーよ。強いて言えば、先生の女だ。言葉と態度には気を付けろ」
 佐藤:「えっ!?先生の!?いや、マズいんじゃないんスか!?こんな中学生のコ、誑し込んで……」
 リサ:「あぁ?」

 リサは両目を金色に光らせて、佐藤を睨み付けた。

 リサ:「何言ってんだ、テメェ……!?」
 愛原:「リサ、落ち着け!」
 高橋:「こいつは中学生じゃねーよ。見た目はそうだけど、これでも高2だぜ?」
 佐藤:「ま、マジっすか!?サーセン!見た目、若いっスね!?」
 リサ:「若い、ねぇ………」

 リサは伸ばし掛けた爪を引っ込めた。

 佐藤:「既に先生好みのメス豚に?ヘッヘヘヘヘ!」
 愛原:「キミねぇ……」
 リサ:「うーん……わたしは調教されたいんだけどねぇ……」
 愛原:「やめなさい」
 佐藤:「何だったら、俺らが調教してあげてもいいよ?ウェヘヘヘヘ!」
 リサ:「いいけど、明日にはゾンビになってるからね?」

 その時、車が新新バイパスを降りた。

 西川:「バイパスを降りたら、すぐなんで」
 愛原:「どこだ、この辺りは?」
 西川:「豊栄辺りっス」
 愛原:「豊栄。白新線だな」
 西川:「うっス。でも、店は旧道沿いなんて、駅からは離れてるっス」
 愛原:「そうなの?」

 車は県道3号線に入った。
 この道は、旧国道7号線である。
 高速道路並みの規格を誇るバイパスと比べ、こちらは“ベタな地方国道の法則”通りの規格だ。
 バイパスができたことで衰退したとは思うが、それでも街中を通るということもあり、その辺りは生活道路として、それなりの賑わいがある。
 しかし、街からは離れると……。

 西川:「到着っス。お疲れさまっしたー」
 愛原:「えっ、ここ!?」

 それは、見た目は潰れたドライブインであった。
 旧道化した国道には、たまに見かける代物である。
 バイパスができたことで交通量が減少し、それまでのドライブインは経営が成り立たなくなって廃業するということはよくある。
 そして、建物は廃墟として残ることもままある。
 この建物もそうだった。
 造りも古い建物で、そこの駐車場に佇んでいると、どこからともなく菅原文太が運転する『トラック野郎一番星』や、愛川欽也が運転する『ヤモメのジョナサン』がやって来そうな雰囲気である。
 しかし、実際は営業しているのだろう。
 建物の中は明かりが点いている。
 しかし、建物などは暴走族の落書きだらけで、一般客は誰も入ろうとしないだろう。
 よく見ると、看板もそれまでの店の名前の上から赤いスプレーで、『はんごろし』と書かれている。
 本当に正規の営業なのだろうか。

 マスター:「いらっしゃいませー」

 しかし、中の造りは普通だった。
 とはいうものの、建物が古ければ中も古い。
 まるで、昭和時代にタイムスリップしたかのようなカフェだった。
 30代くらいのマスターもまた、茶髪にピアスと、けして柄の良い恰好をしているわけではない。

 マスター:「おお、マサじゃん!」
 高橋:「センパイ、お久しぶりっス」

 どうやらここは、高橋の先輩が経営する店のようだ。

 マスター:「何だ?昔が恋しくて戻ってきたのか?」
 高橋:「いや、そんなカッコ悪いもんじゃないっス。仕事で来ただけなんで、ちょっと寄ってみただけで……」
 マスター:「仕事?何の?」
 高橋:「探偵っス!」
 マスター:「探偵!?オマエが!?」
 高橋:「うっス!」
 マスター:「へーえ!世の中、分からんね!で、そこにいるのが……」
 高橋:「名探偵の愛原先生っス!俺を冤罪の泥沼から助けてくれた上、霧生市のバイオハザードを生き延びた猛者っス!」
 マスター:「そりゃパネェ!どうぞ、こちらに」
 愛原:「あ、ああ……」

 私達はカウンター席に横並びに座った。

 リサ:「お腹空いたー」
 マスター:「このコも探偵?」
 高橋:「センパイ。ハードボイルドな探偵には、女が付き物っス!」
 マスター:「それもそうだな。ってか、まだJCだよね?」
 リサ:「JKだっつーの!」
 愛原:「まあまあ、まあまあ」
 マスター:「JK!?……あっ、そう?年齢詐称じゃなくて?」
 リサ:「ガチの16歳です!」
 マスター:「ふーん……。13歳か14歳くらいに見えるけどねぇ……」
 高橋:「それよりセンパイ、こいつ腹空かせたままにするとヤバいんスよ。何か、大盛り飯でも出してやってくれませんか?」
 マスター:「ああ、分かった。センセイは何にします?酒もありますよ?」

 店内はカフェなのに、食事メニューは節操が無い。
 町の食堂みたいなメニューだ。

 愛原:「仕事中なんで、飲み物はウーロン茶で。あとは、サッと出せて量が多い物とかありますか?」
 マスター:「それならチャーハンはどうっスか?」
 愛原:「あっ、いいね。それにしよう。リサは?」
 リサ:「わたしもチャーハン!大盛りで!」
 高橋:「俺もそれでお願いします。あと、俺もウーロン茶で」
 マスター:「OK。で、センセー、うちはキャッシュ・オン・デリバリー方式で、カードとかも使えないんスけど、いいっスか?」
 愛原:「ああ、大丈夫」
 高橋:「先生、ここは俺が!」
 愛原:「いいのか?」

 よく見たら料金書いてないんだけど、もしかして『時価』かな?
 マスターは厨房に向かうと、まずはウーロン茶を持って来た。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋の思い出」

2022-09-13 20:00:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日11:00.天候:晴 新潟県新潟市東区新松崎 スーパー銭湯極楽湯松崎店]

 私達はスーパー銭湯で汗を流していた。

 高橋:「それでは不肖、この高橋正義が、先生の御背中を流して差し上げ奉り候~也~ッ!」
 愛原:「だから、そのノリやめろっつってんだろ」

 私は苦笑いしつつも、高橋に背中を流してもらう。

 男性客:「高橋正義……?」
 愛原:「ん?」

 私の隣の洗い場にいた若い男が、高橋の名前を呟いたような気がした。
 そして、いそいそと脱衣場に向かって行った。

 愛原:「気のせいか……?」
 高橋:「何がっスか?」
 愛原:「いや……」

 高橋に背中を流してもらった後は、自分で体を洗う。
 それから、露天風呂に行くのは定番。

 高橋:「先生、洞窟風呂がありますよ」
 愛原:「ハハハ。入口がドラクエの洞窟みたいだな」
 高橋:「入ったらモンスターとエンカウントしますかね?」
 愛原:「したところで、オマエがいたら、ドラクエじゃなくて、バイオハザードだけどな」
 高橋:「さすがに風呂にまでマグナムは持ってきてませんよ。もっとも、下半身のマグn……」
 愛原:「それ以上言うなぁっ!」
 高橋:「あ、でも、先生のロケランには叶いません」
 愛原:「誰がロケランだ!」
 高橋:「先生のロケランなら、きっとリサも倒せますよ」
 愛原:「リサみたいなこと言うなァ……」

 だが、恐らく露天風呂の男湯と女湯は仕切り壁1つで隔たれているのだろう。
 何か、隣の女湯からキャーキャー女性の悲鳴が聞こえるような気がする。

 愛原:「な、なあ?何か、隣の女湯、騒がしくないか?」
 高橋:「ったく。女はすぐキャーキャー騒いでうるさいっスね」
 愛原:「まさか、痴漢でも出たんじゃ?」
 高橋:「いや、まさか……。仮にそうだとしても、心配無いですよ」
 愛原:「どうして?」
 高橋:「向こうにはリサがいるじゃないスか。痴漢の1人、2人出たところで、リサが軽~くあの世に送ってくれますよ」
 愛原:「撃退する分にはいいが、あの世にまで送る必要は無いと思うがな」

 風呂から出たところで、女湯が騒がしかった理由が明らかになる。

 愛原:「え、何だって!?洞窟風呂に入ってたら、騒がれた!?」
 リサ:「そーなの!失礼しちゃう!」

 基本的に男湯と女湯の構造は変わらない。
 男湯にある洞窟風呂が女湯にもあるのだが、そこに入ったリサがリラックスしていたら、第1形態に戻ってしまったらしく、そこへ後から入って来た別の女性客が、『化け物が出た!』と言って騒いだらしい。

 リサ:「ちょーっと角が生えて、耳が尖って、牙と爪が尖っただけじゃない!」
 高橋:「バカ!それを人間は『化け物』っつーんだ!」
 スタッフ:「困りますね。他のお客様を驚かせるのは……」
 愛原:「ど、どうもすいません……」

 ちょっと角が生えて、耳が尖って、牙と爪が長く伸びただけなら、まだ誤魔化せる。

 愛原:「マスクは処分しておきましたので……」
 スタッフ:「そういう物の持ち込みは困ります」
 愛原:「あ、はい。それはもう……」

 リサが鬼のマスクを持ち込んで、他の客を驚かせたということにしておいた。
 取りあえず今回は、厳重注意だけで済んだ。

 愛原:「気を取り直して、マッサージでも受けるか」
 リサ:「先生……!他の女にマッサージされるの?」

 リサ、ジト目で私を見る。
 せっかくまた第0形態(普段から変身している人間の姿)になったというのに、また牙を覗かせた。

 愛原:「いや、大丈夫だよ。ちゃんと男性スタッフにやってもら……はっ!?」
 高橋:「先生……!他の男にマッサージされる気ですか?俺という者がありながら……!」

 高橋もまたジト目で私を見てくる。

 愛原:「マジか……!」

 仕方が無いので、マッサージチェアを使うことにした。

 愛原:「機械なら文句無ェだろ、あぁッ!?文句は言わせねーからなっ、あぁッ!?」
 高橋:「は、はい……」
 リサ:「は、はい……」

 ついでに3人一緒に使う。

 愛原:「うー、そこそこ……!」
 高橋:「先生、後で俺がボディケアしてあげますからね!」
 リサ:「わたしは足ツボ!」
 愛原:「あー、そー。それは楽しみだ……」

 もうすぐマッサージチェアの使用時間も終わろうという時、バタバタと若い男達がやってきた。

 愛原:「な、何だ何だ!?」
 高橋:「チッ、いやがったのか……」

 男達は私達を取り囲むように整列すると……。

 ヤンキーA:「ボス!お久しぶりです!」
 ヤンキーB:「お久しぶりです!」

 明らかにガラの悪い、普通なら入館を断られるであろうタトゥを入れまくっている男達が現れた。
 ヤクザではなく、明らかに半グレである。

 ヤンキーC:「『下越の総長』の御帰りですね!」
 愛原:「お、おい、高橋。これはどういうことだ?オマエ、暴走族やめたんだよな?」
 高橋:「そうです」
 ヤンキーA:「おい、コラ、オッサン!ボスを呼び捨てかぁ、ゴルァッ!!」

 いきなり1人が私の胸倉を掴んで来た。
 駆け付けた男達の中では、1番体が大きい。
 鼻ピアスにチェーンを着けている。

 高橋:「てめェ、コラ!先生に何すんだぁっ!!」
 ヤンキーA:「ええっ!?」

 高橋、ヤンキーAを私から引き離すと、そいつに向かって腹パンチを食らわせた。

 ヤンキーA:「ごぶっ……!ぐ、ぐお……っ!」

 ヤンキーA、両目を見開いて、高橋にパンチされた腹を押さえながら、前のめりに倒れた。
 高橋は1発しかパンチをしていないのに、確実に仕留めるとは……。

 高橋:「ここにいる愛原先生は俺の恩人だ!ちょっとでも無礼なことをしやがった奴はブッ殺す!!」
 ヤンキーB:「は、はい!!」
 ヤンキーC:「承知しました!!」
 高橋:「先生、大丈夫ですか?お怪我は!?」
 愛原:「いや、大丈夫だ」
 高橋:「どうもすいませんでした!後でこのバカ、東港に沈めておきますんで!」
 愛原:「い、いや、いいよ。次から気をつけてくれれば……。そ、それより、早くここを出よう……」
 高橋:「ど、どうしてですか?」
 愛原:「今、スタッフが警察に通報してるとこ」
 高橋:「はぁーっ!?」

 もうこいつら連れて、温泉行くのやめようかな……。
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“私立探偵 愛原学” 「愛原の思い出」

2022-09-13 14:50:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日08:00.天候:晴 新潟県新潟市中央区 ホテル東横イン新潟駅前4Fロビー]

 私達はロビーに行き、そこの朝食会場に向かった。

 愛原:「よし。席も確保したし、取りに行くか」
 高橋:「うっス!」
 リサ:「うっス!」
 愛原:「リサ、あまり取り過ぎないように。タダ飯なんだからな」
 リサ:「えー……」
 高橋:「つっても、料金の中に入ってるんスよね?」
 愛原:「そうだけど、やっぱり取り過ぎはちょっと……と思うよ」
 高橋:「そりゃ残したらアウトでしょうけどね、コイツはガチで全部食いますからね」
 愛原:「ツッコミ所が分かりにくい分、尚更タチが悪いような気がする」

 ホテルの朝食はバイキング形式。
 昔の東横インの朝食はおにぎりと漬物、味噌汁くらいしか無かったが、今ではだいぶおかずの種類も増えている。
 周辺に似たようなサービスのホテルがいくつもあるので、それに対抗せざるを得ないようである。
 それでもやっぱりリサは、私達よりも多めに料理を盛った。
 まあ、あまり制限させて不機嫌にさせたら、それはそれで問題だ。
 因みに飲み物は、ドリンクバー。
 更には、朝刊無料サービスがあるので、それも持って来る。
 地元の地方紙である。
 一面記事トップで、昨夜のバイオハザード事件を報道していた。
 一面記事の写真は、新聞社のヘリコプターが上空から船を撮影した映像。
 船が火災を起こしている写真であり、船首甲板などを見ると、BSAAが船内に出入りしているのが写っていた。
 別の面を見ると、港湾に待機していた新聞社が地上から撮影した写真もあり……。

 愛原:「おっ、リサが写ってるぞ?」
 リサ:「ええっ!?」

 写真は一面記事と違って白黒であったが、『関係者により救出された乗客』というタイトルが付いていた。
 リサが船内から、ゾンビ化していない感染者を船から出した時に撮影したようだ。
 尚、Tウィルスの場合、ゾンビ化していなくても、感染者から感染させられることは多々ある。
 新型コロナウィルスで、無症状であっても、感染者から感染するのと同じだ。
 しかし、Tウィルスの場合、感染経路は狂犬病と同じである。
 感染者に噛み付かれたり、引っ掻かれたりしたら感染する。
 なのでリサの行為は、本来は危険極まりないものである。
 だが、体内に既にTウィルスとGウィルスを同居させているBOW(生物兵器)が、今さら他人から移されるわけがない。
 善場主任の言う通り、非感染者や感染無症状・初期症状者を運び出すのに、リサは打ってつけだったのである。
 尚、写真のリサはフードを深く被り、マスクもしていたので、素顔は殆ど分からないようになっている。

 リサ:「もっと可愛く撮って欲しかったなー……」
 愛原:「いや、そういう写真じゃないから」
 高橋:「結局、船内でバイオハザードが起こった理由、分かったんスかね?まあ、絶対ワザとばら撒いたんだと思いますけど……」
 愛原:「今、テレビで言ってるぞ?」

 私はロビーに設置されているテレビを指さした。

〔「……船はかつて、ロシア海軍が兵員輸送船として使用していたものを民間に払い下げたもので、関連について調べを進めています」〕

 兵員輸送船は、元々民間で運航されていた客船を徴用することがあったが、その逆もあったということか。
 軍艦なら、色々と船内に仕掛けとかできただろうなぁ……。

 高橋:「マジで怪しいっスね」
 愛原:「場合によっちゃ、モスクワ辺りにBSAAが突入することになるだろうよ。……あ、いや、もしかしたら“青いアンブレラ”かテラセイブか……」
 高橋:「それより先生、バスの方なんですが……」
 愛原:「どうだった?」
 高橋:「木工団地に行くバスは、1時間に1本です」
 愛原:「少ないな。まあ、工場団地に行くバスが、日曜日にバンバン運転されてるわけがないか……。で、時間は?」
 高橋:「9時22分と10時27分です」
 愛原:「それじゃ、9時22分発に乗るか。ここからだと、どのくらい掛かるんだ?」
 高橋:「およそ30分ほどです」
 愛原:「30分くらいか。で、Suicaは使えるんだったな?」
 高橋:「そうです」
 愛原:「分かった。ありがとう」
 高橋:「いえいえ……」
 リサ:「お兄ちゃん、照れてる」
 高橋:「うるせっ」

[同日10:00.天候:晴 新潟市東区木工新町]

 ホテルをチェックアウトした私達は、そのまま新潟駅前のバス乗り場に向かった。
 10番乗り場から、件のバスは出ている。
 地元のバス会社、新潟交通バスはシルバーの車体が特徴的だ。
 運送会社の新潟運輸も、似たような色合いである。
 これは、新潟県は豪雪地帯である為、冬は雪や融雪剤で車体が汚れやすい。
 そこで、車体の汚れが目立ちにくい塗装にしたのではないかと高橋は言った。
 言い得て妙である。
 そのバスに乗り込んで、30分以上。
 日曜日に郊外の工場団地に行く客は少なく、数えるほどの乗客しか乗らなかった。
 私達は1番後ろの席に座って、のんびり目的地を目指していた。

 高橋:「あれ?先生……」
 愛原:「どうした?」

 目的地のスーパー銭湯が、進行方向右手に見えてくる。

 高橋:「あれですか?極楽湯ですよ!?」
 愛原:「ええっ!?」

 私が20年ほど前、本社の研修で泊まり込んでいた時、たまに訪れていたスーパー銭湯。
 当時は極楽湯ではなかった。
 だが、私の記憶が正しければその地にあるはずのスーパー銭湯は、極楽湯であった。

 愛原:「本当だ……」
 高橋:「変わったんスかね?」
 愛原:「そうかも……」

 極楽湯の最寄りバス停である『松崎大橋』を過ぎる。

〔次は海老ヶ瀬木工団地、海老ヶ瀬木工団地……〕

 愛原:「ん?ここか?」
 リサ:「はい!」

 リサは降車ボタンを押した。

〔「はい、海老ヶ瀬木工団地、止まりまーす」〕

 そして、バスは大通りの上にあるバス停に停車した。

 愛原:「ここがバス停なのか?」

 しかし、景色自体は見覚えがある。
 その為、私達はここでバスを降りた。

 高橋:「この辺りが、先生が昔働いていた場所っスか?」
 愛原:「そう、のようだな……。昔は団地内にポツンとバス停が立っていて、そこが起点だったんだが、今は木工団地が起終点というわけではないんだな。しかも、微妙にバス停の名前が変わってるし」

 私の記憶が確かなら、『海老ヶ瀬』という文字は付いていなかったはずだ。

 高橋:「そうなんですか」

 バス通り沿道はだいぶ変わった。
 昔は自動車ディーラーだの、マンションだのは無かったと思う。
 ただ、道の構造自体が変わっているわけではないので、何とか記憶の糸を手繰り寄せられるくらいはできた。

 愛原:「一応、こっちだな」

 私はバス通りから道を1本入った。
 木工団地の中である。
 私が昔働いていた運送会社は、ここの工場団地で出来上がった製品を運ぶ仕事をしていた。
 果たして、今でもあるのかどうか……。

 愛原:「あー、やっぱり無いや」
 高橋:「無いですか?」

 私の記憶が確かなら、この辺りにあったであろう運送会社の本社に行ってみた。
 確かにそこに運送会社はあったのだが、名前が違った。
 運んでいる物の都合上、この運送会社も日曜日は休みのようで、全く人の出入りが無い。
 しかし、駐車されているトラックを見ても、見覚えのある塗装ではなかった。

 愛原:「どうやら潰れたらしい。何しろ、同族経営の中小企業だったからな」

 同族経営程度なら、作者の所属している警備会社同様そこそこの大企業でも見受けられるが、何しろ給料も安いブラック企業だったからな。
 リーマンショックとか、東日本大震災、現在進行形ではコロナ禍で経営が傾いたのかもしれない。

 高橋:「そうですか。でも、同じ場所に別の運送会社はあるんですね」
 愛原:「居抜きで入ったのかもしれないな」

 運送会社の名前は関東ではあまり聞かないが、高橋によると、新潟ではそこそこ名前の知られた会社であるという。
 私がいた会社よりも規模は大きそうだし、もしかしたら、資本を買い取られて吸収なんてことも有り得る。

 愛原:「ま、そういうことだ。暑いし、さっさと風呂入りに行こう」
 高橋:「はい、そうですね」
 リサ:「先生、トラック動かしてみて?」
 愛原:「勝手に動かせねーよ」
 リサ:「えー……」
 高橋:「…………」

 何故か高橋は、休業中の運送会社の方を見て訝し気な顔をしていた。

 愛原:「どうした、高橋?」
 高橋:「いえ、何でもありません」

 ……高橋は、『いや、この運送会社は昔からここにあったはずだが……』と、思ったという。
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“私立探偵 愛原学” 「新潟の夜と朝」

2022-09-11 20:14:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日23:00.天候:雨 新潟県新潟市中央区 ロイヤルホスト新潟駅前店]

 車でホテルまで送ってもらった後、私達はまず部屋に向かった。
 それから着替えてシャワーを浴び、それから1階のテナントであるロイホに来たというわけだ。

 リサ:「ステーキ美味しー!」
 愛原:「そりゃあ良かった……」

 リサは分厚いステーキを注文して、それをガツガツ食べていた。
 さっきまでゾンビ無双していたとは思えない。
 私はというと、久しぶりのバイオテロに遭遇したことで、空腹だったというのに、今は却って食欲が落ちている状態となっていた。
 さすがに肉は食べれなかったので、オムライスにした。
 高橋は高橋で、パスタにしている。
 リサの食べっぷりを見ていると、ゾンビが捕食しているように見えるのだ。

 高橋:「先生、夕飯の料金、大丈夫っスか?」
 愛原:「ああ。これについても、後でデイライトさんに請求すれば全額支給してくれるそうだ」

 食事代については請求の対象ではないのだが、恐らくこれはリサの活躍に対する報酬代わりなのだろう。

 愛原:「それにしても、まさか本当にゾンビと対峙することになるとは……」
 高橋:「ヤバかったっスね。しばらくそんなことも無かったら、すっかり忘れてたっス。おかげで、少し気持ち悪かったくらいで……」
 愛原:「オマエが一番倒してたもんな」
 高橋:「そうっスね。明日はどうするんスか?」
 愛原:「もちろん、帰るさ。仕事は終わったんだからな。……それとも、オマエの家に案内してくれるのか?」
 高橋:「マジ、カンベンしてください」
 愛原:「ま、遊びに来たわけじゃないからな……」
 高橋:「あ、そうだ。先生、警備員やる前は、トラックドライバーだったって言ってましたよね?その名残で、今も大型免許持ってるとか……」
 愛原:「まあな。……うん、確かに新潟に本社のある運送会社だった。まだ、あるらしいな」
 高橋:「先生の思い出を辿りましょう!」
 愛原:「何でだよ!」
 リサ:「わたしも興味ある!」
 高橋:「だろぉ!?」
 愛原:「あのなぁ!」

 その時、私はふと思い出した。

 愛原:「待てよ。確か、あの会社……近くに日帰り温泉があったな……。今もあるなら、そこに行ってみるか」
 高橋:「それはいいっスね!」

[6月26日00:00.天候:晴 同地区内 ホテル東横イン新潟駅前]

 夕食を終えた私達は、部屋に戻った。

 リサ:「明日は何時起き?」
 愛原:「ホテルの朝食もガッツリ食べるんだろ?だったら、7時くらいに起きた方がいい」
 リサ:「7時起きね」

 部屋の前で別れる。

 愛原:「疲れたから、さっさと寝よう」
 高橋:「そうっスね」

 私は歯磨きをするべく、バスルームに入った。

 高橋:「先生、西港のバイオハザード、ニュースでやってますよ?深夜特番っスかね」
 愛原:「……だろうな」

 港湾道路は封鎖されていたから、船外でゾンビ化した者が街に流入するなんてことはないはずだ。
 陰性が確認された乗客達は解放されたが、もうこんな深夜だ。
 きっと市内に一泊して、それからそれぞれの家に帰るだろう。
 感染末期症状はゾンビ化したので、あいにくだが楽にしてやるしかない。
 では、感染初期症状の者はどうするのかというと、これは治療できる。
 但し、ただでさえコロナ禍で病床が逼迫している中、新たにそのような患者を受け入れる余裕のある病院は無い。
 しばらくは港湾に仮設したテントの中で治療を続け、BSAAの医療チームが用意した医療車に入れる他は無かった。
 それは大型トラックを改造した“スーパーアンビュランス”と呼ばれる、『移動する集中治療室』である。
 これは東京消防庁も保有しており、これから応援として駆け付けるという。
 また、自衛隊の救急車もテレビ画面に映っていた。

 愛原:「あれはコロナ第一波には無かった光景だな」
 高橋:「今回のは既に知られた旧型Tウィルスですからね。日本にも一応ワクチンがあるんスよね?」
 愛原:「そうだな」

 それにしても、どうして今更90年代後半のウィルス兵器が船内に蔓延したのだろう?
 今はウィルスではなく、特異菌という新種のカビが兵器として使われる時代だというのに。
 もっとも、その菌根はBSAAだか“青いアンブレラ”だかによって、爆破・焼却されたというが……。

[同日07:00.天候:晴 同ホテル客室]

 枕が変わると寝落ちしにくいが、しかしその分、抵抗なく起きれやすいというメリットもある。
 枕元に置いたスマホがアラームを鳴らし、私はそれで起きた。
 浅めの眠りだったせいか、霧生市のバイオハザードを再現した夢を見た。
 今思うと、あの地獄から無傷で生還できたのは、本当に奇跡しか言いようがない。
 市民の中には脱出に成功しても、その後にゾンビ化した者も多々いたそうだし、栗原さんのように片足食い千切られた者もいる。
 本当はその時点で感染してしまうそうだが、栗原さんも私と同様、最初から抗体を持った人間だったという。
 旧型Tウィルスは、開発したアンブレラでさえ欠陥品だとするほどだ。
 10人に1人の割合で、最初から抗体を持っている人間が存在する。

 愛原:「起きろ、高橋。朝だぞ」
 高橋:「うっス……」

 私は高橋を起こして、窓のカーテンを開けた。
 昨夜は悪天候だったが、今日は晴天だ。

 愛原:「多分、Tウィルスそのものは外に流出していないだろう」

 私はそう呟いて、リサの部屋に内線電話を掛けた。

 リサ:「……おはよう……」
 愛原:「おはよう、リサ。ちゃんと起きたか?後で朝飯食いに行くから、支度しろよ?」
 リサ:「分かった……」

 私は電話を切った。

 愛原:「テレビはどうだ?」
 高橋:「また昨夜からのバイオハザードで持ち切りっスね」
 愛原:「……だろうな」
 高橋:「それより先生。先生の働いていた運送会社ってのは、どこにあるんですか?」
 愛原:「木工団地って知ってるか?」
 高橋:「ああ!東区にありますね。了解っス。そこに行く、バスを調べておきます」
 愛原:「頼むぞ。こっちのバスは、Suica使えるのか?」
 高橋:「あ、大丈夫です」
 愛原:「そうか」

 まあ、この町のことについては、高橋に任せておこう。
 私の場合、今から20年くらい前の話だし、あくまでも本社が新潟にあったというだけで、拠点は仙台営業所だったから。
 たまにしか行かなかったのだ。
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“私立探偵 愛原学” 「港湾バイオハザード」

2022-09-11 11:49:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日18:15.天候:雨 新潟県新潟市中央区 新潟西港中央埠頭]

 BSAA隊長:「こちらαチーム!コード・スペードエリアに現着!直ちに船内に潜入する!」
 HQ:「了解。該当船舶はロシア船籍の貨客船『ハラーショ』、船内にて旧型Tウィルスによるバイオハザードが発生しているもよう!現在、韓国地区本部隊が先着している!日本地区本部隊である各チームも、船内にて合流せよ!」
 隊長:「了解!」

 私達は日本のBSAAもまたヘリから降下し、船首甲板から船内に進入したのを確認した。
 で、私達はというと……。

 愛原:「早く!早くこちらへ!こちらは出口です!」

 非感染者や感染無症状の乗員・乗客の避難誘導に当たっていた。
 こういう時、完全なる抗体を持っている私はもちろんのこと、霧生市のバイオハザードを経験している者が対応に当たった方が良いという判断だった。

 ゾンビ:「アァア……!」
 高橋:「おりゃっ!」

 ゾンビ化した者にあっては、高橋が手持ちのマグナムを撃ち込んでいる。

 高橋:「先生、感染者全員ぶっ殺していいんスか!?」
 愛原:「ダメだ!あくまでゾンビ化した人だけだ!」

 昔は感染し、症状が出た時点で手遅れとされた。
 しかし、今は違う。
 感染しても初期症状(高熱、全身掻痒、食欲増大)までなら、ワクチンの投与で治癒できるようになった。
 ゾンビ化するということは、脳もやられたということだから、さすがにその時点では手遅れなのだ。

 リサ:「先生!まだ奥にいた!」

 リサはというと、更に船内の奥に向かって、要救助者の救助。

 乗客:「痒い……痒い……」
 愛原:「でかした!早く外に!」
 リサ:「うん!」

 因みにリサに血が付いているのは、多分、途中でゾンビと交戦したからだな。
 もちろん、ラスボスクラスのリサに、ザコゾンビは屁でもない。
 しかし、外も外で戦場だった。

 感染者:「うぅ……ウゥウガァァァァ!!」
 医療班A:「うわっ!間に合わなかった!」
 医療班B:「け、警備班!」

 ワクチンを投与しても、それが効くまでの間にゾンビ化してしまう乗客もいたからだ。

 高橋:「だから全員、ブッ殺しゃ済む話だろうがよ!」
 愛原:「WHOやBSAAで決められたからしょうがないだろ!『脳が無事なうちは人権あり。脳がやられたら人権剥奪』ってな!」

 もっとも、特異菌の場合は脳がやられることもなく、精神だけがおかしくなって人食いとかするからなぁ……。
 あの定義はどうするんだろう?

 高橋:「めんどくせぇ!」

 高橋はまた駆け寄って来るゾンビを射殺した。

[同日22:00.天候:曇 同地区内]

 船から火の手が上がっている。
 火災の原因は分からない。
 乗員・乗客は合わせて150人くらいいたが、その半数が感染者であり、そのうち半数がゾンビ化、更に半数くらいがクリムゾンヘッドやリッカーへと変化した。
 さすがにそんなゾンビの上位種とは交戦することは無く、突入したBSAAに射殺されている。

 リサ:「わたしもオリジナル先輩みたいに、首を捩じり切ってやりたかったな」

 リサはリッカーの話を聞いて、先日観た映画の話をした。
 味方サイドで登場したリサ・トレヴァー。
 襲ってきたリッカーを素手で首を捩じり切り、倒してしまった。

 愛原:「冗談じゃなく、本当にできそうだな、オマエは……」
 リサ:「というか、お腹空いた」
 愛原:「えっ!?」
 高橋:「俺は一っ風呂浴びたいくらいです。変な汗かいちまった」
 愛原:「それは確かに」

 しばらくして、善場主任がやってきた。

 リサ:「お待たせしました」
 愛原:「私達、別に感染してなかったでしょう?」
 善場:「ええ。そうするまでもありませんでしたね。それでは、引き上げます。車へ」
 愛原:「はい」

 私達は車に乗り込んだ。

 愛原:「デイライトさんは残らなくていいのですか?」
 善場:「私達はあくまで情報収集に特化した組織ですので……。それに今、港湾はBSAAの権限で封鎖されています。ここにいる公的組織の中で、1番強い権限を持っているのはBSAAです。従いまして、私達も封鎖区域外に出なければなりません」
 愛原:「なるほど」

 車が走り出す。
 途中にゲートがあったが、そこでもまた検問があった。
 警備をしているのは警察ではなく、BSAAだった。
 バイオテロが発生したとあらば、国関係無く駆け付け、速やかに事態を収拾するという任務を負う。
 日本もBSAAの活動を承認している以上、この取り決めには従わなくてはならない。
 霧生市のバイオハザードが発生する前までは、承認していなかったが……。

 リサ:「あ、そうそう。ヨンヒがいたよ」
 善場:「本当ですか!?」
 リサ:「うん。軍服とガスマスクを着けていたから一瞬分かんなかったけど、匂いで分かった」
 善場:「今回の部隊は極東支部が出動しました。それは当たり前ですが、日本地区本部だけでなく、韓国地区本部も参戦したということは……」

 韓国側は、今回の事件について何か知っているということだな。

 リサ:「それよりお腹空いた」
 善場:「一旦、ホテルに戻って着替えてきなさい。さすがに血が付いたままではダメだからね」
 リサ:「はーい……」

 リサはともかく、あんな状況を体験したにも関わらず、私も空腹を感じるようになるとは……。
 私も、少しおかしくなったのかな。

 善場:「はい、善場です」

 善場主任が自分の電話に出る。

 善場:「……はい。只今、現場を離脱し、新潟駅の方向に向かっています。……はい。……は?……ええっ!?そ、それではロシア当局に……ダメ?そんな……」

 何かあったのだろうか?
 電話を切った善場主任に、私は聞いた。

 愛原:「何かあったんですか?」
 善場:「うちの新潟事務所からの連絡なんですが……。“ハラーショ”号が出港した現地時間の当日、ウラジオストク駅からモスクワ行きの長距離列車が出発したのですが……」
 愛原:「あー、“ロシア”号でしたっけ?」
 善場:「今はダイヤ改正されているので、モスクワ行きの列車もいくつかあるみたいですね。そのうちの1つが“ロシア”号ですが、それに乗ったかどうかは不明です」
 愛原:「誰がですか?」
 善場:「斉藤容疑者ですよ。元社長の」
 愛原:「ええーっ!?」
 善場:「ロシア当局は、『シベリア鉄道のことはシベリア鉄道当局の権限なので、介入できない』なんて言ってるんですよ」
 愛原:「う、ウソだぁー!」
 善場:「私も詭弁だと思います。きっと、斉藤容疑者が、自分の所に当局の手が及ばないよう、色々と根回ししたのでしょうね」
 愛原:「で、でも、ということは、列車を降りれば逮捕できるということですね?」
 善場:「……と、思いますが、当局があの調子では、本当に逮捕するかどうか……」
 愛原:「ロシアのBSAAは!?」
 善場:「欧州本部の管轄ですが、あいにくと今、欧州本部は……」

 内紛でゴタゴタしてるんだっけか。

 愛原:「そ、そうだ!“青いアンブレラ”がいた!」
 善場:「は?」

 善場主任が冷たい視線を向けてくる。
 リサですら、震え上がるほどの冷たい瞳。

 善場:「“青いアンブレラ”は、我が国にとって、非合法組織です。そんな所に協力は仰げませんね」
 愛原:「し、失礼しました!」

 日本にとっては、な。
 欧米では民間軍事会社として、合法的に活動している。
 きっと、ロシアでも……。
コメント
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