fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

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『びんの悪魔』(R・L・スティーブンソン作 よしだみどり訳)福音館書店

2012年08月12日 | 本の紹介

            びんの悪魔 *高学年以上~

 スティーブンソンといえば『宝島』。そして『ジキル博士とハイド氏』。しかし今、あらためてスティーブンソンを読もうというのは、例えば大学で英文学を学んでいる人以外ではあまりいないのかなと思ってしまいます。あえて「読もう」と思わないと、向こうからやってくる本ではなくなってしまっているのが現状です。新聞の広告や書評、電車の中吊り広告、新刊本ばかり。本屋の児童書のコーナー? ないような……。

 学校の図書館にはちゃんと並んでいるんでしょうか。

 ところでこの『びんの悪魔』は、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』を読んだことのある大人の方でも、よほどスティーブンソンが好きというのでなければ読んでらっしゃらないかもしれません。もしそうでしたら、ぜひ手にとってみてください。2年前に単行本をしては初めて日本で翻訳されたものです。(短編集には収められていた) 

 あとがきを読むと、スティーブンソンは、父親の遺産で帆船を借り切り、家族とともに南太平洋を旅して、サモアに家を建てたとか。この作品は当時サモア語で訳され、その物語を読んだ地元の人がスティーブンソンの家にやってきて、この立派な家は、きっと小びんに頼んだものに違いないとじろじろと眺めていたそうです。そのほか、スティーブンソンが書いた吉田松陰伝や日本との関わりのことなど、いろいろと興味深いことが書かれています。

 さて内容ですが。どんなものでも「欲しい」と思うだけで手にいれることができる「小びん」。どんな大きな家でも愛でも名声でも。でもこの小びんには、持ち主が死ぬ前に手放していないと、地獄の炎に焼かれてしまう。そして、このびんを手放すには、買ったときよりも安い値で売らなくてはいけない。という決まりがあります。さあ、主人公は何を願って何を手にいれるのか。そして最後はどうなるのか。

 改めて読んで、これは愛の物語だったのだなと思いました。「どうなるんだろう」「自分だったらどうするだろう」という気持ちを最後まで持って、読み進めること請け合いです。古い本を新たに今の時代に出すとき、挿絵もまた重要。この本の銅販画のようなイラストもいい雰囲気です。