新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我がマスコミのTPP交渉の報道への疑問

2015-04-21 08:21:24 | コラム
アメリカの通商代表部は落としどころや妥結点を探りには来ない:

甘利担当大臣とUSTRのフロマン代表との交渉は、本21日の朝3時までをかけても結論には達しなかったようだ。私はこの間のTPP交渉についてのマスコミ報道には極めて疑問な点があると思っている。以前から指摘してきたことだが、アメリカ側が落としどころだの妥協点だのを模索するために遙々ワシントンDCから飛んでくる訳がないのだ。

私がアメリカの会社に20年以上の勤務して対日交渉を続けてきた経験からだけではなく断言してきたことは「彼等の文化と思考体系の中には”妥協”だの”中間を採る”だの“落としどころを探る”等という交渉術はないのだ。何度も言ってきたことだが「これを言うことで失う物はない」という強硬な線から交渉を始めるのは常識だし、押しきるか押しきれないかを争うのが彼等の交渉術だ。妥協=compromise等はプレーブックには載っていない。

彼等の精神は”It’s a mistake, if you don’t buy from us.”と言い出すところにあるのだ。即ち、「気に入らないのならば、他に行って売ってくるだけ」と、我が国の思考体系からすれば高飛車だとしか思えないことをサラッと言うのだから。彼等の言う”debate”はここから始まるのだと思っていれば良いだろう。

そこに今回は米の輸入量を17万5,000 ton にせよと言いだした以上、フロマン代表はオバマ大統領のお使い奴ではない以上、「そうで御座いますか」とばかりに日本側が固執する5万 ton との中間点を探ることなどあり得ないのだ。自動車部品の関税撤廃にしたところで同じで、撤廃を先延ばしにすると主張して彼等は失う物がないではないか。甘利大臣がもしも何か落としどころを模索しているのだったならば、それは側近の官僚の失態であろう。

それでは何時まで経っても終わらない交渉になってしまうとご懸念の向きには、私がこれまでに何度も彼等が用意してくる”contingency plan”があると言ってきたのをお忘れかと申し上げたい。即ち、彼等は交渉決裂がある場合を先読みして、それに備えて「二の矢」や「三の矢」までも準備してくるものなのだ。しかし、最悪の場合でも「三の矢」が「妥協」であることはあり得ないが。

私は現在あのアメリカ史上でも最悪の部類に入るオバマ大統領が置かれた立場は、非常に苦しいだろうくらいは解っている。中国にあそこまでコケにされてAIIBでも優柔不断振りをさらけ出せば、TPPくらいは何としても纏め上げて置かないと、キューバとの国交回復くらいしか歴史の隅に名が残らないのだから。フロマン代表も何としても”result”を残さねばならないだろう。その意味では甘利大臣も質こそ違え、苦しさは同じではないか。

私如きにはフロマン代表のブリーフケースにあと何本の矢が入っているかなど知る由もないが、マスコミは好い加減に落としどころ報道や妥結点探りばかり言わずに、日米間の交渉術の違いでも指摘して、フロマン代表の苦悩でも語ってみたらどうか。私はフロマン代表が「無条件で米は10万 ton で良い」などと妥協するようだったならば、「日米企業社会における文化と思考体系の違い」を論ずることから撤退せねばなるまい。