新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領が中国からの輸入品の関税を10から25%に引き上げると発表

2019-05-07 16:03:09 | コラム
25%の関税で末端価格がどれほど上がるのか:

アメリカの中国からの輸入品と聞いて真っ先に思い出したのが、2012年10月にYM氏の案内でSM氏と3人で訪れたロスアンジェルスの“Fashion district”における圧倒的な中国製の繊維製品と雑貨の値段の安さだった。念の為に説明しておくと「ファッション。デイストリクト」とは膨大な面積に無数の店が並ぶ問屋街であるが、日本企業の多くのLA駐在員には「日本からの客様をご案内しないこと」と禁じられていると聞く、治安に不安があるとされている地域である。

我々は何の不安もなく2時間ほど滞在して韓国人かヒスパニックが店番をしている問屋街でのひやかしを楽しんだものだった。だが、カリフォルニア州に40年近くも住んでいるSM氏は初めてここに足を踏み入れたそうで、それほど敬遠されている場所にYM氏は絶対に問題はないからと入って行ったのだった。YM氏は序でがある度にここに立ち寄って4枚で$10ドルほどのコットンのTシャツ等の下着類を永年購入してきたと言っていたのにはやや驚かされた。裕福な人ほど「お買い得な店を知っているものだ」と感心したという意味。

兎に角、どの店に入っても並んでいる衣料品は中国製で、4枚で$10は極端な例としても、中国からの輸入品は「そんな値段で売って利益が出るのか」と疑いたくなるほど安いのだった。だが、安いからと言って決して粗悪品ではなく、YM氏が言うには「安心して着ていられる品質」なのだそうだ。品物以外に印象的だったのは売り子は先ず韓国系アメリカ人かヒスパニックばかりだったことで、アメリカ人が店頭に立っていた雑貨屋で「中国製以外の品物はあるのか」と尋ねたところ「隅から隅まで全部中国製以外のものなどない」と忌々しそうに言っていた。

この店では中国製という玩具のようなRay Banの形をしたサングラスが3個で$10だと言うので、折からのカリフォルニアの強い日光対策に3個を購入して我々のファッション・デイストリクト」探訪の記念品とした。私はその時には中国からの繊維や雑貨等の輸入品に関税がかかっているかなどは全く考えてもいなかったし、この街一つを取ってもアメリカが如何に中国からの輸入に依存しているかを痛感したものだった。

そこで、試しに4枚で$10というTシャツが無税だったとしてトランプ大統領に政策で25%の関税が賦課されたとすれば、ファッション・デイストリクト等における店頭価格がどれほど上がるかをやや乱暴な方法で試算してみた。計算の基礎は輸入通関等の諸掛かりが10%かかっていて、輸入業者と問屋のマージンが合計で10%というか共に5%取っていたとしてある。この仮説通りとすればロスアンジェルスの港に着いた値段は4枚で$8ドルということになってしまう。1枚ならば$2となってしまう。諸掛かりとマージンが10%にしても、LA着で$9であって大差はないのだ。

と言うことは、仮令$9だったとしても25%の関税をかけられても$2.25しかコストは上がらないのだ。この価格に諸掛かりとマージンが20%乗っかっても最終価格は$13.5と確かに上昇するが、それでも1枚辺りは$3.375であり、私は安価だと思う。関税以前は$10だと承知していれば「大変な値上がり」だと思うだろうが、初めてこの値段に接したならば「安い。買い得だ」と思って買ってしまうこともあるだろう。言うまでもないが、関税分は最終消費者が負担するのだ。

このように大雑把に試算してみると、関税を引き上げた18年度のアメリカの貿易赤字が6,210億ドルと過去最高になったのも解る気がするし、中国からの輸入の総額が目立って減少していない(と聞いた気がするが)のも「そういうものか」と思わせてくれる。見方を変えれば、この程度の関税率では輸入は急には減少しないということだと思わせる。オバマ政権時代に中国とインドネシア等のアジアの新興勢力からの印刷用紙にかけた反ダンピングと相殺関税の合計は優に100%を超えて、見事にアメリカ市場から閉め出してしまった。

この手法と現在のトランプ政権下での対中国の貿易戦争とは大いに狙いも次元も何もかも違うと思うが、私はオバマ大統領のやり方の方が解りやすい保護貿易策だったと考えている。思うに、トランプ大統領はオバマ大統領の手法を採ることは先ずあるまいと思うが、中国を相手にして今後貿易戦争というか通商政策をどのように展開して行かれるかで、我が国の経済にも大いなる影響があると思うので、政府は引き続き注意深く見守っていくと共に、確実且つ慎重な対応策を講じねばなるまい。