新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

私が見るトランプ政権の不安な点

2019-05-10 15:00:10 | コラム
USTR代表と国務長官が:

私は習近平というか中国が一帯一路(One Belt and One Road Initiativeと言うようだが)、AIIB、アフリカの貧困国家への高利の貸し付けと取り立て、南沙諸島等の海域の埋め立てと軍事基地化、華為等を使って不正に情報を収集する法律の推進、太平洋への進出(我が国を属国化するという野望を含めて)を強引に推し進める以上、アメリカとトランプ大統領には中国を可能な限り叩いておいて頂きたいと願っている。あらためて申し上げておけば、中国からの輸入品への関税の賦課はその中国叩きの一部であるという認識である。

だが、その対中国の貿易赤字削減作戦の他には、選挙公約の一項目だった「我が国による貿易赤字削減」も入っているし、トランプ大統領自身が今月の来日時にはTAG(FTAと同じこと)の話し合いを終えようと表明されているのだ。このことに私は、長い間のアメリカの会社の一員として対日輸出に励んできた者として不安感を抱くのである。その理由はポンペオ(R.M. Pompeo)国務長官、ライトハイザー(Lighthizer)USTR代表共に弁護士であって、海外でのビジネスに携わった経験をお持ちでないことである。特にポンペオ長官に至ってはハーバードの法科大学院に進まれる前の学歴は陸軍士官学校である。

私は在職中にM社とW社で海外貿易担当の管理職に仕えたこともあれば出会ったこともあった。在日のアメリカのメーカーの代表者や担当者と語り合えるチャンスもあった。また直接・間接にアメリカの海外事情に精通された(とされている)方々とも交流の機会があった。そういう方々の日本という国とアメリカとは違いすぎる文化についての認識が「流石」と感心させられた場合と「その程度の浅薄な認識で善くぞ日本担当をやっているな」と不安にさせられたことも多々あった。

遠回しなことを言わずにズバリと言えば、このアメリカの対外交渉と通商交渉の責任者であるお二方がどれほど我が国の事情を把握して事に当たっておられるのかということだ。私が常に例に挙げてきた1990年代のUSTR代表のカーラ・ヒルズ大使は「アメリカの労働力の質の低さが対日輸出が振るわない大いなる原因である」と公開の席で発言された。1994年7月のことだった。私に言わせて貰えば「そこまでお解りならば、何故手をお打ちにならないのですか」となるが、これは一朝一夕には改善できる問題ではないのが、アメリカが抱える障害物なのだ。

別な懸念材料を挙げれば、2002年3月に(私が勝手に訳せば)アメリカ大統領の経済問題諮問会議・会長であるRGH氏の「日本の経済発展を阻む材料」という講演を聴く機会があった。私をこの講演会に誘って下さった北欧の代表的多国籍企業の日本法人副社長のHK氏と終了後に語り合ったことはと言えば「この程度の底の浅い日本とその経済の認識でアメリかではその分野のエキスパートで通用するのか」だった。

私はこれまでに何度か機会があれば「内側から見たアメリカ」を語って来た。即ち、何度も述べてきたことで、アメリカの大手の対日輸出企業の一員として「彼らの思想信条、哲学、文化、手法に基づいて」働いてきたのである。即ち、偶然ではあったが、幸運にも駐在されたりIvy League 級の大学に留学されても経験乃至は見聞できないような、「アメリカのビジネスの進め方」を22年半も彼らの仲間として経験してきたのである。

アメリカの大手メーカーの輸出担当の管理職にも「国内市場も輸出も分け隔てなく同じアメリカ式の手法で推していく人もいれば、私が生涯最高の上司と呼ぶ副社長兼事業部長は社内でも(変な言い方だが)「日本人殺し」と渾名されたほど日本市場を深く理解し、日本人の心理を読み切って仕事を推し進めていた者もいた」なのだ。また、ある意味で最大のcompetitorの日本支社・社長だった日系人の某氏は「日本支社が果たすべき役割とは」を実に良く理解されていた。こういう存在は私に言わせて貰えば「珍しい」方に入るのだ。

そこで、ポンペオ長官とライトハイザー代表は着任後未だ1年も経っていないと思うが、そこまでの間にアメリカと海外の諸国との間にはビジネスの面と文化の点で違いがあるのかと、それ以上に重要な「何故アメリカ製品が国際競争力というか輸出市場では劣勢なのか」をカーラ・ヒルズ大使ほどに承知しておられるのかという点である。しかも、私の経験からも言えることは「アメリカの質に問題がある労働力というかworking classこそが、トランプ大統領の最大の支持基盤なのである。ポンペオ長官の言動は私には「これを言うことでしなう物はない」式な「上から目線」に見えるのだが。

私が懸念することは、彼らお二方がトランプ大統領に向かって「貴方の支持層の意識を改革して労働力の質を高め、国際競争能力を高めることこそがアメリカの輸出能力を増進し貿易赤字削減にも大きく貢献するのです」進言するかという点だ。既に指摘したことで、「アメリカに対する輸出を減らせ(例えば我が国からの車の輸出量を規制する)と言いたいのであれば、輸出の能力を高めることに着手して欲しい」のである。輸出を増やす為には「日本支社乃至は事務所に日本市場を熟知した適材を雇用し、拡販体制を整える」べきなのである。

日本支社乃至は事務所を論じればキリがないと思うので別な機会に譲りたい。だが、一つだけ挙げておくと「適材は他社から勧誘するか引き抜きになるが、そういう有為な人財を日本の会社が容易くに手放すか」という問題にもぶつかるのだ。私が知る限りのアメリカの日本の組織が犯した過ちは「英語が上手い者は優秀な人材である」という誤認識だった。

参考資料:Wikipedia