新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

対日貿易赤字削減は選挙対策?

2019-05-30 09:11:52 | コラム
トランプ大統領の主張は比較的解りやすかった:

私は先頃の成功だったと各方面で言われているトランプ大統領の3泊4日の訪日中の発言は決して“unpredictable”ではなく、寧ろ解りやすいなという受け止め方をしていた。それは既に採り上げた宮家邦彦氏の指摘を待つまでもなく、トランプ大統領の言動は概ね再選に向けてのキャンペーンの様相を呈していたからである。しかも、アメリカに向けてテレビ中継させていたのであれば、彼の支持層であるプーアホワイト、農民層、労働者階級、少数民族に向けて、彼らにとっても解り易く、受け入れられそうなことを主張して見せていたのだ。

しかも7月や8月と期限を切ったかのように貿易問題というのか農産品の輸出や日本製自動車の輸入問題等を敢えて語って見せたのは、ご自身が抱えておられるロシア問題等を別にすれば、改訂したはずのNAFTAは未だ議会の承認待ちであるし、中国との話し合いも期限を延ばしたものの未解決であれば、細川昌彦氏等が既に指摘されたことで、この状況下にあってはトランプ大統領以下には焦りが見えるという実態を、我が国に滞在中にも明らかに見せていたということのように思えるのだ。

特に私が「支持層向けの発言だ」という印象を受けたことは「対日貿易赤字を“tremendous”という形容詞を使って強調して見せた点」だった。周知の事実であると思うが、アメリカの持つ最大の貿易赤字は対中国であり、我が国は中国の数分の1で全体ではドイツよりも少ない第4位である。その赤字の何処かtremendousと言われたいのかと思って承っていた。トランプ大統領の就任以来の主張は「日本から何百万台(millions ofという表現を使われている)もの車が輸入されているのはunfairである。これを是正した」というものだが、これは完全な誤解である誤認識だと専門家は指摘されているし、私もそう認識している。

なお、我が国からの輸出の実績は約170万台で、現地生産は700万台に近いのだ、念の為。ここで、英語の講釈をしておくと、Oxfordにはtremendousとは”very great“となっている。

だが、ここでもこの表現の仕向先が所謂ラストベルトと言うかミシガン州のデトロイトの労働者階層(トランプ大統領の言い方はworking classであるが)であると考えれば、納得できなくもない。だだ、安倍総理も茂木担当大臣のこのアメリカとの貿易交渉の歴史を正しく認識して頂けるように、改めて丁寧に解説して差し上げるべきだろうし、強行派と言われているライトハイザー代表にも認識を改められるように、真っ向から申し入れるべきだと思う。

私はこの自動車問題の件になると、思い出すことがある。それは以前に細川昌彦氏が「もしもアメリカから毎年100万台の車を輸入するという協定を結んだと仮定すると、実際に輸入されてくるのはアメリカ産の日本車が大宗を占めるのではないか」と語られたことである。私はまさかトランプ大統領が本当にアメリカの自動車産業界が抱えている労働力の質を含んだ諸問題をご認識の上で「日本車の大量輸出はunfair」と言っておられるのではないと思いたいのだ。事実、デトロイトは大統領に日本の自動車産業叩きを請願していないと報じられていたではないか。

アメリカ対日本の貿易問題をここまで見てくると、もしもトランプ大統領の再選を支持して何らかの貢献をしたいと言うかすべきであるという見解が安倍政権にあるのであれば、TAGであれFTAであれ交渉を進めねばなるまい。だが、今のアメリカのUSTRがそこまで手が回る余裕があるのかは甚だ疑問だ。さもなくば、我が方で自動車か農産品(TPP以上に関税を引き下げずに)以外の分野で貢献する道を探らねばならないかという気もする。だが、どれをとっても時間的にも無理筋のようにしか思えない。ライトハイザー氏にせよボルトン氏にせよ、この際「強硬一点張りは得策ではない」と申し上げておきたい。