小足と小柄の悩み:
去る24日に地蔵通りの洋品店「マルジ」に探しに行った品物(最近常用されているカタカナ語では「アイテム」になってしまったが)の一つが、掲題の小さい靴下だった。私の足は靴でも靴下でもメーカーによって変わるが、23.5~24 cmが丁度良い大きさなのだ。ここに私の悩みがあって、近年は我が同胞の体格が著しく向上した結果で、靴下では25~27 cmが標準となってしまったようで、ユニクロでもドンキホーテでも無印良品でも、24 cmはお呼びではないのである。靴でも、24.5 cmが置いてあるのを見つければ「その時は買うべき時」なのだ。
その希少価値が出てきた24~26 cmで、しかも室内履きにしたいような靴下はマルジにでも行かない事には、滅多に手に入らないのだ。そこで、折角車があって仮令混雑する縁日であっても、地蔵通りに向かって行った次第だった。そして、運良く希望のサイズを入手できて目出度し目出度しだったのだ。この小さい靴と靴下を探し求めていて、何時も思い出す言い方に「馬鹿の大足、間抜けの小足、丁度良いのがくそたわけ」があった。自分が間抜けかどうかは知らないが、海外でも色々と経験したものだったので、この際回顧してみようと思う。
*5-1/2(5 and half)はサイズという名に値しない:
これは靴のサイズの話で、日本式に言えば23.5 cmになるだろうか。1976年にニュージャージー州のアトランテイックシテイーで靴のブランドであるジョンストン&マーフィーの店に一歩踏み込んだ瞬間に、店主が私の足下をジロっと見て「5 and halfは置いていない。何故ならば、その大きさはサイズの名に値しないからだ」と言い切ったのだった。軽蔑されたと解釈して非常に不愉快だったが、仕方なく外に出た。
*We don’t carry 38 extra short.:
これは1973年だったかのニューヨーク市での出来事。5番街だったと記憶するが、散歩中にぶらりと洋服店に入って回転するスーツのハンガーに触れていると、近寄ってきた店員に“We don’t carry 38 extra short.”と言われたのだった。これは「胸囲の狭い極小のサイズは置いていない」という意味で、矢張り馬鹿にされた感が濃厚な言い方。ところが、その店員が「ほら、ご覧」と回していると、何とそのサイズの気が利いたピンストライプで、濃い灰色(チャコールグレー)のスーツが出てきたのだった。そこで、彼は一転して平謝りで「是非ともお買い上げを」と迫ってきた。もとより、最初の無礼さに腹が立っていたので拒否した。後になって解ったことだが、この手の小さい物は先ず売れないので、見込み客を見つけた時即ち、何としても売り込む機会なのだった。
確かに、アメリカの東海岸では小さいサイズは先ず手に入らなかったが、西海岸であるワシントン州のシアトルに来ると、話は変わってきたのだった。デパートやブランド物の靴屋には23.5 cm相当の靴が置かれていたのだった。不思議に思って現地人や駐在員の方々に教えを乞うと、理由は簡単で「西海岸には中国人を始めとしてアジア系アメリカ人や移民が多いので、小さいサイズの需要があるのだ」と言うことだった。
*2足如何ですか:
これはシアトルのBallyの専門店でのこと。5-1/2の靴はは先ずあるまいと思って、気楽に眺めていた。すると、何と“Sale”と銘打った棚の中にそのサイズで濃紺の格好良いスリップオンの靴があったのだ。アメリカのセールである以上、先ず正価の半額以下だったし、為替レートの悪戯で我が国で買える普通の靴の値段以下になっていた。それでも「濃紺では」と迷っていると、店員に腕を捕まれて「滅多にない買い手を見つけたので、何とかお買い上げを」と迫られた。
彼は「濃紺でも他人はそこまで見ていないし、黒に見える」と口説いてきた。試着(試し履きか)するとピッタリだったし、午後3時を過ぎていて靴を買うには適した時刻だったので思い切ることにした。すると、彼は「一寸お待ちを」と言って引っ込んだかと思えば、茶色の同じサイズの靴を持ってきて「2足買って貰えれば、もう少し値引きする」というのだった。これは固持して1足だけにしたが、後になって「買っておけば良かった」と少し悔やんだ。こういう事情で、私は5-1/2の靴は全て良い値段でアメリカ、それもシアトルだけで買っていた。
また、スーツは買わなかったが(胸囲は合ってもズボンの胴回りが合わなかったので)ブレザーなどはブルックスブラザーズ(BB)で買っていた。アメリカ物は袖丈が長すぎたが、BBにはテイラーがいて、その日のうちに寸法を合わせて、ホテルに届けてくれるサービスがあったので便利だった。即ち、小足でも小柄でも西海岸に行けば何とかなっていたのだった。しかも、値段は経済的なのだったから言う事はなかった。カリフォルニア州のロデオドライブ(だったか)のBBのセールで買った3着$150の柄物のシャツも、サイズはピッタリだった。これでも「間抜けの小足」と言われるのだろうか。