新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

この草原が空港だって

2023-06-10 07:56:23 | コラム
アメリカにようこそ:

今回は私がアメリカで訪れはしたが滞在しなかった3州の最後になる、Idaho(アイダホー)州を取り上げてみよう。アイダホーはワシントン州の東隣の州で「アイダホーのポテト」と聞けばご存じの方がおられるかも知れない。今はどうなっているか知らないが、在職中にはここから我が国に輸出されるフレンチフライ用のポテトがアメリカ西海岸からの重要な輸出品目の一つだったそうだ。

アメリカ西海岸の北部、即ちPacific Northwestの産業界にはウエアーハウザーとBoing社しかなく、こと輸出となると我が社の紙パルプと木材製品、ポテト、飼料用の干し草と水産物くらいしかないような、言わば不毛の地だった。水産資源というか水産物は豊富だが、これはまた別の分野のことで、私には語れない。

だが、私が関心を持っていたのはこういう問題ではない。アイダホーにはPotlatch(ポトラッチ)という我が事業部の最強・最大・最悪の競争相手であった非常に技術に優れた工場がLewiston(ルイストン)にあったのだ。しかもPotlatchは我が国には我が社よりも遙か前に進出して、その優れた品質に対する各方面の評価が極めて高かった。それだから、後発の我が方は常に彼らと比較されて屡々窮地に陥っていた。

82年にスゥエーデンが世界に誇る多国籍企業のT社の日本法人のHK副社長が、就任以来で初めて、アメリカに出張されて原紙の供給先を訪問することになった。確認しておくとK氏は日本人である。K氏は最初に我が社に来られたのは良かったが、次に訪問されるLewiston工場には最寄りの空港で待ち合わせの時刻しか聞いておられないという不明確な予定だった。

そこで止むを得ず、我が社から最も小さいジェット機でルイストン空港までご案内することにして、私も同乗した。さて、パイロットが「確かここだ」という草原にしか見えなかった場所に着陸してみれば、広い野原の真ん中に一本の滑走路があるだけで人っ子一人見当たらず、掘っ立て小屋と玩具のような管制塔が建っているだけの代物。兎に角、K氏が降りて暫く待っていると、何処からともなく車が現れて、同氏を連れ去った。これでお役目は終わった。

折角ここまで来たのだからと少し歩いてみると、空港(草原?)の周囲には森林があるだけで人が住んでいる気配もない。だが、私としてはIdaho州内に一歩足を踏み入れた実績には変わりないと思った。やがて、パイロットが掘っ立て小屋の空港管理事務所で離陸許可を得てからシアトル空港に向かった。後になってよく考えてみれば、あの場所ではシアトルからでも何処からで長時間のドライブか、あの飛行場を利用する以外の交通手段はないだろうということ。

あれほど国土が広いアメリカでは鉄道網が発達していないので、車と飛行機に依存することになるのは解る。だが、あのルイストンの空港には驚かされた。恐らくあのポトラッチの工場を訪れる人以外に沢山の人が訪れる場所ではないだろうから、あんな何の投資もしていない空港になったのだろうかと思って離陸した「あれはアメリカ的合理主義の表れか。でもアメリカって広いな」などと道中考えていた。

余談だが、Potlatchは非常に技術も優れているが、良い紙を作るのに最も適していると業界で認めている針葉樹、SPF(Spruce, pine, fir)(=トウヒ、マツ、モミ)の森林地帯の近くにLewiston工場があるという立地条件にも恵まれている。なお、現在は「クリヤーウオーター」に社名を変更している。思い出話であった。