Fish On The Boat

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『シャネル--最強ブランドの秘密』

2013-01-12 00:29:09 | 読書。
読書。
『シャネル--最強ブランドの秘密』 山田登世子
を読んだ。

20世紀のフランスに生まれた、世界をまたにかけた一流の女性向けブランド・シャネル。
その創始者であるココ・シャネルの仕事、恋、考え方、などを軸にして一生を追った本です。

彼女がその絶頂期と言われるくらいの活躍をした1920年代のパリの描写があるのですが、
ストラヴィンスキーやサティやピカソにコクトーなど、そうそうたる顔触れがみられます。
あの時代の、世界の文化の中心地だったんでしょうね。その空気を僕も嗅いでみたいくらいです。

それはさておき、
シャネルという人は、この一冊を読みとおした印象だと、
自己肯定によって成功した人のようですね。
肯定された自己が、時代の空気、その変化の時期にジャストに合っていた。
それまでの大仰なドレスを着ていた女性たちは、
男性のファッションからフィードバックされた新しい、実用的なファッションを選ぶようになり、
それはまさに革命だったようです。

ただ、シャネルは、最初こそ、長く着られる服こそぜいたく品として、それまでの使い捨ての
ぜいたくを批判したのですが、それから自らが大きな会社を持つようになると、
その否定したはずの、使い捨てのファッションを肯定することになります。
それが、ビジネスにとっては都合が良いからです。
そのあたり、たくましさを感じますし、そういうところだけ頑固じゃないのが、
商売のうまさであり、商売人そのものの姿を感じさせられました。
巨額のお金のためならば、そういう自分の小さなこだわりは捨てる。
「シャネルおばさん、そういうところだけ便宜的だね」と軽く言葉のジャブを見舞ってやりたい
気持ちもしました。

また、彼女は、自分のシャネルというブランドの服のコピーが大量になされて、
安く売られている様を肯定し、逆に喜んだそうです。
それは、本物の質の良さに対する自信があって、偽物が出回るほど、本物の価値が高まるという論理を
最初からわかっていたためのようです。
また、イミテーションジュエリーというものを作って、
本物の宝石類のもついやらしさ(権威や財力の象徴としての宝石のいやらしさ)
を抹殺してしまおうともしました。
彼女の人生には、このように、いろいろなコピーが出てきます。

彼女が他のクチュリエたちとは違って、コピーを認めたからといって、
それを現代に適応して類推してしまうのはちょっと違うんですよね。
音楽のデジタルコピーなどは、話は変わってきます。
しかし、それに類する、ポストモダン期になると出てくるという
コピーの氾濫のさまというものの走りは、きっとこの20年代のファッション業界に
あったんじゃなにかと思ってしまいますね。
ポストモダンのコピーというものは、オリジナルがまずあって、それをデータベースとして、
そこからコピーがどんどん生まれていくというもので、コピーであっても、すべてが
本物と同等かそれに近いものだったはずです。
ポストモダンについての詳しくは、東浩紀さんの『動物化するポストモダン』を読んでください。
このシャネルの本を読んで、きっと、初めてポストモダンというものを考えた人は、
この20年代のファッション業界から、それはきっとあまり悩まずに未来を見たんだなという気がします。

それほどに、ファッションというものは、
人間の感覚においての先鋭的なものをくみ上げられるんじゃないかと思うのです。
言葉も論理も追いつかない感覚の早さ、その最上級の早さでもって動く世界が、
当時のファッション業界だったかもしれないです。

普段、まるで足を突っ込まない分野だっただけに新鮮な本でした。
女性の方は、もっと面白くそして身近なこととして読めるのでしょうかねぇ。


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