Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『成功する子 失敗する子』

2020-10-26 00:25:10 | 読書。
読書。
『成功する子 失敗する子』 ポール・タフ 高山真由美 訳
を読んだ。

いわゆる「知能」は、
今でも、IQの高さや成績の良さなどを尺度に語られる性質のつよいものです。
これらは、最近では「認知スキル」とくくられるそうです。
そして、認知スキルこそが何より重要だとする人(認知決定論者)の言い方として、
「重要なのはIQであり、それは人生のかなり早い段階で決まるものである。
教育とはスキルを身につけさせるものではなく、人々を選り分け、
高いIQを持った者に、潜在能力をフルに発揮させる機会を与えるものだ。」
というものが、いくぶん極端ではありますが、あります。

そういった「認知スキル」のいっぽうで「非認知スキル」と呼ばれる能力があります。
「非認知スキル」とは、やり抜く力、自制心、好奇心、誠実さや意志の強さなどなどのことです。
本書では、「認知スキル」よりも「非認知スキル」のほうがずっと大切である、
という昨今の研究を軸に、
発達心理学と労働経済学、犯罪学と小児医学、ストレスホルモンと学校改革など、
それぞれ独立した分野を繋げることで浮かびあがる事実から、
子ども時代の貧困などからくる劣悪な家庭環境や人間関係などの逆境でそこなわれる人生を、
どうすれば救えることができるのかを探り明かしていきます。
「非認知スキル」をはぐくみ、生かして好転するケースやデータを例示し、
とりあげられたさまざまな逆境にあえいできた人物のストーリーを語りながら、
その大事さがつまびらかになっていきます。

性格ってすごく大事なんだ、ということなんですよね。
これは政治的にいえば保守の人たちが「それみたことか」
とふんぞりかえってもおかしくない結論でもあります。
性格を作っていくには道徳教育が必要になります。
道徳教育なんていうと、抽象的だし精神論的でくだらない、なんて怒る人も多い。
しかし、ここでいう道徳教育は、
権威や規則に従え、というものではありません。
そういった、「それは誰の倫理基準・価値基準なのか?」
という疑問があたまに浮かぶような、従来の倫理・価値に従う種類の道徳教育ではなくて、
自制心や意志力を持とう、というような、
有意義で充実した人生のための能力を自覚するためのような教育です。
個人主義的な道徳、といいますか、
または、自分を守り尊重するための道徳、といえるのではないでしょうか。

アメリカでは、KIPPアカデミーという教育機関が、
「非認知スキル」を育てることで学力も向上させるシステムを作り上げ、
社会的にも経済的にも学力的にも恵まれていない子どもたちを
大学に入学させるまで育てて注目されて、
アパレル大手GAPの創業者の目にとまって多額の寄付を集めたりしたそうです。
KIPPアカデミーは数を増やし、質を高めて今日にいたっているようですが、
本書でKIPPアカデミーを扱った章を読むと、
そのやり方がふつうの日本の学校のやり方に通じるようにも感じられて、
アメリカでは新しいやり方であっても、僕としては懐かしさのようなものが甦るものでした。

そうなんですよね、
本書の帯には書評サイトHONZの代表である成毛眞氏の言葉として、
「『やり抜く力』、『自制心』、『好奇心』、『誠実さ』
これこそ、われわれ日本人が再発見すべき能力だ!」
とあります。
日本人って非認知スキルを大切にしてきたところはあると思います。

最後に、
これはしっかり覚えておきたいところを。

性格や知能は変えていける。
変えていけると信じている人は、そのしなやかな姿勢ゆえに変えていける。
変えていけないと考える人は、その凝り固まった姿勢ゆえに変わらない。
性格も知能も、影響をうけやすいのがほんとうのようです。
人間は柔軟にできているんです。
また、
思春期にうまく挫折や失敗をする大切さについての話もありました。
(僕個人は過保護に育ったので、思春期は失敗や困難を渇望して反抗したもんだった。
それを思いだしました。)

示唆されるところからいろいろとふくらんで読めていく、内容のある豊かな本でした。
やっと手に取りましたが、読んでよかったです。


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