Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『意識と無意識のあいだ』

2022-10-14 18:18:25 | 読書。
読書。
『意識と無意識のあいだ』 マイケル・コーバリス 鍛原多惠子 訳
を読んだ。

目的不明の思考が自然と生まれ、その思考は意識をさまよい、うつろっていく。授業中、仕事中、いやいや読書中にも運転中にだってそれはあるものです。この作用をマインドワンダリングと呼びます。マインドワンダリングしていると「集中しなさい!」と授業や仕事に呼び戻され、読書中にそれに気づけばハッと意識を正すようにして読書に戻る。運転中のマインドワンダリングならば、もしもそれが深いものならば事故の危険が高まります。「集中しないと!」と目を見開いたりするかもしれません。

時代はマインドフルネスが力を持っています。マインドフルネスは、「今ここ」に集中する方法です。雑念を払い、今を十全に感じることで、生きている実感や充実感とともに、意識がすっきりするとも言われます。ひとつの瞑想法です。対してマインドワンダリングは、「今ここ」に集中しません。マインドタイムトラベルと呼ばれるような、意識の中で過去や未来へと思念を飛ばしあれこれ考えを巡らせるようなことも含まれます。マインドフルネスが正しい行為であると決めてしまえば、マインドワンダリングは取り除くべき悪い行いなのでしょうか。本書は、これまでに解析されたマインドワンダリングのメカニズムをたどり、それらの研究にもとづく論理的な筋を骨子としながらも、数多の文学作品の引用をまじえて味わい深くその意味を語ってくれるエッセイです。

マインドワンダリングが生まれるのは、安静時の脳で活動するのデフォルトモードネットワークという神経網の状態からです。といいますか、デフォルトモードネットワークの状態で脳は何をやっているのか、と考えていくとマインドワンダリングがあった、といったほうがわかりやすいでしょうか。活動してない状態なのに、活動時よりも脳が活発に動いているデフォルトモードネットワークの状態が不思議で、それがどういうことか、と追ってみたら……ということです。

前述のマインドタイムトラベルについて考えを深めるとわかるように、マインドワンダリングには「記憶」が重要なソースとなっているようです。つまり、脳の海馬が関係している。この、海馬を損傷した人を調べた研究によると、マインドワンダリングは生じていないようでした。その人の脳でデフォルトモードネットワークが起こっていないと考えるのは難しいので、デフォルトモードネットワークの活動中にマインドワンダリングを起こすためには海馬の能力が必要だということでしょう。

また、私たちは他者がなにを考えているか知る能力に長けています。これを「心の理論」と呼ぶそうです。他者の気持ちになって考えたり、他者が間違った信念を持っていることに気づいたり、そういったことはシンパシーやエンパシーができるからですが、これらを行っているときは、デフォルトモードネットワークが活性化しており、つまりマインドワンダリングが作用していると考えられるそうです。

その後、本書では、マインドタイムトラベルとマインドワンダリングの性質から、物語を作る能力や夢を見る能力につながることを論じていきます。そして、その先に、マインドトラベルと創造性の関係が浮かび上がってくるのでした。マインドワンダリングは、ランダムに思考が浮かんでくることでもあります。ランダム性というものは、「たまたまやってみる」という行為を生むもので、その結果として、「たまたまやってみたらうまくいった」こともでてきます。これがいわゆる、新しいアイデアが成功した瞬間なのでした。創造的です。この先に何があるのかといったことを知るには、さまよってみることが必要です。思考も同じで、思考をさまよわせる(マインドワンダリング)ことで、考えたことのない考えを発見することがあります。さまようことの大部分は、逸れたり失敗したりすることでしょう。創造的ということはそういったことなんだと思います。

またこの論理を、たとえば読書という行為へと当てはめてみるとします。すると乱読というランダム性にはどうやら効能があるだろうことがわかってくると思います。調べ、深めるための体系的な読書は素晴らしいですが、アイデアの発見、知的領域の新大陸発見のための乱読だってすばらしいと言えるのではないでしょうか。

最後に。
脳には右脳と左脳をつなぐ脳梁という部位があります。その脳梁が小さいほうが創造的らしいそうです。右脳と左脳それぞれが独立していることに理由があるのではないか、と。大きなひとつの枠組みで考えるよりも、二つの枠組みで考えるほうが創造性に繋がるのではないかということでした。なかなか意外ですけれども。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする