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“わが闘争”解説付きで再出版 ひろがる波紋

2016-01-20 07:30:00 | 報道/ニュース

1月9日 おはよう日本

ヒトラーの著書“わが闘争”が社会的な背景を説明した解説を付けることで
読者に歴史的な教訓を学んでもらおうと70年ぶりに再出版された。
これに対しドイツ国内では
いくら批判的な解説をつけても再出版すべきでないという意見も出ている。

ドイツ ミュンヘン市内の書店。
“わが闘争”が8日から販売が始まった。
学術的な本として現代史のコーナーで売られている。
今回「わが闘争」は約4,000冊が出版された。
ヒトラーが書いた原版に加え
ページ数にしてそれを上回る学術的解説が付いている。
例えば
“ユダヤ人は金持ちばかりで貧しい人はいない”という原版。
“実際には貧困に苦しむユダヤ人も数多く存在していた”と解説し
“記述は偏見に満ちたものだ”としている。
(本を買った人)
「大学でドイツの現代史を研究している。
 解説付きの本が出版されるのを待っていた。」
再出版に踏み切ったのはミュンヘンの公立の現代史研究所である。
ナチス・ドイツの思想が再び社会に広がらないよう
その危険性を正しく理解してもらおうと
研究所では3年余にわたって本に批判的な解説を付ける作業を行ってきた。
研究所が懸念してきたのがインターネットの外国のサイトである。
「わが闘争」の内容が掲載され誰でも閲覧できる状況が続いてきた。
研究所は
“本の著作権が切れた今こそ危険性を伝える解説付きの本を出版する必要がある”
と考えた。
(現代史研究所 アンドレアス・ヴィアシング所長)
「このような非人間的な本を誰もが読めるように放置しておくのは無責任だ。
 ナチズムや人種差別主義を解明し
 批判的な解説をつけた本の出版が社会のために必要。」
戦後70年が過ぎ
ドイツではヒトラーやナチズムに対する警戒感が一部で薄らいでいる
と指摘されている。
去年の秋にはヒトラーを主人公にしたコメディー映画が公開され大ヒットした。
(映画を見た人)
「もう時代が違う。
 彼は笑いの対象で
 昔のように彼を信奉する人などいない。」
戦争を知らない世代が国民の大半を占めるなか
ドイツの教育界からは今回の解説付きの「わが闘争」の出版に賛同する声も上がっている。
教員の全国団体は16歳以上を対象にした歴史の授業の教材として推薦した。
(ドイツ教職員連盟 ヨーゼフ・クラウス代表)
「インターネット上に出回るものに生徒が触れるとうのみにしてしまう恐れがある。
 教師が授業で丁寧に教えればそれを防げる。」
一方で「わが闘争」の再出版を憂慮する人もいる。
ベルリンに住むユダヤ系ドイツ人のララ・ズースキントさん。
2008年にユダヤ人に対する犯罪などを調査する民間団体を起ち上げた。
ドイツ国内ではユダヤ人を対象にした犯罪や嫌がらせは増加傾向にあり
その内容は激しくなっているという。
(ララ・ズースキントさん)
「“弱虫のユダヤ人 やれるものならやってみろ”と叫んでいる。」
さらにズースキントさんは今回の出版のタイミングも最悪だという。
かつてナチス・ドイツは「わが闘争」を根拠にユダヤ人などを迫害し
多くの難民を生み出した。
その反省からドイツは難民に対して寛容な政策をとり
中東などから100万人を超える難民や移民が到着した。
しかしあまりに多すぎる、と
ドイツ国内では難民たちの受け入れに反対する動きも活発化している。
「わが闘争」の出版はそうした排他主義をあおりかねないと危惧されている。
(ユダヤ人団体の代表 ララ・ズースキントさん)
「人殺しのヒトラーが書いた本を再び出版する必要があるのか。
 解説を付けても飛ばして読む人が出てくる。
 難民問題などで揺れているこの時期に世に出すことは大きな過ち。」
差別や偏見をあおる危険な思想が二度と社会に広がらないように
ヒトラーの本をどう扱うべきか。
ドイツにとって難しい問題になっている。

今回 再出版された「わが闘争」についてはドイツ国内の書店でも対応が分かれている。
大々的には店頭に置かない。
注文が入ったときにのみ販売するという店が大部分だが
販売しないという書店もある。
一方 地元のメディアでは
解説付きで「わが闘争」を出版することについては理解を示す論調が目立つ。
難民や移民への風当たりが強まっている時期でもあり
関係者は当面 国内の反応を見ながら慎重に対応しようとしている。


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