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一輪の冬菊

2016-01-30 07:30:00 | 編集手帳

1月26日 編集手帳

 

 花や木には目に見えない時計が内蔵されているという。
針は暗黒の時間を刻み、
それが一定の長さを超えたとき、
つぼみをつける。

植物学者、田中修さんの 『つぼみたちの生涯』(中公新書)によれば、
キク科のオナモミは8時間30分の暗黒を経てつぼみをつけるという。
8時間15分ではつけない。
よほど精巧な 時計なのだろう。
孤独な暗闇の果てに花の咲く日が用意されている。

キク科の花には人生の趣があるようで、
水原秋桜子の句を思い出す。
〈冬菊のまとふはおのがひかりのみ〉。
人もときに、
自分の放つ意志の光を頼りに冬を耐えねばならない。

大相撲にも一輪の冬菊がいる。
初場所で初の賜杯を手にした大関琴奨菊関(31)はけがに泣き、
5回のカド番を経験した。
成績不振の場所が5場所あり、
陥落の危機をしのぐ場所が5場所あったということは、
計10場所、
大関在位26場所のじつに4割近くが厳冬期だったことになる。

長い暗闇を抜けて冬菊の咲いた日、
九州の故郷に雪が舞った。
〈天上に宴(うたげ)ありとや雪やまず〉(上村占魚)。
誰よりもその日を待っていたという亡き祖父の、
万感の宴であったろう。

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