1月26日 編集手帳
花や木には目に見えない時計が内蔵されているという。
針は暗黒の時間を刻み、
それが一定の長さを超えたとき、
つぼみをつける。
植物学者、田中修さんの 『つぼみたちの生涯』(中公新書)によれば、
キク科のオナモミは8時間30分の暗黒を経てつぼみをつけるという。
8時間15分ではつけない。
よほど精巧な 時計なのだろう。
孤独な暗闇の果てに花の咲く日が用意されている。
キク科の花には人生の趣があるようで、
水原秋桜子の句を思い出す。
〈冬菊のまとふはおのがひかりのみ〉。
人もときに、
自分の放つ意志の光を頼りに冬を耐えねばならない。
大相撲にも一輪の冬菊がいる。
初場所で初の賜杯を手にした大関琴奨菊関(31)はけがに泣き、
5回のカド番を経験した。
成績不振の場所が5場所あり、
陥落の危機をしのぐ場所が5場所あったということは、
計10場所、
大関在位26場所のじつに4割近くが厳冬期だったことになる。
長い暗闇を抜けて冬菊の咲いた日、
九州の故郷に雪が舞った。
〈天上に宴(うたげ)ありとや雪やまず〉(上村占魚)。
誰よりもその日を待っていたという亡き祖父の、
万感の宴であったろう。