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紫煙の肩身はせまかろうと小さな箱の中には平和の心

2016-01-22 07:30:00 | 編集手帳

1月13日 編集手帳

 

 作家の高見順は日記のなかで顔をしかめている。
〈英語国に負けたので英語の名…〉とは浅薄すぎる
と(1945年11月23日付、文春文庫『敗戦日記』)。

1等「ピース」、
2等「漣(さざなみ)」「憩(いこい)」、
3等「郷土」「黎明(れいめい)」。
専売局が募ったたばこの名前を見ての感想である。
とくに1等がお気に召さなかったようで、
〈好戦国が戦争に負けるとたちまち平和、平和!〉と手厳しい。
「ピース」の発売は翌年の1月13日、きょうで70年になる。

たばこに成り代わって弁明するならば、
戦時中は口にしたくともできなかった敵性語である。

世 の人々は「ハイキング用品=錬歩用品」(敵性商品名言いかえ集)や
「ファウル・チップ=即捕外圏打」(東京六大学野球連盟用語集)にうんざりしていたこと だろう。
浅薄と言われようが、
何はともあれ“平和、平和!”、「ピース」に胸を弾ませた心情も分からぬではない。

かつての広告コピー〈今日も元気だ たば こがうまい〉が
〈今日も元気だ たばこ買うまい〉のご時世になって久しい。
紫煙の肩身は狭くなっても、
名前にこめた心はいまも小さな箱のなかに生きてい る。

 

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