7月25日 NHKBS1「国際報道2019」
エジプトではいま
ツタンカーメンの墓から見つかった副葬品に関して科学的な調査が進められている。
そこには日本の研究者も参加していて
新しい事実が次々と分かってきている。
エジプトが誇る古代遺跡
ギザのピラミッド。
そのすぐそばに建設されているのが大エジプト博物館である。
来年の開館を目指し急ピッチで作業が進められている。
最大の注目は
ツタンカーメンの墓から発見された副葬品のコレクションである。
3、300年以上前の紀元前1300年ごろに収められた品々。
その数はおよそ5,000点にのぼる。
エジプト各地に散らばっていたが
今回の博物館建設を機に初めて一堂に展示される。
副葬品の多くはこれまで本格的な科学調査は行われてこなかった。
専門家による調査で
当時の人たちの生活や技術が見えてくるのではと期待されている。
古代エジプトのファラオ ツタンカーメンの墓から見つかったベッド。
いま日本の専門家が協力して副葬品の科学的な分析が行われている。
最新の技術でスキャンし
ミリ単位の正確さで立体的に再現する。
元素をもとに使われた顔料を特定し
制作当時の色を類推する。
副葬品には木でつくられたものも多くある。
そこで
仏像など木製の文化財が多い日本の知見や技術が生かされることになった。
まずは使われた木の種類を割り出す。
たとえば戦車。
馬が引くぽポールは
1本の木を曲げる
いわゆる“曲げ木(まげき)”の手法で作られている。
細胞の形を分析した結果
使われているのはニレの木だと分かった。
しなやかさが特徴で
さまざまな方向から力がかかるポールにはうってつけである。
しかしニレの木はエジプトには自生していない。
現在のトルコから交易品として運ばれて来たとみられ
当時の王国の交易の広さがうかがい知れる。
プロジェクトのリーダーの1人
岡田靖さんは
当時の加工技術の高さを指摘する。
(プロジェクトリーダー 岡田靖さん)
「それぞれの木の特性をしっかり熟知していて
その用途に見合った使い方をしている。
曲げ木などは現代であれば当たり前に使われている技法だが
3,300年経った後でも健全な状態。
本当に適切な加工技術・知識を持っていた。
もう驚くしかない。」
調査を進めるなかでさらに興味深いことが分かってきた。
黄金のベッドにはライオンの顔がかたどられている。
そして雌牛がかたどられたベッド。
実は2つベッドは墓に埋葬されるとき間違って組み立てられたのではないかと
考古学者の間で指摘されてきた。
牝牛の頭を持つ寝台に象形文字で“ライオンの神”を意味する文字が刻まれているからである。
今回行われたX線撮影で内部の様子が初めて明らかになった。
ライオンのベッドの寝台には
大きな節や割れた跡がある板など質の低い木材が使われていた。
一方 雌牛のベッドの寝台には質の高い木材が使われていた。
しかし寝台以外を見てみると
ライオンのベッドに質の高い木材
雌牛のベッドには質の低い木材が使われていて
寝台の部分だけが入れ替わっている可能性が高いことが裏付けられたのである。
エジプト考古学が専門の河合望教授は
(金沢大学 河合望教授)
「王を埋葬したときにもバラバラの状態で墓に運ばれてきて
墓の中の暗いところで組み立てられた。
組み立てたときに間違ってしまった。
我々が家具を買いに行って
家に持って帰ってくっつけたときに間違ったりしますよね。
全くそれと同じようなことを古代人がやったんじゃないかなと。」
(プロジェクトリーダー 岡田靖さん)
「3,300年たったものを
今後その倍2倍と残していけるように保存修復もしっかり行って
今後の観察も含めて
より長くこの遺物が伝えられるように
力添えできればと考えています。」