7月27日 読売新聞「編集手帳」
記録映画「東京オリンピック」(市川崑監督)の試写会が済んだあと、
河野一郎・五輪担当相が酷評した騒ぎはよく知られている。
「こんな記録映画があるか。
作り直せ」
もちろん、
そうはならなかった。
むしろ時を追うごとに価値は高まると言えるだろう。
日本人メダリストの感動シーンが満載ですよ――
そんな宣伝文句を想像した人々の感覚を超え、
市川監督が撮ったのは、
変わりゆく日本の姿であったことは工事現場のシーンからうかがえる。
クレーンにつり下げられた鉄球が画面いっぱいに現れ、
古い建物を崩していく場面である。
鉄球の破壊力が、
日本の高度成長の一つの象徴だったことは言うまでもない。
ただし、
そうしたことは後に振り返って分かることで、
同時代に生きていると往々意識できないものかもしれない。
2020年東京五輪の開幕まで、
残り1年を切った。
公式記録映画も、
もちろん制作される。
監督は「殯もがりの森」(仏カンヌ国際映画祭グランプリ受賞)などの作品で知られる河瀬直美さんである。
河瀬さんは何を見つけ出すだろう。
どんな時代に呼吸しているか、
教えてもらいたい。