グローブ探しにバイク用品店に向かう途中。
何だか音がする。ずっと以前の、何かが微振動を続けていて、それから発せられた音に似ているようで、でも、もっと芯のある強い音。
以前の微振動は、結局のところ、前カゴをキャリアに留めているネジのうちの一本が緩んでいたからだった。今度はもっと太い音がする。
と言って、フレームやエンジンに直接絡むような音じゃない・・・・ような気は、するんだけど、メカ音痴だからその六感はあまり信用しない方が良いだろう。
何しろバイクに乗って走っている時、ってのは本当にいろんな音に囲まれている。ただ排気音を撒き散らしている、ってわけじゃない。タイヤが地面を掴む音をはじめとして、エンジンの発する爆発音、排気音、エンジン内のタペット音、チェーンとスプロケットが噛み合う音、振動するフレーム、サスペンション、各部品の軋む音・・・・。
今回は、そういう音の集合の中に、これまで感じなかった音が混じっている。
何だ、一体。
致命傷になるような音ではない、と思いながらも、何が致命傷になるか分からないのが現実世界。大拍子、大雑把な判断で事故を呼んでしまったら、それこそ「注意一秒怪我一生」。二度とバイクに乗れなくなる、なんてのは、やなこった。
乗れなくなるどころか、この世ともおさらば、なんてのは絶対に真っ平御免。
じゃ、点検だ!
今回も前カゴ辺りからの音のような気がする。カゴの中の物が跳ねる、にしては規則正しい振動音だ。けど、前のネジの緩みに比べたら、もっと音が低く、周期がやや長い。とにかくどこかのネジだ。
そう思って、走りながら前カゴを抑えてみた。が、音は収まらない。カゴじゃないみたいだ。
取り敢えず、路肩に停めてざっと見たが、どこなのか分からない。
しかし、大体、そんな適当な見方じゃ、見つかるものだって見つからないだろう。
ここはちゃんと腰を据えてかからねば、と思いながら、すぐ目の前の、最初に寄るつもりだったバイク用品店に入る。
店を出て、珍しいことに、それをすぐ思い出し、その場で再度点検にかかる。
前カゴから音がするなら、カゴを留めているネジが緩んでいるわけだが、そのネジは、前回、しっかり締めた。ならば・・・?
カゴを留めるネジではなく、カゴを留めるフロントキャリアを留めるためにフロントフォークのフレームから突き出しているボルトを締め付けるナットが、とんでもなく緩んでいた。
フロントキャリアは左右のフロントフォークに小さなネジで留めてあるからそう簡単に脱落はしないが、一番大事なネジがこれであることは間違いない。
・・・・・、でも、ということは餘部に行った時は既に相当緩んでいた、ということか。
わかって安心したものの、指である程度締めてやれば何とかなると思って手を入れてみるが、余りの狭さに指先で挟むことすらできない。
こんなに緩んでいるのにどうして締めたらいいのか、と考え、これなら、と両手の人差し指で挟んでみる。それで締める。少なくとも、これで走行中にはじけ飛んでしまうおそれはなくなった。
家に帰って、忘れぬうちに、とスパナセットを引っ張り出し、作業にかかる。
このスパナを使って、でさえ隙間が狭くて結構時間がかかった(と言っても数分間)。
ん~、やっぱり、乗車前点検、ってのは大事だな。
勿論、大雑把・大拍子な運転をしたからと言って、事故が起きるとは限らない。
乗車前点検をしたからと言って事故が無くなるわけではない。
ただ、乗車中に不具合が見つかれば、そっちに気を取られるから事故を起こす可能性は、間違いなく高くなる。