また石平氏の対談から。
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「団結の日本 議論の中国」
加地伸行 大阪大学名誉教授
石平 評論家
「”公”がない中国人」
加地
中国には「宗族」という独特のシステムがあることも知る必要がある。いわば一族主義ですが、この存在が中国の強みになっていることも確かです。
石平
十年前、すでに故人だった祖父の生誕祭を四川省で開催しましたが、石一族だけで三百人も集まりました。中国の昔の相続制度では、長男だけが家を継ぐものではなく、どんどん分家をつくっていくので、石一族の最盛期には何千人もいました。宗族内で先祖崇拝の拠点、祠堂をつくり、そこで先祖崇拝の儀式や裁判を開きます。また貧しい家庭には一族でお金を集めて助けたり子供たちを集めて塾を開き勉強会も実施します。
加地 いわば社会福祉ですね。
石平
宗族は小さな国家と言えます。だいたい本来の国家は何もしてくれません。社会福祉も何もない。
加地
中国は国土が広いですから、生き残るのが厳しい。宗族制度は中国人が厳しい社会を生き抜くために生み出した知恵だと言えます。宗族の中から秀才が登場したら、まわりが一所懸命支えたりもする。
石平
一族でお金を出し合って、優秀な教師を招聘、英才教育を施し、科挙試験に合格させる。だからこそ、官僚になった人は宗族にご恩返ししなければなりません。でも、官僚の給料は極端に安い。必然的に賄賂が必要です。
加地
『中国共産党の紅い金』(李真実著 / 扶桑社新書)を読んでわかりましたが、中国の場合、役人に袖の下を渡すことを「汚職」「収賄」と考えるのは間違っています。日本の汚職は個人がしますが、中国の場合は、一部署丸ごと、全員が汚職をする。みなが恩恵を受ける仕組みになっています。
石平
部下にも渡すし、上にも納める。そうしないとポストから外されてしまいます。
加地
賄賂で共存共栄している。こういう考え方は日本にはありません。
石平
中国社会で賄賂も取らず、清廉潔白を貫こうとするのは大変難しい。そんな人がいたら、すぐに排除される。面白いのですが、宗族内では人にウソをついたり、騙すことはありません。
加地
宗族から追放されたら、大変ですからね。
石平
でも、裏を返せば、宗族の外であれば、いくらでもウソをついたり、騙してもいいのです。孫文は「中国人には”公”がない」と嘆いていましたが、致し方のない面もあります。
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ここで言う「公」は文字通り「公」「公明正大」「公平無私」の意味で、その「公」がない、というのは、まず何とかして、何が何でも生き延びること、それこそが正義とか大義以前の大命題なんだ、「公」なんて画餅なんだ、と。
これを原理として示したのが、あの「避諱(ひき)」ということになりそうです。
次回はそれを再掲します。