9月24日(金)
11時前にカブで出た。
目的地は決まっていて、全く寄り道をすることもなく、あっさり着いた。
緩やかなうねりの中に田畑が広がる典型的な播州の田園地帯。
そんな中に突然現れる小さな林と古ぼけた喫茶店。
相当に古くて手入れもされてないようで、白く塗られている板壁は風雨に晒されて半分近くはペンキが剥がれ落ちている。
中もそれなりの破(や)れ具合いで、本来ならちょっとした景色になるだろう大窓の向こうの用水池も、手入れがされず伸び放題になっている植え込みのせいで、半分は隠れてしまっている。
席に着くまではともかく、一旦座ってしまえば、それさえも見えなくなる。
「ちょっとした景色」を見ようとすれば立ち上がるか、それとも、席に着くまでの記憶を思い起こすか。
室内から見えるこの建物の外装も、表から見えたのと同じく、ペンキがすっかり乾いてひび割れ、そこに蔦の枯れた茎が張り付いている。
ローマの廃墟をイメージして造られるというイギリス庭園みたいで、何とも素敵だ。
聞くと30数年前に建てた店らしい。おそらくできた頃は、近隣のゴルフ場帰りの客に評判の、洒落た店だったんじゃないかなと思う。
とにかく雰囲気が良い。
珈琲が好みの味だったら、頻繁に行くようになったかもしれない。
でも、母娘二人で三十年も続けているということは地元の人間に愛されているということだ。
立ってでなければ見えない良い景色よりも、その景色の中にいるという記憶の中で雑誌を読んでいる、その方が良いのかもしれない。
ツーリングと同じようなものか。