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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

樹液バーにはオオムラサキとアオカナブンの団体さん! (妻女山里山通信)

2011-07-20 | アウトドア・ネイチャーフォト
 前回遠征して見つけたオオムラサキの集まる樹液バーへ、再びクロメマトイとヤブ蚊に悩まされながら登りました。今日は樹液の出がいいようで、大きな節穴からは樹液が染み出ています。そのせいか樹液バーには、次から次へとお客が訪れます。しかもそのほとんどが、森の宝石アオカナブン。入れ替わり立ち替わり訪れるその数はいつも十数匹。大賑わいです。

 そんな中、大きなオオムラサキが二頭やってきました。いずれもメスです。初めはアオカナブンの団体さんに驚いた様子で、周りで様子をうかがっていましたが、やがて意を決したように中に割り込んで行きます。元々気が強く体も大きなメスですから、アオカナブンを蹴散らして樹液の穴に口吻を差し込みます。アオカナブンも一度位オオムラサキのマダムに蹴散らされても、めげる事もなく別の穴へと突進して体を半分位突っ込んで夢中で樹液を吸っています。

 二頭のメスが去るとアオカナブンだけになりました。20分ぐらい経った頃でしょうか、一頭のオオムラサキのオスが飛来しました。さっきよりアオカナブンの数は増えています。メスより小さいオスは、翅が青く奇麗なのですが、ちょっと弱気か。周りでジッと見ていますが、なかなか中に入るタイミングがつかめないようです。アオカナブンは、どんどん集まってきます。穴に体を突っ込んだまま尻からおしっこをするものもいれば、樹液をなめているメスに重なって交尾をするものまでいる有様です。もうなんでもありか・・。そんな酒池肉林の様子にすっかり怖じ気づいたのか、そのオスは樹液を一滴も吸えないまま、今日は日が悪い出直そうとばかりに飛び去って行ってしまいました。

 そんな様子をマクロ撮影しているときを狙ってヤブ蚊が撮影している指に留まります。叩くわけにもいかず刺され放題。虫除けズプレーなんか全く効きません。経験ではむしろ市販のものより、息子達が小さい時に手作りしたハーブで作ったものの方が効いたような気がします。ヤブ蚊はともかく、ブーという羽音と共に目の前30センチに止まったのはスズメバチ。これはいけません。素早くしゃがんで後ずさり5メートル。夏の里山でなにが一番の脅威かといえば、熊でも猪でも蛇でもなく、このスズメバチなのです。オオスズメバチだともっと危険。大声を出したり、払いのけたりしたら命取り。無言で素早く去るのみです。

 数分でスズメバチは去り、再び撮影に戻ります。樹液を吸っているオオムラサキとの距離は、レンズからたった3センチです。普通はそんなに寄ったら逃げてしまうのですが、秘伝木遁の術を使います(笑)。それにしても、アオカナブンは森の宝石というほど美しいのですが、当人達はまったくそんな自覚はないようで(当然)、樹液バーにたむろする、ただの飲んだくれ親爺のようで可笑しいですね。やがて風が出て来て樹冠が騒ぎ始めました。遠くでは雷鳴の音がします。後ろ髪を引かれつつ山を下りました。

 自然というのはリアリズムの世界です。未だにアニムズムやシャーマニズムの観点で自然を理解しようとする人がいますが、それは歴史として学ぶのであればいいのですが、人類が積み重ねて来た膨大な思惟の成果としての自然科学を全く学ぼうとせずに、安易にそういう世界を信ずることは、思考の停止を意味し、オカルティズムや神秘主義に陥る最も危険な道程です。自然を絶対視したり最高のものと賛美したりする人は、一度湿度100パーセントのクロメマトイとヤブ蚊とスズメバチや蛇のいる里山に一日中居てみるといいのです。自分の考えがいかに観念的なものか分かるでしょう。エアコンの効いた快適な人工空間にいたら絶対に分からないことです。

 自然というのは24時間一年中ニッチ(生態学的地位)のせめぎ合いが起きている現場です。非常に微妙なバランスで成り立っているもので、ちょっとした変異でバランスが崩れたりします。修復力もあるのですが、環境の変化に対応できずに絶滅して行く種も出ます。そういう微妙なバランスの危うさや強かさが、里山に通い続けると少しずつ見えてくるのです。一度くらい屋久杉を見に行ったからといって、それは観光以上のものにはなりません。リテラシー(読解力)を獲得する努力が必要なのです。自然は、不完全な人間が直ちに理解できるほど単純ではないのです。人類はまだたった一枚の葉を0から作る事も、オオムラサキが次にどの葉に留まるかも予測すらできないのです。チンパンジーとさして変わらない進化の(進歩ではない)過程にある地球上の一生物に過ぎません。
 信じた瞬間に思考は止まります。自然科学は万能ではないからこそ、知ろうとすることを止めてはいけないのです。

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