物語の主人公の名前を、かのじょは決めていた。キオラックルは、風変わりな小精霊である。
精霊は、最初、誕生界というところに生まれてくる。そのときは、人間と姿が変わらない。だが、高位の存在によって養育を受けている間に、姿が変わってくる。そしてその姿がある程度決まってくると、小精霊としてアルタンタス浮遊大陸や別の世界にある小精霊の養育地に連れて来られる。そのときになると、誕生界の記憶は、すべてなくなっている。
キオラックルは、アルタンタス浮遊大陸のある森の中で目を覚ました。もう自分の名前は知っていた。だが、自分がどこから来たのかは、皆目わからない。ただ、自分がずっとここにいるような気持ちはしていた。
森の中でぼんやりとしているうちに、キオラックルはすぐそばにいた大きなブナの大樹に心を開いた。それが原因で、この高貴なブナの樹霊が彼の親役になることになった。これは大変まれなことである。普通小精霊の親役になるのは、アルタンタスに住んでいる高位の精霊に限られる。樹霊が小精霊の親になるなど、あり得ない。だが、ブナの樹霊はそれを引き受けた。これが、キオラックルの運命を導いていく。