ネズミのように黒い彼の目が、零れ落ちそうなほど、オラブはあることに気付いて愕然とした。あんなアシメックの言葉など、信用していなかった。甘えたことを信じさせて捕まえようとしているのだと思っていた。だがこのたびは、そのアシメックの声が全く聞こえなかったのだ。
なんで、いつものあの言葉を言ってくれなかったのか。何とかしてやるから帰って来いと。心を揺り動かされないわけじゃなかった。今戻れば、村でまっとうに生き直すことができると、思わないこともなかったのに。
不安が一層寒さを感じさせた。だがオラブはすぐに、暗闇の中に逃げた。そんなことは馬鹿だ。何にも痛いことなんかないのだ。おれはこれでいいんだ。
夜が深まって来る。眠れない頭を無理矢理眠らせるために、彼は腰の辺りを探った。ネズミの頭蓋骨はなかった。
朝目を覚ますと、全身が枯れ葉のようにしびれていた。足の先に感覚がない。まるで何かが腐っているようだ。腰布はまだ湿っている。
体が動くようになるまで、時間がかかった。腹が空いている。何か食わねばならない。だが、蓄えてある栗を噛む気にはならなかった。ネズミが食いたい。ぬるい血をすすりたい。